主婦と科学。 家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所 |
研究レポート42 こどもたちよ、親たちよ、 アインシュタインもダ・ヴィンチもこうだった! 「学習障害」のはなし 中編(全3回) ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。 前回は、天才と言われたアインシュタインが、 じつは、幼少時も言葉がおそく、 学校に入っても暗記がまったくできず、 大学でも劣等生だったというお話をしました。 これは大脳の頭頂葉という部位に障害があったためだと わかってきたということも。 今回は、もう一人の天才 レオナルド・ダ・ヴィンチのお話に移ります。
ダ・ヴィンチは万能の天才の誉れ高い ルネッサンス文化の立役者です。 科学も技術も芸術にも秀でていた彼、オールマイティな人! というイメージが強いかも。 実際、研究員Aも 「天才って何でもできちゃうのね」って思っておりました。 なのですが、万能の天才といわれる彼は 実際はそのイメージとはかけ離れていたようです。 まず、無口で弁論の術に欠けていたダ・ヴィンチ。 そして外国語の習得が人並み外れてできなかった ということです。 彼は生涯にわたって引っ越しをし続けましたが 生まれのフィレンツェ以外のどこの言葉も マスターできずじまい。 「私たちだってなかなか英語できるようにならないし〜」 とお思いになるでしょうが、それとはレベルが違う話! 異なる言語とはいえ、方言程度の違いしかないので 普通だったら難なく話せるようになっちゃうはずなんです。 でも、ダ・ヴィンチはできなかった。 そして、彼は一生にわたって 膨大なメモをとり続けているとお話ししました。 これがみんな鏡文字なんです! 要するに、左右反転。 この鏡文字は 「ダ・ヴィンチは他人に読まれないように鏡文字を書いた」 などと解釈されていたようです。 でも、先に書いたように 「極端に語学ができない」こととあわせて考えると これも脳の頭頂葉が機能していない障害があった可能性が 極めて高いのです。 そもそもなぜ鏡文字になってしまうのでしょう? 脳の頭頂の部位は 文字などの視覚情報が目に入ってきたときに 前後左右についてきちんと判断する役割をしています。 ここがきちんと働いていない場合 目に入ってきた文字は ぐるんぐるん踊っているように見えてしまうのです。 そして、文字を書くときも左右が逆になってしまいます。 (上下に関しては「書き順」というものがあるので あまり間違えないとか。)
そして、語学が習得できなかったダ・ヴィンチ。 これはアインシュタインと同じく ワーキングメモリーの「音韻ループ」に 問題があったと考えることができます。 音の情報を一時蓄えておくことができない とすると新しい言語を覚えることが とてつもなく難しくなってしまいます。 この予想を裏付ける事実として ダ・ヴィンチが暗算ができなかったことも挙げられます。 暗算は「心の中で自分の声を止めておく」ことが必要です。 繰り上がりになる数字を 一時的に覚えておかなきゃいけませんからね。 音韻ループが機能しないと 暗算ができなくなってしまうのです。 ちなみに、アインシュタインも 暗算は苦手だったといいます。 相対性理論は思いついても 暗算はできなかったんですね〜! となると、ダ・ヴィンチが大量のメモを とった理由もわかるってものです。 ちょっとした思いつきでさえすぐ忘れちゃうから メモするしかなかったのです。
天才二人は共通する脳の障害があったらしい! では彼らは「障害があったにもかかわらず?」 それとも「障害があったからこそ?」 あのような世界を一変させる発見ができたのでしょうか。 そのあたりを探ってみましょう。 さて、アインシュタインとダ・ヴィンチがともに 障害があったらしい箇所は脳の頭頂葉、でした。 ワーキングメモリーの音韻ループに問題があったようです。 ここに障害があると、音を一時的に心の中に止めて 記憶しておくことができなくなってしまいます。 でも! やはり脳って素晴らしくよくできた器官です。 音韻ループがうまく動かないと、システム全体として もう一方の「視空間メモ」に通常以上に 依存することになるのです。 言い換えると 「音の貯えができないために 視覚イメージのひらめきに卓越した能力が開花する」 のです! アインシュタインが相対性理論のような 「常人ではちょっと考えつかない」理論を思いついたのも この発達した視覚イメージのおかげ といっても間違いではないでしょう。 だって、あんなのせこせこ地道に計算していたって 思いつくわけありませんって。 視空間メモが発達した人は イメージを自由自在に頭の中で動かすことができるとのこと。 視空間メモで冷蔵庫の中身のイメージでレシピを考える ってことを例に挙げましたよね。 研究員Aなぞは 「レタスとトマトでサラダを作って じゃがいもとにんじんとたまねぎでカレーを作ろう」 と文章で考えます。 でも、視空間メモが発達した人は この手順が映像で浮かぶのだそうです。 記憶したレタスやトマトなどのイメージを 勝手に動かすことができちゃう! しかも映像で考えるから情報量が格段に多い! 音韻ループに障害があったからこそ 視空間メモが異常に発達した。 だからこそアインシュタインは 天才的な科学者となりえたのです。 一方、ダ・ヴィンチはどうでしょう? 彼の徹底した写実的な絵 これがルネッサンス以前の芸術家と 明らかに異なる姿勢でした。 ダ・ヴィンチは遠近法を生み出し 芸術界にレアリズムを誕生させたのです。 そして、詳細な解剖図も残しています。 この彼の実証主義的態度は ダ・ヴィンチがこれまた常人にはあり得ない 「視覚感受性」があったからこそ! でしょう。 彼は音韻ループに障害があったから 視空間メモが異常に発達した。 だからこそダ・ヴィンチは ルネッサンスを巻き起こしたのです。 彼らは、「障害を克服して」ではなく 「障害があったからこそ」天才となり得たのです。 来週はこの項のまとめです。 最近話題になり始めた「学習障害」について レポートしますね! ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 参考文献 「天才はなぜ生まれるのか」 ‥‥正高信男著 ちくま新書 「アスペルガー症候群と学習障害 ──ここまでわかった子どもの心と脳」 ‥‥榊原洋一 講談社+α新書 |
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2004-08-20-FRI
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