モノポリーエッセイ

モノポリー日本選手権
全国大会結果報告(その7)



こんにちは。
モノポリー日本一を決定する大会、
「モノポリー日本選手権」のレポートを
1週間にわたり掲載してまいりました。
いよいよ最終回。
今年の日本チャンピオンが決まります。

決勝テーブルでDB経営を当てた篠塚さんが、
残るただ一人の敵、名古さんを仕留めるべく、動きます。
場面は名古さんが刑務所から出てくるタイミング。
篠塚さんはLBをいったん崩し、Orに建築します。
確か9軒建てたと思います。
ここではいくつかの考え方があったでしょう。
まず、せっかく基地を建てているほかの場所を崩して
資産を減らしてまで、Orに建築するかどうか。
そして建築するとして、代償に崩すのはLBかDBか。
私見で言わせてもらえば、
名古さんのここまでのダイスが
かなり好調であることも考慮して、
「一手勝ち」を狙ってOrに建築するのは、
悪くない考えです。
仮にここで抜けられたとしても、
Orは最後まで勝負できる優秀なカラーグループ。
決着をつけるためには
いずれは経営することになる場所だと、
割り切ることもできるでしょう。
次に、建築資金を捻出するために崩す場所です。
篠塚さんはLBを崩しました。
もしDBを崩せば、Orは余裕で12軒建築可能であり、
一発で名古さんのLPを崩壊させることが期待できます。
その代わり、前回の表現で言うところの
「スペシウム光線」は封印することとなりますが、
LBは残っているのでジャブならぬ
「ウルトラパンチ」は引き続き放つことができ、
こちらのほうが確率的にも
よさそうに見えなくもありません。
しかし篠塚さんはここまで「流れ」を敏感に感じ取って
勝負をかけてきた感が強いだけに、
「DBにはもう一回止まってくれそうだ」という
霊感を働かせていたのかもしれません。
また結果だけ見ると、
Orに12軒も建てていたら
その後の「あれ」のダメージが
とんでもないことになっていたので、
やはり篠塚さんは
正しい「流れ」を感じ取っていたのかもしれません。

いずれにしても、名古さんにとっては、
Orに止まってしまえば、出獄の出鼻をくじかれるも同然。
そのまま一気に篠塚さんの軍門に下る羽目になるだけに、
絶体絶命のピンチです。
ギャラリーたちの大半は、
実はこのとき、心の中で名古さんを
応援していたのではないでしょうか。
「判官びいき」というわけではないのでしょうが、
どうしても立場の弱いものを
思わず応援してしまうものです。
そんなギャラリーの「応援パワー」を背に受け、
名古さんはここから毎回スーパーダイスを振ります。
止まれば即、致命傷を受ける「危ない土地」を、
かたっぱしから避けながら進んでいくのです。

その甲斐あってか、
「流れ」を変えるためには
もうこれしかないといってもいい「あれ」が、
本当に実現してしまいました。
篠塚さんがカードで「怪獣来襲」(修理費)を
引いてしまったのです。
ゲーム終盤でお互いに基地を建設して
手元に現金が残っていない、
いわば「防御をかなぐり捨てて足を止めて殴り合っている」ような状態でこれを引くと、
一気に勝敗を決めかねない大事件となってしまいます。
前述のようにLBを既に崩していたことも幸いして、
ここはDBかOrのどちらか一方の経営を
諦めて崩せばすみそうです。
篠塚さんは、ここでとりあえず
DBをいったんあきらめて崩し、
勝負の場所をOrに絞ります。
ほどなく、名古さんのLPと篠塚さんのOrは
どちらも全てタワーとなり、
盤上の主戦場は第2辺
(刑務所からフリーパーキングまでのライン)に
結集されました。

この時点で、かなり両者の勢力は接近してきましたが、
まだ肉薄とまではいきません。
単純に盤上のLPとOrの勝負だけを見ても、
確率上、Orの方がずいぶん有利なのは
ご承知の通りですが、
これに加えて篠塚さんにはスーパーメカなどの
「サイドウェポン」も豊富。
まだまだ名古さんは、
苦しい立場であることに変わりはないはずです。

この後、名古さんは、毎週のように
ピット星(コネチカット通り)に着陸、
そこから6や11で
一気にオレンジを抜け去るダイスを連発していきます。
「ピット星人だ」誰かが思わず口にしたのを皮切りに、
場内ではピットコールが沸き起こるようになります。
(正確には前回書いたように、
 ピット星人ではなくて
 「エレキング」ではないのか?
 と思っていたのですが、
 ボード上には描かれていませんが、
 どうやらエレキングを操っている
 ピット星人というのが存在するらしいです)。

