「罪と罰」〜地球の継承者〜 〜最終ステージまで突っ走ろう!〜 クリエイターの炎を消さずに ゲームに命を吹き込むとは? |
新シリーズ、アクションシューティングゲーム 「罪と罰 地球の継承者」についての第2回です。 「トレジャー」と「任天堂」2つの会社からなる 開発チームがどのように制作を進めていったのか。 ゲームに命を吹き込むとは、どういうことなのか。 ゲームの初心者を満足させるために どういう工夫をしたのか……。 山上ディレクター、前川プロデューサーの語り、 熱くなってきました。 |
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──: 山上さんは、任天堂内部の開発チームではなく、 外部のゲーム制作会社(セカンドパーティー)と 仕事する方法をどのように作っていったんスか。 ……試行錯誤の時代があったわけですか? 山上: もともと僕に指導してくれてた私の元上司に、 仕事のスタイルがあったものですから、 一貫してそのスタイルを踏襲しています。 僕は直接プログラムを作ったり、 直接絵を描くわけではないんですね。 だから、制作現場にいる、 直接プログラムを作ったり、絵を描いたりする人たちに 命を吹き込んでおかないと、ゲーム自体が死ぬんです。 仮に、僕が作りたいものがあったとしても、 その作りたいものを僕だけがわかっていて、 現場のスタッフに指示するというスタイルでは、 生きた、魂のあるゲームはできなくて……。 その……、考えを共有できなきゃいけないんですよね。 つまり、自分の思っている世界を、 スタッフ全員に、どれだけ合理的に 納得させてあげることができるか、というのが、 ゲームに命を吹き込むために 必要なことなんですね。 だから、僕がある考えを主張しようとするときには、 どのような例をもってきて説明するのが もっとも彼らに理解されるのか、とか、 日ごろから、そういうことを常に考えます。 いろいろな方面の例や、話題を持ち出しながら うまく彼らに納得してもらうような方向に 導けるように、という配慮で仕事してるんですよね。 で、最後に僕らがゲームを作り終わったときに、 僕が声をかけてもらおうと思う目標の言葉は、 「次回もお願いします」ということなんです。 必ずそう言ってもらえるように、 そういう終わり方をするような仕事の達成感を 出せるようにしようと。 前川: 次回もお願いします(笑)。 山上: (笑)そうすれば、必ずそのゲームは、 作ったチームのみんなが自信をもって 「俺らが作ったゲームなんだ!」と言える、 そういったゲームになり、 それは必ずお客さんの共感を得るものになるだろうと。 そう考えて作るようにしてるんですよね。 で、トレジャーの前川さんがおっしゃたように、 「トレジャー」はどちらかというと マニア層に向けて作ってきたから 難易度の感覚がズレてたという部分……、 実はそれ、ズレてたんじゃないんですよね。 販売数が少ないゲームを売ろうと思えば、 少ないマニア層の人たちに向けて作れば、 きちんと合致したものができあがるんです。 けれども、数をたくさん売るとなると、 マニアの層ではない、広い範囲の人たちに売るので、 必然的に難易度の低いものを求める人も、 買ってくださるわけですね。 難しいゲームだと、マニア層の人たちは、 トレジャーさんの作りにすごく満足するけれども、 ほかの人たちはそのゲームに満足しない。 満足しない層のほうが多くなってしまうと、 そちらの声のほうが大きくなってしまって、 「トレジャーが作るゲームは面白くない」 という声が広まってしまうんですね。 ……: うーん、それはすごくマイナスですねぇ。 |
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山上: そうなんですよ。 トレジャーさんが今まで対象層に きちっと合致したゲームを作ってきたことは事実で、 それはズレてはいないんですけども、 今回、任天堂のゲームとして売るとなったときに、 今までより多い数を売る可能性もでてきます。 その時には、その広い対象層が どのくらいの難易度のレベルで、 どのようなゲームを求めているのかを加味して、 トレジャーさん流に、難易度など、 すべての要素について調節するということが 必要になってくるわけですね。 僕らはそこをアドバイスさせてもらったと。 で、その時も、 「ゲームを簡単にするというのは、 敵を減らすことではないですよ」と。 