吉本由美さんといっしょにおぼえる みちくさの名前。
 
「代々木公園でみちくさ」編  今回の先生/柳生真吾さん プロフィールはこちら
〜プロローグ〜 「みちくさ」に行きましょう。
2008年、晩秋のとある金曜日。
関東地方は朝から大雨という空模様。

今回の先生をお願いした柳生真吾さんは、
そんな豪雨の中、お住まいのある八ケ岳から
車でいらしてくださいました。

すぐにでも「みちくさ」に出かけたいところですが、
雨足は強く‥‥。
しばし、空の様子をうかがいながら、
この新しいコンテンツについて、
ご説明させていただくことになりました。

「みちくさ」に出かける前の、
プロローグのようなものとしてお読みください。


 
── お足もとの悪いなか、
きょうはお集まりいただいて
ほんとうにありがとうございます。
柳生 いやぁ、すごい雨になっちゃいましたね。
吉本 八ヶ岳のほうも大雨でした?
柳生 ええ、ちょっと運転がこわかったです(笑)。

── しかもさらにこれから、
お足もとの悪いところでの取材になると
思うのですが‥‥。
柳生 代々木公園に行くんですよね。
大丈夫でしょう、
雨の中もなかなかいいと思いますよ。
吉本 すこしでも雨足が弱まるといいですよね。

── ええ。
というわけで、空模様をうかがいつつ、
せっかくですので、この時間をかりて
「みちくさの名前。」の主旨のようなことを
柳生さんにお話させていただこうと思いまして。
柳生 これからはじまる新しい企画なんですよね?
吉本 そうなんです。
── まず、これをお読みいただけますでしょうか。
(テキストが印字された紙を配る)
柳生 これは?
── 「ほぼ日」のトップページでは、
「今日のダーリン」という
糸井重里が書くエッセイのようなものを
毎日更新しておりまして‥‥。
柳生 2006年と書いてますね。
── ええ、2年ほど前のものになります。
〈2006年10月24日(火)糸井重里「今日のダーリン」より〉
 

「しゅうかいどう」って、どんな花だっけな?
ふと、そんなことを思って調べました。
あああ、これかぁ。
これが「秋海棠(しゅうかいどう)」だったか。
だめだなぁ、オレ。と思いました。

花の名前を知っている人と、
魚の名前を知ってる人は、
それだけで好感度が高くなるように思います。

花の名前を知ってることや、
魚の名前を知ってることを、
人に知らせる機会なんか、なかなかありません。
知ってることが、知られにくい
というのがいいなぁと思うのです。

ぼく自身は、花の名前や魚の名前を、
たくさん知ってるほうではありません、たぶん。
でも、「これは?」と訊ねられたら、
「たぶん」をつけつつも答えられるといいなぁ。
おそらく、付け焼き刃で勉強すれば、
なんとかなるのでしょうけれど、
それじゃぁいやなんですよねー。
自然に花や魚の名前に親しんでいて、
憶えるつもりもなく憶えちゃってるのがいいですね。

「ところで、あなた、気軽にブタクサって言うけど、
ほんとのブタクサを知ってるわけ?」
この『今日のダーリン』で、前にも書いた問題です。
セイタカアワダチソウと、まちがえるなよ!

柳生 (読み終える)はい‥‥。

── これが印象に残っていまして、
ある日、吉本由美さんにお話してみたんです。
植物の名前を言えるって、いいですよねって。
そしたら‥‥。
吉本 私もほんとにそれは思っていて。
昔から植物は好きで興味はあったので、
図鑑で調べたりするんですけど
なかなかおぼええられないんですよ。
おぼえたつもりでもそとで見つけたときに
「あれ? なんだっけなあ‥‥」って。
── そう、出てこないんです。
なぜか植物の名前はおぼえにくい気がして‥‥。
柳生 忘れちゃいますよね(笑)。
吉本 「雑草」といっても、
みんな名前があるわけですよね。
柳生 はい、あります。
吉本 それを知りたいし、
できればちゃんとおぼえたいんです。
すこしずつでいいので。