勢いというのは本当に怖いもので、
篠塚さんはこの後毎週のようにLPに止まって、
遂にOrが全壊してしまいます。
とうとう試合がひっくり返ったのです。
エレキング恐るべき、ピット星人恐るべき、です。
篠塚さんの持つ権利書のうち、表の状態で残っており
収入源となりそうだったのは、もはやスーパーメカのみ。
もうあと1回、LPに止まれば、
再起不能となるダメージを受けてしまうでしょう。
しかし篠塚さんは、
「必ず流れはまたもう一度自分の方に来る」と、
この一番苦しい時間帯を、
スーパーメカの収入のみで必死に耐え凌ぎました。
その姿は、ちょうどこの大会の前日に行われていた
サッカーアジアカップの決勝戦で、
アウェイで四面楚歌の中、
必死に中国の猛攻を凌ぎ反撃の機会をうかがう
日本イレブンの姿を彷彿とさせ、
見るものの感涙を誘ったのです。

さすがに今度は篠塚さんが可愛そうだと感じたのか、
観客の応援する先がはっきりと変化してきました。
ギャラリーの「応援パワー」の注がれる先が
変更になったのです。
すると今度は、名古さんが
このスーパーメカに次々と止まるなど、
出費を重ねるようになったのです。
オカルトといってしまえばそれまでなのですが、
こういうシーンを目の辺りにすると、
「観客の応援を背にする」ことは
本当に重要だと考えるようになります。
さあこの隙を見逃す手はありません。
篠塚さんはすかさずLBを表にして家を建てます。
ここに更に名古さんが止まり、
次はOrを表に返して再建築、
あっという間にOrのタワーが復活しました。
目を見張るような再生力です。

ピット星人も、長時間のゲームに疲れて
帰ってしまったのかもしれません。
名古さんもようやく普通の
「地球人らしく」確率どおりにこれらの土地を踏んでいき、
一時は3,000ウルトラマネー以上貯めていた
手持ちの現金を、見る見るうちに削り取られていきます。

篠塚さんは、スーパーメカやLBといった、
少ない投資で収入が期待できる
権利書グループを持っていたところが
大きなポイントでした。
そして資金が貯まるとすかさず
Orなどの「エース級」のカラーグループへ経営転換して、
大ダメージを与えてくる。
「教科書どおり」のコンボとはいえ、
決勝の大一番で冷静に「やるべきことをやる」というのは、
言うほど簡単ではありません。
名古さんはなんと言っても、
LP以外の全てのカラーグループを
抑えられてしまっていたのが痛かったです。
追い込んだ後に、豊富に持っていた現金を投資して
2色目のカラーを追加経営する
「寄せ」ができなかったため、
結果的に篠塚さんに復活の隙を与えてしまいました。
しかしこのゲームの前半の展開を見る限り、
それは仕方のないことでしょう。
むしろ、よくここまでLP1色のみで追い込んだ、
一時的とはいえゲームをひっくり返したと、
称えるべきかと思います。

タイムアップ。
120分間の死闘が終了しました。
名古さんのLPのタワーは試合終了時点まで
3軒とも建ったままでした。
攻撃力が残っている以上、
ここからの再逆転も全く不可能ではないかもしれません。
しかし一方の篠塚さんの方は、ゲーム終了時点で、
DP、LB、Orが全てタワー、
更に時間があれば他の色にも基地を建築できる状況でした。
さすがにこの後、仮にゲームを延長したとしても、
篠塚さんの優位は二度と動かなかったでしょうね。

表彰式です。
協会の田中理事が読み上げる講評用のメモには、
途中であわてて書き直したのでしょう、
「見事ピット星人の名古さんが優勝して〜」
というくだりに取り消し線が引かれ、
「見事ピット星人の名古さんを討ち取った篠塚さんが
 優勝して〜」
と書き直されていたそうです。
それくらい、一時はギャラリーの多くが
名古さんの逆転勝利を確信していたのではないでしょうか。
実際には前述のように、
篠塚さんには再逆転可能な材料が残されてはいたのですが、
その場で生のゲームを観戦していた人にとっては、
「勢い」が肌で感じられていたがために、
そのように感じても不思議はなかったことと思います。

さて、今年の日本一を改めてご紹介いたします。
九州代表、篠塚博文さん。
モノポリー歴13年という大ベテランです。
地元の福岡モノポリークラブ(FMC)で
スタッフとして運営・普及にご尽力されており、
今回はご夫婦そろっての同時初出場が
大きな話題になりました。
思い起こせば開会式で、冗談半分に口にされた
「妻よりは上になります」という宣言も見事に実証。
ちなみにご夫人の万里子さんは、
予選3ゲームの資産合計ゼロ、
ダイスによる順位決定戦で見事に?「ピンゾロ」を振り、
記録上は堂々の「最下位」。
夫婦で優勝と最下位の両端の位置を占めることとなり、
なんだか仲睦まじいお二人ならでは、
といった感じもいたしました。
後日談ですが、篠塚さんのこの「快挙」は、
知人より市役所に知らされて、
地元の広報誌等に掲載されたり、
大手新聞社から取材を受けるようになるなど、
当面は「生活が変わった」という状態に。
と同時に、日本チャンピオンとしての自覚と責任感が
ひしひしと実感されてきたことでしょう。