「自分は敵から攻撃されているのに、 何か知らないけど自分に当たっていない、 そういう錯覚を与えることが大切ですよね」と。 ……: え? 当たっていないというのは? 山上: すなわち、敵の攻撃を外すんですよ、 あらかじめ当たらないようにするんです。 でも初めての人は、わからないから、 自分が動いて自ら敵の攻撃に当たるんですね。 「うわっ、やられた!」と。 そのうち、何かこう適当にやってたら、 敵の攻撃に当たらなくて、クリアできて、 「うわー、クリアできたよ! おもしろい!」と。 ……: それ、オレですよ(笑)。 山上: でしょう(笑)。 で、どんどんゲームに吸い込まれていって、 やがて操作に慣れて、戦えるようになってくるんです。 そして、「敵のすごい攻撃を自分はかわせたよ!」 という気持ちが残るもんですから、 「このゲームおもしろいやんか!」という気持ちが、 カーッと盛り上がってくる。 で、そこまで行けば、後はトレジャーさん流の ゲームに必死でついていこうとするから、 多少難しくなってもやっていけるんですよね。 ゲームの最初の部分で、 やる人の気持ちをガーッと引きつけることで、 任天堂のノウハウを使ってトレジャーさんの おもしろい世界にもっていくことが できるんじゃないかなと考えたんですね。 前川: だから単純に難易度を下げたわけじゃないんですよね。 遊びやすくしたってことなんですね。 山上: そうですね。 前川: 「難易度が高すぎる」 「いや、低すぎる」というような 不毛なやりとりをしていたわけではないんですよ。 ……: 単なる上下じゃないんですね。 前川: そうなんですよ。 これは高いとか、これは低いとか、 もっと簡単にしろとか、そういうことではないんですよ。 “いかに遊びやすくするか”という話なんですよ。 そういうレベルにもっていこうということなんですよ。 |
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山上: やはりゲームを買ってくれた人の 8割以上の人に満足していただかないと、 「よかった」という声は響かないですからね。 つまり、買ってくれた人の8割以上の人に、 ゲームの最後まで行ってもらう必要があるんですね。 ところが、 「初めてシューティングゲームをやる人に 最後まで行ってもらっていいのか?」 という作り手側の疑問も出てくるんですね。 そのときに、単純にそう考えるのはよくない、と。 やはり買ったものは最後まで味わえて初めて 定価分の満足をしてもらえるわけで、 最後まで味わってもらえる工夫を 作り手側が提供してあげなければいけないでしょ、と。 で、高い難易度を求める人には、 それ相応の価値を味わってもらえる部分を 用意する必要があり、 多くの人に買ってもらうためには、 幅広いユーザーのために、幅広い難易度や、 幅広い攻撃パターンを用意する必要がありますよね、と。 そういうところを無視して幅広く売ってしまうと、 いいゲームなのに結局いい評価を受けない、 ということになってしまうので、 そういった注意点が必要ですよね、という話を 僕はずっとしていたんです。 ……: 説得されますねぇ(笑)。 前川: されました(笑)。 武久: まとまりましたねぇ、 今日の座談会はこれでお終いということで(笑)。 ……: しかし、こうして山上さんの話をきくと、 きっと、ほぼ日の読者も、 普段ほかの会社と一緒に仕事してるでしょうから、 「そうだよな〜」って感じることが あるんじゃないですかね。 前川: こういう話って、 いろんな仕事に当てはまりそうですね(笑)。 山上: ゲーム作りに限らないですよね。 前川: まあ、ゲームの作り方というのは、 どういう人にどれだけの数を売るのか、 にもよるんですけどね。 山上: それは言えてますね。 ……: 「トレジャー」さんとしては、 任天堂と一緒にゲームを作ったことで、 新しい視点とか、ノウハウが得られたわけですね。 前川: そりゃもう、非常に参考になりましたね。 山上: たぶん次作ったら、僕すごい楽ですよ。 「もうわかってるじゃないですか」という感じで、 僕が口を出す内容も減りますし、 時間が短縮されるから、さらによいものを作ったりとか、 さらに大きな世界を作ることもできますし、 すごく楽しみだなぁ、と思えるんですよ。 やっぱり長い間いろいろなゲームを作ってきて、 今回トレジャーさんに出会ったときに、 僕が経験したなかでも トップクラスの実力をお持ちだなぁと思いました。 