「糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!」 〜釣りに行こう〜 制作スタッフ座談会 その1 釣りをしたことのない制作スタッフと、釣り経験30年の 監修スタッフのギャップを埋めることから始まった。 |
いよいよ3月31日に発売が決定したNINTENDO64ソフト 『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』 今回からは、ゲーム制作スタッフである 『株式会社ダイス』のみなさんと、 釣りアドバイザーの倉恒さんらをむかえて、 「おれたち、こーんなに苦労したんだっけなあ」 座談会をお届けします。 |
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──いま(2000年2月)はこのゲーム、 どういう段階なんですか? |
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サイトウ: もうバグをとるだけ……にしたい、ですね(笑)。 倉恒: いやいや、まだまだあるんやで、やることは。 たとえばな……、 小関: もう終りましたって(笑)。 武久: 出なくなっちゃうでしょう! 能登谷: (まじめに)いまは、商品として出荷したときに 問題がないかどうかの検証作業をして、 問題があれば修正する、という段階です。 武久: 3月31日発売ですからね。 (糸井、遅れて登場) 糸井: いやぁ、昨日、家にROM(『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』開発中のもの)を持って帰ってやってみたんだ。 このゲーム、すごいよ。ほんとに釣りって難しい、 ってことが、よくわかったよ。 サイトウ: 釣りが好きで、このソフトで遊べる人は、 幸せだと思います。それくらい、面白いと思いますよ。 糸井: そうだね……いきなり、ものすごい核心の部分に 踏み込んだね(笑)。 |
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小関: マイク意識しすぎじゃない? もっと最初の部分から 話そうよ。 ──倉恒さんというのは、どういう立場の方なんでしょう。 小関: 倉恒さんがいろいろな課題を出すわけです。 それをありがたくいただいて、 われわれが形にするわけです。 倉恒: もとをただせば、ダイスの皆さんというのは、 アベキさんをのぞいて、釣りをする人がいなかった。 「なにもわからない」という状態に近かったんですよ。 それで、一回、みんなで釣りに行こうというところから 始めました。プログラムするのに、ルアーの動きとか、 魚の動きを知りたいというので。それで、 琵琶湖に合宿に行こう、ということになったんです。 その合宿がねえ、けっこうトボケた合宿でねえ(笑)。 サイトウ: 何をやってたんだ、っていう合宿でしたよね。 倉恒: あとから考えるとおかしくって。 その合宿というのは、琵琶湖のほとりにある釣り用の ホテルを基点にして行ったんですよ。 糸井: そのホテルって倉恒さんがプロデュースしたんだよね。 いろんなことをやってる人なんだよね。 倉恒: あるんですよ、そういうのが。 そこのプールにね、魚が、いつもいるんです。 魚の動きとか、ラインの動き、これを今回のゲームでは 実際に近い動きにしたい、というので、そういうところで 撮影して、みんなで体験しながら取材しましょう、 ということになったんです。 でね、行ってみた。ところがその当日、雨で、 撮影しようって思ったら、プールが濁ってる。 小関: 琵琶湖も濁ってた。 倉恒: カメラで撮るにも撮れへんわ。 |
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小関: 京都の釣具屋さんにでかい水槽があるから、そこに 行きましょうかって話をしたんだけど、 「底に白い板を敷けば、けっこう見えるぞ」ってことに なって。 倉恒: 無理やりそこで撮影したんだけど……。 小関: しかも、水中撮影しようと思ったんだけど、8月なのに、 けっこう寒かった。雨降っててね。倉恒さんの指示でさ、 「潜れ」っていうから潜ったんだけど、 「なんにも見えませーん!」っていう状態で。 「じゃあ上がって」って言われてホットしたら、 ちょっとして「もう1回入れ」って。 アベキ: さらに、ダメ押しで、もう1回、入ったんですよ! ──それで、その合宿の成果は……。 倉恒: あったんだっけ? サイトウ: ありましたよー。 倉恒: あったの。何があったんだっけ。 アベキ: ルアー自体も、けっこう撮れてたんで。 倉恒: そうなの。 小関: 結構、倉恒さん、自分でも撮影してたじゃないですか。 糸井: 話を面白くしようとしてるでしょ。 |
