主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート74
一夫一婦制の科学。



ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

半年ちょっと前に、この「主婦と科学」で
「どうぶつたちの婚姻の科学」なんてものを
レポートしました。
生物の婚姻のかたちは、それこそ
「一夫多妻」「多夫一妻」「一夫一妻」「乱婚」
‥‥と、なんでもあり。
でも、基本的には
オスが多くのメスと交尾したがるし
メスも多くのオスと交尾したがるので
「一夫一妻」をとる例は珍しい!
それは、生物として「逸脱した例」なんですよ〜って。

しかしっ。
現代の人間社会の結婚制度は「一夫一婦制」なんです。
この制度を受け入れて、結婚生活を営む夫婦が
そんな「仲むつまじい」生物の秘訣を
知りたいと思うのは自然なことでありましょう。
そこで、今回は「一夫一婦制」をとる珍しい種に
スポットを当ててみることにしましょう!

オトヒメなんてかわいい名前なのに、
パートナー以外には超攻撃的!

「乱婚」にせよ「一夫一婦制」にせよ
その種の中でその婚姻の形が進化するのは
無事に成長する子供をたくさん残せる場合です。

だから、今回取り上げるような一夫一婦制をとる種は
「その一夫一婦制という行動こそ
 子孫を残すのに有利」
だったからに他なりません。

そんな一夫一婦制をとる生物は
珍しいとはいえ何例かあるわけですが
今回はそのうち2つのケースをとりあげてみましょう。

まずは、こんな場合。

「パートナー以外に対して攻撃的な場合」

オトヒメエビというエビは、
つがいで暮らして、互いに食物を与え合い
一方が脱皮するときはもう一方が見張りをするそう。
うん、微笑ましくも仲むつまじい感じですね。
でも、このカップルのオスとメスは
それぞれ同性の個体に対しては
ものすごおおおく攻撃的で
相手を殺すまで闘うことがあるとか。

これだけパートナーが攻撃的だと、
そう簡単に「浮気」はできないわけです。
そして、オトヒメエビという種全体が
こんな攻撃的な性質を持つようになった、ということは
友好的な個体よりも子孫を残すのに有利だったから、
と言えるってこと。

なあるほど‥‥。
このオトヒメエビ、人間に例えるならば
「浮気相手のところに殴り込みに行く」
ようなタイプかもしれません。

確かに、そんなパートナーがいたら恐れをなして
浮気な行動は慎むことになる‥‥かもしれない。

でも、この場合はオトヒメエビのように
「その種全体」が攻撃的なタイプじゃないと
難しい作戦かも、ですね。
「おっそろしいパートナー」に愛想をつかし、
他の「おだやかなパートナー」に
本気で乗り換えちゃうことだってありうるわけですから。

というわけで、人間がこのオトヒメエビを真似するのは
‥‥うーん、ちょっとリスキーかな?

メスがじっとしていることが
結果的に浮気防止になっているサイチョウ。

もうひとつ別の生物の例をご紹介しましょう。

「相手が不実だと共倒れしてしまう場合」

一夫一婦制をとる、サイチョウという鳥がいます。
メスは木に空いた穴に産卵すると、その中に潜り込みます。
そして、その入り口をくちばしだけが
突き出せるくらいの穴を残してふさいでしまいます。
メスはこのとき、羽も生え替わるために
飛び立つこともできなくなってしまいます。

だから、メスが卵を抱え、ヒナを育てる間
オスがせっせと
メスと生まれたヒナにエサを運ぶことになります。
メスとヒナが巣から出てくるまで
130日以上になるというのだから
なかなか重労働な話です。

ここでオスが他のメスに「心変わり」して
エサを運ばなくなったら‥‥。
残されたメスは木の穴に閉じこめられ
しかも身動きがとれないのですから
メスもヒナも餓死してしまうことに!
それはオスにとっても自分の子どもを失うことになり
困ってしまうのです。
だから、オスは浮気もせずにせっせと巣に帰る
‥‥ということらしいです。

わが研究所にあてはめてみると‥‥?

一見、オスを繋ぎ止めるための決死の覚悟で
自らの身動きをとれなくして
穴に引きこもるかのように思えるメスの行動ですが
そうではないみたい。
外敵から子どもを守るために進化した行動である、と
考える方が適切なようです。
でもこれが結果的にはオスの浮気防止に役に立ち
一夫一婦制が成り立っているということ。

このサイチョウの話を聞くと、いつも研究員Aは
自分のことを連想してしまうんですよね。
カソウケンの家族構成は
所長(夫)・研究員A(妻)
研究員B(長男)・研究員C(次男)‥‥ですが、
まるで
所長(父)・研究員A(長女)
研究員B(長男)・研究員C(次男)みたい。
「父一人、子ども三人」状態なのです。

要するに
「研究員Aが妻としても母としても使えない」
ってことなんです。あははは(笑えない)。
で、いつもいつも研究員Aは「お父さん」である所長に
「なんでこんなに手がかかるか」だの
「子どもの世話を任せておくのは不安」だの
言われ続けているわけです。うううう。

そこで所長は使えない「妻」を補うために
せっせせっせと家のことやら
育児やらに励む羽目になるのです。
たぶん、所長から見ると
「自分が放っておいたら
 母子共倒れになるんじゃないか」
という不安でいっぱいなのかもしれません。
だからこそ、彼は家庭に協力的‥‥??

「しっかりもの」ではないママたちにとって
サイチョウの話は朗報といえる‥‥のでしょうか?
いや、当然のことながら度を超してしまったら
行き着く先は容易に想像ついちゃうので
調子に乗っている場合ではなさそうですが。

さて、一夫一婦制をとる生物の例をご紹介してみました。
うーん、これらの例は、人間の夫婦にとって
参考になったような、ならないような‥‥?

とはいえ、少なくとも
「どうぶつたちの婚姻の形がいろいろ」
ってことはわかったわけです。
人と人との関係だっておそろしく多様なはず。
夫婦関係に限らず、ね。
だから、どんな変わった形にせよ
その関係が成り立っている限り「あり」だと
いうとにしてしまおう!‥‥と
研究員Aは前向きに考えてしまうことにします。

今 回 の レ ポ ー ト の ま と め

しっかりものではない
「人間のママ」は
動物に範を求めてはいけません。




参考文献
  『ヌカカの結婚』森川幸人著 新紀元社
『ドクター・タチアナの男と女の生物学講座』
オリビア・ジャドソン著 光文社


2006-04-21
-FRI


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