糸井 |
古川さんの気分っていうのは、いまも、
「麻布」(麻布中学・高等学校)にあるんですね。 |
古川 |
ん……ま、そうでしょうね。 |
糸井 |
またふきこぼれちゃってるじゃないですか。
ビジネス社会から。
ふきこぼれた部分の泡みたいに見えるけど、
実はそのこぼれた部分に、別の開拓地があるみたいな。 |
古川 |
それは思うところ大きいですね。
ていうのはね、たまたまラスベガスで放送関係のショー
(展示会:NAB)があって、
6人の人と食事をしていたんですね。
TBSから来た人も、電通から来た人もいるんだけど、
みんな、会社を代表しているわけではなくて、
個人としての魅力がある人たちだった。
こいつら、色濃いやつらだなあ、と思って、
「中学とか高校でなにやってたの?」
と訊いたら、6人のうち4人が同窓だったんですよ(笑)。 |
糸井 |
安部譲二だの橋本龍太郎だのが出てくるみたいな。 |
古川 |
小沢昭一さんもそうですね。 |
糸井 |
山下洋輔さんもそうですよ。 |
古川 |
山下洋輔さんはね、学園祭の時にいつも呼んで、
弾いてもらうと調律ガタガタになっちゃたり。
僕の2つ下には、ユーミンの音楽総監督やってる
武部さんとか。
不思議なのは、慶応だとか青山だとか、
そういうところに行った子たちというのは、
ブランドとしての学校が先行してたり、
行った先が東大だとか早稲田だとかいうところが
「先にありき」だったりね。 |
糸井 |
肩書きが先で、それから名前、ですもんね。 |
古川 |
それから、何々県の生まれだったり、どこそこの企業に
就職してますってことを前面に出したりする人が多い中で、
麻布の人間っていうのはね、久しぶりに会っても、
どこか別の場所でポッと会っても、
企業に対する帰属心だとかを看板にしていない、
そういうやつらが多いですね。
みんな、いろんな組織に帰属していながら。
銀行にいったやつも、商社にいったやつもいるんだけど。 |
糸井 |
そういえば山口昌男さんも先生してたんですよね。
麻布のね。
僕、「生まれ変わったら山下洋輔になりたい」って
昔っから言ってるんです。
近くで見ててね、あんなにうらやましい人生、
ないですよね。
本当にカッコイイと思うなあ。
本人なりに悩みもあるんでしょうけど(笑)。
前ね、トイレでオシッコしながら、
「生まれ変わったら山下さんになりたいと思うんですよ」
って本人に言ったら、
「やめなさいよ」
って(笑)。いつもふざけてるじゃないですか。
……そうかぁ、古川さん、「麻布」の子なんだ……。
氏育ち、ってよく言うけど、「麻布」の子なんですよね。 |
古川 |
ピアノっていう道具を使いながら、
たとえば、ラッパとドラムのかけあいのなかで、
お互いスピード感を持ちながら、
ぶつかりあっているという、その道具が
たまたまピアノだったから、
山下さんはそこで自己表現をしているんですよね。
僕は別に、絵が描けるわけでもなし、
音楽が作れるわけでもなし、
たまたま自分の出会った楽器が「パソコン」であり、
それが自己表現の道具だったのかな、と思う。
たとえばプロデュースして大儲けしたいだとか、
レコードのレーベル持ちたいだとか、
何百万枚売れること自体が成功している物差しだ、
ってこととは違うところで、自分の生き様を
音楽を通じて表現してますよね、あの人たちって。
やっぱりそういう子なのかな、「麻布の子」って。
それってヘンですよねえ。 |
糸井 |
ヘンですよねえ。治んないもんですよね。
いや、改めて聞くと不思議なくらいだけど、
高校って、幼児期の教育が済んでる子が
入る学校じゃないですか。
なのに、ふるさと感覚があるのって、すごいですよ。 |
古川 |
ふるさとって言ってもね、なんだろう、
……学校に対するロイヤリティとかブランドって
ほとんどないですよ。 |
糸井 |
そうじゃあないんですよねえ。 |
古川 |
じゃあ何かって言うと、人生ナメてかかるきっかけを、
その場で作らせてもらったというか。
どのくらいナメてかかってたかっていうと、
たとえば、出席日数足りなくなりますよね。
やっぱり、麻布十番にパチンコに行っちゃったら。
それこそ、銀座の「JUNK」にジャズ聴きに
行っちゃったりとか。
そうするとね、普通の学校の場合は代返を頼むとか、
あとでマジメに授業に出るってことで
出席日数を取り返すわけでしょう。
僕らの場合はね、学期末になると、
出席簿が焼却炉にくべられてしまう(笑)。
そういうことで自ら解決してたんですね。 |
糸井 |
誰か悪いやつがいるわけですねー。 |
古川 |
燃やす!
