今年『ナイン』は大当たりする! 去年は知らなかったくせに、応援します。 |
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 第十回 巨大壁画の女神が出現?! ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 4月29日、東京での最後の稽古。 演出家は今回のリハーサル中に何度か口にしたことを、 最後の稽古場でも繰り返し、締めくくりました。 「今までぼくが知るなかで、 このカンパニーはいちばんだ!」 そして演出家はそのまま大阪へ。 キャストは30日と1日に別れての移動です。 大阪シアターBRAVA! では、 すでにセットが建ち上がっています! 美術はスコット・パスク。 衣裳・小道具はヴィッキー・モーティマー。 ヴィッキーは演出のデヴィッド・ルヴォーとともに、 tptでずっとコンビを組んできた世界的才能です。 昨年日本では、野田秀樹さんの『赤鬼』 (ロンドン・ヴァージョン)も手がけています。 『ナイン THE MUSICAL』のセットは、 一見とてもシンプルです。 でもよく見ると、現代と古代がミックスされた、 不思議な雰囲気を漂わせています。 そして、後半にはスペクタクルが‥‥ 初演時に来日したブロードウェイのスタッフは、 日本人スタッフがたった3日でセットを 建て込んだことに驚きの声を上げました。 「彼らは天才だ! ブロードウェイでは最低1週間はかかるのに!!」 しかも巨大壁画「三美神」の出来ばえには、 ブロードウェイよりすばらしい、と。 「三美神(スリー・グレイセス)」というのは、 イタリア・ルネサンスの巨匠ボッティチェリが ローマ神話を題材に描いた、 『プリマヴェーラ(春)』のなかの三人の女神です。
『ナイン THE MUSICAL』の後半、 この巨大壁画「三美神」(約12メートル!)が出現し、 さらに大量の水(なんと11トン!!)を使っての スペクタクル・シーンがあります。 演出家はこの大量の水について、 三美神の「哀しみの涙」であり、 映画監督グイドが女性たちから得た、 「芸術的ひらめきの洪水」とも言います。 (ここは見せ場のひとつです、 これから観てくださるかた、 このシーンしっかり観ていてくださいね、 同時にいろんなことが起きてますから!) で、なぜ、ボッティチェリなのか? それは観客席のひとりひとりの想像力に まかされることだと思います。 ですが、絵画に疎かったぼくが、 先に知っていればもっと楽しめたと思うことを おせっかいながらお話ししちゃいます。 『ナイン』の舞台はイタリア。 ローマ法王のお膝元、カトリックの国です。 「ローマ」も「カトリック」も、 とくにユダヤ人を中心とする芸術文化圏からは、 嫌悪や憎悪の対象とされてきました。 ローマ・カトリックには、 男性優位の最も保守的な宗教として、 女性の地位向上を妨げて来た歴史があります。 (『ダ・ヴィンチ・コード』がそういう話でした!) カトリックの社会に生きたボッティチェリが、 ローマ神話の世界を題材に選んだのは、 厳格な宗教規範と正面衝突することを避けつつ、 女性美を思い切り描く手段だったからでしょう。 そして『プリマヴェーラ』のなかに、 春の訪れと喜び、愛と人生を、 芸術的寓意を込めて表現したのです。 ボッティチェリの「三美神」は、 女性美の象徴であるとともに、 映画監督グイド・コンティーニの 芸術を創り出す魂の象徴として、 『ナイン』の舞台美術に選ばれたのだと思います。 また、「三美神」は、 グイドが求める三人の女性にぴたりと重なります。 愛人カルラ、妻ルイザ、女優クラウディア。 幼少から厳しいカトリックの教育を受けたグイドが、 人生の難関に打ちあたるたび救いを求めたのは、 教会が教えた神さまではなく、「女神たち」でした。 女性を讃えるミュージカルであり、 世界でいちばんセクシーなミュージカル── デヴィッド・ルヴォー演出の『ナイン』にとって、 ボッティチェリの「三美神」は、 これ以上ないと言える象徴です。 (「三美神」以外にも、3という数は、 『ナイン』には意味深い数字のようです。 前半、甘い妄想に漂うグイドは、 「きみとさえいれば」と歌いながら、 3人の女性──ルイザ・カルラ・クラウディアに 囲まれます。 できてもいない映画の構想を披露する場面では、 3人の女性──リリアン・リナ・ネクロフォラスに 追いつめられます。 その構想に登場するのは、 3匹のカプチン・モンキー── カトリック僧に似たサル、だったり‥‥) セットの「三美神」を描いたのは、 美術工房拓人の松本さん。(正座している人です) 「ランちゃん、スーちゃん、ミキちゃん、 (三美神をこう呼んでます)調子はどうですか? ちょっとキズモノになって帰って来たなー、 大人になっちゃたねぇ」 去年秋のとある深夜、 壁画から水が湧き出るシーンのテストのため、 松本さんは脚立の上から大きなじょうろで 水をかけていました。 巨大な壁画は何パーツも分かれているので、 継ぎ目に凸凹があると、 水は飛び跳ねて壁をつたっていきません。 「あっスーちゃんがやばい!」 「ランちゃんは問題なし!」 時間に追われ緊迫した状況のなか、 現場が和んだことを思い出しました。 ブロードウェイを超えた、 日本の「天才」スタッフのひとりです。 昨年秋のステージ写真(撮影=星野尚彦)です。 さあ、あとすこしで初日を迎えます。 (つづきます!) |
2005-05-03-TUE
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