松本人志まじ頭。

第10回 僕はその景色が好きですけどね

松本 ……それ、漫画なんですか?
糸井 (註:「情熱のペンギンごはん」を手渡す)。
これ、20年前に僕がつくった本です。
20年前僕はこういう人だったんですよってゆーことで。
松ちゃんが「あ、こういう人が俺を好きなんだな」
っていうのがわかると思いますよ。
当時その本を出したときって、
俺ある意味おもしろかったの。
それは俺、自信あるのよ。
今でも「またあれやればいいのに」って言われるけど、
もうできない。本当にできないんだよ。
“鬼火”みたいなのを観ていて、
俺はもう永遠にムリだってわかった。
で、勉強のしようがないのよ。
勉強のしようがなくって……。
松本 あのですねぇ……うーん、そうか……でもね、
僕はフォローするわけじゃないですけれど、
あれは、ものっすごい細道ですからね。
なにもその細道に入る必要はないし、うーん。
糸井 (笑)そうか。
でもあの細道が自分は好きだ、っていうさ。
その細道を抜けないと太平洋が広がっていない、
っていうと、
俺はその細道に「つかまらせて」って気分はあるよ。
松本 そうですかねぇ。
でも道はほかにもいっぱいあって、
あれはごく一部の人のためだけの
細道であるという気がしてますね。
糸井 アマチュアでもさ、
ある日その細道が通れたりするじゃないですか。
松本 ああ、そうでしょうね。
糸井 あのアマチュアたちがうらやましいんだけど、
じゃあ放送作家になったらどうかって言ったら、
絶対に道に迷うわけですよ。
だからあれをリードしている松本人志って人は、
どんどん前を歩いていくけど、
選ばれて「これ、三重県のナントカ君」という人は、
どこかで屍になっているのがわかるわけよ。
松本 だから勘違いしてはいけないことは、
あれに取り組んだ人たちは、
まず細道っていうのが理解できてるかどうかっていうのが
まずわかりませんし、
「あの細道は近道や!」みたいに思ってしまう……。
糸井 はあー。
松本 するとね、これはもう大きな勘違いで、
細道イコールふつうの道、で行けば、
細道をこう入っていって、抜けられたら、なんか近道で、
混んでない道でいいなあっていう、
決してその道ではないし、決してその道が、
時間が早く済むとか、混んでない、
という保証はないし、と思うんですよ。
糸井 「ワシは好きなんや」という道。
松本 そう! ワシは好きなんや道、なんですよ。
糸井 でもさあ、俺もそれ、好き……。
松本 わははは(笑)。
そして、景色がきれいかどうかは、別問題なんですよ。
糸井 きれいじゃないよー。
松本 僕はその景色が好きですけどね。
あの細道しか見られへん、
下は裸足では歩けへんような道だったりするんですよ。
糸井 そうですか! 細道。
でも、ダメになっちゃった理由、絶対あるんですよね。
お笑いをやろうとしているほとんどの人も、
関西の人たちが言う“シュール”だとかっていうのを、
原則にしちゃってるじゃないですか。
人とちがった変わったことをやろうとするのも、
それ、あんまりおもしろくないんですよ。
だったら、そいつらも間違ってる。

それから、昔からの人たちが、
極端に言うと「きれいだねえ」で収めようとする笑いも、
ぜんぶ終わるでしょう。
そしたら、俺のお笑いが終わった理由っていうのも、
まだわからないんですよ。
俺はまだ、オヤジギャグって突っ込まれる、
パターンはわかってて……(笑)。
ただし、オヤジギャグっていうのは
ちがうジャンルのものですからね。
「お天気いいね」って種類だから、
これはいつまでも突っ込まれてればいいんだけれども。
でも果たして、松本人志がやるコントの台本を、
1本だけやらせてと言ってつくれるかっていったら、
……何年もかければわからないけれど、
俺は今つくれない自信があるんだよ。
なんか違うんだと思うとね……自分が寒くなる(笑)。
松本 (笑)それはね、どうかなぁ……。
そういう話をしだすと、これは長いですよ。
糸井 いちばん訊きたかったのがそこだったんだけどね。
松本 いやあ、そうなってくると、
それこそ温泉に3日ほど泊まりこんで、
ほんとに僕もいろいろ考えながらですねぇ。
僕は答えをもっているわけではないし。
うーん……本当に時間がかかることですね。
糸井 そうか……そうですよね。
俺はいろんな人がダメになっていく、
ひとつの標本のようでもあるしさ。
それとは別に、自分の能力として、
今どんどん優れていってる部分は自分で知っているの。
人がなに言おうが「俺はすごい」って言えるものは、
ナイショでもってるわけですよ。
で、ときどきはそれを出せる。
だけど、筋力とゆーか、足腰が弱ったみたいに、
明らかにダメになっている部分がわかるんです。
そのダメになってる部分が、笑いにつながる道なんですよ。
で、どんどんマジになっているわけ。
たとえばの話、今日だって、
俺、おもしろいことひとつも言ってないですよね。
松本 そんなこと言ってたら、
僕だって言ってないですよ(笑)。
糸井 あ、そっか。
松本 そういうことじゃないんじゃないですか?

2000-01-09-SUN

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