「先生! まちがって、燃やしちゃいました!」
ってね。 |
糸井 |
ルールから疑われている(笑)。 |
古川 |
たとえば、ちょっとオシオキしたいようなタイプの
教師がいると、その教師の乗ってきたスバルの
1300ccの中型車を、体育館に立て掛けちゃったり
するんです。みんなで持ち上げて、立て掛けちゃう(笑)。 |
糸井 |
アメリカですね、なんか。 |
古川 |
もうほんとに寄り掛かってるみたいでしたよ。 |
糸井 |
写真、見たかったですねえ。ないかな? |
古川 |
スズムシの刑、とかって言ってね、
シュラフに人を入れて脚をしばって、
それをロープで中庭につるしちゃうとか。 |
糸井 |
うーん、ギリギリ、やってますねえ。 |
古川 |
フーコーの振子ってあるじゃないですか。
1時間たつと地軸が傾いて、地球の自転が立証される。
あれ、どうせやるんだったら金属球じゃなくて
人でやろうってことで。 |
糸井 |
やるんだったら人でやろう? |
古川 |
1時間たって、ああ、やっぱり向きが変わってるって。 |
糸井 |
……(笑)。 |
古川 |
今日誕生日のやつがいるよって。
そのまま体ごと持ち上げて、斜めにして、
制服着たまま黒板ふきのかわりにしたりして。
人間黒板ふき。 |
秘書 |
いやぁ! |
古川 |
いまのいじめとか、完全に超越してますよ。 |
糸井 |
つまり、やる側がやられる側といつでもひっくり返る、
ていう可能性があるわけでしょ?
その平らさが面白いわけですよね。
いや僕は、前のカミさんのいるところが麻布のすぐそばで、
あのへんはよく知ってるんですけど、
ホンットに、ちょうどよく悪そうなやつが
あのへんいつも歩いてますよ。いまでも。
もうね、「加減」なの。
悪いって言っても、いざとなったら話せばわかる、
っていうような感じの悪そうなやつが、
ウロウロウロウロ、してますよ。 |
|
古川 |
また演じ方がうまいものだから、
「制服をやめましょう」
って運動したときにもね、どうアピールしたら効果的かな
と考えて、やっぱり、メディアを使おう、と。
ロックアウトしているときに、僕は広報担当だったから…… |
糸井 |
広報担当! |
古川 |
ウン。それでね、写真を撮っては各新聞に持っていったり。
そういうことをしながら、テレビ出演も効果的だよね、
って当時の『小川宏ショー』に出演したりね。
高校の紛争はどうだ! みたいな特別番組とか。
それで、どうせテレビに出るんだったら、
それなりにイメージをよくしよう、って、
制服着てこう、って。みんなこんな(肩まで)
髪の毛長いのに、それを束ねて、
制服の襟の内側に入れ込んで、
「僕らはこうして制服を着てきましたけれど、
自分たちを本当に信じてくれるんだったら、
これを着る自由と脱ぐ自由の両方が、
僕らは欲しいんです」
って、お涙ちょうだいな演出をしてね。 |
糸井 |
やるなあ! |
古川 |
メディアってのは動かせばこっちの勝ちだな、って(笑)。
それで、山下洋輔さんとか、なだ・いなださんとかに
杉野講堂あたりに来てもらって、
学校は封鎖しても「自主授業」をやるんですよ。
「僕らには学びたいという意識が、あるんです!」
「これを続けていくほか、ないんです」
だって(笑)。
父兄にも、自分たちが自主授業をやって、
こういう成果を挙げているのを見ていただきたい、
と言って父兄会をやるんですよ。
自主授業を継続するために寄付を、なんて呼びかけて
そのお金で六本木に飲みに行ったりして。
もう時効ですよね。 |
糸井 |
高校の学園紛争って、
戦う能力が残っていながら敵はいない、
というところで「ウオーッ!」ってなる、
そういうイメージで見てたんですよ。
それが、そうとも限らないんですね。
そのまんま、ですね。 |
古川 |
ただ、これもまた事実なのは、
いま、自分たちがたまたま勝たせてもらっているのは、
これから先100個出てくるなかの、まだ10個くらい
なんじゃないのかなあ。
残りの90個については、まだ勝負がついていないってこと
たくさんあるでしょうね。
(つづく) |