今年『ナイン』は大当たりする! 去年は知らなかったくせに、応援します。 |
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 第一回 はじめての記者会見 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 4月6日、桜三分咲きのうららかな日。 「おおーっ、なんだこれ?!」 稽古場に入って来た別所哲也さん、 待ち構えていたカメラの列を見てびっくり。そして笑顔。 こんなに人が来るとは思わなかった‥‥。 ここは「ベニサンピット」という、 古い染物工場のボイラー室を改築した劇場です。 「tpt」という演劇事務所のホームグランド、 稽古場としても使わせてもらっています。 そしてきょうは、「tpt」にとって、 初めて試みる“記者会見のようなもの”でした。 申し遅れました。 ぼくは『ナイン THE MUSICAL』の 広報係になってしまったキウチといいます。 本業は、演劇の脚本や演出です。 ぼくがなぜこんなことをすることになったか、 つまり「人手が足りない」ということなんですが、 とにもかくにも、記者会見の日を迎えました。 自分たちで言うのもなんですが、 ホテルでもなく、明るい会議室でもない、 ふだんのまんまの「稽古場」で、 いわゆる「芸能人の記者会見」みたいじゃなく、 金屏風もなし、横断幕もなし、マイクもなし、 スニーカーにチノパンのプロデューサーが、 「では、そろそろはじまめしょうか」と声をかけて、 スタートする。こんな記者会見って、ありなのか! 『ナイン THE MUSICAL』は、 ロンドンでデヴィッド・ルヴォーが演出し、 ブエノスアイレス、ブロードウェイと渡って、 アントニオ・バンデラスが主演(!)、 トニー賞を受賞した大ヒットミュージカルです。
オール日本人キャスト(!!!)で この5月に大阪と東京で公演します。 これを「やるぞ!」と言い出したのが、 大きなテレビ局でもなければ、 大きなイベント会社でもない、 ましてや大劇団でもない、 はっきり言えば「東京下町の、ちいさな一演劇事務所」、 「tpt」だったのです。 無茶でしょう? 無茶だと思った。 でも不可能じゃない。 さてこの日の記者会見。 テレビカメラと記者の皆さんがずらり、 40社60名という大にぎわい。 これ、関係者の誰ひとり予想しませんでした。 まず、アルゼンチンから来た振付家グスタヴォが、 ひとりずつ出演者を紹介します。 主演の別所哲也さんと子役の男の子、 そして16人の女性たち。みんな稽古着です。 英語だけれど、名前と役名だから大丈夫。 グスタヴォは演出家より早く3月中旬に来日し、 歌とダンスの稽古をスタートさせていました。 とくに司会者の姿もないまま、外国人が日本人キャストを 紹介することからはじまる記者会見。 この始まりで、会場に優しい空気が生まれました。
ブロードウェイでジェシカ・ラング主演の舞台、 『ガラスの動物園』の幕を開け、2日前に来日しました。 きょうから本格的に稽古合流という日なのです。 マイクなし、代わりにマグカップ片手のスピーチ。 デヴィッドがゆったり話しだします。 ここには息のあった通訳、珠麗さん。 「世界にはさまざまに優れたミュージカルがあります。 一番よくできてるのは『ジプシー』、 一番エンターテイメントなのは『オペラ座の怪人』、 そして『ナイン THE MUSICAL』は、 間違いなく、一番セクシーなミュージカルです。」
たぶんこの演出家自身が、かなりセクシーな人なのです。 そして、ますます雰囲気がよくなっていきます。 「会見」なんて堅苦しくは呼びたくない、 いつもの稽古場で生まれる空気。 記者さんからの質問に応えて、新キャストのひとり、 宮菜穂子さんが昨年秋の『ナイン』の感想を話しました。 「私はそれまでの24年間、 性の意識を捨てて生きて来たんですけど (出演者爆笑)‥‥ でも去年『ナイン』を客席で観て、 女性はこんなに美しくなれるんだってわかって、 あの日から女性として生きていきたいと思いました。」 ああ、なんて爽やかで真っすぐな言葉なんだろう。 ぼくたちはこのミュージカルを、 できるだけたくさんの人に観てもらいたくて、 いろんな紹介のしかたを考え、もがいてきました。 昨年秋の初演は、最終日こそ満席になり、 公演成果が紀伊國屋演劇賞団体賞につながりましたが、 宣伝不足のため初日後しばらくは、 1階の前半分がやっと埋まっているだけ‥‥ 興行的には「惨敗」だったのです。 だから今年は絶対に成功させたい。 大阪公演まであと1か月。その願いが、 ともすると焦りに変わりつつある時期でもあります。 それが宮さんのこの言葉にはっとさせられたのです。 なにもぼくたちが飾る必要はない、特別な売り文句も、 くどくどとした説明もいらないかもしれない。 見えるもの、感じることを、素直に伝えられたら、 それがいちばん、『ナイン THE MUSICAL』を 伝えることになるじゃないか。 去年、『ナイン THE MUSICAL』で なにかを変えられた人が、いま、 新しい『ナイン THE MUSICAL』をつくっています。 それが、この作品が放つ不思議なチカラです。 (あすに、つづきます!)
illustration=UNO |
2005-04-15-FRI
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