糸井 |
萩本さん、
公式戦の「勝つための野球」ではなくて、
おもしろくするための野球の話を、
去年のシーズン前には、してましたよね。 |
萩本 |
はい。
野球界って、壁があるんじゃないか、
と思っていたんだけど、
協会の方にその話をしてみたんです。
「監督を、やりたいんですけど」
「それは、おもしろいですねぇ」
最初に笑ったの。
なにも壁はありません、
扉は開いていますよ、
ぜひ来てやってください、
あぁ、いい感触だなぁと思って
大学野球のボスのところに行って
同じことをいうと
やはり「おもしろいねぇ」といわれるんです。
みんなが
「おもしろいことをいうね」
といううちに、
「おもしろいことをいいに来た人に、
なんとか球団の監督をやらせよう」
というふうになったみたいなんです。 |
糸井 |
「お祭りをする役目だから、
不良品交換会、
みたいなものと一緒に
野球をやってもいいですよね」
とか、話題になっていましたもんね。 |
萩本 |
ええ。
公式戦とは別に、
そっちの、おもしろいほうの野球は、
ずっと、つづけたいと思うんですよ。
野球で人が集まったら、
その集まった人で、またなにかひとつ起きる。 |
糸井 |
バイトをしたいんだ、
という人が出てきたっていいし……
「集まる」ということのおもしろさを
どれだけ使えるかというところに、
たぶん、おもしろい野球のほうは、
いくんですよね。
それはもう
利権で野球をやっている人たちには、
「許すまじ」ということなんでしょう。
「でも、利権を手ばなしさえすれば
こういう商売だってなりたつのに」
みたいなことは、どんどんあると思う。 |
萩本 |
そうそう。 |
糸井 |
集まったところで商売やりたきゃ、
ぜんぶやればいいと思うんです。
プロ野球に触らなくても
こんなにおもしろいお祭りができるんだ、
とわかったら、いろんな参加のしかたに
みんなが気づくと思うんです。
そんな芽の出るシーズンにも
ちゃんと、なっていたんですもんね。 |
萩本 |
野球協会の人たちと話して、
どんどん深みに入っていくと
おもしろかったというか……
つまり
アマチュアのみんなも
「どうしたらいいんだろう?」
って、野球のことで困ってたのね。
「すごくおもしろいことを
いう人が来てくれたから、
とにかくみんなで乗っかって、
応援してにぎやかにしよう」
だからぼくは、まだ、
どこの球場で何をするんだかも
わからないまま、球団を作っちゃった。
なのに、
まわりが一生懸命やってくれるもんだから、
「ここでやるのはどうですか?」
と地方自治体が電話をかけてくれて……
ぼくに直接には、電話がこなかったのね。
ぜんぶ、
協会のほうにどんどん電話がきて、
みんなが、走りまわってくれていたの。
ちいさな村が野球で明るくなるだとか、
町中の商店街がにぎやかになるだとか、
商店街の人たちが
野球というお祭りに毎日参加して、
それで商売になるとか。
集まった選手には、
発明をしてもらいたい、と思っていました。
「ヒットエンドラン?
そういうの、きいたことある。
そういうの、やんないでくれ」と。
走攻守の三拍子がそろっていたら
プロにいっているわけだから、
どこか、欠けていた人が、
集まってくれたんだと思うけど……
でも、
「欠けてるやつ」って、おもしろいじゃない。
みんな、どこか、欠けている。
その、欠けているところを、9人で助けあう。
打つやつ、守るやつ、走るやつ、それぞれで。
言葉を変えるところから、はじめようと思ったの。
「オーナーはお金を出す」っていうけど、
「オーナーはお顔を出す」ってほうが、うれしい。
いちばん最初に、
野球のチームをやるというときに
「気にいった! お金を出す!」
って、お金を送ってきてくれたのがいるの。
それが、20万円。
この金額が、うれしくて。
なんとなく、度胸で決めた金額で、
しかも、野球がなにひとつ
はじまりそうもないような金額……
でも、そいつが、
ふところ、ぶったたいたって感じしない?
いち個人が、20万円。
とにかく、うれしいから送る。
これが、ぼくの理想とする野球でして。 |
糸井 |
それが、祭り、ですよねぇ。 |
萩本 |
ぼくは、
逆転するチームにしたいと思いました。
逆転するのが前提で、
それを、本気で信じられたとしたら、
7点取られても8点取られても、
8回、9回まで、
「いい逆転ができるんじゃない?」
と、思えるから。
野球でいちばんおもしろいのは
逆転なんですよ。
だけど、今の野球は、とにかく先取点だ、
と言われているんだから。
だから、
先発は女性に投げてもらって、
点を取られたら、
敗戦にしないように、
男のピッチャーががんばるという……。 |
糸井 |
おもしろがる場所が、たくさんある野球。 |
萩本 |
そうそう。
そしたら、おもしろいじゃない。
野球って、
筋書きのないドラマというけど、
なぜか、筋書きのあるのが、プロ野球だから。
監督が
「先発、中継、筋書きどおりでした」
と、インタビューにこたえているもんなぁ。
筋書きが決まっているから、
7回や8回で、お客さんが帰っちゃうんです。
あれ、映画だったら、
ラストまでお客さんをひきつけておけないものは、
打ちきりでしょう?
だから、じつはもう、
野球は、打ちきり前だったんじゃないか、
と思っていたの。
あんなにも、起こることが決まってたら。
最後まで、何が起こるかわからない……
それを、ほんとに、実現したいと思って。 |
糸井 |
いろんなことを
試してみたいと思っている人はいても、
ほんとにやれる人が、
なかなか、いなかったんでしょうねぇ。 |
萩本 |
うん。
それやると、負けるんだろうね。 |
糸井 |
そうでしょうねぇ……。 |
萩本 |
負けるのがイヤだ、なんだよね。出発点は。 |
糸井 |
負けるのがイヤなのと同時に、
人から、なにか言われるのがイヤなんでしょうね。 |
萩本 |
(笑) |
糸井 |
「なんで、そんなことしたんだ?」
まわりに、かならず、いわれますからねぇ。
あれだけ、腹の立つことってないだろうし……。
だけど、欽ちゃん野球は、
「じゃあ、おまえ、やってみろよ!」
と言いたくなるようなことをぜんぶやってみる、
ということで、はじまったんですもんね。 |
萩本 |
そう。 |
糸井 |
それは、プロの人も、
ある意味、よろこぶと思いますよ。
やってみたかったんだけど、
なるほど、実際やると、そうなるのかあ、って。
(次回に、つづきます)
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