今年『ナイン』は大当たりする!
去年は知らなかったくせに、応援します。


シェフ
(大声で)♪グイード・
コンティーニ〜!!!

べ3
なんですか、宿についたとたん
大声を出さないでくださいよ!

シェフ
♪フォーリー・ベルジェール♪
(遠くを見ながら
 くねくねとステップをふむ)

べ3
畳の部屋で踊らないでください!
観てない人にはなんのことか
さっぱりわかりませんよ?
しかもそれ、女性達の群舞です!

シェフ
いっしょに踊ろう!

べ3
‥‥(冷静に)、
というわけでぼくらは
いま大阪に来ております。
昨日の『ナイン』大阪公演、
初日を観てきました〜!

シェフ
あのね、あのね、
これさ、いままで
「去年は知らなかったくせに、
 応援します」
と言ってきたんですけれど‥‥

べ3
もう、胸を張って言えます。

シェフ
みんな観なさいっ!

べ3
声が裏返ってますよ。
じつはぼくら、
前日の公開舞台稽古も観て、
それもすばらしかったんですけど、
じっさいにお客さんが入り、
初日っていう
とくべつな緊張感のなかで
演じられた『ナイン』。

シェフ
明らかに!!!
魔法が、かかってましたよね?!

べ3
昨日糸井さんが書いてた通り、
「鳴りやまない拍手が聞こえる」。
その通りでした。
カーテンコールでは、
スタンディングオベーションに!

シェフ
(大声で)ブラボー!!
さあいっしょに!

べ3
(困ったなあ‥‥)
ぶ、ぶら‥‥

シェフ
それはそうと、
終演後、ほぼ日ハラマキストでもある
高橋桂さん、ええと、
主人公グイドの奥さん役ですね、
その高橋さんと
お話をさせていただいたんですが。

べ3
「お客さんの拍手が、
 舞台の私たちに、
 ほんとうにとくべつな
 力をくれるんです」
って。

シェフ
大阪のお客さんって、
すごいよね、
もう、ノリノリで、
♪フォーリー・ベルジェール♪
(うろおぼえで踊り出す)

べ3
客席で踊ってる人は
いませんでしたよ。

シェフ
心では踊ってたんだよ!
みんな!

べ3
ま、ともかく、
キャストのみなさんは、
はやく舞台に上がりたくて
ワクワクして待っているそうです!
それから、生のオーケストラが
お芝居にかんっぺきに
シンクロしてるんですよね。

シェフ
指揮者の時任さんと金丸さんに
お聞きしたんだけれど、
指揮をしながら、演技を観て、
タイミングを合わせてるんだって!
だからほら、
あのシーンで、あの音楽が‥‥

べ3
それ以上は言っちゃダメです!
ともかく役者さんたちも、
オーケストラも、
スタッフも、
それからお客さんも、
一体になっての舞台って
感じがすごかった、と!!

シェフ
その雰囲気をお伝えすべく、
公開舞台稽古の画像ですが
3枚、見せちゃいます!
じゃーん!!



べ3
ああ、もう一回、
観たくなってきましたね。

シェフ
観ますか!

べ3
えっ‥‥きょう、
東京に帰るんじゃ?

シェフ
新幹線夜のだもん。
昼の回、2時からで、
当日券がすこし出るって
キウチさんに聞いたよ。

べ3
あ、じゃあ、
観てきましょう!
大阪のみなさんも、
全12公演、
それぞれ当日券の
用意があるそうなので‥‥

シェフ
絶対観なさいっ!

べ3
声裏返ってますよ。


               
第十四回 「グイド・コンティーニ」は
こんな男! ──その3

               

ことしは遅咲きだった桜が開花した日、
デヴィッド・ルヴォーが稽古場に着きました。
キャストたちが「お帰りなさあい」と、
よく通る声で彼を迎えてから5週間──

『ナイン THE MUSICAL』2005年日本ヴァージョン、
ついに開幕しました。

きのうの大阪公演初日の興奮を、
きょうはぐぐぐっとおさえてお話します。

●幸せと悲しみの「グイド」



「最高に幸せな瞬間が、
 もうそれ以上はないという意味で、
 悲しく感じることはない?」

「Only With You」という曲に入る前、
デヴィッド・ルヴォーが別所さんに問いかけながら、
はにかんだのを覚えています。

「今、グイドが妻を抱いてるのはテーブルの上だけど、
 テーブルはもう運河を漂うゴンドラだ。
 重要なのは、すぐ下に水があるということ。
 けして止まることない緩やかな流れの上にいる。
 水がむずがゆいエロスをかき立てて、
 エロチシズムと悲しみを結びつける。」

