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イメージ 「糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!」
 〜釣りに行こう〜

 制作スタッフ座談会 その1
 釣りをしたことのない制作スタッフと、釣り経験30年の
 監修スタッフのギャップを埋めることから始まった。
 
 
いよいよ3月31日に発売が決定したNINTENDO64ソフト
『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』
今回からは、ゲーム制作スタッフである
『株式会社ダイス』のみなさんと、
釣りアドバイザーの倉恒さんらをむかえて、
「おれたち、こーんなに苦労したんだっけなあ」
座談会をお届けします。
 
●参加者●●●●●●●
 
●倉恒良彰さん
前作から引き続き、『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』のアドバイザー。
関西在住。「釣り監修屋でございます」。実際のバス釣りと、ゲームとの差を
埋めていくのが仕事。「そう簡単にはOK出さへんでー」

 
●サイトウ・アキヒロさん
株式会社ダイスの共同代表であり、ディレクター。
『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』全体のディレクションを担当。
倉恒さんからの要望をクールに理知的に処理する二枚目。

 
●小関昭彦さん
株式会社ダイスの社長であり、プロデューサー。「苦情処理と、問題解決を
担当しております。毎日心臓を強打されるような問題と取り組んでおります!」
と元気に語る。

 
●アベキ正博さん
株式会社ダイスのCGデザイナー。当時ダイス唯一の釣り人だった。
サブウインドウの魚はこの方の担当。
「あべ」は「木へんに、青」という、パソコンでは出ない字。

 
●村野嘉泰さん
株式会社ダイスのグラフィックデザイナー。
「地面、地形などのフィールド・デザインを担当しました」

 
●川原田祐司さん
株式会社ダイスのデザイナー。「サブウインドウ、タックルボックス、
3Dエフェクト、しぶき、ルアーのアニメーションなどを担当してます」

 
●能登谷哲也さん
株式会社ハル研究所所属。制作進行および、パッケージやマニュアルなども担当。
「倉恒さんと、ダイスの皆さんとの間に入るのが仕事です。ふうふう」

 
●武久豊さん
任天堂株式会社企画部の、プロダクトマネジャー。プロモーション担当。
いまも、全国を駆け回る多忙な旅人。

 
●糸井重里さん
『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!」の、ゲームプロデューサー。
 

 
イメージ ──いま(2000年2月)はこのゲーム、
どういう段階なんですか?
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鼠穴の会議室に
集まっていただきました
サイトウ:
もうバグをとるだけ……にしたい、ですね(笑)。
 
倉恒:
いやいや、まだまだあるんやで、やることは。
たとえばな……、

 
小関:
もう終りましたって(笑)。
 
武久:
出なくなっちゃうでしょう!
 
能登谷:
(まじめに)いまは、商品として出荷したときに
問題がないかどうかの検証作業をして、
問題があれば修正する、という段階です。

 
武久:
3月31日発売ですからね。
 
(糸井、遅れて登場)
 
糸井:
いやぁ、昨日、家にROM(『糸井重里のバス釣りNo.1
決定版!』開発中のもの)を持って帰ってやってみたんだ。
このゲーム、すごいよ。ほんとに釣りって難しい、
ってことが、よくわかったよ。
 
サイトウ:
釣りが好きで、このソフトで遊べる人は、
幸せだと思います。それくらい、面白いと思いますよ。

 
糸井:
そうだね……いきなり、ものすごい核心の部分に
踏み込んだね(笑)。
 
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釣りのアドバイザーの
倉恒さん
小関:
マイク意識しすぎじゃない? もっと最初の部分から
話そうよ。

