糸井 |
音楽家は耳がいいから、
英語の習得も早いでしょ?
(と、音楽の話題にふる) |
坂本 |
うまい、うまい。 |
糸井 |
でしょ? |
坂本 |
僕は、だめなんです、それが。
僕はね、たぶん音楽聴いててもね、
人間の言葉ってたぶん
耳に入ってないんだと思うんですよね。
子供の時から。 |
糸井 |
お! |
坂本 |
だから、歌なんか覚えたことないし、
自分が歌ったこともほとんどないし。 |
糸井 |
おお! |
坂本 |
そうなんですよ。 |
糸井 |
その話はちょっとさ、すごいよ。
相撲とりがさ、
「僕は筋肉ないんですよ」って
言ってるみたいな。
すごい話だよ(笑)。 |
坂本 |
でも、僕はそうなんですよ。ほんと。
楽器の音は聞えるんだけど、
人間の声はあんまり聞えないのね。
ほんとに馬耳東風みたいな感じで(笑)。
だからね、言葉に対しても、
あんまり敏感じゃないんですよ、耳が。
なぜかわかんない。
一種の失語症じゃないすか。 |
糸井 |
つっこみようがないよ、その話。 |
坂本 |
別につっこまなくてもいいよ(笑)。 |
糸井 |
坂本くんが昔、音色を探すのに
一番時間がかかるって言ってたのを
ものすごく覚えてるんだけど。
「スタジオにこもって、何してんのよ!
そんな長い時間」って言ったら、
「音色ができないんだよ」って。 |
坂本 |
みんなわかんないって言うね。何してるか。 |
糸井 |
曲とかは簡単にできちゃってんのに、
音色が見つかんないって話をしてたね。 |
坂本 |
曲は、もう、できる時は、
1、2分でできちゃうんだけど、
その曲にとって正しい音色を探すのは、
2時間でも3時間でも。
目をつぶって探してる(笑)。 |
糸井 |
その話は好きでさ。
人に言ったら喜ばれるよ。 |
坂本 |
そう(笑)? |
糸井 |
うん。 |
坂本 |
いい人になれる? |
糸井 |
いい人になれる(笑)。
みんなが受けてくれると思う。 |
坂本 |
そっか(笑)。 |
糸井 |
アッコちゃんもやっぱり、
同じこと言ってたんだけど、
嫌いな音っていうのが許せないって。 |
坂本 |
うんうん。そりゃそうだね。 |
糸井 |
で、指を引っ張ってポキっていう音が、
私にとって一番嫌いな音だって(笑)。 |
坂本 |
(高橋)幸宏は、しょっちゅう
鳴らしてたと思うんだけどなぁ。 |
糸井 |
それ、すごく仲悪かったんじゃない(笑)? |
坂本 |
あ、幸宏はね、この辺(首のあたり)の
リンパ液の音を鳴らすのが、得意なの。
でね、ま、自分は聞えるよね。本人は。
でも人にも聞えんの。
「聞いてよ、聞いてよ」って、
ぐじゅぐじゅってやるわけ(笑)。 |
糸井 |
(笑)! |
坂本 |
それが得意でさ(笑)。
あれは僕もさすがに気色悪かったね。 |
糸井 |
それはどうかと俺も思う(笑)。 |
坂本 |
(笑)。 |
糸井 |
音楽家が生きてるってことについて、
音楽家じゃない人は、
想像できてないんですよ。
普通に「やぁ!」って言ってるけど、
ほんとは違う人たちに
会ってるんだと思ったんだ、
アッコちゃんの嫌いな音の話を聞いた時。
アッコちゃん、骨の音に関してはね。
もうね、なーんて言うんだろ。
こわいような顔して、
「本当にやだ」って言ってたもん。
で、その話と
坂本くんの音色を探すって話が
重なって(笑)、こいつら、
そういう人たちなんだって思った。 |
坂本 |
うんうん。 |
糸井 |
で、きっと言葉のちょっとしたことはさ、
坂本くんにとっては
どうでもいいわけじゃない? |
坂本 |
そうだね。 |
糸井 |
一方では詩人にとっては、
それはちょっと、
耐えられないんだよ? |
坂本 |
そう。これと同じくらいにあるんだろうね。
きっと。詩人はね。ものの言い方とか、
書き方なんてのも。 |
糸井 |
詩人じゃない俺でさえ、
それはやっぱりあるよ。 |
坂本 |
でしょうね。
谷川俊太郎さんとかに聞いてみたいけど。
ありそうだね。すごいこだわりが。 |
糸井 |
で、我慢をして、今は大丈夫になりました、
とかね。それさえも取り入れるように
なったんですよって。 |