ちなみに、初出場初優勝は、
1999年の宮野徹さん(当時大阪)以来、5年ぶり。
ダークブルーからの経営スタートでの勝利も、
やはり5年前の宮野さん以来のことです。
また決勝戦が時間内にモノポリー決着しなかった、
時間いっぱいまで競り合ったゲームというのは、
2000年に岡田豊さんが優勝されたゲーム以来、
4年ぶり(ただし当時は決勝も90分制限)。
九州地区大会の代表者の優勝は、
2002年の井元哲也さん以来、2年ぶり。
ただし、選手の住所という意味では、
大阪以西の在住者の優勝は史上初となります。
モノポリー日本選手権14回目にして、
初めて優勝カップが関門海峡を渡って九州の地に渡ります。
地元の人たちにとっても大変に嬉しい、
歴史的な金字塔であることでしょう。
そしてこれと同じように、
モノポリーを楽しむ人たちの輪も、
今まで以上に広範囲に拡大してくれれば良いですね。

今年も数多くの名勝負、激戦が行われました。
全ての選手が何らかのいい「思い出」を
持って帰っていただければ幸いです。
そして関係者、スタッフの皆様、ギャラリーの方々、
その他影で支えて下さった方々、本当にお疲れ様でした。

モノポリーは「趣味」のゲームです。
プロはいません。
楽しむことが最大の目的であるはずです。
楽しめた人が一番の「勝者」であるはずです。
仮に「楽しみ方」を忘れてしまった状態で
ゲーム上の勝利を得ても、
それは虚しいものとなるでしょう。
そういう意味では、白熱の決勝ゲームを
我々に「魅せて」くれた選手の方々は、
「楽しみ方」を見失わなかった方々なのかもしれません。
今一度、本当の「勝者」の条件とは何かを、
改めて考えてみたいですね。
来年も「楽しむこと」を目的とした皆さんとの再会を
心待ちにしています。
またお会いいたしましょう。

と、普段の年ならばここで終わるところですが、
今年は違います。
このレポートの最初にも言ったように、
今年は4年に1回のモノポリー世界選手権が
開催される年(そう、オリンピックと同じ年なのです)。

日本から出場する選手は2名。
1名はディフェンディングチャンピオンの岡田豊さん。
もう1名はこのあと9月19日に実施される
日本代表決定戦の勝者です。
この決定戦には、2001年から2004年までの、
篠塚さんを含む歴代の日本チャンピオン4名が出場して、
日本代表の座をかけてゲームを行います。
詳しいゲームシステムはまだ不明ですが、
なにせ出場者全員が「日本チャンピオン」なのですから、
熱い熱い闘いが開催されることは間違いないでしょう。
なお、見学は無料ですので、
興味のある方は六本木まで来られてはいかがでしょうか。
日時や場所などの詳細は、こちらをご覧下さい。
http://monopoly.amista.co.jp/

そして10月7日(予定)からは、いよいよ世界選手権。
東京・六本木ヒルズで世界中から集まった
モノポリーの各国代表が激突します。
どんな豪華な大会となるのか。
そして日本勢の二連覇はなるのか。
日本勢が大健闘した
アテネオリンピックでの興奮を思い起こすように、
是非もういちど盛り上がりたいですね。
こちらも注目です。

「レポートを読んで感動した!」
「自分も是非登場人物の一人になりたい」
「来年の日本選手権に出場したい!」
と思っている方。
あなたがドラマの「主役」になる日も
そう遠くはないかもしれません。
今年の世界選手権にはさすがにもう間に合いませんが、
次回の世界選手権に続く道である、
来年の日本チャンピオンへの挑戦は、
もう始めることができるのです。
一番近い大会として、
9月20日に予定されている
「モノポリー名人戦」があります。
この大会は優勝者に
次回日本選手権の出場シード権が付くと思われますので、
ぜひ腕試しにご参加をお待ちしております。
その後も次々にモノポリーの大会が開催される見込みです。
関東地方にお住まいの方以外でも大丈夫、
北海道から九州まで、
広く全国各地でいろいろな大会やイベントが
開催されています。
この日本モノポリー協会のページでも
逐一ご案内いたしておりますので、
是非チェックしてください。

そして来年モノポリー界の主役となり、
この記事で語られるのは、それはあなたです!

★ モノポリー日本選手権全国大会結果
(決勝結果)
1. 篠塚博文
2. 名古憲司
3. 中野大輔
4. 小沼啓文
5. 金谷衛
---------以下予選結果----------------
1. 名古憲司
2. 金谷衛
3. 中野大輔
4. 篠塚博文
5. 小沼啓文
(以上上位5名決勝進出)
6. 神教仁
7. 山本昌穂
8. 表寺修
8. 渡辺書成
10.佐藤英一
11.鈴木克郎
12.吉田昌弘
13.水沼知博
14.渋谷憲央
15.今井清嗣
16.大木勝裕
17.高橋朋之
18.田中瑞穂
19.佐藤秀満
20.小林哲郎
21.百田郁夫
22.山本尚意
23.井上聖那
24.菅崇文
25.寺下尚希
26.宮野徹
27.関根健真
28.有澤達也
28.山添雅巳
28.井上かのこ
28.野呂夏雄
28.大賀健二
28.岡田豊
28.篠塚万里子

2004-09-24-FRI

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