<人工生命#1>
さて、これまで、
人間の脳をモデルにした
「ニューラルネットワーク・モデル」、
進化(遺伝)の法則をモデルにした
「遺伝的アルゴリズム」、
人の考え方をモデルにした「エイスパートシステム」、
昆虫に代表される、考えない脳の「強化学習法」など、
現在のメジャーなAIのモデルを一気に見てきました。
実は、AIのモデルには、
まだまだたくさんたくさんの種類があって、
それらのモデルにはさらに改良版があります。
が、AIの「原理」としてはこんなところでしょう。
さて、残り2,3回では、
人工知能の近くにある「人工生命」という学問の世界で、
よく使われている仕組みについて、
さっと紹介したいと思っています。
人工の生命の知能は、
すべからく人工知能ってことじゃないの、
って言われれば、ま、その通りなんですが、
ここでは、「知能」という高尚なレベルの問題ではなく、
発生とか増殖とか集団の動きとか、
そういう生き物の原点みたいなところを、
数学の力を借りて表現しようという学問である。
ま、そう考えてください。
で、今回は、草木が枝葉をのばしていく様子を
うまく表現できることで、
すっかり(業界的には)有名になった
「Lシステム」のお話です。
草木の枝葉の成長じゃ、
ちょっと身近じゃない気もしましので、
この仕組みを使った簡単な自動作曲装置?
を考えてみました。
以下、「マッチ箱の脳」の「ニューラルネットワーク」より抜粋
<Lシステム#1/2>
Lシステムは、もともと、
言語や文法の構造やら法則を
数式で表現しようとした研究から考え出された
システムです。
この章では、簡単な実験をしながら、
このLシステムを紹介したいと思います。
最初、このシステムを知ったとき、
あるアニメのシーンを思い出しました。
それは、主人公がビジネスバッグをポンと
草原の上に投げると、
ビジネスバッグがバタンと2つに開いて、
2つが4つに開いて、
4つが8つに開いてとパタンパタンと広がっていき、
あっという間に家になるというシーンです。
そんなイメージを思い浮かべるシステムです。
<作曲するAI>
●自動作曲システムの作り方
1つのものが2つへ、2つのものが4つへと、
自動的にかつ規則的に分裂していくためには、
その分裂のルールを決めてやらなくてはなりません。
ここでは、自動作曲というシステムを例に、
この分裂のルールを説明していきます。
例えば、分裂のルールは、
以下のように決めていくことにしましょう。
▼ルール:
「ド」は次のステップで「レ」に変化する
このルールは、最初「ドドド」だった音階は、
次のステップで「レレレ」と
変化することを意味しています。
こうしたルールをいくつか用意してやると、
次々と変化し広がっていくことになります。
また、
▼ルール:
「ド」は次のステップで「ド」と「レ」に分裂する
というルールがあったとします。
この場合は、最初「ドドド」だった音階は、
次のステップで「ドレ、ドレ、ドレ」と
変化することになります。
さらに、次のステップでも、
ドはさらにド、レに分裂するので、
「ドレ、ドレ、ドレ」は、
「ドレレ、ドレレ、ドレレ」と変化していきます。
このようにして、変化したり、
分裂したりするルールをたくさん用意してやります。
例えば、次のようにです。
◆ルール1:ドはミ、レ、ファに分裂する
◆ルール2:レはドに変化する
◆ルール3:ミはミのまま
◆ルール4:ファはソ、シに分裂する
◆ルール5:ソはレ、ラに分裂する
◆ルール6:ラはファに変化する
◆ルール7:シはシのまま
すると、「ド」だけから始まる音楽(?)も
自動的に長い音階に変化していきます。
その様子を少し見てみます。
最初は、ドの音符が1つだけですね。
そして次のステップでは、ルール1に従って、
ドは、ミ、レ、ファに分裂します。
さらに次のステップでは、ミ、レ、ファが
ルールに従って変化、分裂します。
ルール3に従って、ミはミのままです。
ルール2に従って、レは、ドに変化します。
ルール4に従って、ファはソ、シに分裂します。
こうして、ミ、レ、ファは次のステップで、
<ミ><ド><ソ,シ>に変化します。
このようにして、ルールに従って変化、
分裂させていくと次のようになります。
◆1回目 ド
◆2回目 ミ、レ、ファ
◆3回目 ミ、ド、ソ、シ
◆4回目 ミ、ミ、レ、ファ、レ、ラ、シ
◆5回目 ミ、ミ、ド、ソ、シ、ド、ファ、シ
◆6回目 ミ、ミ、ミ、レ、ファ、レ、ラ、シ、ミ、レ、
ファ、ソ、シ、シ
◆7回目 ミ、ミ、ミ、ド、ソ、シ、ド、ファ、シ、ミ、
ド、ソ、シ、レ、ラ、シ、シ
◆8回目 ミ、ミ、ミ、ミ、レ、ファ、レ、ラ、シ、ミ、
レ、ファ、ソ、シ、シ、ミ、ミ、レ、ファ、レ、
ラ、シ、ド、ファ、シ、シ
たった7つのルールだけで、
ド1音がこのように変化していくのは面白いですね。
しかしこれが果たして曲といえるでしょうか?
お手元にキーボードなどお持ちの方は
ちょっと弾いてみてください。
ルール自体が音楽的な法則に従っていないので、
これでは、単純なランダム音のようにしか
聞こえないかもしれません。
|