MORIKAWA

森川くん、人工知能の本をここで再編集。

<おまけ_AI対談#1>

ぼくは、今までの作ったゲームのキャラクターの
行動や判断に、AIを使ってきました。
最新作(といっても去年ですが)の
「ここ掘れプッカ」のキャラの行動判断もすべて
AIによるものです。
そんなこともあって、今回、
「ここ掘れプッカ」の攻略本(★1)が出るにあたって、
人工知能研究の第一人者である
公立はこだて未来大学の松原仁先生(★2)と
対談させていただきました。
このとき、松原先生からうかがった話が
とてもおもしろかったので、
今回と次回の2回に分けて、
その対談を掲載させてもらうことにしました。

攻略本では、ページ数に合わせて
「編集」がされていますが、
ここで掲載するのは、それ以前の未編集バージョンです。
あしからず、というかこっちのほうが
個人的にはイイとさえ思ってます。
ちなみに、インタビュアーは、伊東ガビンちゃんです。
対談の内容をより理解していただくために、
ざっくりゲームの説明をしますと、
「ここ掘れプッカ」は、
プッカというキャラに地下を掘らせて、
宝石(宇宙石)を掘り出させるゲームです。
ただ、地中には、タダの石ころなんかもありますから、
どれが宝石で、どれがガラクタか
覚えさせなくてはいけません。
プッカは、アイテムの形、色、
模様、ニオイなどを手がかりに、
AIを利用して学習していくというゲームです。
トリュフを探すブタとそれを調教する飼い主。
そんなゲームだと思ってください。

