クマちゃんからの便り

予感的中


やっぱり予感から八時間後、
夜中の二時過ぎ風が冷たくなり
間もなく激しい稲妻と雷鳴の土砂降りになった。

真昼のように明るくなるテラスに出て、
飛沫を浴びながら連絡が入る朝を待っていたら、
二時間ちかく経っても雷は止まず
飽きてベッドに横になり、眠ってしまった。

月曜日朝六時、小降りになりすっかり涼しくなって、
今日は作業に絶好のコンデションだ。
コーンフレイクに牛乳をかけた朝メシを済ませると、
あっさり
「火曜日午後四時以降のリド島到着になった」
の連絡。変更にはならないオープニングの
二十七日水曜日は明後日で、
作業は明日一日しかないのにしかも午後四時以降とは、
呆れて怒りも失せもう言い訳なぞは聞きたくもない。



しかし、ボルトアップが大幅に遅れて
オープニング前夜になったことは、
考えようでは天才PINOと
ガラスの作品を創ることができたし、
<La Ruce Circorante>を見て
関心をもってくれた
アメリカから来ていた吹きガラスの名手DANTEや、
オランダのヒカリ作家リチャードと出会えたし、
オレを高く評価してくれた
これから浮遊していく方面のキュレターたちを、
アポ無しで吸い寄せたのだから、
マネーゲームに無縁のオレの遠征も
まんざら無駄ではなかったわいと、
海水浴客の誰もいないリドの海岸に出て
ハイライト二、三本吸って気を鎮めた。

こんな時のタバコは本当に有り難いなぁ。
『吸い過ぎにはご注意ください』?
大きな世話だ!

海岸べりに建つ<ブルームーン>で
PAOLOに会った。

「痛風は大丈夫か」

「この通りだ」

オレはサンダルでシャドーボクシングを見せた。

「そりゃよかった。
 今、モルガンが来るのを待っているんだ」

二分もしないうち

「KUMA!」

二メートルちかい大男だった。
彼は急逝したレスタニの代わって
<まだ未熟なピリオド>の名評論を書いてくれた
NYのキュレターだ。

コンテナーの遅れをPAOLOから聞いて

「じゃあ、創るところを見られるんだね。
 アンタにはあの凄いのを一晩で出現させる
 他の誰にも出来ない才能があるのを知っているんだ」

モルガンが<バカのチカラ>に妙な励ましを言う。

山梨FACTORYでシミュレーションに建てた
<まだ未熟なピリオド>の写真を
メールで送っていたのだ。

CINZIAのオフクロさんに頂いた
サルジェニア産のカラスミの粉末を
プレーンパスタに塗して喰う。

これは美味い。
明日はいよいよボルトアップだ。
出来れば何事もなくいけばイイなぁ。



『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

クマさんへの激励や感想などを、
メールの表題に「クマさんへ」と書いて
postman@1101.comに送ろう。

2003-08-31-SUN

KUMA
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