HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ひとのしあわせを読む仕事。
手相観 日笠雅水さん
第4回 みんながいちばん喜んでくれることを 仕事にしたら、いいんだよ。
糸井 そうすると、マーコはつまり
「読む」っていう仕事をしてるわけだ。
日笠 うん、読んで‥‥読んで伝える。
あ、でも、お悩み相談係です。
糸井 それもあるよね。
日笠 あとは確認屋さん。
みんな心の中に「心当たり」がある。
それをズバッと言われると、
「あ、当たった」っていう感じだから、
確認させてもらってる。
あとは、聞き手。
読み手っていうだけじゃなくて、
ダーッと喋って帰っていく人もいるわけだし。
聞いてほしいんですよね。
「味方になってください」じゃなくても、
その時間はもう自分の言うことを
邪魔しないで聞いてほしいっていう人たち‥‥
糸井 そんなに、聞いてくれる人いないんもんね。
日笠 うん。普通の人間関係の中では
もう癖がついてたり感情的になったり、
もうこういうものだって思ってるから。
糸井 どのくらい観てきたの?
日笠 手相観になってからは17年、18年目だから‥‥
糸井 18年目?!
日笠 もう18年になりますよ。
お金を初めていただいてから。
糸井 はぁー‥‥!
日笠 手相を観始めたのが中学3年のときだから、
それから、いつもどこからでも手が出てくるから、
だから‥‥何万人ももちろん見てるし、
プロになってからは‥‥
プライベートも含めると、
年間に1300人‥‥
もっと観てるのかな?
 
糸井 すごい。
日笠 でも私、例えば渋公や野音なんかで
コンサートを観たときによく思うのが、
「あーあ、清志郎さんとか
 ほかの人たちっていうのは、
 バンッてこれだけの人を同時に
 2時間でたっぷり幸せにできるけど、
 私はひとりひとりに40分ずつ‥‥」(笑)。
40分ずつ会いながら、例えば渋公の
1階席ぐらいですよ、年間に。
糸井 足し算、足し算だもんね。
日笠 うん。人がいっぱいいると、
「ああ‥‥」って。
糸井 それ思うんだ。
日笠 思いますよ。
例えばストーンズ見ながら客席を見渡してね。
糸井 うん。いや、でもそれ、
だれでもうらやましいんじゃない?(笑)
日笠 それぞれ人にはいろんな役割がありますからね。
ただ、多分中3から手相を観始めてるから、
東京ドームが5万ちょっとですか、
「ああ、これぐらいの人の手は観てきてるかも」
とかって思うと、
うわー、すごい! みたいなふうにも思う。
糸井 プロになっちゃう前に
みんなが見てもらいたがってるっていうときに、
自分で、「そりゃそうだろうな」と思ってたの?
日笠 面白いんです、手相は。
だから、たくさん観てきたし、
お金をいただくことに対して抵抗があったわけです。
無料だと何を言っても責任がないような感じもするし、
いくらでもいろいろ言えていくけれども、
それでお金をいただくっていうと、
やっぱりドンと重いものが来ちゃいそうだし、
あとは、何だかやっぱり人の悩みばかり聞いて
人生を生きて行くということに対して‥‥、
だって幸せな人は来ないわけですから。
糸井 絶対来ないですか。
日笠 はい‥‥あ、たまにいらっしゃいますけど!
糸井 「すっごい僕、幸せなんですけど観てください」
みたいな人は?
それだって壊れるかもしれないと
思うじゃないですか。
日笠 そうです。今は幸せだけど、
いつまでこの幸せが続くのかとか、
その幸せで得たものをなくす不安感で
来てくださいますから、
みんなどこか悩んで来てくださるわけです。
だからやっぱり、ひとりひとりの悩みとか
大きな問題に向き合うこととかっていう
責任を負うことに対して、
お金をもらってない楽な感じがあったわけですよね。
だから、職業とすることに、
やっぱりすごい勇気が、
すごく勇気が要りました。
糸井 ああ、そうか。
でも、それもほかの商売と同じだね。
日笠 それはそうでしょうね。そうそう、そうですよね。
糸井 さっきから聞いてると、
「俺もそうだよ」っていうことばっかりだよ。
日笠 そうです。だから私、今日は、
相談してるみたい。私が。
ありがとうございます。
糸井 いや、それはだって
俺もそういう商売だもん。
日笠 そうですね、本当に。
私もいま相談してましたもんね。
糸井 なぜかそうだったもん。
僕は、「こうなるんじゃないの?」みたいなことは
わかんないけど、整理する役だよね、わりと。
日笠 本当にそう。糸井さんは本当に昔からそう。
糸井さんは整理して
バンと言ってくださる役割ですよ。
「マーコはもうみんなが
 一番これを喜んでくれるんだから、
 手相を観るっていうのを仕事にすればいいんだよ」
って。私がいろんなことを
ゴチャゴチャやってたけど、
あの当時は肩書きがちゃんとあったほうがいいって。
「肩書きをちゃんとつけて
 堂々と仕事してったほうがいいんだから。
 マーコは手相観になりなさい。
 で、さて、僕がコピーもつけてあげましょう」
で、「心の指圧師」というコピーをつけて、
「さあ、マーコは、僕がコピーつけたんだし、
 これで仕事をしなさい」
っておっしゃったんですよ。
糸井 そういうことは、
僕は全然何も覚えてませんからねー!
でもまだマーコが手相観を仕事にしてなくて、
しょっちゅうスタジオの隅で
観たりしてるときのことは覚えてるよ。
なんか嬉しそうだったよね。
あれは楽しそうだったよね。
日笠 得意なことだったから。
みんなに褒められるし、喜ばれるから。
こんなに褒められて喜ばれることっていうのは、
ほかのことやっててもないわけですよ。
糸井 ああ、なるほどね。
歌のうまい子みたいなもんだ。
日笠 そうです、そうです。
どこ行っても手が出てきて、
あんなに褒められて喜ばれてって。
だから、それ見てて、
「マーコは得意なんだから、これ仕事にしなさいよ」
って、糸井さんがおっしゃったんです。
糸井 嬉しそうだったからだろうね(笑)。
俺も‥‥言われたかったね、その時代は。
「こうです、ああです」
「そんなことないよ」
とかっていう掛け合いをしたかった。
つまり、普通の会話の中で
「もっとこうしたほうがいい」
とかって言われたら、
勝ち負けになっちゃうじゃん。
「うるせえ」とかさ。
「なるほどな」であるにしてもさ。
 
