今年『ナイン』は大当たりする! 去年は知らなかったくせに、応援します。 |
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 第五回 『8 1/2』と『ナイン』のこと。 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 稽古は快調なペースで進んでます。 先週末には「リトル・グイド」 (主人公グイド=別所哲也さん、の子供時代)が、 3人全員一緒にそろっての稽古でした。 リトル・グイド役は3人の子役が交替で演じるのです。 樋口くんは去年秋からの連続出演。 新人くんふたりをリードして、すっかり兄貴です。 本番はひとりずつのはずの舞台の上に、 まずは3人一緒に稽古しました‥‥ 「大人グイド」の別所さんに 帽子を被せてあげる場面では、 別所さんの頭に帽子が3つ重なりました。 いつもは女性たちに囲まれてる別所さん、 この日の笑顔はまたちょっと格別です。 さて、きょうは 『ナイン THE MUSICAL』がモチーフにしている 映画 『8 1/2』の話です。 『8 1/2』。はっかにぶんのいち、と邦題では読む、 変わったタイトル。 映画好きの人なら一度は、 このヘンな題名を目にしたことがあるはず。 イタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニが、 1963年に撮った映画です。 新作準備のためスパ・リゾートを訪れた映画監督の、 創作の苦悩を描いた自伝的作品。 フェリーニの分身「グイド・アンセルミ」役を、 マルチェロ・マストロヤンニが演じました。 『8 1/2』という数は、 それまでフェリーニが監督した映画の本数に、 短編の共作を1/2として足したもの、 とされています(が、真説かどうかわかりません)。 『ナイン THE MUSICAL』は、 この『8 1/2』から生まれました。
1963年、高校生のモーリー・イェストンは、 『8 1/2』をミュージカルにしたいと思いたちます。 彼はそこから本格的に作曲を学びはじめ、 曲をつくり、やがて劇作家のアーサー・コピット、 演出家のトミー・チューンに出会うことに。 そして誕生したのがトミー・チューン版『ナイン』。 1982年、ついにブロードウェイ上演が実現すると、 トニー賞ベスト・ミュージカル賞、 ベスト・オリジナル・スコア賞に輝きました。 フェリーニはモーリー・イェストンに、 感謝の言葉を贈ったそうです。 「『8 1/2』を『9』にしてくれてありがとう」 それから14年後に、 『ナイン』はデヴィッド版で生まれ変わり、 今度はトニー賞ベスト・リバイバル賞を受けます。 『8 1/2』は人間の頭のなかで起きていることを、 斬新に、そして見事に描ききった映画です。 それは創造する人間の苦悩そのものとなっています。 映画のなかでマストロヤンニの「グイド」は、 しょっちゅうぼんやりとなにかを見つめます、 見つめながら、つくるのです。 なにをって、つまり幻想(映画)を。 こんなことを言うと、 小難しい映画に思われてしまいそうですが、 深刻さからはほど遠い、ユーモア盛りだくさんの、 荒唐無稽で、圧倒的で、なのに軽い。 主人公「グイド」の際限ない欲望と、 それとは対照的な小心者ぶりに、 巧い! とか、わかるわかる! と、 1分に1回つぶやいてしまう映画です。 じつは『8 1/2』は、フェリーニが、 へそを曲げてしまった妻への弁解につくった作品、 とも言われています。 1959年、フェリーニは『甘い生活』という映画で、 カンヌ映画グランプリを手にします。 マルチェロ・マストロヤンニの初主演も、 「パパラッチ」という言葉を生んだものも、 この映画からだったのですが、 フェリーニ自身にも「甘い生活」がおとずれます。 60年代は、アナーキーで大胆な性の時代でした。 フェリーニには、映画を撮り始める前から、 妻にして女優のジュリエッタ・マシーナがいました。 しかし『甘い生活』の成功の陰で、 夫婦関係が危うくなっていたのです。 ジュリエッタが愛想を尽かし、 家を出てしまったときに撮ったのが『8 1/2』です。 映画作家にとっての苦悩を吐露する一方、 身もふたもないほど、 自分自身のことをあからさまに描いています。 たぶん、スクリーンの前の妻へ向けて。 フェリーニが『8 1/2』で描こうとしたのは、 じつにいろんなことをみせてくれつつも、 やはり「夫婦愛」に違いありません。 男の頭のなかに渦巻く、馬鹿げた妄想や、 残酷な自己愛を描きつつ、 わかってくれよジュリエッタ! と、 妻を説き伏せようと必死で滑稽なフェリーニが 思い浮かぶのです。
映画監督にはフェリーニ・ファンがたくさんいます。 ヨーロッパだけでなく、アメリカにも日本にも。 なにかものを作る職業の人たちにも、 フェリーニと聞いたら黙っちゃおれん、 という人たちが大勢いるんじゃないでしょうか。 この映画以降、自画像を描こうとする映画監督は、 『8 1/2』を意識しないわけにいかなくなりました。 映画監督が登場する映画を思い浮かべると、 どうでしょう、『8 1/2』と似ているか、 どこか影響を受けてる感じがしてならないんです。 『8 1/2』同様、『ナイン THE MUSICAL』もまた、 夫婦の愛を描いたミュージカルです。 ですが、デヴィッド版に関しては、 女性への愛、そのすべてを讃えているようです。 『8 1/2』よりも愛の範囲が広いかもしれません。 ストーリーの大きな流れは、 だいたい『8 1/2』に沿っています。 仕事に行き詰まり夫婦関係の危機を抱えた男が、 スパにやって来て新作映画を撮る話、 という点はまったく一緒です。 主人公の名前も、妻の名前も映画のまま。 ほかにも共通する登場人物がたくさんいます。 そのなかでちょっとおもしろいのは、 『ナイン』に登場するクラウディア・ナルディ、 純名りささんが演じる「女優」の役ですが、 『8 1/2』にも出演している、 クラウディア・カルディナーレがモデルです。 このもじり具合、ぼくは大好きです。 さて、『ナイン THE MUSICAL』が 『8 1/2』といちばん大きく違うのは、 登場する男性が「グイド」ひとりということです。 これはトミー・チューン演出の発明です。 「グイド」以外は全員女性のミュージカルとして、 『ナイン』の大きな特徴をつくりあげています。 そしてもうひとつ、 『ナイン』というタイトルが示すのは、 9歳という年齢です。 「グイド」は9歳で、 恐怖と罪の意識を植えつけられます。 同時に、女性へのあこがれを抱き、 将来の創造のテーマにしていくのです。 40歳の映画監督「グイド」は人生の崩壊を目前に、 9歳の「グイド少年」に出会うのですが‥‥ ここから先はひかえましょう。 (つづきます!)
『ナイン』大阪公演初日まで illustration=UNO |
2005-04-20-WED
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