主婦と科学。 家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所 |
研究レポート35 脳が重いほど頭がよい? の科学。 ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。 当カソウケンの研究員C(1歳)くんは とても頭が大きい幼児です。 幼児は頭が大きいものですが 2歳年上の研究員Bと並んでも遜色ないくらい。 研究員Bはここまで大きくなかった気がするんだけどなあ と常々思っていたところのある日 こんなことが起きました。 研究員Cが転んで、彼の頭が研究員Aの足の上に激突。 ただぶつかっただけなのに異様に痛いっ! えーん、と泣く研究員Cですが 「こっちの方がよっぽど痛いんじゃい」 と文句を言いたくなるくらい。 時間がたつうちに、みるみる紫色に腫れ上がっています。 翌日、病院でレントゲンをとってもらったところ なんと、足の小指の骨にかるーくヒビが 入っちゃったようです。 ひええええ。この石頭幼児めっ。 チビのくせに、なんで頭がそんなに重いの〜? って話ですが (いや、そのくらいで骨にヒビが入る方が どうかしている、の方が正しいかも) これにはちゃんと理由があります。 子どもの脳は、5歳までに大人とほぼ同じ大きさに なってしまうからなんです。 体は小さくても、頭が大きいのはそういうこと、です。 生まれたばかりの新生児の脳の重さは400gです。 それが生後半年でなんと2倍に! そして、だいたい5〜6歳で成人の脳と ほぼ同じ重さになってしまうのです。 この事実を踏まえて こんなことを聞いたことがありませんか? 「5歳でほとんどの脳が成長を終わってしまう。 そこから『学習』を始めてもどうにもならない」。 思わず頷いてしまいそうになるこの文句 頭の重い研究員Cが大天才の可能性を秘めているか 確かめるためにも検証してみましょう〜。
さてさて、まず大事なことですが 「脳が重いほど知能が高い」 という関係は科学的に証明されていない! のです。 天才の代表ともいえるアインシュタインは むしろ平均より軽かったとのこと。 シロート考えでは「アタマ重い方がアタマ良さそ〜」 って考えちゃいますけどね。 というわけで、脳の重さだけで 知能をどうこう言うのはちょっと飛躍しすぎです。 脳が重いほど知能が高いのならば ゾウが人間よりも知能が高いということに なってしまいますものね。 と、のっけから「研究員C・大天才説」が 否定されてしまったみたい。 少々残念なバカ親・研究員Aですが そんなことはさておき、さっさと先に進みましょう。 ではなぜ乳幼児の脳はそんなに急激に重くなるの? ってことですが。。。 ひとつは神経細胞間にネットワークが できることが理由です。 神経細胞の数云々よりも その細胞間でのネットワークが 上手く作られることの方が 「脳の発達」としては重要。 まわりの大人のお世話なしには 生きていけない赤ちゃんが 次々と「お座りする」「ハイハイする」 「歩く」「話す」などなど能力を獲得していくのは このネットワーク化のおかげです。 ただ、このネットワーク作りは 乳幼児期に活発に作られますが 大人になっても続くものでもあります。 もう一つ重さに関わるのは「脳の髄鞘化」です。 髄鞘化って聞いてもさっぱり「?」です。 いったい何のことでしょうか? 神経細胞ニューロンは下の図のような形をしています。 そして、ニューロンは「軸索」と呼ばれる まっすぐな「手」があります。 この軸索に電気信号が通じて、情報が伝わるのです。 生まれたばかりの赤ちゃんの時は この軸索は何も覆われていません。 例えるならば、裸の電線の状態です。 この軸索のまわりに「髄鞘」というサヤが覆うことを 「髄鞘化」と呼ぶのです。 この髄鞘化によって 脳内に情報が伝達される速度が高速化されるのです。 髄鞘化が終わっていないニューロンは まだ配線が完了していない状態です。 髄鞘に覆われていないむき出しの電線では 電気が伝わるとき「漏電」したり 「ショート」してしまいます。 髄鞘は一種の絶縁体です。 この絶縁体によるカバーがかかることによって 情報の伝達速度が高速化されるのですね〜。 この髄鞘化は3歳頃になってようやく 8割方完成されるとのこと。 この時期が、脳の重量が増える時期と 一致しているのです。 脳の配線にカバーをするために 重くなっているのですね。
ただ、この髄鞘化の時期は 脳の場所によって違います。 運動→感覚→思考の部位の順に進みます。 例えば、手足を動かす脳の部位(運動野)の 髄鞘化は生まれたときに始まり 1歳頃に完了します。 一方、ものを考えるという複雑な働きをする 脳の部位(前頭前野)は 生後4、5ヶ月頃からやっとはじまり 10年たっても完成しません。 そして、20歳頃までゆっくりかけて 髄鞘が完成するのです。 髄鞘化の時期が 運動→感覚→思考の順であるってことは 目の前に育っていく子どもを見ていると 納得がいく話ですよね。 確かに、1歳前後で「歩く」という能力を獲得して ようやく大人並みの行動をとるようになります。 そして、赤ちゃんの頃って「ニブい」! 研究員Bも研究員Cもそうでしたが 赤ちゃんの頃は「痛い」ことがあったとしても 瞬間的に泣くのではなく ワンテンポおいてから泣き始めていました。 反射神経・運動神経ともにお粗末な研究員Aは 子どもたちをおんぶしているときに よくぶつけてしまったものです。ごめんよ〜。 ニブいのはよっぽど研究員Aの方か? ぶつかってもすぐに泣かないから 「あれ? 痛くなかったの?」 ってほっとしたその後に 「うぎゃあああ」って。 まだ感覚野の髄鞘化が完成していないから 情報の伝達速度が遅かったのかなあ なんて思ったり。 今では二人とも痛いときは瞬間的に泣きますもの。 この髄鞘化のことを考えると 「脳が急激に重くなる時期を過ぎると 学習は効果的でない」 どころか 「髄鞘化が終わり、高速に動くようになった 脳の方が効率が良いのでは?」 と思えてきませんか? 特に、抽象的な思考や判断が必要とされるような 「高度な知的教育」を幼い子どもにさせることは 配線の完了していない電線に ムリに電気を通してしまうようなものかもしれません。 だから、脳が急激に重くなる時期を過ぎたら手遅れ! だから急がなきゃ!と慌てる必要はなさそうですね。 むしろ髄鞘化の時期を考えるならば 「順を追って。。。」と考えた方が 相応しいのではないかなーと思う研究員Aでした。 いくら幼児の頭は重いとはいえ 研究員Cのように「母親の足の骨にヒビを入れる」 くらい重いって話はそうないでしょう。 でも脳の重さと知能は関係ないとは。 研究員Cは将来は大天才ではなく 単なる頭の大きい大人ってこと? ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 参考文献 赤ちゃんと脳科学 小西行郎著 集英社新書 脳を鍛える 立花隆著 新潮社 |
このページへの激励や感想などは、
メールの表題に「カソウケン」と書いて
postman@1101.comに送ってください。
みなさまからの「家庭の科学」に関する
疑問や質問も歓迎ですよ〜!
2004-05-21-FRI
戻る |