では。

以下、「ここ掘れ!プッカ 公式ホリまくりガイド」より抜粋

「将棋の駒の漢字を、
 アルファベットにしたりすると、
 全然弱くなっちゃうんですよ。」
<前略>
■■ 『ここ掘れプッカ』と『がんばれ森川君2号』は、
AIの手法的に同じってことですが、
賢くなってるような気がするんですけど?
森川 それはね、AIのモデルを変えたわけではなくて、
因子のサンプルの作り方が
うまくなっちゃったんですよ(笑)。
つまり、AIが賢くなったわけじゃなくて
ボクのほうが学習しちゃったみたいなんですよ。
松原 簡単にいうと
センセイが賢くなったということですよね。
森川 体感的にわかるようになってきちゃうんですよね。
これくらいが彼(AI)にとって限界だろうな、
これいれると、面白いマチガイとかしそうだなって。
サンプルの作り方がわかってきちゃって。
それはある意味でまずいんですけど、
でもAIうんぬんという部分じゃなく、
エンタテイメントとしては
こっちが正解かなって気がします。
松原 人工知能ってうまく動いてんのは、
だいたいの場合、人間が偉いんです。
森川 これは、解けにくい、解けやすいだろうって、
このままゲーム作っていくと、
BPに解き易いゲームを作るっていう
逆の発想に陥っちゃいそうで怖いんですけど。
松原 研究者はだいたい陥ってますけどね(笑)。
わたしが優秀であることを示すためには、
どの例題がいいかな?って。
学生はね、まだ無謀なというか、
解けたら世の中の人がよろこぶような
ホントの意味で「いい例題」を
選んじゃうんですよ(笑)。
それは難しくって解きにくいから先生は
「お前の考えてることはわかるが、
 もうちっと小さい例題を選べ」と。
そうやって指導をうけるうちに、
自分のが解けそうな例題もってきて
「うまく解けました!」って言って終わり。
むかしよりは、世間の目も厳しくなってきたし、
まともになってきましたけどね。
いやだから、ゲームに使えるっていうのは
ホントすごいと思うんですよね。
松原 ところでどうして鉱物を掘るって題材を
お選びになったんです?
森川 これはホントに石集めが趣味だって
ことだけなんですよ(笑)。
このテーマにしようって言ったときには、
女の子の評判がすごく悪かったんですよ。
なんかもっとかわいい、キノコを集めるとかね、
そういうのがいいっとか言われて。
■■ それは初期のプランにあったという、
トリュフを求めるブタという路線ですね。
森川 「石集めてなんなの!?」って言われるとさあ
「うーん、楽しいじゃん」とかしか
言いようがないからねえ。
松原 そういえば20年くらい前だったか、
人工知能の実用化で、
鉱脈を見つけるために使おうとしている人たちが
いたんですよ。
フランスの会社かな。
鉱脈を見つけるのって、博打ですよね?
委託金をもらって、
一攫千金を狙っている人がそこにお金を払って、
この会社の人たちがAI使っていろいろ検討して、
ここ掘れワンワン! ていうわけですよ。
それって人間だと、
カリスマ的なナントカ師とかがやってたことですよね?
■■ まさに山師ですねえー。
じゃあ、鉱物は人工知能の中では
由緒あるテーマってことなんですね(笑)。
松原 とろろで森川さんは、
どうしてAIをゲームに使おうと思ったんですか?
森川 それは、AIが自分で勝手にゲームを進めてくれたら
ラクチンだなと思ったんですよ(笑)。
■■ あ、プレイも自分でやりたくないんですか!
不精だなあ。
森川 そうそう、なるべくコントローラに触りたくないの。
■■ じゃやらなきゃいいのに(笑)。
森川 あとですね、設計側としても、
すごく楽だったんですよ。
敵のパラメータの設定とか。
『アストロノーカ』というゲームは、
畑にトラップをしかけて
害虫を退治するっていうゲームだったんですが、
この害虫の、トラップを潜り抜けたりするのに
遺伝的アルゴリズム(GA)(★3)を
使ってたんです。
プレイヤーがどこにどんなトラップを
しかけるかというのは
まったくわからないので、
それにあわせてこっちではじめから
パラメータ用意するのが大変じゃないですか。
GA使って自分で進化して、というのを作ったんです。
誰も誉めてくれないけど、
これだいぶうまくいったんですよ。
■■ ずいぶん楽になったんですか?
森川 普通だとRPGとか作るときに、
弱い敵から一番強いのまで
全部手でパラメータつけていくわけですよ。
標準のプレイヤーの強さがこのへんだから、
このくらいのとき敵のパラメータのこれは
このくらいにして、って。
すごくタイヘンなんだと思うんですよ。
しかも、一番弱い敵の力をちょっと強くしたら、
そこから強いヤツまで全部作り直したりね。
ここでひとつ新しい武器を追加しようと思ったら、
それに対応した強さのバランスを
全部作らないといけないとか。
GAの場合は、自分で進化するんで、
アストロノーカではボクは、
最初に出てくる20体分しかデータ作ってないんです。
あとは自分たちで勝手に
プレイヤーにあわせて強くなっていってる。
だから、オレはRPG制作の効率化には
GAを使うべきだと思うんだよね。
すごくうまくいったんですよ。
でもどこでも取り上げてくれないんだよねえ(笑)。
■■ コントロールするのは難しくないんですか?
森川 GAの制御は、BPとかと比べればラクですよ。
勝っちゃったらプレイヤーのほうが
新しいトラップ作って環境を変えちゃうので、
今までの進化の方向が意味なくなっちゃうんで、
こっちもあわてて害虫の進化の方向を直すんで、
必ずしも進化が進みすぎちゃうこともないし。
松原 そうですよね。
バラエティーを出すためにGA使うと
プログラマーの人はちょっとラクになるはずですよね。
勝手に新しい局面ができてくるわけだし。
■■ バグ出しをするほうはタイヘンですけどねえ。
どこまでやっても
すべての状況を作り出せないですからねえ。
でも、今の作り方だと絶対限界きてますからね。
松原 もうバグまで含めてゲームだ、
というデザインをするしかないんじゃないですかねえ。
知らない局面が出ても、それはこうなんだよ!
それがデザイン的に許されるような作り方をしないと、
今のゲームの複雑さで全部を試すとなると、
ひとつのゲームのバグだしに
何年もかかるようになるでしょう。
■■ それは今後のゲームの大問題ですね。
森川 今のままの作り方をしてても、
すべての組み合わせをプレイすることなんて
不可能ですよ。
それ全部見るの? っていう。
ホントにチェックするの?
その洗い出した場合わけで
すべて見ているとも限らないし、
止まらなきゃいいってってところで終わっちゃうよね。
だからAIを使って作ったほうがいいんですよ。
なんでも教えてあげるのになあ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ゲーム以外のAI
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
森川 逆にゲーム以外だと、
AIが実用化されているのはどういう分野なんですか?
松原 BPだと、あまり表には出てきませんけど
金融なんかは、かなりお金かけて研究されて、
実際に使われているようですね。
たとえば、ある状況で株が上がった円が
上がったということを
ニューラルネットワークに食わせて、
株や為替の変動を予測させたりしてるようですが、
こういうのは論文とか出てこないんですよ。
まあ、最終的にAIの決定のままに投資するほどには
信用されてないんだけど、
参考にはしているみたいです。
ここではあのプログラムは買いだと言った、とか。
■■ 直接お金がからむものにやったりしてるんですねえ。
松原 パラメータ変えた「強気くん」と「弱気くん」とか
作るんですね。
人間のディーラーにもいろんな性格の人があるように。
それで、ある状況の下で、いろんなプログラムが、
買えとか待てとか、正反対のことを言ったりする中で、
それを見て人間が総合判断したりする。
つまり人間の部下なみには
働いてくれるということのようですね。
森川 データマイニング(★4)とかって
どうなんでしょう?
松原 金融でも使われているし、
コンビニとかでも使われているようです。
データマイニングっていうのは、
デカいデータベースがあったときに、
そのデータの中から
コンピュータが規則性を示してくれるってものです。
ちょっと人間には見つけられないような規則性を。
どういうものが何時ごろ売れるのか、
何と何の売れ行きに相関があるなんて
普通の人では考えつかないようなことが、
AIのプログラムは言ってくれるわけです。
■■ 水曜の晩に雨が降ると、
カレーパンが売れるとかそういうのですか?
松原 そうですそうです。
想像もつかないような相関関係を
見つけ出すことができるんです。
あと、表向きには金融のことやっていて、
裏では競馬やっている人とかもいますよ。
データマイニングで。
本人は儲かっているっていうけど、
どこまでホントなのかはわからないですけどね。
森川 松原さんのご専門である将棋のほうも、
まだ引き続き研究されてるんですか?
松原 やってますよ。
2010年に名人に勝つって言ったんですけど、
どうもそれは少し厳しくなってきてますが、
地道にやってます。
最近は、プロ棋士の心理実験とかやってるんですよ、
ちょっと怪しい実験ですけど、
元名人にアイカメラつけてもらって、
名人が盤のどこを見ているかを調べるんです。
同じことを素人でもやって、
その差から何を見ているか明らかにするとかいうの。
森川 名人はやっぱり、
盤面のパターンを読んでいるって感じなんですか?
ボクそれはすごい興味があって、
前に羽生名人が誰かが
「形のきれいなのがいい手なんですよ」
みたいなこと言ってて。
「なんとなく形のきれい」なのを選ぶんですよ
とかって話がすごい印象に残ってて。
松原 強い人はみんなそういう
