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「罪と罰」〜地球の継承者〜
〜最終ステージまで突っ走ろう!〜
クリエイターの炎を消さずに
ゲームに命を吹き込むとは?


新シリーズ、アクションシューティングゲーム
「罪と罰 地球の継承者」についての第2回です。
「トレジャー」と「任天堂」2つの会社からなる
開発チームがどのように制作を進めていったのか。
ゲームに命を吹き込むとは、どういうことなのか。
ゲームの初心者を満足させるために
どういう工夫をしたのか……。
山上ディレクター、前川プロデューサーの語り、
熱くなってきました。

 
「罪と罰」〜地球の継承者〜
2000年11月21日発売
定価:5800円(税別)
アクションシューティングゲーム
1〜2人用
 

座談会出席者
 
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●前川正人
「トレジャー」代表取締役社長。
「罪と罰」のプロデューサー。

 
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●山上仁志
任天堂開発第一部。
「罪と罰」のディレクター。
過去の代表作は「パネルでポン!」
「ヨッシーのクッキー」
「ゲームボーイギャラリー」など。

 
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●武久 豊
任天堂広報室企画部。
「罪と罰」のプロモーション担当。

 


──:
山上さんは、任天堂内部の開発チームではなく、
外部のゲーム制作会社(セカンドパーティー)と
仕事する方法をどのように作っていったんスか。
……試行錯誤の時代があったわけですか?
 
山上:
もともと僕に指導してくれてた私の元上司に、
仕事のスタイルがあったものですから、
一貫してそのスタイルを踏襲しています。
僕は直接プログラムを作ったり、
直接絵を描くわけではないんですね。
だから、制作現場にいる、
直接プログラムを作ったり、絵を描いたりする人たちに
命を吹き込んでおかないと、ゲーム自体が死ぬんです。
 
仮に、僕が作りたいものがあったとしても、
その作りたいものを僕だけがわかっていて、
現場のスタッフに指示するというスタイルでは、
生きた、魂のあるゲームはできなくて……。
その……、考えを共有できなきゃいけないんですよね。
つまり、自分の思っている世界を、
スタッフ全員に、どれだけ合理的に
納得させてあげることができるか、というのが、
ゲームに命を吹き込むために
必要なことなんですね。
 
だから、僕がある考えを主張しようとするときには、
どのような例をもってきて説明するのが
もっとも彼らに理解されるのか、とか、
日ごろから、そういうことを常に考えます。
いろいろな方面の例や、話題を持ち出しながら
うまく彼らに納得してもらうような方向に
導けるように、という配慮で仕事してるんですよね。
 
で、最後に僕らがゲームを作り終わったときに、
僕が声をかけてもらおうと思う目標の言葉は、
「次回もお願いします」ということなんです。
必ずそう言ってもらえるように、
そういう終わり方をするような仕事の達成感を
出せるようにしようと。

 
前川:
次回もお願いします(笑)。

 
山上:
(笑)そうすれば、必ずそのゲームは、
作ったチームのみんなが自信をもって
「俺らが作ったゲームなんだ!」と言える、
そういったゲームになり、
それは必ずお客さんの共感を得るものになるだろうと。
そう考えて作るようにしてるんですよね。
 
で、トレジャーの前川さんがおっしゃたように、
「トレジャー」はどちらかというと
マニア層に向けて作ってきたから
難易度の感覚がズレてたという部分……、
実はそれ、ズレてたんじゃないんですよね。
販売数が少ないゲームを売ろうと思えば、
少ないマニア層の人たちに向けて作れば、
きちんと合致したものができあがるんです。
 
けれども、数をたくさん売るとなると、
マニアの層ではない、広い範囲の人たちに売るので、
必然的に難易度の低いものを求める人も、
買ってくださるわけですね。
難しいゲームだと、マニア層の人たちは、
トレジャーさんの作りにすごく満足するけれども、
ほかの人たちはそのゲームに満足しない。
満足しない層のほうが多くなってしまうと、
そちらの声のほうが大きくなってしまって、
「トレジャーが作るゲームは面白くない」
という声が広まってしまうんですね。

 
……:
うーん、それはすごくマイナスですねぇ。
 
山上:
そうなんですよ。
トレジャーさんが今まで対象層に
きちっと合致したゲームを作ってきたことは事実で、
それはズレてはいないんですけども、
今回、任天堂のゲームとして売るとなったときに、
今までより多い数を売る可能性もでてきます。
 
その時には、その広い対象層が
どのくらいの難易度のレベルで、
どのようなゲームを求めているのかを加味して、
トレジャーさん流に、難易度など、
すべての要素について調節するということが
必要になってくるわけですね。
僕らはそこをアドバイスさせてもらったと。
 
で、その時も、
「ゲームを簡単にするというのは、
 敵を減らすことではないですよ」と。
「自分は敵から攻撃されているのに、
 何か知らないけど自分に当たっていない、
 そういう錯覚を与えることが大切ですよね」と。

 
……:
え? 当たっていないというのは?
 
