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『MOTHER 3』の開発が中止になったことについての
糸井重里・岩田聡・宮本茂の座談会 その5

 
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宮本:
いや、買ってくれる人もあると思うんですよ。
現状でもいいから、バグがあってもいいから
遊びたい人がいれば遊んでもらおうかという
ことも、言うんですけれど、
それは商品だから、できない。
大きな成功を期待するには
時期からはずれたということでしょうね。

 
糸井:
いま、山奥でコツコツ「ガソリンで走る自動車」
ってものを一人で開発したひとがいても
都会に出てきたらすでに自動車乗っているひとが
たくさんいた、なんていうことになっちゃう。
コンピュータがらみのものって
ぜんぶ、いま、そうですよね。
そういう意味で、時期の問題というのは
すごく大きいですよね。
ところで、『マリオ64』の影響というのは
いろんなところで語られるけれど……
 
岩田:
『マリオ64』の功績と、罪。

 
糸井:
いいオトコすぎたんで、
ほかのタレントが出られなくなっちゃった。
あの動きでロールプレイングゲームができたら
最高だろうな、ってみんな思うわけですよ。
宮本さんはゼルダとマリオで
実際にできるんだ、ってことを
一人で証明しているわけですよね。
 
岩田:
……じつは違うんですよね。
じつは違うんですけれど、でも、
そう言わしめるだけ、やってますよね。

 
糸井:
で、あこがれちゃうんですよね。
ロールプレイングゲームというのは
記号と記号が出会って何かが起こったとき
また記号で表現されるみたいなシステムですよね。
そこに対する欲求不満がいつもあって、
記号以上のものに見せていきたい、
となったときに、マリオの中に
ものすごくいいヒントがあったりする。
こんなに、生理的に体感できるドラマになる、
ということを、入れられるんじゃないかって。
 
岩田:
映画的な手法を、上手に使って、
ロールプレイングというものの
刺激を強められるんじゃないかというのを
みんなが思っていることですからね。

 
宮本:
N64のはじめの頃、ドラクエの堀井さんに
マリオの試作品を見せたんですよ。
堀井さんも、一気に3Dに走るんですよ。
この感じでドラクエがやれたら全然違うって。
でもやっぱりまともにここに入ってくると
ドラクエじゃなくなるから、
まだまだですよ、って止めたんですが、
止めたせいでPSへ行っちゃったかも
わかりませんけど(笑)。正直すぎたかも。
あの冷静な堀井さんでさえも
ほとんど現実に近い感じのところに
自分のキャラクターを全部置いてみるということに
すごく興味を持っていました。

 
糸井:
したいんですよ、たぶん。
 
岩田:
たぶん、シナリオを書くひとの
本質的な欲望だと思いますよ。

 
宮本:
僕は、逆に、あれを見せないから
堀井さんの筆が面白いんやないか、って。

 
岩田:
それは第三者だから
分析できることじゃないですかね。

 
糸井:
それは、両方なんですよ。
僕は『MOTHER 3』に関しては
最終章なんて、自分でも表しようのないものまで
書いちゃいました。
これはどうやるんだかわからないんだけど
たとえば試作でこんな世界が描けたと、
それを見て、だったら、ここはこうして、って
そういうやり方でできるんじゃないかって。
つまり、写真家がいっぱい写真を撮って
ネガセレクトするじゃないですか。
あれに近いように作っていかないと
出来ないんじゃないのかな、なんてことを
考えて、それを平気でシナリオに
していたんですよね。
どこかでね、自分の想像の範囲を、
チームのほかの人間から
「こうでしょ!?」
「そうそう!!」
って言いたい、というのが、
シナリオライターの強い欲望なんですよね。
 
宮本:
今回、この決定になる前に
糸井さんからいくつかの提案、解決案が
ありましたけど、ああいう話を聞いていると
僕らはやれないことなんで、
非常に興味があるんですね。
ああいうことを満載しよう、という視点を
最初に決めてれば、
どのハードがベストか、とか
64でやろうとすればどのくらいの規模まで
つくれるか、ということが見えたと思うんですけれど。

 
──糸井さんの出された解決案というのは
どんなものだったんですか?

 
糸井:
全体のうちの三章分を、ぜんぶ、つなぎとして
止まった絵と文字で読ませる、というものです。
 
岩田:
物理的に作れないので
止め絵とテキストでいいじゃないか、
という。かつ、そういうことをしてでもOKな
設定のアイデアもありましたよね。

 
──いまお話をお聞きしてて、
『MOTHER 3』がどんなものだったのかと
いうことが、わからずにいるんですよ。

 
糸井:
そうですよね。
でも、どこまで話していいものか……?
 
宮本:
僕もわりと距離をおいて見ていたので、
糸井さんが最初に言った
「ハリウッドの映画のようにやりたい」
というようなところくらいで、それ以外は
あまり深くは伝わってきていなかった。
オーソドックスなロールプレイングスタイルで、
『MOTHER 2』の血をひいていて、
というふうにとらえていたんですね。
しかし今日のお話を聞いていると、
そうではなかったのかな、と……
3Dを使うというのもそうなんですけれど、
本来、シナリオというか筆(テキスト)で
やれていることを
デジタルのメディアでやるというときに
さきほどは「視点」という話が出たけれども
もっとゲームの構造じたいが違うとか、
テキストだけの章があるとか、
大胆な作り方というのは確かにあるな、
というのを感じましたね。
この時期になって振り返れば
今の64の能力もわかっているし
今後のハードの性能もわかっているし
それに合わせたとらえかた、設計、
というのはあるな、ということを
僕はいま思っていますけれどね。
そう思うまでは、『MOTHER 3』というのは
わりとスタンダードなロールプレイング進行だと
思っていたんですよ。
ただ戦闘方法が新しいとか、
イベントが3Dであるとかいうこと以外はね。
だから、僕も、本来はどういうものに
なるはずだったのか? というのが
もう少し聞けたら、面白いと思うんです。

 
糸井:
…………これ、どっちにしても、なんにしても
ストーリーは捨てるしかないです、よね?
どうなんだろう。
たとえば、ノベライズをする、ということを考えると
言っちゃいけないな、と思うんだけれど。
 
宮本:
そうですね。
前半部分は遊んでみたわけですから
わかっているんですが……

 
糸井:
前半は、ふつうっぽく動いているんですよ。
そのあとのどんでん返しが、三重くらいに
なっているんですよ。
章ごとに主人公が変わっていくんですが
それにはすべて連関があって……
 
宮本:
だから、コツコツひとりを育てていく楽しみが
なくなっていくんじゃないでしょうか、とか
いろんな意味で、いろんなRPGのフォーマット、
崩しているんですよね。

 
糸井:
『MOTHER 2』のときにもう
主人公が変わっていく実験はしているんですよ。
つまり、主人公のネスっていう男の子で
始まっているんだけれど、仲間のジェフって子と
プーっていう子の、
それぞれの生い立ちみたいなものとか
それぞれ、主人公をチェンジしているわけです。
いっしょの仲間になる出会いまでに、
別の物語を挟み込んでいて、
それはうまく行ったんですよ。
 
岩田:
その意味で、もっとやれる、というのが
『MOTHER 3』のスタートでしたね。
 
 
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