今年『ナイン』は大当たりする! 去年は知らなかったくせに、応援します。 |
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 第四回 去年はこんな感じでした。 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 「上質な舞台、しかし寂しい客席」 2004年秋の『ナイン THE MUSICAL』は、 新聞の劇評にこんな見出しで書かれてしまいました。 受付係をしていた松本さんは、 終演後のお見送りに立っていると、 毎日必ず、ひとりふたりのお客さまから、 「空いた席がもったいないわ」とか、 「がんばんなさいよっ」と声をかけられたそうです。 それほど空席を残してしまった前回公演。 そのころ、ぼくは他の公演に関わっていたため、 稽古も遠巻きに眺めていただけですが、 それでもわかりました。 tptが初めて製作するミュージカル、 それは、つくるだけで、 本当に精一杯だったのです。 本拠地のベニサンピットでやって来た公演とは、 規模もスタッフも違いました。 なにより、キャスティングの基準が違います。 特に『ナイン』の曲を歌えるということが、 どれほど凄いことか、 ぼくはオーディションを通じて感じました。 歌いこなせる俳優は、ほんとにごくわずか。 俳優たちと会うために来日していたデヴィッドが、 キャスティング会議で言いました。 「演技のことは助けてあげられる。 でも、歌の技術は簡単には助けられない。」 演出家が求める歌唱力の基準によって、 個性という点ではとても魅力的な出演者候補を、 次々とあきらめなければなりませんでした。 最後の最後まで粘り強く続けたキャスト探し。 そしてついに素晴しいキャスティングが実現したとき‥‥ 公演初日があまりにも間近に迫っていたのです。 衣装づくりもハラハラでした。 本番50日前、亘理(わたり)プロデューサーが 衣装製作の打ち合わせにブロードウェイへ向かいました。 決定した全キャスト分の採寸表を渡すと、 外国人衣装チーム3名が仮縫いをして来日。 みんな大興奮の衣装合わせ。 が、日本版キャストのイメージを大切にしたいと、 ジュリエッタ、サラギーナ、ルイザの衣装は、 デザインし直すことに。 とくに山田ぶんぶんさん(ジュリエッタ)の衣装は、 ブロードウェイ版から大きくイメージが飛躍しました。 オリジナルは黒のミニワンピースでしたが、 全体にリボンでストライプを追加することに。 デザイン変更分も含め、 すべての仮縫いがブロードウェイに戻され、本縫製へ。 ところが、ジュリエッタの衣装に必要なリボンが、 ニューヨークに在庫がなく、 日本で買って急いで送ってほしいとのこと。 指定のリボンを探して走り回った宇野さん。 じつはこのとき、なんのためのリボンかを、 聞かされていませんでした、 とにかく大至急ロール買いせよ!ということだけで。 ついに蔵前の老舗で発見。即購入。即フェデックス。 そして再び送られて来た本番用衣装。 宇野さんが蔵前で買ったライトグレーのリボンが、 見事なストライプにデザインされて帰ってきました。 ああ、衣装だけでも太平洋2往復! そんな感慨にひたる間もなく初日でした。
ほかにもまだ、はじめての冒険につきものの、 遠回りや手探りがたくさんありました。 日本のミュージカル界の「あたりまえ」や、 スタッフ選びの難しさにも直面したり… にもかかわらずtptは、 ライオンや怪人やヘリコプターが登場する、 誰もが知っているミュージカルとは 態度も方法もまったく違う、 こだわりのミュージカルづくりを選びました。 それはこういうことです‥‥
大劇団・大劇場が製作する場合、その多くは、 莫大なお金を払って、 上演したいミュージカルに関わるすべての権利を 丸ごと買い取ってしまいます。 そうすれば、宣伝の素材やデザインから、 演出・衣裳・小道具の細部にいたるまで、 本家本元と同じもの(その日本語版)ができるのです。 なにかを新しくつくる必要はありません。 代わりに、なにも変えられないという制限がありますが。 tptが選んだ方法は、 いつものストレートプレイを上演するのと同じでした。 作家や演出家や、装置、衣装、照明などの デザイナーひとりひとりと個別に、 必要な契約を結んでいったのです。 根気も手間もかかりますが、 予算をコンパクトにすることができて、 しかもそれはとてもフェアなことです。 プロデューサーの門井さんに聞きました。 「なぜほかの人はそのやりかたをしないんでしょう?」 すると、とてもわかりやすい答えが返ってきました。 「ほかの人のことは知らないけど、 俺はこれを日本で“つくろう”と思った、それだけ。 『ナイン』を、つくりたかったんだから。」 ブロードウェイ・ミュージカルが日本に来た、とか、 ブロードウェイからミュージカルを買ってくる、とか、 そういう言いかたを聞くことがあります。 でも、tptのプロデューサーとデヴィッドは、 「日本で“つくりたい”」という、 その気持ちから出発して、それを目的にしています。 つくりたいから──。 あたりまえのような、でも、最強の動機です。 とにもかくにもそんなわけで、 2005年5月、『ナイン THE MUSICAL』、やるんです。 オリジナル・ヴァージョンをなぞるのでなく、 れっきとした「日本版」として、 去年秋の再演でもなく、新しい命を吹き込んで。 この3月、新しく主演の別所哲也さんと、 4人の女性キャストが選ばれ、決定しました。 遠い国の人間になろうとするのではなく、 デヴィッドのしなやかな手引きによって、 自分の文化と個性に自信を持って演じはじめています。 同じ作品だけど、繰り返しじゃない。 新しく、再生する。 これが『ナイン THE MUSICAL』を、 “つくる”という意味だと思います。 (つづきます!)
illustration=UNO |
2005-04-19-TUE
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