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アベキ: キャスト風景とかも入っていて。 倉恒: そや。竿の動きとか、ラインの沈んでいくのが、いろいろな リグ別にあったりしたもんね。光りかたとか。 小関: 成果なかったら、出張費が無駄になっちゃうんで、 困っちゃうんですよ。 サイトウ: その合宿の成果は、実は大きかったんですよ。 ラインが沈んでいく感じだとか、そのときにアタリが 来たら、波紋でわかる、ということだとか、こういうことが わかった。釣りのことを知らない僕ら的には、 いちばん大きかったですね。 あと、釣りをしているときの、雰囲気。 湖なんだけど、岸辺に近づくと波の音がうるさいんだな、 とか、そういうことってやっぱり実際に行かないと、 わからなかった。 小関: うちはアベキ以外、釣りをやったことがなかった。 だから倉恒さんからの最初の要望は、 「釣りのことをもっと知れ。もっと勉強しろ」 ということでしたね。 倉恒: だから最初はギャップがありましたよ。 いろんなことをお話するんですけれど、そういうことが わかる状態じゃなかった。 アベキ: 僕が通訳して、みんなに説明するみたいな。 |
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小関: スーパーファミコン版のころからかかわっているので、 釣りの用語は、わかっていたんですけどね。 倉恒: でもね、前のときは、いろんなものを削り落として、 最小限残ったものでつくった、という形でしたからね。 今回は3Dになったことで…… 糸井: 2Dと3Dって、 「ポンジャン」と普通の麻雀くらい、違いがありますよ。 ドラえもんの札と、本物の麻雀牌くらい、違う。 倉恒: そういう話を聞いてもらう状態としても、まったく次元が 変わっている。だから、「どういうことなんだ、それは?」 ということが、いっぱい、あったと思いますよ。 そういうの、あったでしょう? 小関: ありました。正直、あったけど、 倉恒さんについていくしかない、と思って。 ──最初は、どういうところから、 ギャップを埋めていったんですか。 糸井: おおもとは、粘土を作ったあたりじゃないのかなあ。 あれは、前作のときからの話だけど、 原点はあそこでしょう。 倉恒: 前作の、釣りのフィールドがあるんですね。それを実際に 粘土で立体化したんですよ。 あのときから、すでに、今回のように、3Dというか、 現実的な釣りの世界を思い描いていたんだと思うんです。 山があって、流れ込みがあって、っていう。 小関: そこに、つまようじとかで、「ここがポイントや」って 置いていくんですよ。 |
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倉恒: 僕は釣り経験が30何年なんで、いろんな釣りの シチュエーションを見ていたりして、 あこがれる場所というのがあったんですね。 その当時はまだバスフィッシング・ブームの始まりの頃 だったんで、今ほど情報が流れていなかった。 どういうところがいい場所かとか、どういうとこに魚が いるかとか、人間から見て「こういうところで釣りが したいよね」と思う場所だとか……そういう思いって、 ゲームだと具現化しやすいので、 どんどん出てきちゃうんですね、自分の中から。 でも、それって、釣りをしたことがない人からは、 「なんでここに木があんねん?」とか 「なんでここに流れ込んでなあかんねん?」、 「なんでここに人工ストラクチャーがあるねん?」。 そういうことが、わからない。 そのギャップを埋めていくことから、でしたね。 だから「釣り場に行ってくれ」というのが いちばん早いんですけど、実際に湖に行っても、 「こんなものがありました」というのと、 「実際にそこで釣ってみました」というのは違う。 釣ってみないと、わからない。 とはいえ、湖はどんどん釣れにくくなっていくから、 「大場所」と言われる、いいポイントですね、 そういう分かりやすい部分が、釣りづらく、 分かりにくくなっていくわけですよ。 その体験を共有化してくださいというのは、 非常に難しいことですね。 |