 
──倉恒さんというのは、どういう立場の方なんでしょう。
 
小関:
倉恒さんがいろいろな課題を出すわけです。
それをありがたくいただいて、
われわれが形にするわけです。

 
倉恒:
もとをただせば、ダイスの皆さんというのは、
アベキさんをのぞいて、釣りをする人がいなかった。
「なにもわからない」という状態に近かったんですよ。
それで、一回、みんなで釣りに行こうというところから
始めました。プログラムするのに、ルアーの動きとか、
魚の動きを知りたいというので。それで、
琵琶湖に合宿に行こう、ということになったんです。
その合宿がねえ、けっこうトボケた合宿でねえ(笑)。

 
サイトウ:
何をやってたんだ、っていう合宿でしたよね。
 
倉恒:
あとから考えるとおかしくって。
その合宿というのは、琵琶湖のほとりにある釣り用の
ホテルを基点にして行ったんですよ。

 
糸井:
そのホテルって倉恒さんがプロデュースしたんだよね。
いろんなことをやってる人なんだよね。
 
倉恒:
あるんですよ、そういうのが。
そこのプールにね、魚が、いつもいるんです。
魚の動きとか、ラインの動き、これを今回のゲームでは
実際に近い動きにしたい、というので、そういうところで
撮影して、みんなで体験しながら取材しましょう、
ということになったんです。
でね、行ってみた。ところがその当日、雨で、
撮影しようって思ったら、プールが濁ってる。

 
小関:
琵琶湖も濁ってた。
 
倉恒:
カメラで撮るにも撮れへんわ。
 
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右端がダイスの小関さん、
その隣がサイトウさん
小関:
京都の釣具屋さんにでかい水槽があるから、そこに
行きましょうかって話をしたんだけど、
「底に白い板を敷けば、けっこう見えるぞ」ってことに
なって。

 
倉恒:
無理やりそこで撮影したんだけど……。
 
小関:
しかも、水中撮影しようと思ったんだけど、8月なのに、
けっこう寒かった。雨降っててね。倉恒さんの指示でさ、
「潜れ」っていうから潜ったんだけど、
「なんにも見えませーん!」っていう状態で。
「じゃあ上がって」って言われてホットしたら、
ちょっとして「もう1回入れ」って。

 
アベキ:
さらに、ダメ押しで、もう1回、入ったんですよ!
 
──それで、その合宿の成果は……。
 
倉恒:
あったんだっけ?
 
サイトウ:
ありましたよー。
 
倉恒:
あったの。何があったんだっけ。
 
アベキ:
ルアー自体も、けっこう撮れてたんで。
 
倉恒:
そうなの。
 
小関:
結構、倉恒さん、自分でも撮影してたじゃないですか。
 
糸井:
話を面白くしようとしてるでしょ。
 
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この波紋のリアルさを見よ!
アベキ:
キャスト風景とかも入っていて。
 
倉恒:
そや。竿の動きとか、ラインの沈んでいくのが、いろいろな
リグ別にあったりしたもんね。光りかたとか。

 
小関:
成果なかったら、出張費が無駄になっちゃうんで、
困っちゃうんですよ。

 
サイトウ:
その合宿の成果は、実は大きかったんですよ。
ラインが沈んでいく感じだとか、そのときにアタリが
来たら、波紋でわかる、ということだとか、こういうことが
わかった。釣りのことを知らない僕ら的には、
いちばん大きかったですね。
あと、釣りをしているときの、雰囲気。
湖なんだけど、岸辺に近づくと波の音がうるさいんだな、
とか、そういうことってやっぱり実際に行かないと、
わからなかった。

 
小関:
うちはアベキ以外、釣りをやったことがなかった。
だから倉恒さんからの最初の要望は、
「釣りのことをもっと知れ。もっと勉強しろ」
ということでしたね。

 
倉恒:
だから最初はギャップがありましたよ。
いろんなことをお話するんですけれど、そういうことが
わかる状態じゃなかった。

 
アベキ:
僕が通訳して、みんなに説明するみたいな。
 
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実際にできあがった湖
「かかすみ」
小関:
スーパーファミコン版のころからかかわっているので、
釣りの用語は、わかっていたんですけどね。

 
倉恒:
でもね、前のときは、いろんなものを削り落として、
最小限残ったものでつくった、という形でしたからね。
今回は3Dになったことで……

 
糸井:
2Dと3Dって、
「ポンジャン」と普通の麻雀くらい、違いがありますよ。
ドラえもんの札と、本物の麻雀牌くらい、違う。
 
倉恒:
そういう話を聞いてもらう状態としても、まったく次元が
変わっている。だから、「どういうことなんだ、それは?」
ということが、いっぱい、あったと思いますよ。
そういうの、あったでしょう?

