「将棋の駒の漢字を、
アルファベットにしたりすると、
全然弱くなっちゃうんですよ。」 |
<前略> |
■■ |
『ここ掘れプッカ』と『がんばれ森川君2号』は、
AIの手法的に同じってことですが、
賢くなってるような気がするんですけど? |
森川 |
それはね、AIのモデルを変えたわけではなくて、
因子のサンプルの作り方が
うまくなっちゃったんですよ(笑)。
つまり、AIが賢くなったわけじゃなくて
ボクのほうが学習しちゃったみたいなんですよ。 |
松原 |
簡単にいうと
センセイが賢くなったということですよね。 |
森川 |
体感的にわかるようになってきちゃうんですよね。
これくらいが彼(AI)にとって限界だろうな、
これいれると、面白いマチガイとかしそうだなって。
サンプルの作り方がわかってきちゃって。
それはある意味でまずいんですけど、
でもAIうんぬんという部分じゃなく、
エンタテイメントとしては
こっちが正解かなって気がします。 |
松原 |
人工知能ってうまく動いてんのは、
だいたいの場合、人間が偉いんです。 |
森川 |
これは、解けにくい、解けやすいだろうって、
このままゲーム作っていくと、
BPに解き易いゲームを作るっていう
逆の発想に陥っちゃいそうで怖いんですけど。 |
松原 |
研究者はだいたい陥ってますけどね(笑)。
わたしが優秀であることを示すためには、
どの例題がいいかな?って。
学生はね、まだ無謀なというか、
解けたら世の中の人がよろこぶような
ホントの意味で「いい例題」を
選んじゃうんですよ(笑)。
それは難しくって解きにくいから先生は
「お前の考えてることはわかるが、
もうちっと小さい例題を選べ」と。
そうやって指導をうけるうちに、
自分のが解けそうな例題もってきて
「うまく解けました!」って言って終わり。
むかしよりは、世間の目も厳しくなってきたし、
まともになってきましたけどね。
いやだから、ゲームに使えるっていうのは
ホントすごいと思うんですよね。 |
松原 |
ところでどうして鉱物を掘るって題材を
お選びになったんです? |
森川 |
これはホントに石集めが趣味だって
ことだけなんですよ(笑)。
このテーマにしようって言ったときには、
女の子の評判がすごく悪かったんですよ。
なんかもっとかわいい、キノコを集めるとかね、
そういうのがいいっとか言われて。 |
■■ |
それは初期のプランにあったという、
トリュフを求めるブタという路線ですね。 |
森川 |
「石集めてなんなの!?」って言われるとさあ
「うーん、楽しいじゃん」とかしか
言いようがないからねえ。 |
松原 |
そういえば20年くらい前だったか、
人工知能の実用化で、
鉱脈を見つけるために使おうとしている人たちが
いたんですよ。
フランスの会社かな。
鉱脈を見つけるのって、博打ですよね?
委託金をもらって、
一攫千金を狙っている人がそこにお金を払って、
この会社の人たちがAI使っていろいろ検討して、
ここ掘れワンワン! ていうわけですよ。
それって人間だと、
カリスマ的なナントカ師とかがやってたことですよね? |
■■ |
まさに山師ですねえー。
じゃあ、鉱物は人工知能の中では
由緒あるテーマってことなんですね(笑)。 |
松原 |
とろろで森川さんは、
どうしてAIをゲームに使おうと思ったんですか? |
森川 |
それは、AIが自分で勝手にゲームを進めてくれたら
ラクチンだなと思ったんですよ(笑)。 |
■■ |
あ、プレイも自分でやりたくないんですか!
