モノポリーエッセイ

世界選手権2004日本大会報告
〜第9回:歯がゆい展開
     岡田選手の1回戦。〜



こんにちは。
予選ラウンドの第1ウェーブで、
植田選手がいきなり破産するという、
日本にとって「まさかの」波瀾スタートとなっています。

一方、岡田選手のテーブルでは、
ゲーム残り時間がもうほとんどないというのに、
自力のダークパープル以外なにも色が揃っていない状況。
これでは誰もあまり得ではありません。
いったい何があったのでしょうか。

このテーブルのメンバーは、
チャンピオン(日本の岡田選手)、
アメリカ、ウクライナ、スイス、トルコ。
5人ゲームでした。
序盤に権利書が順調に購入できたのは
岡田選手とアメリカのマット選手。
この2人が展開の鍵を握ります。
特にマット選手はダークパープルを「自力」で揃えて
ホテルを2軒建てており、有利な形です。
ここでマット選手は、
「時間切れになってもいいから確実に1位をとる」
ことを考えていたようです。
前回の世界選手権でもやはりアメリカ代表の選手が
「みんな家を建てずに、ぐるぐる回ろう」と呼びかけ、
似たような戦法をとったのですが、
前回のように「総資産評価制度」ならまだしも、
今回は「生き残り人数に応じたポイント制度」(注)です。
ゲームを決着させることを狙わずに
決勝進出、世界チャンピオンへの道は開けません。

(注)「生き残り人数に応じたポイント制度」:
前回までの世界選手権で採用されていたのは
「総資産評価制度」で、
ゲームごとの順位に関わらず、
予選全ての資産の合計で、決勝進出を決める仕組み。
この場合、たとえゲームでの順位が悪くても、
(破産した者は後に破産した者ほど順位が上で、
 また破産しなかった者は資産の多い者ほど
 順位が上となる)
全員が多額の資産をもつ状況になれば、
そのゲームの参加者全員にとって
それほど悪いことではありません。
一方、今回採用された新制度だと、
資産ではなく順位で
ポイントを競うようになったことに加えて、
破産者のポイントが
上位にボーナスポイントが与えられます。
そのボーナスポイントがかなり大きく、
例えば誰も破産させずに3連勝した場合より、
1回破産したとしても、残り2ゲームを
モノポリー勝ち
(自分以外の他のプレーヤー全員を破産させること)
した方が、上位になります。
したがって、有利になったプレーヤーは
積極的にボーナスポイントを狙って、
カラーグループをそろえて家やホテルを建てて、
破産者を一人でも増やす戦略が基本的にベターとなります。

岡田選手はもちろんそのことを承知していたために、
積極的に交渉を仕掛けます。
具体的には、アメリカとトルコで
レッド・イエローの「ツーペー」にさせ、
自分とウクライナで
オレンジ・ダークブルーのツーペーにする、
という内容の交渉です。
4人が一斉にカラーグループを揃えあう形になり、
そのグループの特性からいっても、
ゲームは一気に「短期決戦」となる可能性が高い、
そういう提案です。


(硬直した局面打開のため交渉に熱が入る
 岡田選手<中央>。
 左は通訳の大橋さん。
 モノポリーを事前に練習されたうえ、
 交渉能力が非常に高く、頼もしかったです。)


しかしマット選手はYesと言いません。それどころか、
「せっかくだから
 世界チャンピオンの話術をもっとたくさん聞きたい。
 だから簡単に成立させるのはもったいない」
と流されてしまう始末。
本人はウィットに富んだ
断り文句のつもりだったかもしれませんが、
このままでは共倒れになります。

「あそこは、大会のポイントシステムを説明するところまで
 踏み込んだ会話をするべきだった」
後日この局面を振り返って岡田選手は、
このようにコメントしていました。
日本ではいちいち細かく説明しなくても、
動くべきときには動いてくれる、
そういう「聞き分けのよい」プレーヤーが多くなっており、
このような根本的な世話をする「訓練」が
最近は足りていなかったのかもしれません。

結局、このゲームでは、誰一人破産することなく、
というより、誰一人本格的に勝負に出ることなく、
タイムアウトになってしまいます。
居並ぶカメラ群は、
期待していた派手な家やホテルの乱立も、
高額紙幣のやりとりも、
一切キャプチャーすることができず、
ちょっとがっかりしたかもしれませんね。

予選の第1ウェーブが終了しました。
各テーブルの状況はどうでしょうか。
カナダが先頭をきって最初のモノポリー勝利。
続いてスペインもモノポリー勝ちします。
モノポリー勝利した場合のポイントは28点と大きいため、
この2国は決勝へ向けて
幸先のいいスタートといえるでしょう。

逆に、アメリカのように、
全員が生き残っているゲームでは、
たとえ手堅く1位となっても、
ポイントは16点しかもらえません。
予選通過のボーダーラインは
50点前後ではないかといわれている中で
これでは残り2ゲームも
「連勝」しなければいけないという「立場」は
負けた場合となんら変わらず、
ノルマ上は少しも楽になっていません。
アメリカのマット選手は
このことに2回戦の途中になってから
気づいたらしく、後になってから後悔したそうです。
「世界チャンピオンの岡田選手のテクニックを怖れて
 動かなかったけど、
 ポイントを考えるとやはり動いておくべきだった」と。

最近の日本国内では
「モノポリー決着させるゲーム」が
推奨されている傾向があるため
このようなプレイスタイルの選手は
めっきり減ったのですが、
一人でもテーブルにこういう選手がいて、
しかもその選手がキーカードをごっそり握ってしまうと、
なかなかゲームを進めることは
困難になる場合がありますよね。
思わぬところに落とし穴があった、
ということだったのでしょうか。

いえ。
本当は、世界ではこういう場面も
十分に想定しておくべきだったのです。
やはり「相手を納得させ動かすことができなかった」
自分の至らなさが全てだと、
謙虚に反省し次に備えるのが、
選手として正しい姿なのでしょう。

とにかく、岡田選手は5人生き残りの3位ということで、
このゲームで獲得したポイントは4点です。
これはもう残り2ゲームは連勝、それも
モノポリーに近い圧勝をしなければ
決勝には届かないという意味です。

お二人とも残るゲームでは「連勝」を狙います。
その模様は次回に。

2005-05-30-MON

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