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──その後も、実際の釣りには…… 小関: みんなで行きました。 アベキ: 僕が釣り好きなもので、みんなを誘ったりして。 そういうことを何度か繰り返しましたね。 倉恒: 今となっては、ものすごいよう勉強されたんで、 よう知ってますよね。 サイトウ: 風景を見ただけで、すべてわかるくらいになりました。 湖を見ると、水がない状態での地形が見えますからね。 倉恒: だんだん釣りの技術的な事も言いはるようになってね、 こちらがドキっとすることもあるんですよ。 でも、実体験ではない部分があるから、 まだそこにギャップはあるんですけどね。 写真と文字だけでここまでになった人たちというのは、 珍しいと思うんですよ。 糸井: 最高の教育システムだったんだね。これで今度は 「株式入門」っていうソフトつくったら……(笑)。 倉恒: 僕は、そのギャップ、埋まるとは 思っていなかったんですよ。 でも、勉強されたんでしょうね。 埋めてきていただいたんだと思うんです。 僕は、逆に、歩み寄ることはしませんでした。 だって、歩み寄るってことは、あきらめていく作業だ、 というところがあったんで。何を言うてきはっても 「いや、やらなあかんわ」の一点張りで。 |
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小関: 頑固なんですよー。星一徹ですよ。 倉恒: プロデューシング・チームのほうから 指示が飛ぶじゃないですか。その指示と、 ゲームの中で釣りとしての精度を上げたり、 釣りの部分をより深めたりすることとは、 相反することが出てくるんですよ。 アベキ: たとえばルアーをつくりましょう、 という段階があるとしますよね。 僕ら、ふだん、ルアーを見て研究してますから、 作ったものに対して「本当はこうじゃないんだよな」 とか思いながらも、ゲームとしての制限を考えて、 「これ以上はできないかもしれない」 という、自分の中で、負けてしまう、弱気になる 気持ちになるときがある。 そういうときに倉恒さんが、 「これじゃ、まだダメだ」と言ってくれると、 「実際に釣りをする人を納得させるには、 もっとやらないとダメなんだ」と、燃える。 「もうちょっとやらせてください」って。 糸井: たとえばさ、魚の形をしたルアーが魚のように自然に動く、 というところまで、ゲームって、作りがちなんだよ。 でも、実際の釣りって、『自然に動いている』 ということでは魚は釣れないわけ。 急にある衝撃を与えたり、不規則な動きをさせたり、 どこかにぶつかったからへんなふうにはじけた、とか、 リニアではない動きを考えなければいけないわけ。 「だから釣れるんだ」というのが釣りをする人が 知っていることなんだけれど、素人を釣りに連れてくと、 どれだけ「魚のように」きれいにルアーを動かしたかで 魚が食うと思うんだよ。 でも実は「どれだけキタナク動くか」というところで、 魚は食いつくわけだよ。それはもう、他のゲームでは、 わかっているやつがいても、していなかったでしょう。 どんどん潜っていって、根がかりをして、力がかかって 外れるときに、「平打ち」っていうんだけど、 ヘンな動きをするわけ。 そこに死にそうな魚の動きが生まれるわけで、 なんて言うんだろう、直線で動いてたものを ジャンプさせろ、みたいな話ですよ。 小関: あったなあ。 サイトウ: あったね。 糸井: それは、プログラムする人もたいへんだし、 絵の表現もたいへんだし、不規則な動きをいくつか 作っておいて、それを当てはめるだけじゃ、 満足がいくわけじゃないし。 |
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サイトウ: スタート時点で、ルアーの動きに関しては、 アニメで表現する、というスタイルで進めていたんですね。 それは、スタッフの人数であったり、かけようと思っていた 時間であったり、そういうところから判断して、 1個1個ルアーをプログラムで作っていたのでは、 到底、やり切れるものではないという発想のもとに、 アニメでずいぶん作ったんですよ。 平打ちのパターンだったり、フォーリングで落ちていく パターンだったりとか、スイミングで泳いでいくパターン、 それでもいっぱい作ったんですけれども。 それでだいたい見れる段階になって見ていただいたら、 「これじゃ、ダメですね」っていう……。 まず、そこでね。 糸井: まずそこが、いちばん大きかったでしょう。 サイトウ: そこが、いちばん大きな葛藤がありましたね。 倉恒: ぼく、いま、針のむしろやわ(笑)。 糸井: 規則的な不規則、しかできないですもんね、アニメって。 できているものを呼び出すだけだから。 サイトウ: 用意しているパターンを呼び出すだけだから。 で、アニメを全部捨てて、プログラムでちゃんと、 重力や、水の抵抗や、物に当たったときの抵抗を計算して 動きを再現する方向になった。 それが最初の、一番大きな展開でしたね。 糸井: 大きいよねえ。 |
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次回は、この座談会の続きをお届けします。 さらなる制作のヒミツ、いっぱい聞けると思いますよ。 |
2000-03-03-FRI