主婦と科学。 家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所 |
研究レポート54 調理におけるすばらしき塩の科学。 ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。 研究レポート50で「塩と氷とお湯の科学」 研究レポート53では「呼び塩・迎え塩の科学」 という具合に、塩(食塩)について取り上げたわけですが 塩についてはまだまだ、まだまだ! 優れた役割があります。 キッチンのライバルである砂糖が そのスイートさからは想像もつかないくらい とっても有能であることは 以前、カソウケン本部で取り上げたことが。 もちろん、塩だって負けてはいません。 2回連続でしつこいかもしれません。が! 今回も塩のことを取り上げて その優秀ぶりをレポートしたいと思います〜。 砂糖も塩も、台所界の双璧・両横綱として 君臨するだけの理由があるのです。
以前、塩の威力を実感した こんなできごとがありました。 パンを手作りしようとしたときのことです。 ガッツの足りない研究員Aは フードプロセッサーにこね作業を お任せすることにしています。 うぃーんと回してしばらくすると 生地がまとまってくるはずなのですが なぜかそのときは いつまでたっても、べたべたどろどろ。 そーなんです、塩を入れ忘れちゃったんです! あわてて塩を入れたのですが時既に遅し。 そもそも研究員Aの作るパンはいまいちなのですが (だったらわざわざ作るなよ) 今回は局所的に塩辛い凶悪なパンができあがりました。 はっはっは。料理はまさに科学実験ですねえ。 このようなできごとを通して 塩の効果を身をもって体験できるのですから 失敗も捨てたものではありません。 それにしても、こんなネタが ツクリでもヤラセでもなく普通にある研究員A。 日々是研究を実践しているわけで 自分事ながらその研究熱心ぶりに 感嘆を禁じ得ません。 閑話休題。 ところで、パンに塩が入るか否かで なにが違ってしまうのでしょうか? まず「味」は言うまでもありません。 甘い菓子パンでもない限り 塩味の効いていないパンは それこそ味気ないものです。 塩気のないフランスパンなんてイヤだー。 そして、味以外にも大事なのは 生地のコシを強くするという作用。 だから、塩の配合されていない生地は ベタベタして締まりがなくなり 生地の発酵や膨張も時間がかかっちゃうのです。
さて、生地のコシと言いましたが この場合、「コシ」は 小麦粉の中のタンパク質である グルテンによるものです。 グルテンは、粉のままの小麦粉に 最初から含まれているものではなく 水を加える→物理的な力を加える(こねる・叩く、など) をすることで、はじめて生まれるのものです。 そして、このグルテンは グリアジン(のびのび成分) グルテニン(ねばねば成分) が結合して、網目状になってできたもの。 塩は、グルテニン(ねばねば成分)の 粘りを増す働きをします。 だから、パン作りに必須なのです。 ちなみに、グリアジン(のびのび成分)の方は アルカリ性になると「のび」がさらに良くなります。 中華麺にアルカリ性の「かん水」を入れるのは そのためです。 パンだけじゃなく、うどんや素麺にも しっかり塩は入っていますよね。 普通のうどんよりもコシが強いと言われる讃岐うどん。 これは塩の分量が他のうどんよりも多いんですって。 小麦粉に水を加えてこねると グルテンというタンパク質が 生まれると書きましたが このことは、もう少し固い言い方をすると 「タンパク質が変性している」といいます。 グリアジン(のびのび成分)と グルテニン(ねばねば成分)という ふたつのタンパク質から 網目状のグルテンという タンパク質に変化したのです。 このグルテンまわりのタンパク質に限らず タンパク質は加熱・かくはん・味つけ ‥‥などなどによって影響を受けて 分子の結合が壊されたり弱められたりします。 このことを、「タンパク質の変性」というのです。 加熱によるタンパク質の変性、なんていうと 私たちに縁遠い響きがしますが 要するに、「肉を焼く」「卵を茹でる」などのこと! 生卵の状態から加熱してゆで卵というかたちに 「変性」させているのです。 かくはんによるタンパク質の変性は 先ほどから例に挙げている 「小麦粉からグルテンを作る」 がそれにあたります。 あと、卵白を泡立ててメレンゲにすることも かくはんによるタンパク質の変性の一つですね。 (カソウケン本部「メレンゲの科学」参照) そして、調味によるタンパク質の変性。 塩やお酢でもタンパク質は変性するのです。 再び、今回のテーマである 塩のお役立ち作用の話に舞い戻って参りました。 塩は、タンパク質の変性を促進します。 だから、 「グルテン(特にグルテニン)の粘りを強くする」 =「パンやうどんのコシを強くする」 ことができるのです。
他にも、こんな時に使われています。 肉や魚を焼くとき、塩を降りますが これも味つけ以外にもちゃんと意味があります。 表面に塩があると、 肉や魚のタンパク質は塩水に溶けやすいので 表面のタンパク質によく塩が馴染みます。 この塩があると タンパク質が熱で固まる作用が早められるので 旨みを逃がさずさっさと焼いて 閉じこめることができるのです。 味つけと同時に 旨みを閉じこめることまでしているなんて。 なかなか塩もやるじゃないですか。 そして、ゆで卵を作るときにも塩はお役立ち。 ゆで卵を作ろうとするとき 冷蔵庫から冷たいままの卵をいきなり火にかけると ヒビが入っちゃうじゃないですか。 加熱すると、卵の中身は膨張するのですが このとき冷たい状態から急激に膨張させると 丈夫でない卵の殻にはヒビが入ってしまうというわけ。 こんなとき、ヒビが割れてしまっても 白身が流れ出さないようにするために お湯の中に塩を入れておけば 仮にヒビがあったとしても、 すぐ固まってくれるので 「ほぼ卵」の形状を保ったゆで卵になります。 これ、塩を入れると入れないとでは大違いです。 入れていないときは「ほぼ卵」どころか 地球外生物のような不気味な形状になりますから! ↑経験あるらしい。 塩を入れるか入れないかで 比較して実験してみると面白いですよ〜。 タンパク質の変性の作用は 塩だけじゃなく酢にもあるので このときお酢を入れても同じ働きをします。 ポーチドエッグはまさに お湯の中に塩や酢を入れて 「積極的に」卵を固める料理ですね。 そもそも、ゆで卵を作るときは 余裕を持ってあらかじめ冷蔵庫から卵を 出しておけば良いんですけどねー。 段取り悪い研究員Aはいつも 塩やお酢の力を借りることになります。 卵焼きやスクランブルエッグの時は 塩が含まれると早く固まってしまいます。 固まるのを遅らせて、ふんわりさせるためには 「牛乳」「砂糖」「だし汁」などを 入れる必要があるわけです。 卵焼き一つとっても立派な科学実験! 塩のことをちょっと知るだけでも 台所仕事が面白くなるんじゃないかなーと思う 研究員Aなのでした。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 参考サイト 財団法人 塩事業センター ためしてガッテン うどんの極意 参考文献 パン「こつ」の科学 吉野精一著 柴田書店 こつの科学 杉田浩一著 柴田書店 調理とサイエンス 品川弘子他著 学文社 |
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2005-03-25-FRI
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