2009年、冬のとある金曜日。
東京はその日、どんよりとした曇り空でした。
今回、先生をお願いしたのは、
「ほぼ日」には何度もご登場いただいている、
NHK エンタープライズの諏訪雄一さんです。
(どんなふうにご登場されているかは、
ぜひ諏訪さんのプロフィールをお読みください)
吉本由美さんと、諏訪雄一さんはこの日が初対面。
寒い中お越しいただいたこともありますし、
まずはからだをあたためながら、
「はじめまして」のごあいさつや、おしゃべりなどを少々。
「みちくさ」に出かける前の、
プロローグのようなものとしてお読みください。
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── |
お寒い中お集まりいただきまして、
ありがとうございます。 |
吉本 |
たくさん着てきたんで大丈夫です(笑)。 |
諏訪 |
冷えますからね、
風邪ひかないようにやりましょう(笑)。 |
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── |
はい。
で、今回の「みちくさの名前。」なのですが、
みちくさをする場所は、
まさしくこの周辺、青山界隈となりました。 |
諏訪 |
そううかがっています。
このあたりの、道ばたですよね。 |
吉本 |
え? ほんとにこのあたり? |
── |
このあたりです。道ばたです。 |
吉本 |
うわー。
「ほぼ日」さんの近くでみちくさするって聞いて、
わたし、青山公園なんだと思ってました(笑)。 |
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── |
小さな公園がありますよね。
あちらも見てきたんですが、
整備されていて、いわゆる「芝」しかなくて。
それならいっそ、ふだん歩いてる
ほんとうになんでもない道路で
みちくさしたほうがたのしいかな、と。 |
吉本 |
ありますか? みちくさ。
しかも冬なのに。 |
── |
気をつけて見ると、ちらほら‥‥。 |
諏訪 |
そう、ちらほらはあるんですよ。 |
吉本 |
こんな都会でも。 |
── |
諏訪さんは今日のためにわざわざ、
おひとりでロケハンまでしてくださったんですよ。 |
吉本 |
ロケハンというと‥‥
あらかじめ見てきてくださった? |
諏訪 |
ええ。 |
── |
ふだんはお勤めなので、この前の日曜日に
この周辺を歩いてきてくださったそうです。 |
諏訪 |
今回のお話をいただいてから
道ばたの草が気になるようになりまして、
下を向いて家の近所を歩くようになったんですね。
すると、ぼくが住んでいる八王子あたりには
道ばたにけっこう元気な植物があるんですよ。
でもさすがに、このあたりは。 |
吉本 |
元気がない。 |
諏訪 |
そうですねえ‥‥抜かれちゃいますよね? |
吉本 |
ああ、「雑草」ということで。 |
諏訪 |
郊外に行くと、雑草が堂々としてるんですよ。 |
── |
ちょっと元気はないけど、
このあたりにも「みちくさ」はあるわけですね。 |
諏訪 |
ええ、ありましたよ。
冬ですからそんなに多くはないですが、
いっしょうけんめい生きてました。 |
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── |
名前も、だいたいおわかりになる。 |
諏訪 |
そうですね、学生時代は一応生物学科で
植物学専攻だったので、
多少の基礎知識はあるとは思うんですが。 |
吉本 |
その‥‥諏訪さんは、
いつごろぶわあっと爆発したんですか?
植物への想いが。 |
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諏訪 |
爆発ですか(笑)、爆発というか、
ちいさなころから自然のものは好きだったんです。
生まれも育ちも文京区で
まわりにあまり自然がなかったんですけど、
お寺や神社はいっぱいあって、
小学校のときは典型的な虫捕り少年でした。
もう、とにかく学校から帰ると、
虫かごとアミだけ持って虫とりばっかりですよ。
で、中学くらいになると今度は、
魚少年になっちゃいまして。 |
吉本 |
虫から魚に。 |
諏訪 |
中学生になると電車で遠くに行けるでしょ。
京浜急行で三浦海岸とか、
自分で海に行けるようになったんですよ。
毎週のように海へ行っては、
魚だとかタコだとか、そういうのをとってきて、
部屋中に水槽を並べて、飼ってました。 |
吉本 |
タコ、食べるわけじゃなくて、
飼ってたんですね。 |
諏訪 |
飼ってたんですよ。 |
吉本 |
へえ〜(笑)。 |
諏訪 |
で、高校に進んでから、
野外生物研究会みたいなクラブに入りました。
ところがそのクラブは、山に登って
高山植物を研究する活動をしてたんです。
自分が3年になったら「海のクラブ」に
変えてやろうと思ってました(笑)。 |
吉本 |
