| ── |
教授は、矢野さんの
ボーカルの魅力っていうのは、どういう？ |
| 坂本 |
ま、そう、切り離せないっすね。 |
| 糸井 |
矢野顕子ほど切り離せない人って、
ちょっといないんじゃないですかね。 |
| 坂本 |
逆に言うと、普通は切り離せちゃうでしょう。
だって、メロディはおたまじゃくしとして
聞き取っちゃって、言葉は言葉で
詞として別々に聞き取ったりとか、
できちゃうこと自体が
ほんとはおかしいんだよね。 |
| 糸井 |
うん。 |
| 坂本 |
実は。一体化してるものだから。
それはね、一体になればなるほど、
もちろんいいんだけど、
ま、矢野さんとかね、
あと清志郎なんかもかなり一体なんですよね。
なかなか切り離せないからいいなぁと思う。
つまり、こういう詞の言葉があったら、
もうこのメロディでしかないっていうさ、
絶対に離せない、
他のチョイスはありえないっていうくらいに
一緒になってる、
一体のものになってるっていうのが、
やっぱりいい姿なんで。 |
| ── |
まさに楽器ですよね。 |
| 坂本 |
例えばクラリネットっていうのは、
あの形であの音色であることは
絶対に切り離せないのと同じように、
その言葉とそのメロディと
その音色ってのが一緒になって
存在してるっていうのが、一番いい形ですよ。 |
| 糸井 |
あの、２つとないっていうことについて、
矢野顕子はさ、歌にも「ひとつだけ」とかさ、 |
| 坂本 |
（笑）そうね。 |
| 糸井 |
うん、なんか、つまりね、
あ、これ、自分のことじゃんて思うくらい、
いつでも、２つ同じものはないんだ、
ってことについて、
あの人は一生語り続けてるような気が
するんだよ。 |
| ── |
すごいですよね。
一緒の作業をしてたっていうのが、
にわかに信じられないんですけど（笑）。 |
| 糸井 |
や、でもね、交流できるんですよ。
絶対に。
やっぱり、同じものは２つないっていうことは
確かなんですよ。
実際に同じものを２つ作るようなことは、
宇宙にありえないわけだから。
だから、似たものが
いっぱいあるっていう状態はあっても、
全部のものは違うんだっていうのは、
あの人はもう、メッセージとして
身体全部訴えてるよね。 |
| 坂本 |
うん。 |
| 糸井 |
一回ずつの演奏を別々の曲として、
その都度iPodで、iTunesで売ったら
おもしろいのにみたいなことを
俺が言った時に、
普通に「そうよね」って素直に。 |
| 坂本 |
（笑）。 |
| 糸井 |
つまり、今日ＮＨＫホールでやった
「ひとつだけ」って曲と、
翌日にブルーノートでやった
「ひとつだけ」は、
違う曲なんだっていうことを、
あんなに心から言える人って
ちょっといないと思うな（笑）。
お客もそれ、満足するでしょ。 |
| 坂本 |
うん。そうだよね。 |
| ── |
糸井さんは、音楽とは全然別個に
矢野さんとおつきあいがあるんですか？ |
| 糸井 |
やー、音楽と切り離してはないですよ。
僕は単なるファンですからね。
誰に対しても。
アッコちゃんが音楽と関係ない状態で
見えたことは、一度もないですね。
坂本くんを見てても、
この人もし、音楽家じゃなかったら、
と思って見たことはないですからね（笑）。 |
| 坂本 |
ははは！ |
| 糸井 |
ただのおやじですよ。
誰だってそうですからね。 |
| 坂本 |
誰だってそうだ（笑）。 |
| 糸井 |
切り離せないですよね。
それほど、過酷な一体化でしょう。
たぶん。仮面と一緒になっちゃったみたいな。
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