── 矢野さんに最初に会った時は、
おもしろかったですか。
坂本 それはもう、こっちは知ってたからね。
またね、とんがってたんですよ、あの頃は。
矢野さんも。
── え、教授もでしょう(笑)?
坂本 僕もとんがってたけど、
ほんっとにね、すごかったですよ、むこうは。
ばきばきって針が出てるような感じでね。
糸井 うん。
坂本 ブイブイって感じで(笑)。
── こわいって感じですか?
坂本 こわいっていうか、
もう、人のことはまったく興味ないっていう。
あんた何? みたいな。
糸井 女の子のとんがりの方が、
無理なくとんがってますよね。
坂本 ねえ。自然体でとんがっちゃうからね。
糸井 しかも、才能があるんだからね。
坂本 ええ。とりつくしまがないってやつですよ。
糸井 だって、安部譲二とかが、
言わばパトロンの役割をさ、
小さく果たしてたわけじゃないですか。
(註:安倍さんの経営するジャズ・バー
 『ロブロイ』で
 矢野さんは十代のころから
 ピアノを弾いていた)
坂本 そうです。
糸井 そういうのがバックに
ついてるわけでしょ?
坂本 そうです。
糸井 ねえ?
坂本 16くらいから。
糸井 あんな無邪気に「ほ〜♪」って歌ってるのにさ、
後ろにさ、「おら!」とかいるのこわいよねー。
坂本 こわいよね(笑)。
こっちは気が小さいから、こわいよ(笑)。
糸井 その、降ってきた何かって言ったらさ、
やっぱり、何かね、
男とは違うすごさがあるよねー。
坂本 うん。
── じゃ、初めて会われたときには、
その努力を強いられてこう(笑)、
この奥にある状態が見えてたんですか?
糸井さんは。
糸井 (笑)。
坂本 まだ、うずまいてたんだよね。
糸井 もう、会ったときは、大丈夫(笑)。
坂本 大丈夫(笑)。
糸井 大丈夫。やっぱり、
レコードの中にヒントがあるっていうか、
やっぱりおもしろいんですよ。
坂本 あ、でもそれ、もう3、4年経ってるでしょ。
糸井 経ってますね。経ってる。
で、会ったのは後なの。
坂本 アルバムだと3枚分くらい
経ってると思うんですよ。
最初のうずまきから(笑)。
糸井 そうだよね(笑)。
やっぱり、助けてくれるのは歌詞でしたよ。
坂本 うん、うん。そうでしょうね。
糸井 歌詞の中には、
そういうおそろしさはないですから。
「お医者さんちのアッコちゃんにも」
って書いてれば、
「お医者さんちのアッコちゃん」ていう
概念を持ってる人だってことは、
自分の言葉で付き合えるじゃないですか。
で、会ってはいないけど、
大丈夫だなっていう状態があって、
で、楽しいんですよ。やっぱりね。
で、間にまた、大森(昭男)さんがいるんだよ。
(註:大森昭男さんはCM音楽プロデューサー。
 三木鶏郎さんの門下生であり、
 糸井重里、矢野さん、坂本さんとも
 たくさんのCMをつくっている)
坂本 大森さんね。そうそう、
大森さんは、すごいね。
糸井 大森さんがいれば
大丈夫ってところがあって。ね。
坂本 すごいメディアだね。媒介役。
糸井 「糸井さん、これは矢野さんに
 お願いしてみようと思うんですよね」
とか言った時に、
もう大丈夫なわけだよ(笑)。
坂本 (パン! と手をうつ)
大森さんがいれば大丈夫(笑)。
糸井 つまり、大森さんていう
無限に善良な人がいるんですよ。
坂本くんのことだってそうですよ。
坂本くんのことを、大森さんをはさまずに
知ったとしたら‥‥(笑)。
坂本 僕はね、きっとね、大森さん出現以前は、
オオカミ少年みたいな感じだったと思うの。
── 教授が?
坂本 うん。
糸井 (笑)人間の言葉をしゃべらない。
坂本 裸足で歩いてるような。
それがね、仕事を頼む前にね、
大森さんが、僕のことを、3回くらい、
ぱって呼びつけたり、
どっか行ったりとか、
ちょっと調教してたんだよ。
僕のことをね。
糸井 大したもんだねぇ。
坂本 大したもんでしょ(笑)?
今から考えると。
それは、僕は調教されたなんて
感じてないけど。
ある日、何かやってて、
一緒にタクシー乗ってて、
赤信号で止まった時に、
僕がね、勝手に飛び出してって、
そこにある牛丼を食べに行って。
牛丼屋があったの。そこに。ぱっと見たら。
おなかすいてたんで(笑)、
タクシーに大森さんたちを残してさ、
牛丼食べに行って。
糸井 くくくくく(笑)。
── それおいくつくらいの時ですか? 教授。
坂本 26、7じゃないですかね‥‥。
糸井 ジャージ以下じゃないか!
坂本 (笑)。あ、そう、ジャージ以下。
食べて、また乗ってきたっていうね(笑)。
食べるの早いですからね。
糸井 いい話だね!
坂本 たぶん、オオカミ少年みたいだったと思う。
糸井 けだもの。
坂本 そうそう。まだ人間の言葉しゃべってない。
2006-11-23-THU
前へ 次へ
 
Design=sakaida design office
(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN