日本全国に散らばるミュージアムを訪ねて、
学芸員さんたちに
所蔵コレクションをご紹介いただく連載、
第16弾は、満を持して!
原美術館ARCへおじゃましてきました。
はやくから、日本に
世界の現代アートを紹介してきた美術館。
コレクションにまつわるエピソードにも、
その作品収蔵の経緯にも、
この美術館ならではの物語がありました。
全12回の連載、お話くださったのは
青野和子館長と学芸員の山川恵里菜さん。
この年末、ゆっくりとおたのしみください。
そしてぜひ、
原美術館ARCへ遊びに行ってみてください。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第1回 原美術館の、はじまり。

──
2021年に、惜しまれながら閉館した
東京・品川の原美術館、
あちらのオープンは「1979年」と、
現代美術を専門的にあつかう美術館としては、
日本における「嚆矢」ですよね。
山川
そうですね。創設者の原俊夫理事長が、
アメリカのプリンストン大学で
経営学の勉強をしていたのが、1960年ごろ。
当時、アンディ・ウォーホルや
ロイ・リキテンスタインなどのポップアート、
現代アートが、
どんどん注目されはじめていました。
──
そんな「時代の現場」に居合わせた。
青野
アーティストたちと実際に交流する中で
現代アートのおもしろさに触れ、
日本にも紹介したいと、
作家たちと直接やりとりしながら、
ひとつずつ作品を収集しはじめたんです。
──
当時の日本では、「現代アート」って、
ほとんど紹介されていなかったわけですよね。
山川
はい。少なくとも専門的にあつかう美術館は
ほとんどありませんでした。
そのような時期に、自分が、
現代アートのための場所をつくりたいと思い、
当時、使われていなかった原家の邸宅を
美術館として改修し、1979年に開館しました。
──
それが、品川にあった原美術館。
山川
はい。そのような経緯ですので、
その都度、作家さんと交流する過程で、
本当に気に入ったものだけを
数点ずつ収集してきた美術館なんです。

──
最初期に収集した作品には、
たとえば、どういったものがあるんですか。
山川
ジャスパー・ジョーンズやアンディ・ウォーホル、
ジャン=ピエール・レイノーなど。
美術館を開館するにあたり
「公益財団法人アルカンシエール美術財団」を設立し、
現在では、原俊夫が集めた現代美術が1200点前後、
その曾祖父である原六郎が収集した古美術を
300点前後所蔵しています。
──
原美術館ARCといえば
野外彫刻がとても印象的ですが、
こうした大きな作品も、じゃあ、だんだんと。
青野
はい。かつての品川の原美術館のお庭に、
1979年の開館以降、
作家と相談しながらひとつずつ、ひとつずつ。
いま、ここにあるものは、
この環境に置くためにつくられたものと、
品川のお庭から移設してきた作品の両方です。
──
ここ群馬の伊香保に別館ができたのは‥‥。
山川
1988年ですね。
東京は、もともと個人の邸宅だったので、
あまりにサイズの大きな作品や
大きな音の出る作品などは
展示することが難しかったんですね。
そういった理由もあって、
この地に別館をつくることになりました。
──
建物の設計は、磯崎新さん。
山川
はい。そして3年前‥‥2021年の1月に
品川の原美術館を閉館し、
こちらに活動を集約させました。
統合するにあたって
原美術館ARCという名前に改称しています。
──
ああ、たしか以前はカタカナでしたもんね。
ハラ ミュージアム アーク。
では、お庭の彫刻作品から、
お話をおうかがいしていってもいいですか。
まずは、目の前の三島喜美代さん。

三島喜美代《Newspaper 84-E》1984年 セラミック、シルクスクリーン 三島喜美代《Newspaper 84-E》1984年 セラミック、シルクスクリーン

山川
はい、こちらの作品はもともと、
東京の原美術館のお庭にあったものです。
青野
新聞の紙面を
シルクスクリーンで陶に転写した作品で、
三島さんの代名詞的な作風ですね。
この作品には、1984年8月31日付けの
ニューヨーク・タイムズ紙の一面が
プリントされています。
──
シルクスクリーンなんですよね。陶に。
青野
そうですね。
紙というやわらかいものに大量に印刷され、
読んだあとは捨てられてしまう新聞が、
硬い陶板に焼しめられて、
「一点もの」の作品として、ずーっと残る。
──
そのコントラスト。
青野
作家自身は「情報の化石」と呼んでました。
──
残念ながら今年、亡くなられてしまって。
青野
はい。練馬区美術館での個展の開催期間中に、
91歳で。
最後まで、とってもお元気で‥‥
意欲的に制作されていたので本当に残念です。
──
今年は、田名網敬一さんも個展の会期中に。
青野
そうなんです。
現代日本美術におけるふたりの重鎮作家が。
非常に残念です。
──
フランク・ステラさんも‥‥ですよね。
山川
フランク・ステラは
原理事長のプリンストン大学時代の同級生でした。
いま、ギャラリーBに展示している
彫刻家リチャード・セラも、
ちょうど展覧会を準備している今年の3月に
訃報を聞いて。残念です。
──
ああ、そうだったんですか。
三島さんに関しては、
ぼくはポーラ美術館さんではじめて知って、
すぐにファンになったんです。
これから
もっと作品を見たいなと思っていた矢先に。
青野
ようやくここ数年で、
どんどん再評価されてきていたんですけど。
──
ポーラ美術館で見たのは、
陶でできた巨大な『週刊少年マガジン』や、
「コカ・コーラ」「金麦」など、
みんな知ってる飲み物の空き缶とかでした。
そのなかには、「ドクターペッパー」とか
「メローイエロー」とか
懐かしの缶が混じってて、おもしろくって。
青野
天王洲のビジネスホテル、東横インの前に、
三島さんのゴミ箱‥‥
高さ「2.5メートル」もの大きな作品が、
恒久展示されています。
同じように、
空き缶がたくさん詰まっている作品ですよ。
──
えっ、そうなんですか。知らなかったです。
こんど見に行ってみます!

(つづきます)

2024-12-19-THU

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  • 原美術館ARCの今期の展示 「心のまんなかでアートをあじわってみる」は 2025年1月13日(月・祝)まで

    この連載でもたっぷり紹介していますが、
    ウォーホル、オトニエル、三島喜美代、エリアソンなど
    お庭に展示している作品から、
    草間彌生、奈良美智、宮島達男など日本の現代美術家、
    さらには狩野探幽や円山応挙など古い時代の美術まで、
    原美術館さんがひとつひとつ収集してきた
    素晴らしいコレクションを味わうことができる展覧会。
    年末年始も2025年1月1日以外は
    12月31日も1月2日も開館しているそうです!
    年末独特の内省的な雰囲気、
    お正月の晴れやかな雰囲気のなかで作品に触れたら
    またちがった感覚を覚えそうな気がします。
    今期展示は1月13日まで、ぜひ訪れてみてください。
    さらに!
    2025年1月9日から新宿住友ビル三角広場で開催される
    「生活のたのしみ展2025」には、
    この「常設展へ行こう!」に出てくる美術館の
    ミュージアムショップが大集合するお店ができます。
    原美術館ARCの素敵なグッズも、たくさん並びます。
    ぜひぜひ、遊びに来てくださいね!
    生活のたのしみ展2025について、詳しくはこちら

    書籍版『常設展へ行こう!』 左右社さんから発売中!

    本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
    第12回「国立西洋美術館篇」までの
    12館ぶんの内容を一冊にまとめた
    書籍版『常設展へ行こう!』が、
    左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
    紹介されているのは、
    東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
    横浜美術館、アーティゾン美術館、
    東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
    大原美術館、DIC川村記念美術館、
    青森県立美術館、富山県美術館、
    ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
    日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
    本という形になったとき読みやすいよう、
    大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
    各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
    この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
    常設展が、ますます楽しくなると思います!
    Amazonでのおもとめは、こちらです。

    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館

    008 DIC川村記念美術館篇

    009 青森県立美術館篇

    010 富山県美術館篇

    011ポーラ美術館篇

    012国立西洋美術館

    013東京国立博物館 東洋館篇

    014 続・東京都現代美術館篇

    015 諸橋近代美術館篇

    016 原美術館ARC 篇