このゲームのキャラクターの声って、
「DJ」役をプロのDJのかたにお願いしたほかは、
全員、任天堂の社内スタッフでまかなったんですよ。
「日本人の青年(木町)」は情報開発部の若手デザイナー。
「日本人の女の子(はやみあかり)」役は美人受付嬢。
「白人青年(ロブ)」は任天堂の社内英会話教室の先生。
「白人少年(リッキー)」はメイン・プログラマーの
ジャイルズが担当してまして、そして、
「黒人ボーダー(ディオン)」は、なんと、この私。
けっこう無理やりなキャスト(特に私!)も
あったのですが、
これで行ってしまったんです。
こうなったら安くすませていいものを作ってやるぞ、
という勢いもあったと思うんですけどね。
実作業はサウンドエンジニアの清水君がおこなって、
私も英語のセリフなどに横から口を出させてもらいながら
進めていったわけですが、
出来上がってみると
素人を使って、よくここまで聞こえるようにしたなあ、
って感心しました。
もちろん声優を引き受けてくれた社員の人たちの演技力も
我々が期待していた以上に高いレベルでしたし。
特に「はやみあかり」役の受付嬢の女の子が
とても楽しそうにノリノリでやってくれたのには、
感動すらしちゃいました。
このキャラクターに、とても活き活きとした雰囲気を
吹き込んでくれたんじゃないかなって思ってます。
「リッキー」役のジャイルズも、
何度も何度もやり直しをしてあそこまでやってくれたし。
この役はどうしても彼にやってほしくて、
こちらから一方的にお願いしたものですから。
メイン・プログラマーの仕事量って半端じゃないんですよ。
その忙しさの中で、よく引きうけてくれました。
今思うと、すごいことですよね。
そういう私も、黒人の声を演じることが出来るのか、
すっごく不安でした。
どう考えても、日本人が無理してやってるっていうのが
バレバレの「寒い」ものになる可能性が高かったですから。
結果として、アメリカ人からも
「あれは本物の黒人の声優を雇って録音したんだろ?」
って言われるものになったんですよ。
思わず、にんまりしちゃいましたよ。
あ、ちょっと自慢になっちゃった。
(アシスタント・ディレクター ヒロ・山田さん)
コアターゲットをくすぐるスノーボードゲームを狙え!
というのがこのゲームに出された
宮本プロデューサーからの
いわば任天堂らしくない指令でした。
コアターゲットとは、
プロライダーや、プロショップにたむろしてるボーダーや、
エクストリーム系スキーヤーなんかを指してますから、
もともとかなりマニアックな層を狙ってたんです。
タイアップしたボードメーカーの
「LAMAR(ラマー)」も、
コア層の人は「めちゃシブ」と言ってくれますが、
ほとんどの人は
「聞いたことない」
「街のスキーショップじゃ見かけないよ」
と言うでしょう。
全体のカラーも、容量的な制限をクリアしながら、
あえて「シンプル」なデザインに仕上げてることもあって、
64ソフトのラインナップの中でも
「地味なゲーム」と捉えているユーザーは
少なくないと思います。
そもそも、開発チーム自体が
それまでいろんな畑でいろんなことをやっていた
メンバーをかき集めて出来上がった
ソフト部隊屈指の「寄せ鍋」チーム。
私自身、もともとはゲーム畑の人間じゃなかったんですよ。
メインプログラマーもイギリス人ですしね、
とにかく、すべてが異色づくし。
その中から生まれたのがこの「1080°」です。
任天堂社内でも、ひょっとして今だにこのゲームのことを
海外からの輸入物ソフトだと思ってる人がいるんじゃない?
いいかげんにせえ〜っ!
(アート・ディレクター 西川佳孝さん)
この「1080゜」をつくるために、
「ウェーブレース64」の開発チームが再結成されたらしい、
というドラマチックな話が、業界での通説みたいで。
でも実際のところは、「ウェーブレース64」の
開発メンバーは1人しかいないんですよ。
他のメンバーはさまざまな経歴の持ち主ですし。
ひょっとしたら宮本グループのなかでは
変なグループ(笑)、だったのかも?
そんなぼくたちのこと、
宮本さんはあまり見てくれないんじゃないか、なんて
冗談混じりに心配もしていたくらいですけど、
実際はそんなことはぜんぜんなくて、
チェックを細かく入れてくれたり、
とりわけ開発が最後のほうになると、
操作系全般やゲームプレイに対して
大きな提案や指示をくれましたからね。
その熱いまなざしを受けて
「宮本さん、このゲームの開発具合に
かなり手応えを感じてくれているんじゃないかな」
って言いながら、励まし合ってました。
プログラマー、サウンド、デザイナー、プランナー、
ディレクター、全部で16名ほどのスタッフが、
実質1年くらいの作業で完成させたこのゲーム、
けっこうパフォーマンスの高いプロジェクトだったと
言えるのではないでしょうか?
まだまだ当分は
スノーボードのゲームでナンバーワンの座を
どこにも譲らないんじゃないですか。
そう言い切ったら、傲慢かな?
少なくとも私は、これが一番だと信じてますよ。
(ヒロ・山田さん)
「1080゜」は、
今まで私が携わったゲームのなかで
もっとも短い開発期間で、もっとも難しいソフトでした。
でも、残業をすることは
あまりありませんでしたけどね(笑)。
(メインプログラマー ジャイルズ・ゴダードさん)
任天堂でゲームを作ることには、
いつでも大変満足しています。
ゲームをできるだけ良いものにしようと、
みんなとっても仕事熱心ですから。
チームでパートごとに楽しく仕事をしていて、
作業が夜中の2〜3時に及ぶようなときでも、
その熱気が衰えることはありませんでした。
そういうみんなの努力が
このゲームにもよく表れていると思います。
任天堂で仕事を始めてから、何年も経ちますが、
情報開発部のなかの雰囲気はその間
何も変わってないように見えますね。
もちろん、新しく入って来た人や、
出ていかれた人はあっても。
全体的な雰囲気は同じままなのです。
私はそのことをとても大切に思っています。
(プログラマー コリン・リードさん)
というところで、(第2回の2)
“「寄せ鍋」チームが「1080°」を作った”
は終り。これからもナイスなエピソードがたくさん登場
します。次回、1月15日の更新をお楽しみに。
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