主婦と科学。 家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所 |
研究レポート78 ふきこぼれ・差し水の科学。 ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。 ようやく夏の暑さも和らいできましたが 暑い季節はそうめん・冷や麦など 麺類が食卓に上る機会が 多かったのではないでしょうか。 カソウケンでも 「用意する方もラク」 「無類の麺党である子どもたちもよく食べてくれる」 と、ついつい麺類ばかりになってしまったこの夏。 オトナである所長(夫)の顔が 次第に曇ってくるのに気がつく妻ですが この際、無視するのがオトナとしての対処法です。 さて、麺を茹でるときの懸念の問題であるのが 「ふきこぼれ」。 このふきこぼれ問題に対処法は 「差し水をする派」 「コンロの火力を弱める派」の 大きく二派にわかれるのではないでしょうか。 ちなみに研究員Aは、 「鍋がふきこぼれそうになったときに 水を入れる『差し水』は 昔、かまどを使っていて 火力の調整が難しかった頃の名残り」 という話を耳にして以来、 単に火力を弱める‥‥という対処をしてきました。 さて、これは本当なのでしょうか? というわけで、今回の主婦と科学のレポートは 「差し水」について取り上げたいと思います。
まずはじめに。 少々横道に逸れますが 「なぜふきこぼれてしまうのか」について。 麺を茹でていると、細かい泡がぶくぶく立って 鍋からあふれ出てしまうのはなぜなんでしょう? 単なるお湯を沸騰させているときには 起きない現象です。 これは、うどんやパスタや茹で汁の中に サポニンという成分が含まれているから、です。 このサポニンは天然の界面活性剤。 そう、界面活性剤といえば洗剤! だから、洗剤を入れたときと同じように 泡が立ってふきこぼれてしまう、というわけ。 では、差し水の是非についての本題に戻りましょう。 ちょうど「栄養と料理」という雑誌の2002年7月号の 「21世紀のキッチンサイエンス」というコーナーに 料理人の野崎洋光さんと 女子栄養大の調理学の教授である松本仲子さんが 差し水について意見を「対決」させていたものが! それを引用させて頂きます。 野崎さんは「差し水をする派」。 その理由は 「とっさの場合にガスの火力を調整する作業よりも 素早くふきこぼれをおさえられる」 とのこと。 対する松本さんは 「かまどでゆでていたころは とっさに火を弱めることができなかったけど 現在はガスコンロの火力を弱めるだけでも充分」 と。ふーむ。どちらの意見も「なるほど」です。 そして、このコーナーでは これら二種類の方法で素麺を茹でて検証しています。 その結果は 「でんぷんの煮え具合を表すアルファ化度はほぼ同じ」 「試食してもさほど差がない」 とのこと‥‥。 科学的なデータをもってしても 料理人の舌をもってしても、差がないと。 要するに、「どっちでも良い」らしいです。 そうなんですか…そうなんですか…。 「差し水はしない方が良い」と思いこんでいた 研究員Aは軽くショックです。
でも、野崎さんの言うとおり 「火力を調整する」作業って 「わ、間に合わなかった」ってハメになることが 多い気がしませんか? これは反射神経・運動神経に難アリの 研究員Aだけの問題でしょうか。うう。 というわけで、今後は研究員Aは 「差し水派」に転向しようかと。 でも、このコラムの中で さらに松本仲子さんがこんな意見を。 「太めの麺をゆでるときは差し水をするほうがよい」 そのココロは‥‥ 太麺はゆで時間が長いから 表面と内部の茹で具合の差が大きくなってしまう。 つまり表面は茹ですぎで 中心に芯が残っていることもある。 だから、差し水をして途中で 表面の加熱を抑えるのが良いと。 それはほんと? というわけで カソウケンでも検証してみることにしました。 この実験のために、わざわざ 「指定の茹で時間が16分」という 茹で時間が長めの太麺を購入。 (気の短い研究員Aはいっつも 茹で時間のなるべく短いものを選ぶのに!) そして「差し水あり」「コンロの火力を調整」 の2種類で茹でた麺を比較してみました。 ここで、 「でんぷんの煮え具合を比較するために アルファ化度を測りました」 と言いたいところですが、残念なことに 清貧のカソウケンにはそんな装置がありません。 というわけで、研究員による食べ比べになります。 ‥‥が! 研究員Aには違いがわからず‥‥。 若手の研究員である息子たち、研究員B・研究員Cにも 検証を依頼しましたが、反応変わらず‥‥。 役に立たない研究員たちです。 麺好きの彼らはただひたすら食べ続けるだけ。 起きてきた頃には実験結果が 既に食べ尽くされているというありさま。 役に立たない所長です。 なんだか 「差し水しようが、火を弱めようが どっちでもいいじゃーん」 と、すっきりしない結論に至りそうです。 でも、豆類の場合は話がまた別になります。 豆を煮るときに差し水をするのは 「かまど時代の名残り」ではありません。 豆の直径は麺類の直径に比べて大きいですよね。 だから、煮ている間に表面と内面で 火の通り方に差ができてしまう。 これを均一にするためにも 途中で差し水が必要なのです。 ところで今回、カソウケンで行った 太麺の茹で具合の実験。 「測定の"装置"の性能が悪いのか」 「本当に茹で方で差がないのか」 いまいち不明なので ぜひみなさまのおうちの実験室でも 実験してみてくださいませ。 ‥‥と、他力本願な逃げをしつつ 今回のレポートを終わらせて頂きたいと思います。
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2006-09-08-FRI
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