 
小関:
ありました。正直、あったけど、
倉恒さんについていくしかない、と思って。

 
──最初は、どういうところから、
ギャップを埋めていったんですか。

 
糸井:
おおもとは、粘土を作ったあたりじゃないのかなあ。
あれは、前作のときからの話だけど、
原点はあそこでしょう。
 
倉恒:
前作の、釣りのフィールドがあるんですね。それを実際に
粘土で立体化したんですよ。
あのときから、すでに、今回のように、3Dというか、
現実的な釣りの世界を思い描いていたんだと思うんです。
山があって、流れ込みがあって、っていう。

 
小関:
そこに、つまようじとかで、「ここがポイントや」って
置いていくんですよ。

 
イメージ 倉恒:
僕は釣り経験が30何年なんで、いろんな釣りの
シチュエーションを見ていたりして、
あこがれる場所というのがあったんですね。
その当時はまだバスフィッシング・ブームの始まりの頃
だったんで、今ほど情報が流れていなかった。
どういうところがいい場所かとか、どういうとこに魚が
いるかとか、人間から見て「こういうところで釣りが
したいよね」と思う場所だとか……そういう思いって、
ゲームだと具現化しやすいので、
どんどん出てきちゃうんですね、自分の中から。
でも、それって、釣りをしたことがない人からは、
「なんでここに木があんねん?」とか
「なんでここに流れ込んでなあかんねん?」、
「なんでここに人工ストラクチャーがあるねん?」。
そういうことが、わからない。
そのギャップを埋めていくことから、でしたね。
だから「釣り場に行ってくれ」というのが
いちばん早いんですけど、実際に湖に行っても、
「こんなものがありました」というのと、
「実際にそこで釣ってみました」というのは違う。
釣ってみないと、わからない。
とはいえ、湖はどんどん釣れにくくなっていくから、
「大場所」と言われる、いいポイントですね、
そういう分かりやすい部分が、釣りづらく、
分かりにくくなっていくわけですよ。
その体験を共有化してくださいというのは、
非常に難しいことですね。

 
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ダイスで唯一釣りが
わかったアベキさん
──その後も、実際の釣りには……
 
小関:
みんなで行きました。
 
アベキ:
僕が釣り好きなもので、みんなを誘ったりして。
そういうことを何度か繰り返しましたね。

 
倉恒:
今となっては、ものすごいよう勉強されたんで、
よう知ってますよね。

 
サイトウ:
風景を見ただけで、すべてわかるくらいになりました。
湖を見ると、水がない状態での地形が見えますからね。

 
倉恒:
だんだん釣りの技術的な事も言いはるようになってね、
こちらがドキっとすることもあるんですよ。
でも、実体験ではない部分があるから、
まだそこにギャップはあるんですけどね。
写真と文字だけでここまでになった人たちというのは、
珍しいと思うんですよ。

 
糸井:
最高の教育システムだったんだね。これで今度は
「株式入門」っていうソフトつくったら……(笑)。
 
倉恒:
僕は、そのギャップ、埋まるとは
思っていなかったんですよ。
でも、勉強されたんでしょうね。
埋めてきていただいたんだと思うんです。
僕は、逆に、歩み寄ることはしませんでした。
だって、歩み寄るってことは、あきらめていく作業だ、
というところがあったんで。何を言うてきはっても
「いや、やらなあかんわ」の一点張りで。