芸術家みたいなことを言うんですよ。
駒が光って見えるとか。
それでね、面白いのは将棋の駒の漢字を、
あれをアルファベットにしたりすると、
全然弱くなっちゃうんですよ。
森川 ええー! 面白いなあ。
松原 もちろんルールは変えてませんよ。
「金」を「K」とかに変えるだけなんですけど、
ダメみたいですね。
そうすると、弱い人はね、
あんまりかわらないんだけど、
強い人はまったくダメになるんです。
■■ パターンとして
認識できなくなっちゃうんでしょうかねえ。
しかし、将棋ってゲームソフトとしても
ずいぶん強くなってきてるんですか?
松原 そうですね。
計算機が速くなったことも大きいでしょうね。
売れてるAIもけっこう手を読むんですけどね、
『東大将棋』とか『AI将棋』だと
アマチュア3段くらいまで強くなりました。
AI将棋なんて、
どこかのどこかのコンピュータにバンドルされたから、
百万本くらい出てるみたいですよ。
森川 いいなあ〜、将棋か(笑)
■■ 将棋とかって、ハードが新しくなっても
アルゴリズムそのままでいけますしねえ。
一度作った資産がずーっと使えるのはいいですね。
松原 そうそう、ひとつぶで何度も美味しいですよ。
プレステ2版つくるし、マック版つくるしって。
まあ売れるのは『AI将棋』とか
売れるのはごく一部で、
ほかの将棋ソフトは非常に厳しいみたいですよ。
森川 そういうソフトは、言い方は悪いですけど、
力づくでやってるわけですか?
■■ 計算機の力に頼ってあらゆる手を読んで..?
松原 力づくとは言っても、
チェスみたいにすべての手は読めないですから、
つまんない手捨てますけど。
基本的には全部の手を数えてって。
あれでやるとアマチュアの
5段くらいまではいくんだけど。
それ以上はどうなのかな、とボクは思っていて、
それで「パターン」と「直感」で、
という怪しい路線をやってるんですけど。
森川 そういえば、チェスの人間のチャンピオンに
IBMのディープブルー(★5)っていう
コンピュータが勝ったのだって、
アレは手をすべて読んでるから、
とか言ってすぐ覚めたこと言われちゃうんだけど、
あれはあれでスゴイことですよね?
松原 僕は、あのときのチェスを見ていた
数少ない日本人だと思うんで、
僕が書いた文章がヘンに広まっちゃってるところ
あると思うんですけど、
その後に、それでも凄いってことが
書いてあるんですけどね。
森川 ボクはたとえそれが人間の知能と
カタチはちがっても、
単純なことを素早く繰り返すというのも
また別の意味で知能と
言えるんじゃないかと思うんですよ。
それこそ昆虫のように、
人間とはまったく別の戦略の知能として
考えられますよね。
松原 そうですね。
それに実際、あのチェスの場合は、
IBMって会社はむかしから人工知能って言葉
使いたがらないんですよね。
■■ それはなぜですか?
松原 人工的に知能を作るなんてことは、
特に西洋では、神に対する冒涜ですから。
さらに言うと、将来的に
ブルーカラーのシゴトを奪うという
労働問題にも繋がっているんですね。
森川 じゃあ人間型ロボットが
日本でバンバンすすんでいるっていうのは。
■■ キリスト教じゃないからですか。
松原 それはもちろんそうです。
あのロボットについて、
ホンダとかソニーに脅迫状出すのは、
日本人にはいないと思うんですけど、
あれ外国の企業がだったら
脅迫状くるんじゃないですかね。
神の領域に手をつけるような企業は
オレが爆破するとね。
森川 ああー。
じゃあ、ある意味、ロボットは日本の独壇場になれる
チャンスかもしれないわけですね?
松原 そうだと思いますね。

(★1)ここ掘れ!プッカ 公式ホリまくりガイド
双葉社 1300円 2001年8月下旬発売予定



(★2)松原 仁
まつばら・ひとし。
公立はこだて未来大学システム情報科学部教授。
専門研究分野は、人工知能、認知科学、ロボティクス。
『コンピュータ将棋の進歩』(共立出版)、
『鉄腕アトムは実現できるか』(河出書房新社)など
著書多数。本人によると、
鉄腕アトムを作ることを目指して研究をしている、とか。

(★3)遺伝的アルゴリズム(GA)
自然淘汰や突然変異などの、
生物の進化の過程をモデルにして、
ある問題に対する最適な解をめるための手法。
成績の悪い解が淘汰され 、
成績のよい解は同士が混じりあい進化する。

(★4)データマイニング
大規模なデータベースから美しい鉱石を見つけるように、
有用なルール,
パターンを採掘(マイニング)する方法のこと。
しかし特定の技術や技法を意味しているわけではない。

(★5)ディープブルー
IBM社の世界最強のチェス・コンピュータ。
19997年5月、世界チェス・チャンピオン,
ゲイリー・カスパロフ氏との対局で、
ついに勝利を収めた。

2001-08-12-SUN

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