主婦と科学。 家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所 |
研究レポート56 絶対音感の科学。その2 「音」ってそもそも何だろう? ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。 音楽は大好きなのに まーったく音楽の才能のない私から見たら ほんとうに超人的な能力に思える「絶対音感」。 その謎をさぐる、第2回目です。 今回は「そもそも音ってなんなの?」 というお話からさせてくださいねー。
音は、空気(など)を振動させながら 伝わっていくものです。 その音は「波」としての性質を持っています。 「音が波ですって?」というところで ふつう頭が真っ白になるのではないかと。 (↑研究員Aがそうだった) そんなこと言われたって そもそも音なんて見えないしー、ねえ。 というわけで、見えるもので例えてみましょう。 池に小石を落とすと、落ちたところを中心に 波紋が広がっていきますよね。 音も同じです。 「音源」を中心として、空気を震わせながら 波として伝わっていくのです。 ギターなどの弦楽器を思い浮かべると 「空気を震わせる」というイメージは つかみやすいかもしれません。 そもそも楽器は、空気を震わせるために あれこれ工夫をしたしかけ、なわけです。 音は「波」ですから ある周期をもってその振動の程度が変化します。 たとえば、こんな波があると ひとつの周期は矢印で示された範囲になります。 山のてっぺんからてっぺんまで、の範囲ですね。 これが波のひとかたまりであり、一周期となります。 ところで、音ってなんの要素で決定するのでしょう? それは、「大きさ」「音色」 そして「音の高さ」ですよね。 まずは「大きさ」。 これは、この振動の程度が 大きければ大きいほど大きい音になります。 もうひとつは音色。 これは、この波の形で決まります。 この「音色」の違いを作る波の形に関しては かなり難しい話になるので今回は割愛させて下さい。 そして、音の高さ。 今回の絶対音感のはなしで注目したいのはこれです! 低い音と高い音はなにが違うのでしょう? それは、「振動する速さ」で決まるのです。 一秒間に何周期振動したか? その数によって「ド」の音になったり 「レ」の音になったりするわけです。 一秒間に振動する回数のことを 「振動数」といいます。 振動数が大きければ大きいほど (振動する回数が多ければ多いほど) 高い音になります。 低い音はゆーっくり伝わる波であり 高い音はさっさと伝わる波なのです。 音の高さは、振動数という単位で 表すことができるのです。 1秒間に振動する回数を 「Hz(ヘルツ)」という単位で表します。 ちなみに、オーケストラの音合わせなど 何かと基準音に使われる「ラ」の音は440Hz。 2倍の振動数の880Hzになると 1オクターブ高い「ラ」の音になります。
絶対音感の持ち主は、その辺にある生活音からも ドレミファの音が判断できてしまう。 一方で、プロの音楽家の中には 絶対音感は持っていないけれども 自分の扱う楽器であれば 基準音なしでも音名がわかる人が ほとんどです。 例えば、弦楽器は弦をおさえたときの 指の「むずかり」でわかるとか。 それを、最相葉月著『絶対音感』では 「ダイタイ音感」と呼んでいます。 この「絶対音感」と「ダイタイ音感」の間には 明確な違いがあるのでしょうか? 唐突ではありますが‥‥赤ちゃんに話しかけるとき 自然と高い声を出したりしませんか? 「○○ちゃん、かーわいーわねえ〜」なんて。 あんな話し方、こっぱずかしい〜 と思っていたにも関わらず ついつい高い声で話しかけている自分に気がついて 「はっ」としたことがありませんか?(私です私)。 あのように高い声で抑揚をつけて話しかけることを 「マザーリーズ」と呼ぶのですが あれは赤ちゃんが高い声に反応するという 性質があるから、らしいのです。 どうやら、生まれながらにして人間は 周波数の高さを判断できるようなのです! 周波数に対して敏感な小さいうちに ある音をその音名と一緒に繰り返し聴かされることで 音名に対応した周波数が記憶されるようになったのが 絶対音感ではないか? と 上に挙げた『絶対音感』という本の中で語られています。 (絶対音感が教育によって身に付くもの、という立場で) そして、同書で東京大学医学部付属病院小児科の 榊原洋一先生は 「絶対音感」と「ダイタイ音感」の違いについて 次のような仮説を立てています。 ●絶対音感のある人は、 おそらく周波数を理解する部分が ある程度長期増強を起こしていると考えられる。 ●自分の楽器だけという人は 周波数だけでなく音色や 手触りなどの他の情報が付加したことで 言語化しやすくなったと考えられる。 ●つまり、絶対音感を持つ人と、 自分の楽器しかわからない人とでは 情報量がまったく異なる。 難しいので、ちょっと言い換えてみましょう。 絶対音感の持ち主は 「この周波数は『ド』だ」というように 周波数と音名ががっちり結びついた 記憶の受け皿を持っている、と。 ダイタイ音感の持ち主は 周波数だけじゃ判断できないから 手触りや音色など他の情報と組み合わせて 音名を判断する必要がある、と。 だから、周波数だけで判断できる絶対音感の持ち主は 生活音からでも楽譜が書き起こせる、 適当にばーんと叩いたピアノの不協和音からでも 一音一音が聴き取れてしまう、 などという離れ業ができてしまうのでしょう。 絶対音感の定義は、それこそ研究によっても まちまちのようです。 ネット上の「自称・絶対音感保有者」 の方々の話を読んでいてもわかるのですが そのレベルはまちまちです。 研究員Aとしては、この榊原先生の 「周波数と音名を対応して記憶→絶対音感」 という仮説にすっきりします。 区切りとして納得いきますよね。
さて、この榊原先生ですが 「言語」と「絶対音感」の獲得の仕方には 共通点がある、としています。 あらゆる音の中から自分にとって必要なものが 言葉(この場合は音名)と共に カテゴリー化されてくるという点においては 言語と絶対音感には共通点がある、というのです。 言語を主に司るのは脳の左半球(左脳)とされます。 そして、 「音楽家or音楽の素養のある人は そうでない人に比べて左脳が活動する」 という研究結果が多数あるのです。 (参照 研究レポート6「音楽家のほがらかな脳」) 上の、冒頭に取り上げた 「イタリア協奏曲を聴かせて 脳の活動部位を調べる研究」 もそのひとつですね。 さらに! プロの音楽家の中でも 「絶対音感の有無」で 脳のつくりが違う、という結果の出た 研究もあります。 30人のプロの音楽家を対象として PETという機器を用いて聴覚野の大きさを調べたところ 絶対音感を持っている人は、右脳に比べて 左脳の聴覚野の大きさが 平均40%も大きかったという結果に。 1995年にサイエンス誌に掲載され、話題を呼びました。 やはり、絶対音感と言語は何らかの関係があるのかも? 榊原先生に限らず 絶対音感と言語のメカニズムの共通点は 多くの学者たちが指摘しているとか。 絶対音感の持ち主は 歌詞のある歌を聴いても「ドレミ」と音名で 頭に入ってきてしまうために 歌を純粋に楽しめない、歌詞の内容が頭に入ってこない というはなしを聞きます。 これもまさに左脳を使って 分析的に音楽を解釈しているからかもしれません。 (この表現が適切かどうかわからないのですが) さて第2回はここまで。 次回は「絶対音感」のまとめです。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 参考文献 絶対音感 最相葉月著 小学館文庫 ファインマン物理学(2) R.P.ファインマン著 岩波書店 才人をつくる脳、変人をつくる脳 A.D.ブラグドン他著 廣済堂 参考リンク BBC News "Genetic clues to musical ability" Nature BioNews 「脳 :絶対音感は遺伝ではない?」 Perfect Pitch: A Gift of Note for Just a Few 新潟大学人文学部 行動科学講座 (心理学研究室) 絶対音感保有者の音楽的音高認知過程 |
このページへの激励や感想などは、
メールの表題に「カソウケン」と書いて
postman@1101.comに送ってください。
みなさまからの「家庭の科学」に関する
疑問や質問も歓迎ですよ〜!
2005-04-15-FRI
戻る |