不精だなあ。 |
森川 |
そうそう、なるべくコントローラに触りたくないの。 |
■■ |
じゃやらなきゃいいのに(笑)。 |
森川 |
あとですね、設計側としても、
すごく楽だったんですよ。
敵のパラメータの設定とか。
『アストロノーカ』というゲームは、
畑にトラップをしかけて
害虫を退治するっていうゲームだったんですが、
この害虫の、トラップを潜り抜けたりするのに
遺伝的アルゴリズム(GA)(★3)を
使ってたんです。
プレイヤーがどこにどんなトラップを
しかけるかというのは
まったくわからないので、
それにあわせてこっちではじめから
パラメータ用意するのが大変じゃないですか。
GA使って自分で進化して、というのを作ったんです。
誰も誉めてくれないけど、
これだいぶうまくいったんですよ。 |
■■ |
ずいぶん楽になったんですか? |
森川 |
普通だとRPGとか作るときに、
弱い敵から一番強いのまで
全部手でパラメータつけていくわけですよ。
標準のプレイヤーの強さがこのへんだから、
このくらいのとき敵のパラメータのこれは
このくらいにして、って。
すごくタイヘンなんだと思うんですよ。
しかも、一番弱い敵の力をちょっと強くしたら、
そこから強いヤツまで全部作り直したりね。
ここでひとつ新しい武器を追加しようと思ったら、
それに対応した強さのバランスを
全部作らないといけないとか。
GAの場合は、自分で進化するんで、
アストロノーカではボクは、
最初に出てくる20体分しかデータ作ってないんです。
あとは自分たちで勝手に
プレイヤーにあわせて強くなっていってる。
だから、オレはRPG制作の効率化には
GAを使うべきだと思うんだよね。
すごくうまくいったんですよ。
でもどこでも取り上げてくれないんだよねえ(笑)。 |
■■ |
コントロールするのは難しくないんですか? |
森川 |
GAの制御は、BPとかと比べればラクですよ。
勝っちゃったらプレイヤーのほうが
新しいトラップ作って環境を変えちゃうので、
今までの進化の方向が意味なくなっちゃうんで、
こっちもあわてて害虫の進化の方向を直すんで、
必ずしも進化が進みすぎちゃうこともないし。 |
松原 |
そうですよね。
バラエティーを出すためにGA使うと
プログラマーの人はちょっとラクになるはずですよね。
勝手に新しい局面ができてくるわけだし。 |
■■ |
バグ出しをするほうはタイヘンですけどねえ。
どこまでやっても
すべての状況を作り出せないですからねえ。
でも、今の作り方だと絶対限界きてますからね。 |
松原 |
もうバグまで含めてゲームだ、
というデザインをするしかないんじゃないですかねえ。
知らない局面が出ても、それはこうなんだよ!
それがデザイン的に許されるような作り方をしないと、
今のゲームの複雑さで全部を試すとなると、
ひとつのゲームのバグだしに
何年もかかるようになるでしょう。 |
■■ |
それは今後のゲームの大問題ですね。 |
森川 |
今のままの作り方をしてても、
すべての組み合わせをプレイすることなんて
不可能ですよ。
それ全部見るの? っていう。
ホントにチェックするの?
その洗い出した場合わけで
すべて見ているとも限らないし、
止まらなきゃいいってってところで終わっちゃうよね。
だからAIを使って作ったほうがいいんですよ。
なんでも教えてあげるのになあ。 |
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ゲーム以外のAI
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ |
森川 |
逆にゲーム以外だと、
AIが実用化されているのはどういう分野なんですか? |
松原 |
BPだと、あまり表には出てきませんけど
金融なんかは、かなりお金かけて研究されて、
実際に使われているようですね。
たとえば、ある状況で株が上がった円が
上がったということを
ニューラルネットワークに食わせて、
株や為替の変動を予測させたりしてるようですが、
こういうのは論文とか出てこないんですよ。
まあ、最終的にAIの決定のままに投資するほどには
信用されてないんだけど、
参考にはしているみたいです。
ここではあのプログラムは買いだと言った、とか。 |
■■ |
直接お金がからむものにやったりしてるんですねえ。 |
松原 |
パラメータ変えた「強気くん」と「弱気くん」とか
作るんですね。
人間のディーラーにもいろんな性格の人があるように。
それで、ある状況の下で、いろんなプログラムが、
買えとか待てとか、正反対のことを言ったりする中で、
それを見て人間が総合判断したりする。
つまり人間の部下なみには
働いてくれるということのようですね。 |
森川 |
データマイニング(★4)とかって
どうなんでしょう? |
松原 |
金融でも使われているし、
コンビニとかでも使われているようです。
データマイニングっていうのは、
デカいデータベースがあったときに、
そのデータの中から
コンピュータが規則性を示してくれるってものです。
ちょっと人間には見つけられないような規則性を。
どういうものが何時ごろ売れるのか、
何と何の売れ行きに相関があるなんて
普通の人では考えつかないようなことが、
AIのプログラムは言ってくれるわけです。 |
■■ |
水曜の晩に雨が降ると、
カレーパンが売れるとかそういうのですか? |
松原 |
そうですそうです。
想像もつかないような相関関係を
見つけ出すことができるんです。
あと、表向きには金融のことやっていて、
裏では競馬やっている人とかもいますよ。
データマイニングで。
本人は儲かっているっていうけど、
どこまでホントなのかはわからないですけどね。 |
森川 |
松原さんのご専門である将棋のほうも、
まだ引き続き研究されてるんですか? |
松原 |
やってますよ。
2010年に名人に勝つって言ったんですけど、
どうもそれは少し厳しくなってきてますが、
地道にやってます。
最近は、プロ棋士の心理実験とかやってるんですよ、
ちょっと怪しい実験ですけど、
元名人にアイカメラつけてもらって、
名人が盤のどこを見ているかを調べるんです。
同じことを素人でもやって、
その差から何を見ているか明らかにするとかいうの。 |
森川 |
名人はやっぱり、
盤面のパターンを読んでいるって感じなんですか?
