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Greetings from Greece ギリシャからのおたより。Greetings from Greece ギリシャからのおたより。

Entrance

先日、13年ぶりに引っ越しをしました。
ギリシャに来てから、
夫の実家で義母と住んだ最初の一年以降は
ずっと賃貸住宅で暮らしていましたが、
義母が亡くなり空き家になった夫の実家を、
改装して自分たちで住むことにしました。

しかし家関係のことに疎く、あまり行動力もない私達夫婦。
決断してから実際に引っ越すまで、
一年もかかってしまいました。

何と言っても大変だったのは、
もので溢れかえった実家の片付け、
これは引っ越し終えた今でも終わっていません。
実家に残されていた家具はゴシック調で、
(ギリシャではトルコバロック調とも言ったりするらしい)
どれも重厚で装飾的。
壁は美術館さながらに絵画で埋められていたし、
天井にもシャンデリアが輝いていました。
ギリシャも70~80年代は経済的に上り調子で、
だだっ広いリビングは
主に豪勢なホームパーティに使われていました。
夫が言うには、多い時には40人近くも
招いたりしていたそうです。

そんな時代を彩った家具達はどれも立派に見えるのだけど、
自分たちの好みには合わず、どうしても許容できない。
なお悲しいのは代わりに置かれる自分たちの家具が
間に合わせに買ったそこそこの安物で、
それでもその方がまだマシと思ってしまうこと。
もし私達の好みが合いさえしていれば、
さぞかしありがたかっただろうに…。

ちなみに家のあるパレオ・ファリロという地域は、
70年代にたくさんの集合住宅が建てられました。
今それから50年ほど経ち、建物の老朽化とともに、
一定の金額以上の不動産を購入すれば
居住権が認められるというゴールデンビザ制度も相まって、
新しい集合住宅がばんばん建てられています。
新しい建物はどれもシンプルで、
モノクロを基調としたデザインが多い印象。
実家のゴシック調は許せないのだけど、60~70年代の
ちょっとレトロな建物が好きな私には、
古い建物が無くなっていくのは少し悲しい。
今回の絵は近所にある、典型的なかつての
集合住宅のエントランスを描きました。
大理石があしらわれてるのがギリシャっぽくていい。

さて引越しに話を戻すと、改装もまた大変でした。
というのも、改装は全体を指揮する
「マストラス」という人に
依頼し、その人が大工や左官、電工、配管工などを
呼び寄せてくれるのですが、
それぞれの部品ータイルやペンキ、トイレやシンクは
自分たちで探して用意しなければなりません。

無数にある店の商品の下調べに時間を溶かし、いざ街の外れ
にあるホームセンターを訪れるとその商品はなかったり、
さらに優柔不断な性格が祟って中々決められない。
夫も娘もあまりこだわりがないようで、
私の逡巡(しゅんじゅん)にイライラを募らせるし、
それがまた私を追いついめて
普段なら割と好きだったはずのホームセンター巡りは、
だんだん家族のストレスとなりました。

引っ越しは引っ越しでまた別の苦しみが。
業者からは段ボール等の手配もなかったので家にある
ありとあらゆる箱や袋に詰めるだけ詰めましたが
全く足らない。
仕方ないのでスーツケースに詰め込んで歩いて運び、
空にして戻るという行為を地道に続け、引っ越し前日には
友人達に車2台使って4往復してもらいました。
それでもなお引っ越し当日も、
歩いて5分の距離にも関わらず
8時間ほどかかりました。

かくして全てにおいて不恰好に、最後は引きずるようにして
なんとか達成した引っ越し。
それから生活に最低限のものは整えましたが、
そこで気力も尽き、その他の有象無象は
あのかつてシャンデリアの下輝いていたリビングに
詰め込まれカオスのまま。
なまじ生活ができてしまっているので放っておくと
片付くまでまた一年くらいかかりそうですが、
いつかあの立派な家具を手放したことを後悔しない
くらいの、素敵な空間に変えられることを夢見ています。
升ノ内朝子

2024-05-06