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樹

ゲームはまだまだ新しくなる! 新世代の主役たち

「まだ誰もやっていないことが、やりたかったんです」
「今まで特別に影響を受けたゲームは、ないですね」

静かな、でも力強い彼の言葉に、
「ほぼ日」はこれからのゲームの可能性を見ました。
新しい考えを持ったクリエーターたちがつくった
新しいゲームを、今回はご紹介したいと思います。

「コミュニケーションって深くなればなるほど、
言葉の持つ意味よりも、間とか呼吸のほうが大事に
なってきますよね」と語る
アンブレラの小澤宗明さん
連載第3回目はこのゲームを通して「遊び方」を
話してくれました。ピカチュウが答えてくれたときは
最高に嬉しかったんですって。

(第3回の3)
「進めることが目的のゲームじゃないんです」

キャラクターにピカチュウを使うと決めるまでは
サカナの顔をしたひととか(笑)、妖精とか、
女の子とか、ロボットなんかをおいていたこともあります。
いろいろなタイプの音声認識ゲームをつくってみたし、
いろいろなキャラクターを登場させてもみました。

最終的にはピカチュウを選択したわけですが、
ピカチュウ、って呼びかけたときに
「ピカッ」って気づいてくれるようにするのに
いちばん時間がかかったし、そこにいくまでが大変でした。
ピカチュウの動作をずっと作り続けていて、
それとは別に、声をかけたら反応するプログラムを作って。
そのふたつを組み合わせて、
「ピカチュウ」って言ったときに、実際に
「ピカ」って反応したときの嬉しさは、
すごかったですね

テクニカルに言うと、
そんなに大変というものではないんです。
それは、例えば「吉祥寺」って言ったときに、
地図の上の吉祥寺のランプがぴかっと光るっていうのと
技術的にそう変わるものではないんですけれども、
そのときに、こう、かわいいピカチュウがいて、
「なんだい?」っていう顔をしてこちらに聞き返してくる、
そのことを自分が嬉しいと思えるかどうか、
そういうピカチュウが作れるか、
っていうあたりが、
難しいところでした。

ピカチュウのいろんな仕草については、
プログラマーとデザイナーとの合作ですね。
プログラマーに
「こういうときはピカチュウが
 こっち向いてて欲しいよね」って、
いわば気軽な(笑)発言をすると、
プログラマーもそうだよね、って思ってくれて、
一生懸命仕事する、という関係です。

「ここんとこ、もうちょっと上を見てほしいねぇ」とか、
そういう微調整については、
みんなで話しながら決めていきました。
作ってるひとのまわりにみんなが集まって。
何かがちょっと変わると楽しいでしょ、
だからみんなが見に来ては、
じゃあこれはこうしてここはこうして、なんて言いながら
作っていくという状態ですかね。

もちろん、最初に全部を見通せてるひとがいて、
ここの仕様はこうで、っていって
パーッと作れちゃえば効率はいいんでしょうけど、
なかなかそこまで優れたひとはいない(笑)から、
やっぱり作りながら、この辺はもうちょっとこうしようか、
とかって付け足していく感じですかね。

ぴかちゅう

食べ物を見つけて、食べて寝る(笑)。
これがピカチュウの最初の基本パターンでした。
次の段階ではブラブラ歩き回って、食べ物を見つけて、
食べて、寝る。
食べ物がなかったら、ちょっと探してみるとか、
木の上にあったら穫ろうとしてみて、失敗して、
助けを求めてまわりを見るとか、
そういうようなパターンを付け加えていって、
ピカチュウの行動が増えていきました。

開発上とくに苦労した部分というものは、ないです。
プログラム上の苦労とか、デザインの上でのことならね。
例えば、ハードウェアが限定されている以上
色数はこれくらいじゃなきゃいけない、といったことで
それは何を作るにしてもついて回ってくる苦労だから。
ピカチュウと付きあっていくのがイヤになってしまって、
もうこいつの顔を見たくもない(笑)、とか
そういう苦労があったわけじゃないんで。
もっともっとこいつになんかさせてみたい、って感じで、
出来上がるほんとに直前までチョコチョコやってたし、
むしろ、いろいろ出来るのはわかったから、
いったいそれはどうまとまるんだい?(笑)っていう
状態が長かったです。

