松本人志まじ頭。

第3回 こっちのほうがおもしろいんだ

糸井 俺は松ちゃんってビデオの人だと思ってるんですよ。
だけどビデオって本当には商売にならないですよね。
ならないんでしょ?
松本 ならないです。
糸井 やっぱりそーかー。聞いてみたかったんだ(笑)。
松本 (笑)いや、ぜんぜんなってないんじゃないですかね。
だから、1980円とか、そんなくらいでやると、
もうけにはなるかもしれないですけど、
セットとかに凝れなくなりますしね。
ぜんぜん商売になってないですよね。
糸井 ホント! じゃあ「頭頭(とうず)」なんかも
ぜんぜんダメなの?
あれは見るからにいちばん危なっかしいけどね。
松本 あれはいちばん危なっかしいですねぇ。
あれも商売にはなってないでしょう。
僕、あの、「寸止め海峡」のビデオはもうちょっと
売れると思ったんですけどね。
あんまり売れてないんじゃないですかね。
糸井 どれくらい?
松本 たぶん、10万本は売れてないと思いますよ。
ただあれはね、高かったのは高かったんですよ。
「寸止め海峡」って1万円ライブのライブを
ビデオにして、1万円以下で売っては、
ライヴに来てくれたお客さんに失礼やと僕は
思ったので、えー、たぶん、なんぼやろ?
「寸止め海峡」は
1万4、5千円はしたんじゃないですか。
糸井 じゃあ「ビジュアルバム」は?
松本 ビジュアルバムは値段は7千なんぼか……。
どんなもんやろ、2、3万本売れたのかな?
糸井 単行本より売れないんだ。
松本 そうですね、そんなもんじゃないですかね。
で、1本つくるのに1億円ちかくかかってますからね。
糸井 あと、それに使ってた時間をほかで稼いでたとしたら、
なんて計算した日には、どえらいことになるよね。
ものすごい時間かかってるよね。
松本 だから、僕が今いちばん簡単に稼げるのは、
対談とかしゃべったことを活字にして本にしてもらうのが、
いちばん楽で、なぜか、そこそこ売れる(笑)。うん。
糸井 俺はビデオが本命だと思ってたけど、
ビデオは本命だけど本家にはならないんだな。飯の。
松本 うーん、そうですねぇ。
ただ、どうやろ、けっこうな赤字、でもない。
だから、赤字じゃないから……。
糸井 そりゃダメよね、社長としてはダメよね(笑)。
松本 (笑)ダメですね。
だから、テレビで稼いで、ビデオで、みたいな
ことになるのかもしれないですね。
糸井 ビデオがちゃんと売れる時代がくると信じたいね。
松本 うーん、信じたいですねぇ。
糸井 もしかしたら、それが俺らのいちばん大きい動機かもなぁ。
「こっちのほうがおもしろいんだ」って言いたいじゃない。
松本 今はテレビであおらないと売れない時代じゃないですか。
CDでもなんでも、できる過程をテレビでずーっと見せて
「さあ発売!」。
それこそ、何位までに入らなかったらバツ、
みたいなことをやるとね、ファーっとついてきますけどね、
勝手にこっちでコントのビデオつくって出しても、
それは……(笑)。
糸井 勝手に出してるよね。
松本 出してることすら気づいてない人も
いっぱいいるでしょうし。
糸井 それはだけど意外だなぁ。
やっぱりそうかって気もちょっとはするんだけどねぇ。
松本 だから、ねらいをすましてドーンといくと、
だいたい当たらないんですよ、僕はね。
で、本とかは、そんなもん本にしておもろいかぁ?
って思うようなのでも、なんか知らないけど、
えらい売れてる、みたいなことになって。
糸井 それはねぇ、無理に解説すればできるんだけど、
「古い物のフリをして新しいモノを入れる」ってのが、
売るときには非常に大事なんですよ。
たとえば、ツタヤっていう店があるけれども、
その社長が書いてる本を読んでみると、
「あ、やっぱりそうか」って思うんだけど、
最初は貸しレコード屋からスタートしてて、
ビデオも置くようになって、
で、“ビデオショップ”“レンタルショップ”って
言っても、通じないだろうと思ったから、
“本屋”っていう店を出して、
そこにビデオを置いたんですよ。
すると、本屋なら行ったことがあるから、
敷居がないんですよ。
松本 (笑)なるほどねぇ〜。
糸井 で、「この本屋ってこんないいものもあったのか!」
って思ったら、ヤじゃないわけ。
で、松本人志のビデオって、
「オマエらが今まで思ってたビデオとはちゃうで!」
って言いながら出してるから、
「じゃあアタシ縁がないかも……」って思っちゃう。
通行人が入らない仕組みをつくってるわけよ。
だから、単に売れるってことを考えたら、
もうちょっと入り口を古くして、
で、入ってみたらヘンなところへ連れていかれちゃった
という形をとるのが……。

だって、小室さんのヒットにしても、
ダンスミュージックというフロアがあるじゃないですか。
そこから入ってきて、レイブだなんだって言って、
誰でも入れる場所を作ったあげくに、
そこでおなじみのっていうのにニュースをくわえていく。
だから、入り口が新しいものって、
作る本人はそうしたいんですよ。
松本 なるほどねぇ〜、そうかぁ。
だから、それは、僕が気づくんやなくて、
僕の周りのブレーンの人たちが、
それを気づかなあかんのや(笑)。
糸井 でもね、それ難しいよ。
永ちゃんなんか、それを本人がやってるわけよ。
「今オマエちがうんだよ」って言って、
「なんかわからないけど、あとで説明する」
みたいにしてチェンジしていく。
だから、あの人はいつも間口が広いじゃないですか、
あれは学ぶところ大きいですよねぇ。
松本 あの人、本能で動いてから、
後で理屈つけていってる人ですよね。
糸井 だと思う。
あと、「もし自分が客なら」という立場を
いつももってるよね。
つまり、自分がお客として永ちゃん自身を観たときに、
「カッコイイ!」って言ってくれてる人は
ありがたいと思ってるけど、
「最近、矢沢ちがうんじゃない」って言ってる
お客さんの気持ちになれるんじゃないかなぁ。
「たいへんだ! 曲かな」って思うときは曲つくるし、
コンサートの数かな、と思ったら、数ガツンとぶつけるし。
あと、小さい子が矢沢を知らないと思ったら、
テレビドラマの仕事もやるじゃないですか。
間口がひろい。
松本 そうですよ。
もうひとり自分がいて、冷静に見てるんですよねぇ。
僕もそうなんですけどね。
だから、こんなこと言うダウンタウンの松ちゃんを
見てるんですよ僕、テレビの前で。
「うわ、そんな言うてほしないな」と思うから、
「もういい、じゃ、やめよう」ってこと、ありますよね。

2000-01-02-SUN

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