もちろん、いろいろな会社、いろいろなカラーが あるんですけど、トータルバランスとして すごく高いレベルだなぁと思いました。 で、僕の意見に対して現場の反論というのは もちろんたくさんあったんですけども、 いちど納得した部分の、仕事の成果というのが、 トレジャーさんが作ろうと思って作ったものと、 僕らが指示して作ってもらったものの、 レベル差がまったくないんですね。 で、これはものすごいことなんですよ。 つまり、のみ込めば自分のものにしてしまえる、 ということなんですよ。 で、こういうレベルの高さに対して僕らは 「トレジャーはすごい」って感じたんですね。 前川: 山上さんに言われたものを ウチのディレクターが鵜呑みにして 現場に指示するわけじゃないんで、 「やっぱりコレ入れるなら、コレもやろうよ」と 自分たちで考えますから(笑)。 要するに、そこまでやるなら、 徹底的によくしないと、ってなるんで……。 みんな、2年もかけて、命かけて作ってますから(笑)。 やっぱり世の中にだすには 自分たちが満足いく形で出したいですよ。 さきほど、山上さんが「ゲームに命を吹き込む」って 言ってましたけど、ウチのディレクターも言うんですよ、 同じことを。 「ゲームが生きてるか、死んでるか、 見りゃわかるじゃん」と。 |
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……: 意見の違いがいろいろありながらも、 いいものを作りたいという思いが、 根っこのところで一致してるんスね。 前川: そうですね。 よりよいゲームを作りたいわけで、 自己満足でやってるわけじゃないんで。 山上: ゲーム業界を広く見ると、なかには自己満足的に 作りがちな人もいないとはいえないので、 それが難しいんですよ(笑)。 武久: ものを作る人のなかには、内向的になっていきやすい 傾向の人もいるんですよ。で、自分だけの世界が あたかも他の人にとっても最高の世界であるかのように 考えてしまいがちで、 「俺の作ったものが、なぜわからないんだ」 みたいなことをおっしゃる人もいるので……。 そういう部分での調整がたぶんいちばん難しいです。 山上: で、その時にね、単純にね、 「そんなこと言ってたらダメなんだよ!」 って言ってたらダメなんですよ。 ヘコんでしまって、炎が消えてしまうんですよ。 だから、プライドとか、いろいろな心を考慮して、 時には熱く言い、時には褒めて。 相手の気持ちをうまく考えて、 「クリエイターを成長させるんだ」 というくらいの気持ちで接していくことがすごく大事で、 そんな中でそのクリエイターの 光ってる面を維持させたまま、 いいものを作っていく方向にもっていくという。 それを頭ごなしに接してしまうと、 光ってるものも消えてしまうので、 炎を消さないようにするというのが難しいんです。 ……: イメージ的には昔の熱血先生のようですね。 そういう人がいたかどうかわかりませんが。 山上: ホンットにそれは思いますね(笑)。 昔のいわゆる熱血先生がやっていたようなことを やってるのなかぁ、とすごく思うんですけどね。 「一緒に走ろうじゃないかー!」という(笑)。 もう熱いんですもの、 「トレジャー」のクリエイターは。 ものすごく熱いんですよ! 前川: 熱いですよ〜、みんな。 ゲーム作り=人生みたいになっちゃってるんで(笑)。 山上: その熱い人たちに対して、 「任天堂の世界に合わせてもらいます!」って ガツンと言ってしまったら、 クリエイターたちは、気持ちが冷めてしまうんですね。 だから、絶対そういうふうにはしないというのが すごく大切なことですね。 武久: 話が……きれいにまとまりましたね(笑)。 ……: もう、座談会終わり、にしますか(笑)。 前川: 終わらないでください(笑)。 山上: ま、ここまでの話は前文ということで(笑)。 ……: 改めまして、次回から、 「罪と罰」というゲームそのものについて、 話をしていただきます。 (つづく) |
より多くの人に楽しんでもらうために、 間口を広く、敷居を低く……、 それは単に難易度が高くするか、低くするかという 上下の目線での考えではなく、 “いかに遊びやすくするか”ということを 考えることだったんですね。 次回からは、いよいよ、ゲームの中身について、 話をしてもらいます。 |
2000-12-6