日笠 うん、そうですよね。
糸井 だけど、手を観て何か言われたらさ、
「えー」とかって言って言い返せるじゃん。
「それは違うんじゃないの?」とかさ。
日笠 「だって線はこうだもん」って、
また私も言えるし。
「手にはそう書いてあるもん」って。
糸井 そうそうそうそう。
マーコが僕に繰り返し言ってたのは、
「生活が2つになります」
っていうのをよく言ってた。
それはもうまったくそうで。
「解決するんでしょうか」
「します」みたいなね。
で、僕の立場の曖昧性みたいなのが
いつも表れてましたよね。
日笠 うん。
糸井 こうかといったらこうでもなく、
こうかといったらこうでもなく、みたいな。
それはもう丸ごと受け止めるしかないですね。
日笠 うん。
糸井 僕はいろんな人にワンポイントアドバイスした
覚えはあるんだよ、ときどき。
事務所の名前を考えるとか、
本を出した人のデビュー作のタイトルとか、
けっこう、僕、いっぱいしてるんですよ。
(南)伸坊の『面白くっても大丈夫』も、
クマちゃんの『人生はデーヤモンド』も。
なんかね、何だろう、占いとは違うけども、
リーディングには近いですよね。
日笠 もちろん。本当にそうですよ。
私も、お世話になりましたもん。
糸井 プッ(笑)。
日笠 だから、言われたこと7年も勇気がなくて
結局できなかったんだけど、
結局言われたようになってよくなった。
糸井 いや、だからマーコはプロになる前に、
今までやってきたことに、
やっぱりシャバにさ、
未練がいっぱいあったじゃないですか。
日笠 YMOのマネージャーだなんて、
カッコいい仕事でしたもの、わりと(笑)。
糸井 そうだね。で、そこであることは、
諸々の仕事じゃないことも面倒臭いことも含めて、
ひとつずつがなんか面白そうだし、
そうなったらそれでいたいって
気持ちはあるに決まってるわけだから。
 
(つづきます。)
2007-04-06-FRI
Illustrated by 酒井うらら