ボクそれはすごい興味があって、
前に羽生名人が誰かが
「形のきれいなのがいい手なんですよ」
みたいなこと言ってて。
「なんとなく形のきれい」なのを選ぶんですよ
とかって話がすごい印象に残ってて。 |
松原 |
強い人はみんなそういう
芸術家みたいなことを言うんですよ。
駒が光って見えるとか。
それでね、面白いのは将棋の駒の漢字を、
あれをアルファベットにしたりすると、
全然弱くなっちゃうんですよ。 |
森川 |
ええー! 面白いなあ。 |
松原 |
もちろんルールは変えてませんよ。
「金」を「K」とかに変えるだけなんですけど、
ダメみたいですね。
そうすると、弱い人はね、
あんまりかわらないんだけど、
強い人はまったくダメになるんです。 |
■■ |
パターンとして
認識できなくなっちゃうんでしょうかねえ。
しかし、将棋ってゲームソフトとしても
ずいぶん強くなってきてるんですか? |
松原 |
そうですね。
計算機が速くなったことも大きいでしょうね。
売れてるAIもけっこう手を読むんですけどね、
『東大将棋』とか『AI将棋』だと
アマチュア3段くらいまで強くなりました。
AI将棋なんて、
どこかのどこかのコンピュータにバンドルされたから、
百万本くらい出てるみたいですよ。 |
森川 |
いいなあ〜、将棋か(笑) |
■■ |
将棋とかって、ハードが新しくなっても
アルゴリズムそのままでいけますしねえ。
一度作った資産がずーっと使えるのはいいですね。 |
松原 |
そうそう、ひとつぶで何度も美味しいですよ。
プレステ2版つくるし、マック版つくるしって。
まあ売れるのは『AI将棋』とか
売れるのはごく一部で、
ほかの将棋ソフトは非常に厳しいみたいですよ。 |
森川 |
そういうソフトは、言い方は悪いですけど、
力づくでやってるわけですか? |
■■ |
計算機の力に頼ってあらゆる手を読んで..? |
松原 |
力づくとは言っても、
チェスみたいにすべての手は読めないですから、
つまんない手捨てますけど。
基本的には全部の手を数えてって。
あれでやるとアマチュアの
5段くらいまではいくんだけど。
それ以上はどうなのかな、とボクは思っていて、
それで「パターン」と「直感」で、
という怪しい路線をやってるんですけど。 |
森川 |
そういえば、チェスの人間のチャンピオンに
IBMのディープブルー(★5)っていう
コンピュータが勝ったのだって、
アレは手をすべて読んでるから、
とか言ってすぐ覚めたこと言われちゃうんだけど、
あれはあれでスゴイことですよね? |
松原 |
僕は、あのときのチェスを見ていた
数少ない日本人だと思うんで、
僕が書いた文章がヘンに広まっちゃってるところ
あると思うんですけど、
その後に、それでも凄いってことが
書いてあるんですけどね。 |
森川 |
ボクはたとえそれが人間の知能と
カタチはちがっても、
単純なことを素早く繰り返すというのも
また別の意味で知能と
言えるんじゃないかと思うんですよ。
それこそ昆虫のように、
人間とはまったく別の戦略の知能として
考えられますよね。 |
松原 |
そうですね。
それに実際、あのチェスの場合は、
IBMって会社はむかしから人工知能って言葉
使いたがらないんですよね。 |
■■ |
それはなぜですか? |
松原 |
人工的に知能を作るなんてことは、
特に西洋では、神に対する冒涜ですから。
さらに言うと、将来的に
ブルーカラーのシゴトを奪うという
労働問題にも繋がっているんですね。 |
森川 |
じゃあ人間型ロボットが
日本でバンバンすすんでいるっていうのは。 |
■■ |
キリスト教じゃないからですか。 |
松原 |
それはもちろんそうです。
あのロボットについて、
ホンダとかソニーに脅迫状出すのは、
日本人にはいないと思うんですけど、
あれ外国の企業がだったら
脅迫状くるんじゃないですかね。
神の領域に手をつけるような企業は
オレが爆破するとね。 |
森川 |
ああー。
じゃあ、ある意味、ロボットは日本の独壇場になれる
チャンスかもしれないわけですね? |
松原 |
そうだと思いますね。 |