 
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……ほんとに、
たいへんだったよね。
小関:
頑固なんですよー。星一徹ですよ。
 
倉恒:
プロデューシング・チームのほうから
指示が飛ぶじゃないですか。その指示と、
ゲームの中で釣りとしての精度を上げたり、
釣りの部分をより深めたりすることとは、
相反することが出てくるんですよ。

 
アベキ:
たとえばルアーをつくりましょう、
という段階があるとしますよね。
僕ら、ふだん、ルアーを見て研究してますから、
作ったものに対して「本当はこうじゃないんだよな」
とか思いながらも、ゲームとしての制限を考えて、
「これ以上はできないかもしれない」
という、自分の中で、負けてしまう、弱気になる
気持ちになるときがある。
そういうときに倉恒さんが、
「これじゃ、まだダメだ」と言ってくれると、
「実際に釣りをする人を納得させるには、
もっとやらないとダメなんだ」と、燃える。
「もうちょっとやらせてください」って。

 
糸井:
たとえばさ、魚の形をしたルアーが魚のように自然に動く、
というところまで、ゲームって、作りがちなんだよ。
でも、実際の釣りって、『自然に動いている』
ということでは魚は釣れないわけ。
急にある衝撃を与えたり、不規則な動きをさせたり、
どこかにぶつかったからへんなふうにはじけた、とか、
リニアではない動きを考えなければいけないわけ。
「だから釣れるんだ」というのが釣りをする人が
知っていることなんだけれど、素人を釣りに連れてくと、
どれだけ「魚のように」きれいにルアーを動かしたかで
魚が食うと思うんだよ。
でも実は「どれだけキタナク動くか」というところで、
魚は食いつくわけだよ。それはもう、他のゲームでは、
わかっているやつがいても、していなかったでしょう。
どんどん潜っていって、根がかりをして、力がかかって
外れるときに、「平打ち」っていうんだけど、
ヘンな動きをするわけ。
そこに死にそうな魚の動きが生まれるわけで、
なんて言うんだろう、直線で動いてたものを
ジャンプさせろ、みたいな話ですよ。
 
小関:
あったなあ。
 
サイトウ:
あったね。
 
糸井:
それは、プログラムする人もたいへんだし、
絵の表現もたいへんだし、不規則な動きをいくつか
作っておいて、それを当てはめるだけじゃ、
満足がいくわけじゃないし。
 
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ルアーひとつひとつに、
違う動きをつけるのだ
サイトウ:
スタート時点で、ルアーの動きに関しては、
アニメで表現する、というスタイルで進めていたんですね。
それは、スタッフの人数であったり、かけようと思っていた
時間であったり、そういうところから判断して、
1個1個ルアーをプログラムで作っていたのでは、
到底、やり切れるものではないという発想のもとに、
アニメでずいぶん作ったんですよ。
平打ちのパターンだったり、フォーリングで落ちていく
パターンだったりとか、スイミングで泳いでいくパターン、
それでもいっぱい作ったんですけれども。
それでだいたい見れる段階になって見ていただいたら、
「これじゃ、ダメですね」っていう……。
まず、そこでね。

 
糸井:
まずそこが、いちばん大きかったでしょう。
 
サイトウ:
そこが、いちばん大きな葛藤がありましたね。
 
倉恒:
ぼく、いま、針のむしろやわ(笑)。
 
糸井:
規則的な不規則、しかできないですもんね、アニメって。
できているものを呼び出すだけだから。
 
サイトウ:
用意しているパターンを呼び出すだけだから。
で、アニメを全部捨てて、プログラムでちゃんと、
重力や、水の抵抗や、物に当たったときの抵抗を計算して
動きを再現する方向になった。
それが最初の、一番大きな展開でしたね。

 
糸井:
大きいよねえ。
   
 
次回は、この座談会の続きをお届けします。
さらなる制作のヒミツ、いっぱい聞けると思いますよ。


2000-03-03-FRI

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