“愛の演出家”デヴィッドは、
水の都にやってきた夫婦が、
水のもたらす不思議な力によって、
“最高に幸せで悲しい”セクシーな会話を
ここでしてるんだと言いました。

このミュージカルが、
世界一セクシーなミュージカルだという意味は、
そういうことなんだなあと思った箇所です。

(そう言えば日本の名曲『神田川』も、
 たしか銭湯で、川べりで、
「あなたのやさしさが怖かった」とか…
 まあ、それはともかく──)

「グイド」は一片の嘘もなく、
妻に向かって「きみとさえいれば」と歌います。
しかし、しかし、しかし──
彼にとって必要不可欠な女性はひとりじゃありません。
みんなを必要とするんです、それぞれに。
「きみとさえいれば」と愛人カルラに歌い、
女優クラウディアに歌い、少なくとも16人に‥‥

「人に理解されるのは難しいとわかっているから、
 だんだんメランコリックになっていく。」
と、デヴィッド。
『ナイン』で唯一、ポップスのような曲。
「グイド」がいかに大人になれないかという歌が、
これです。



●さて、「グイド」が撮る新作とは?

彼の映画人生がかかった問題の新作──
それは女優クラウディアに、
「愛しのカサノヴァ!」と呼ばれた瞬間、
頭のなかにひらめきます。

自らカサノヴァを演じ、
古典世界に現代をミックスした、恋愛スペクタクル。
舞台は、人生の光と影を映す、
水の都ヴェニスのグランド・キャナル。

「カサノヴァ」は18世紀に実在した、
ヴェニス生まれの文人にしてプレイボーイです。
サン・マルコ広場を舞台に口説いた女性は数知れず、
ヴェニスの政府ににらまれるほど。
反宗教的活動の罪で投獄されたところまで、
ヴァチカンとやりあってきた「グイド」にだぶる
見事なキャスティングです。
(この場合は誰を讃えたらいいんでしょう?)

実在したカサノヴァはその後脱獄し、
ヨーロッパ各地で女性遍歴を重ねました。
『回想録』には、「官能の喜びを深めることが、
つねにわたしの主要な仕事だった」と。
「グイド」もそのカサノヴァになりきって、
「わが人生すべからくアモール!」と歌います。

(※1976年、フェデリコ・フェリーニは
映画『カサノヴァ』を撮っています。
フェリーニ特有の人工的なセットのなかに、
人形から老婆から女性なら誰でもという男を
描き出しました。)

また水の都ヴェニスには、
「グイド」の求めるものすべてがそろっていました。
大聖堂の塔があり、男女でにぎわう広場があり、
聖なるものと俗なものが同時にあるロケーション。
愛に生き、歌に生き、食に生きるイタリア男の、
聖地のようにも思えます。

まずは、水の都の象徴「ゴンドリエ」。
ゴンドリエは、運河を行くゴンドラの漕ぎ手のことです。
今も昔も、カンツォーネを歌えなければ、
ゴンドリエはつとまりません。
歌ってこそのイタリア男、しかも恋の達人。

つづいて、「椿姫」の登場人物を思わせる高級娼婦。
こちらも愛に生きる女性。

妻ベアトリーチェがカサノヴァに差し出す小道具は、
オリーブ、プロシュート、ビーノ・ビアンコ。
全部イタリア人のソウル・フードです。

映画は「グイド」がこれまで女性たちから受けた、
数々のインスピレーションの結晶のように思えます。
そしてそこに愛人カルラや、女優クラウディア、
さらに最愛の妻ルイザが登場すると──
そこに浮かび上がるのは、
グランド・キャナルの水面に映る虚像のような、
現実が創造に折り重なった、
「グイド」映画の世界です。

そしてもうひとつ思います。
「水」の演出がもたらした多重層の意味の世界、
これはグイド・コンティーニの世界でありながら、
デヴィッド・ルヴォーの世界なのかもしれません。



(つづきます!)

※このページに掲載の3枚の写真は、すべて稽古風景です。


2005-05-07-SAT
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