松本 |
……それ、漫画なんですか? |
糸井 |
(註:「情熱のペンギンごはん」を手渡す)。
これ、20年前に僕がつくった本です。
20年前僕はこういう人だったんですよってゆーことで。
松ちゃんが「あ、こういう人が俺を好きなんだな」
っていうのがわかると思いますよ。
当時その本を出したときって、
俺ある意味おもしろかったの。
それは俺、自信あるのよ。
今でも「またあれやればいいのに」って言われるけど、
もうできない。本当にできないんだよ。
“鬼火”みたいなのを観ていて、
俺はもう永遠にムリだってわかった。
で、勉強のしようがないのよ。
勉強のしようがなくって……。 |
松本 |
あのですねぇ……うーん、そうか……でもね、
僕はフォローするわけじゃないですけれど、
あれは、ものっすごい細道ですからね。
なにもその細道に入る必要はないし、うーん。 |
糸井 |
(笑)そうか。
でもあの細道が自分は好きだ、っていうさ。
その細道を抜けないと太平洋が広がっていない、
っていうと、
俺はその細道に「つかまらせて」って気分はあるよ。 |
松本 |
そうですかねぇ。
でも道はほかにもいっぱいあって、
あれはごく一部の人のためだけの
細道であるという気がしてますね。 |
糸井 |
アマチュアでもさ、
ある日その細道が通れたりするじゃないですか。 |
松本 |
ああ、そうでしょうね。 |
糸井 |
あのアマチュアたちがうらやましいんだけど、
じゃあ放送作家になったらどうかって言ったら、
絶対に道に迷うわけですよ。
だからあれをリードしている松本人志って人は、
どんどん前を歩いていくけど、
選ばれて「これ、三重県のナントカ君」という人は、
どこかで屍になっているのがわかるわけよ。 |
松本 |
だから勘違いしてはいけないことは、
あれに取り組んだ人たちは、
まず細道っていうのが理解できてるかどうかっていうのが
まずわかりませんし、
「あの細道は近道や!」みたいに思ってしまう……。 |
糸井 |
はあー。 |
松本 |
するとね、これはもう大きな勘違いで、
細道イコールふつうの道、で行けば、
細道をこう入っていって、抜けられたら、なんか近道で、
混んでない道でいいなあっていう、
決してその道ではないし、決してその道が、
時間が早く済むとか、混んでない、
という保証はないし、と思うんですよ。 |
糸井 |
「ワシは好きなんや」という道。 |
松本 |
そう! ワシは好きなんや道、なんですよ。 |
糸井 |
でもさあ、俺もそれ、好き……。 |
松本 |
わははは(笑)。
そして、景色がきれいかどうかは、別問題なんですよ。 |
糸井 |
きれいじゃないよー。 |
松本 |
僕はその景色が好きですけどね。
あの細道しか見られへん、
下は裸足では歩けへんような道だったりするんですよ。 |
糸井 |
そうですか! 細道。
でも、ダメになっちゃった理由、絶対あるんですよね。
お笑いをやろうとしているほとんどの人も、
関西の人たちが言う“シュール”だとかっていうのを、
原則にしちゃってるじゃないですか。
人とちがった変わったことをやろうとするのも、
それ、あんまりおもしろくないんですよ。
だったら、そいつらも間違ってる。
それから、昔からの人たちが、
極端に言うと「きれいだねえ」で収めようとする笑いも、
ぜんぶ終わるでしょう。
そしたら、俺のお笑いが終わった理由っていうのも、
まだわからないんですよ。
俺はまだ、オヤジギャグって突っ込まれる、
パターンはわかってて……(笑)。
ただし、オヤジギャグっていうのは
ちがうジャンルのものですからね。
「お天気いいね」って種類だから、
これはいつまでも突っ込まれてればいいんだけれども。
でも果たして、松本人志がやるコントの台本を、
1本だけやらせてと言ってつくれるかっていったら、
……何年もかければわからないけれど、
俺は今つくれない自信があるんだよ。
なんか違うんだと思うとね……自分が寒くなる(笑)。 |
松本 |
(笑)それはね、どうかなぁ……。
そういう話をしだすと、これは長いですよ。 |
糸井 |
いちばん訊きたかったのがそこだったんだけどね。 |
松本 |
いやあ、そうなってくると、
それこそ温泉に3日ほど泊まりこんで、
ほんとに僕もいろいろ考えながらですねぇ。
僕は答えをもっているわけではないし。
うーん……本当に時間がかかることですね。 |
糸井 |
そうか……そうですよね。
俺はいろんな人がダメになっていく、
ひとつの標本のようでもあるしさ。
それとは別に、自分の能力として、
今どんどん優れていってる部分は自分で知っているの。
人がなに言おうが「俺はすごい」って言えるものは、
ナイショでもってるわけですよ。
で、ときどきはそれを出せる。
だけど、筋力とゆーか、足腰が弱ったみたいに、
明らかにダメになっている部分がわかるんです。
そのダメになってる部分が、笑いにつながる道なんですよ。
で、どんどんマジになっているわけ。
たとえばの話、今日だって、
俺、おもしろいことひとつも言ってないですよね。
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松本 |
そんなこと言ってたら、
僕だって言ってないですよ(笑)。 |
糸井 |
あ、そっか。 |
松本 |
そういうことじゃないんじゃないですか?
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