山上:
すなわち、敵の攻撃を外すんですよ、
あらかじめ当たらないようにするんです。
でも初めての人は、わからないから、
自分が動いて自ら敵の攻撃に当たるんですね。
「うわっ、やられた!」と。
そのうち、何かこう適当にやってたら、
敵の攻撃に当たらなくて、クリアできて、
「うわー、クリアできたよ! おもしろい!」と。

 
……:
それ、オレですよ(笑)。
 
山上:
でしょう(笑)。
で、どんどんゲームに吸い込まれていって、
やがて操作に慣れて、戦えるようになってくるんです。
そして、「敵のすごい攻撃を自分はかわせたよ!」
という気持ちが残るもんですから、
「このゲームおもしろいやんか!」という気持ちが、
カーッと盛り上がってくる。
 
で、そこまで行けば、後はトレジャーさん流の
ゲームに必死でついていこうとするから、
多少難しくなってもやっていけるんですよね。
ゲームの最初の部分で、
やる人の気持ちをガーッと引きつけることで、
任天堂のノウハウを使ってトレジャーさんの
おもしろい世界にもっていくことが
できるんじゃないかなと考えたんですね。

 
前川:
だから単純に難易度を下げたわけじゃないんですよね。
遊びやすくしたってことなんですね。

 
山上:
そうですね。

 
前川:
「難易度が高すぎる」
「いや、低すぎる」というような
不毛なやりとりをしていたわけではないんですよ。

 
……:
単なる上下じゃないんですね。
 
前川:
そうなんですよ。
これは高いとか、これは低いとか、
もっと簡単にしろとか、そういうことではないんですよ。
“いかに遊びやすくするか”という話なんですよ。
そういうレベルにもっていこうということなんですよ。

 
山上:
やはりゲームを買ってくれた人の
8割以上の人に満足していただかないと、
「よかった」という声は響かないですからね。
つまり、買ってくれた人の8割以上の人に、
ゲームの最後まで行ってもらう必要があるんですね。
 
ところが、
「初めてシューティングゲームをやる人に
 最後まで行ってもらっていいのか?」
という作り手側の疑問も出てくるんですね。
そのときに、単純にそう考えるのはよくない、と。
やはり買ったものは最後まで味わえて初めて
定価分の満足をしてもらえるわけで、
最後まで味わってもらえる工夫を
作り手側が提供してあげなければいけないでしょ、と。
 
で、高い難易度を求める人には、
それ相応の価値を味わってもらえる部分を
用意する必要があり、
多くの人に買ってもらうためには、
幅広いユーザーのために、幅広い難易度や、
幅広い攻撃パターンを用意する必要がありますよね、と。
 
そういうところを無視して幅広く売ってしまうと、
いいゲームなのに結局いい評価を受けない、
ということになってしまうので、
そういった注意点が必要ですよね、という話を
僕はずっとしていたんです。

 
……:
説得されますねぇ(笑)。
 
前川:
されました(笑)。

 
武久:
まとまりましたねぇ、
今日の座談会はこれでお終いということで(笑)。

 
……:
しかし、こうして山上さんの話をきくと、
きっと、ほぼ日の読者も、
普段ほかの会社と一緒に仕事してるでしょうから、
「そうだよな〜」って感じることが
あるんじゃないですかね。
 
前川:
こういう話って、
いろんな仕事に当てはまりそうですね(笑)。

 
山上:
ゲーム作りに限らないですよね。

 
前川:
まあ、ゲームの作り方というのは、
どういう人にどれだけの数を売るのか、
にもよるんですけどね。

 
山上:
それは言えてますね。

 
……:
「トレジャー」さんとしては、
任天堂と一緒にゲームを作ったことで、
新しい視点とか、ノウハウが得られたわけですね。
 
前川:
そりゃもう、非常に参考になりましたね。

 
山上:
たぶん次作ったら、僕すごい楽ですよ。
「もうわかってるじゃないですか」という感じで、
僕が口を出す内容も減りますし、
時間が短縮されるから、さらによいものを作ったりとか、
さらに大きな世界を作ることもできますし、
すごく楽しみだなぁ、と思えるんですよ。
 