海の生き物が好きだから。 |
諏訪 |
でも、あれは高校1年の夏合宿なんですけど、
南アルプスの北岳っていう山に登ったんです。
富士山の次に高い山なんですけど、
そこに登ったときに‥‥ |
吉本 |
はい。 |
諏訪 |
もう、あまりにも‥‥
今まで自分が知っていた地球と
ぜんぜんちがう美しさに感動しまして。
それはね、花だったんです。 |
吉本 |
高山植物。 |
諏訪 |
ええ。
ほんとに雲の上で、
一面がこう、花畑で、ずーっと花が続いて。
何て言うんですかね、
もうひとつの地球を発見したみたいな。 |
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吉本 |
そういう感動があったんですね。 |
諏訪 |
海に夢中になったのも、
最初に水中眼鏡をつけて海の中を覗いたときに、
うわー、こんな世界があったのか! って。 |
吉本 |
知らない地球があった。 |
諏訪 |
そういうショックの2回目が、
北岳に登ったときだったんです。
それから高校大学7年間、山に登り続けました。 |
吉本 |
じゃあもっぱら高山植物だったんですね。 |
諏訪 |
そうなんです、本当は。
大学の研究も基本的には高山植物の研究でした。
で、学者にはどのみちなれないと思ったときに、
こういう自然の美しさとか素晴らしさとかを
違う形で一般の方々に
伝える仕事ができないかなと考えまして。
それで思い至ったのが、映像の世界だったんです。
テレビ番組や写真を通して
それを伝える仕事をしたくてこの業界に入ったのが
まあ、ぼくの経緯なんです。 |
吉本 |
それで自然に関する番組を
中心にやられるように。 |
諏訪 |
そうですね、そういう仕事をしています。
植物野菜については、20年くらい前だったか、
たまたま家庭菜園をはじめまして。
野菜づくりにハマっちゃったんですよ。
それからずーっと家庭菜園やってまして、
で‥‥あれは4年前ですかね?(「ほぼ日」に) |
── |
そうですね、そのくらいになります。 |
諏訪 |
糸井さんのところで永田農法っていう、
ちょっと独特な農法で作る
野菜作りのお仕事を一緒にやらしてもらって、
その永田農法で作る野菜作りのDVDを
「ほぼ日」さんから一緒に出したり、
NHKの番組を作ったりした関係で、
また野菜作りに益々のめり込みまして(笑)。 |
── |
諏訪さん、ご自分の畑をお持ちなんですよ。 |
吉本 |
へえ?、どのくらいの畑ですか? |
諏訪 |
テニスコートくらいかな。 |
吉本 |
八王子で。 |
諏訪 |
はい。
ドア・トゥ・ドアで会社まで
2時間近くかかりますけど、
家の近くの農家の方から休耕地をお借りして。 |
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吉本 |
じゃあ、出勤前にこう、抜いてあげたり?
手入れをして、会社に行って、
で、戻ってらしたらまた畑仕事とか? |
諏訪 |
いえ、毎日ではないです。
週末、土曜日か日曜日、どっちか1日、
気合い入れて草むしりやったり種まいたり、
メンテナンスというのは
だいたいそんなもんで済むんですよ。
ただ、どうしても夏の時期の収穫だけは
毎日収穫した方がいいんですよね。
キュウリとかオクラとかインゲンとか。
でもさすがに毎日は行けないから、
週に2日、5時ころ起きて、収穫して出勤。
そんなペースでだいたいできちゃいます。 |
吉本 |
うーん。やっぱり大変そう(笑)。
それは永田農法でやってらっしゃるんですよね? |
諏訪 |
そうですね、基本的に。
15、6年、有機栽培だったんですけど、
糸井さんに教えていただいた
永田農法に出会ってからは
もうすべて永田農法に‥‥。
いや、あの、この話は長くなっちゃうんで(笑)。
きょうは「みちくさ」ですよね。 |
吉本 |
はい(笑)。 |
諏訪 |
じゃあ、そろそろ行きましょうか。 |
── |
さっきまで雨が降ってましたが、
いまはやんでいるみたいです。 |
吉本 |
よかった。
雨でちょっと、葉っぱがきれいかもしれない。 |
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諏訪 |
そうですね。 |
吉本 |
ちょっと元気かもしれない。 |
諏訪 |
ですね、行きましょう。 |
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部屋を出た吉本さんと諏訪さんは、
エレベーターに乗り、1階へ。
ビルのそとへと一歩踏み出せば、
そこからもう、今回の「みちくさ」は始まります。
「みちくさの名前。」の本編は、
3月9日の月曜日から
「冬の都会でみちくさ」編としてスタート。
青山界隈の道ばたで出会った植物の写真に、
吉本由美さんのエッセーを添えてご紹介してまいります。
更新のたびに、ひとつずつ、
いっしょに名前をおぼえていきましょう。 |