── きっと読者のかたにも多いと思うんです、
植物の名前をおぼえたい人。
やっぱり、ちゃんとおぼえるためには、
「先生」が必要ですよね、と話が進みまして。
吉本 しかも、わかりやすく、やさしく、
たのしく、教えてくださる先生じゃないと。
わがままな注文なんですけど(笑)。
── それで、まず思いついたのが、
柳生真吾さんだったわけです。
柳生 ありがとうございます、うれしいなあ。
テレビ番組などで植物の偉い先生をお招きして
お話することはよくあるんですよ。
そういうとき、ぼくは「自分は翻訳家だ」と
思ってやっているんですね。
むずかしい話をたのしくわかりやすく
翻訳するよう心がけているので、
そう言っていただけるのはとてもうれしいです。
吉本 よかった(笑)。
柳生 また、この企画のタイトルがいいですよね。
── ありがとうございます、うれしいです。
身近なところにある植物のことを知りたいので
「みちくさ」かなあと思って。
柳生 いいですねえ、
ぼくね、そういうのを
「散歩園芸」って言ってるんですよ。
── 散歩園芸。
柳生 園芸は庭がなければできないことじゃなくて、
興味を持った時点で、
もうガーデニングだと思ってるんです。
吉本 そうですよね、別に自分が育てなくてもね。
柳生 散歩をしながら、公園とか人の家の庭で
自分のガーデニングをしちゃうっていう。
吉本 私もよくやっています、それ。
柳生 ぼくはそれの最たるものが
「花見」だと思うんですよ。
吉本 なるほど、そうですね。
柳生 それと、糸井さんや、
吉本さんがおっしゃったことの
あとをなぞるようで、あれなんですけれど、
ぼくは名前ってとても大事だと思ってるんです。
吉本 そうですか。
柳生 人間でもそうですけど、
「吉本さん」「柳生さん」と、
こう、今は呼び合ったことで、
初対面なのに、こんなにたのしくなっている。
名前を知るとグーッと近くなりますよね。
吉本 そうですね、「個対個」になるから。
いっぱいだとおぼえられないんだけど(笑)。
だから植物の名前も、
ひとつずつ、個対個でおぼえていきたいです。
柳生 わかりました、ひとつずつ。
植物の名前を知ってるとね、いいんですよー。
散歩が10倍、100倍、たのしくなります。
吉本 そんなふうになれるといいですよね。
柳生 すぐなれますよ、
たくさん知らなくてもいいんですから。
「名前をおぼえてみようかな」って、
そう思うことが、まず重要なんだと思います。
ちょっとでも名前を知っていて、
それを見つけたときはうれしいですよぉ。
いままでサッと通り過ぎるだけだった
通勤、通学、買い物の道が、
とつぜん意味のあるものになるじゃないですか。

吉本 すてきですね。
柳生 まさしく「みちくさ」になっちゃうんですけど。
── 遅刻しちゃったり(笑)。
柳生 ええ(笑)。
でも、そういうのってすっごく大事‥‥
大事というか、豊かになっていくことだなあ
って思うんですよね。
吉本 ほんとにコンクリートに、
はえてたりするんですよねえ、
いっしょうけんめい、いっしょうけんめい。
柳生 はい、そういうものにも、
名前はありますからね。
吉本 ‥‥それでね、私この季節の植物を
ちょっと調べてきたんですよ。
赤いしゅっとした花があって、
あれはミズヒキっていうんですよね。
柳生 すごい、吉本さん予習なさってきたんですね。
はい、ミズヒキっていうのは‥‥
── すみません、そこまでで(笑)。
あとはぜひ、現場でお話しませんか。
柳生 わかりました(笑)。
じゃあ、ミズヒキは公園にあると思うので、
あとでその草の
おもしろいお話をお教えしましょう。
‥‥さて、そろそろいきますか。

── でも、雨がまだ‥‥。
吉本 まだずいぶん降ってますよね。
柳生 大丈夫ですよ、行きましょう「みちくさ」へ。
吉本 はい。
そうですね、行ってしまいましょう。

こうして、吉本さんと柳生さんは
「ほぼ日」からほど近い、代々木公園へと向かいました。

「みちくさの名前。」の本編は、
12月3日の水曜日から
「代々木公園でみちくさ」編としてはじまります。

みちで出会った植物の写真に、
吉本由美さんのエッセーを添えてご紹介してまいります。
更新のたびに、ひとつずつ、
いっしょに名前をおぼえていきましょう。

2008-12-01-MON
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