主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート83
IH調理器の科学。



ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。
私の家では台所でIH(アイエイチ)調理器を使っています。
最近は、オール電化住宅などといって
IH調理器を導入するおうちも増えているようです。
そういえば、「IH」ってご飯の電気釜でも聞くけど
いったい何? とふと思われた方も少なくないでしょう。
今回はそのIH調理器をカガクしてみることにしましょう!

mama なんで鍋だけが熱くなるの?

IHなんて縁のない用語、って思われるでしょうが
実は遠くない昔(ってことにしときましょうね、お互い)に
「右ねじの法則」なんてのを勉強した
記憶があるかたは少なくないはず!
実は、あれに関係しているんですよ〜。
そして、"IH"というのはinduction heating
つまり、電磁誘導加熱という意味です。
電磁誘導を使って加熱、ってことなのですが
この「電磁誘導の法則」は
以前、このコーナーで取り上げたこともある
天才科学者、ファラデーが発見した法則です。

電気と磁気の間には
「電線に電気を通すと、その流れる方向に向かって
 時計回りに磁力が発生する」
という関係の性質があります。
そして、この電線をぐるぐる巻きにしてコイルにすると
より大きな磁界が発生します。
コイルを作って電流を流したら
方位磁針の針が振れた!
なんて実験をした記憶、ありますよね。

ちなみに、この「磁界が発生する向き」で
右ねじの法則、という名前が付いているのです。
電流の向きに右ねじを進めたとき
右ネジの回す向きと同じになるからです。
または、右手の親指の先を
電流の流れる方向に見立てて、
残りの4本の指を曲げて磁界の発生する方向と
覚えた方もいるのではないでしょうか?

そして、電気と磁気の「逆の場合」でも
同じ現象が現れます。
電気が変化したら(電流が流れたら)、
磁気が発生するように
磁気が変化しても、電流が発生するのです。
この「電気と磁気の関係を結びつけた」のが
ファラデーの偉大な業績、電磁誘導の法則なのです。
この法則がなかったら
世の中の電力の供給はストップしちゃいます。
それくらいの大発見なのです。

ただ、このファラデー、忘れっぽい人だったらしく
「磁界の発生する向き」を忘れないために
いつも電線を巻き付けた鉄棒を
ポケットの中に入れておいたというカワイイ逸話が!
ファラデーほどの天才が、ねえ。
天国で「右ねじ」とか「右手」を使った
思い出し方があったか〜と思っているかもしれません。

さて、IH調理器のしくみの話に移りましょう。
コイルに電流を流すと、磁気が発生します。
その磁気を変化させると、電気が発生します。
そのコイルの上に金属の鍋を置くと、
鍋に電流が流れるのです。

でも、金属には
「そう簡単には電気を流させないからね!」
という電気抵抗というものがあります。
電気抵抗が大きければ大きいほど
スムーズに電気が流れません。
流してもらえなかった電気はどうなるのでしょう?
これが、熱に変化します。
(これをジュール熱といいます)
だから、金属の鍋自体が熱くなって、
調理ができる、ってわけです。


電波適正利用推進員協議会内の資料を参考)

mama どうして使える鍋と、使えない鍋があるの?

すでにIH調理器をお持ちの方は、
導入したときに
「この鍋は使えません」と言われて
泣く泣く処分した、とか買い換えた、とか
涙の体験談があるかもしれません。
この何万円もした高級土鍋や
思い切って買ったプロ仕様の銅鍋も
もう使えないの? などなど。

数年前までは、アルミや銅の鍋は
IH調理器に使うことができませんでした。
なぜかというと、金属の電気抵抗が
小さいからなんですね。
スムーズに電気が通ってしまう金属の素材なので
ジュール熱が発生しない!
つまり鍋が熱くならないから「加熱器」にならないのです。

でも、最近は各メーカーが工夫して
「オールメタル」をうたったIH調理器が作られて
アルミニウムや銅の素材の鍋でも
使えるようになったようです。
でも、「金属でない」土鍋やガラスの鍋は
どうしようもないので、潔く(?)諦めてくださいね。
(IH調理器でも使える土鍋が市販されていますが
 あれは、鍋底に金属を挟んでいるから
 使えるのです。)

電磁波が出ているっていうけど大丈夫?

「IH調理器からは電磁波が出ているらしいけど
 健康には問題ないの?」
ってご心配の方もいるかもしれません。
確かに、IH調理器からは
50〜60Hzの電磁波が発生しています。
(電磁波について詳しく知りたい方は
「電磁波って、そもそも、なーに?!」の回を
ご覧くださいませ。)
市民科学研究室によると
2.5kWのIH調理器を中火で使用したとき
正面から5cm離れたときに発生する電磁波の大きさは
2.4μTになる、という報告があります。

なーんて言われても
この値がどんなものかよくわかりませんよね。
国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)で
設定されたガイドライン
(50Hzで100μT、60Hzで83μT)の値に比べて
十分低い値ではあります。
(財)電気安全環境研究所のホームページにある
この絵グラフ
他の家電製品と比較していてわかりやすいです。
掃除機を使ったときに発生する(最大値の)電磁波より
一ケタ小さいので、まあ問題にしなくてもいいかな〜と
個人的には思うのですが‥‥。

でも、どーしても使っていて気になる! 
って方もいるでしょう。
「電磁波の特徴は?」の回で書いたように
「電磁波のエネルギーは距離の二乗に反比例する」
つまり、少しIH調理器から離れるだけで
かなり電磁波のエネルギーは小さくなるのです。
だから「一歩下がって」使うだけで随分違うはず。
(心理的にも??)

それに「電磁波って、危険なの?」の回で
書いたように、電磁波の危険性はまだグレーなのです。
どうか導入に迷っている方はまさに「自分次第」!
リスクとベネフィットを考えて、
ご自分で判断してくださいませ。
‥‥って、無責任に逃げているようですが
ほんと人によって判断基準、違いますもの!
あ、だからといって電磁波防止エプロンとか
根拠のない怪しい商品に走らないでくださいね〜。



book
参考文献
  小佐野 義博/鈴木 浪平
IHクッキングヒータの技術動向
電気学会誌, Vol. 125, No. 4, pp.221-224 (2005)
参考サイト   babycomeエコロジー もっと知りたい電磁波
東京電力
松下電器産業株式会社
電波適正利用推進員協議会


2007-05-18-FRI


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