やっぱり長い間いろいろなゲームを作ってきて、
今回トレジャーさんに出会ったときに、
僕が経験したなかでも
トップクラスの実力をお持ちだなぁと思いました。
もちろん、いろいろな会社、いろいろなカラーが
あるんですけど、トータルバランスとして
すごく高いレベルだなぁと思いました。
 
で、僕の意見に対して現場の反論というのは
もちろんたくさんあったんですけども、
いちど納得した部分の、仕事の成果というのが、
トレジャーさんが作ろうと思って作ったものと、
僕らが指示して作ってもらったものの、
レベル差がまったくないんですね。
で、これはものすごいことなんですよ。
つまり、のみ込めば自分のものにしてしまえる、
ということなんですよ。
で、こういうレベルの高さに対して僕らは
「トレジャーはすごい」って感じたんですね。

 
前川:
山上さんに言われたものを
ウチのディレクターが鵜呑みにして
現場に指示するわけじゃないんで、
「やっぱりコレ入れるなら、コレもやろうよ」と
自分たちで考えますから(笑)。
要するに、そこまでやるなら、
徹底的によくしないと、ってなるんで……。
 
みんな、2年もかけて、命かけて作ってますから(笑)。
やっぱり世の中にだすには
自分たちが満足いく形で出したいですよ。
さきほど、山上さんが「ゲームに命を吹き込む」って
言ってましたけど、ウチのディレクターも言うんですよ、
同じことを。
「ゲームが生きてるか、死んでるか、
 見りゃわかるじゃん」と。

 
 
……:
意見の違いがいろいろありながらも、
いいものを作りたいという思いが、
根っこのところで一致してるんスね。
 
前川:
そうですね。
よりよいゲームを作りたいわけで、
自己満足でやってるわけじゃないんで。

 
山上:
ゲーム業界を広く見ると、なかには自己満足的に
作りがちな人もいないとはいえないので、
それが難しいんですよ(笑)。

 
武久:
ものを作る人のなかには、内向的になっていきやすい
傾向の人もいるんですよ。で、自分だけの世界が
あたかも他の人にとっても最高の世界であるかのように
考えてしまいがちで、
「俺の作ったものが、なぜわからないんだ」
みたいなことをおっしゃる人もいるので……。
そういう部分での調整がたぶんいちばん難しいです。

 
山上:
で、その時にね、単純にね、
「そんなこと言ってたらダメなんだよ!」
って言ってたらダメなんですよ。
ヘコんでしまって、炎が消えてしまうんですよ。
だから、プライドとか、いろいろな心を考慮して、
時には熱く言い、時には褒めて。
相手の気持ちをうまく考えて、
「クリエイターを成長させるんだ」
というくらいの気持ちで接していくことがすごく大事で、
そんな中でそのクリエイターの
光ってる面を維持させたまま、
いいものを作っていく方向にもっていくという。
それを頭ごなしに接してしまうと、
光ってるものも消えてしまうので、
炎を消さないようにするというのが難しいんです。

 
……:
イメージ的には昔の熱血先生のようですね。
そういう人がいたかどうかわかりませんが。
 
山上:
ホンットにそれは思いますね(笑)。
昔のいわゆる熱血先生がやっていたようなことを
やってるのなかぁ、とすごく思うんですけどね。
「一緒に走ろうじゃないかー!」という(笑)。
もう熱いんですもの、
「トレジャー」のクリエイターは。
ものすごく熱いんですよ!

 
前川:
熱いですよ〜、みんな。
ゲーム作り=人生みたいになっちゃってるんで(笑)。

 
山上:
その熱い人たちに対して、
「任天堂の世界に合わせてもらいます!」って
ガツンと言ってしまったら、
クリエイターたちは、気持ちが冷めてしまうんですね。
だから、絶対そういうふうにはしないというのが
すごく大切なことですね。

 
武久:
話が……きれいにまとまりましたね(笑)。

 
……:
もう、座談会終わり、にしますか(笑)。
 
前川:
終わらないでください(笑)。

 
山上:
ま、ここまでの話は前文ということで(笑)。

 
……:
改めまして、次回から、
「罪と罰」というゲームそのものについて、
話をしていただきます。
 
(つづく)
 
 
より多くの人に楽しんでもらうために、
間口を広く、敷居を低く……、
それは単に難易度が高くするか、低くするかという
上下の目線での考えではなく、
“いかに遊びやすくするか”ということを
考えることだったんですね。
次回からは、いよいよ、ゲームの中身について、
話をしてもらいます。



2000-12-6

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