発売される3ヶ月前のこと、つまり、
マスターが出来てなければいけない2ヶ月前の段階で、
任天堂に見せにいったときには、
アイテムがずらっと並んでるなかで、
ピカチュウは、なんだかもう、
ただ迷ってるだけだった(笑)。
これが年末までに完成することはないよなーって顔で
みんなが見ていて、でもぼくたちは
「いや、出来るんですよ」とかって言いながら。
あれを見たら、誰も絶対に出来るとは思わないですよ。
9月頃でもまだそんな状態だったんですが、
そこから2ヶ月間で完成させる自信が、
少なくともうちのプログラマーにはありました。
でも、デザイナーなんかは、
内心ちょっと心配だったと思います(笑)。

(内山さん)
そのときは僕も一緒に京都に行ったんですけど、
まあ、誰も出来るとは思わなかったでしょうね。
でも、自分達では出来ると思ってました。
というか、思い込もうとしてました(笑)。

今思うと、未経験の強みだったのかもしれませんけど、
無理だと思ったらできるものもできなくなるし
何も「ゼルダ」を作っているわけじゃないんだから、と。
半ば無理やりそう思い込もうとしていたかもしれません。
つまり、そのくらい「ゼルダ」はスペシャルなゲームです。
RPGだから、何だから、といったジャンルを越えてね。
でも、「ゼルダ」も「ピカチュウげんきでちゅう」も
似ているところはあるんじゃないかと思っています。
ゼルダを作ったひとには怒られるかもしれませんが、
「一応おしまいまでのストーリーは作りましたけど、
せっかく遊べる空間を作ったので、いろいろ試してみると
おもしろいことがあるんですよー」って、
ゲームの側から言ってますよね。
プレイヤーに対して、開いている、と思うんです。
一日中、馬に乗っていてもいいんだよっていうのと、
一日中ピカチュウを眺めているだけでいいんだ
っていうのは同じ思想を持っているのかな、って(笑)。

もちろん、本気であの「ゼルダ」と
「ピカチュウげんきでちゅう」を
同じ土俵に乗っけるつもりはありませんよ。
ストーリーの占める割合がべらぼうに違うわけで
その辺を無視して言わせてもらえれば、なんですけども。

この「ピカチュウげんきでちゅう」も
いろいろな遊び方があるんです、というか、
何やってもいいんですよ

でも、ぼくらからそう言い放ってしまうと、
元も子もないんでね、
そこをちゃんと伝えるのって難しいなぁって思う。
今でも考えています。

(再び小澤さん)
ゲームを進めることが目的のゲームではないんですね
一日中、ずっと同じところにいてもいいんです。
花に水をやり続けていてもいいし、
一日中ピカチュウと一緒に走り回っていてもいいし、
一緒にイチゴを集めて回っていてもいいんだし、
ただ、ピカチュウがやっていることを
ぼーっと見ているのでもいいんだし。
ピカチュウの一日の過ごし方はいろいろであっていいし、
自分の遊び方もいろいろあるっていうことなんですね。

プレイヤーがうまくやろうと思っても、
ピカチュウが気軽に失敗してはひどいことするんで
(笑)、
こっちもだらだらと適当に、ね。
うまくやらなくてもいいんですから。
喜んでるピカチュウも見たければ、
悔しがってるピカチュウも見たいから。
ただ、上手になにかをやってるばっかりだと、
単調な毎日になっちゃって、
それはそれで寂しいんじゃないか、って思います。
いろいろやってみて、うまくいったり、失敗したり、
怒らせたり、そういうのがいいんだと思うから。
何かが穫れなかったり、うまく出来なくっても、
後からいくらでも取り返しがつくから、大丈夫です

RPGみたいにフラグが立っちゃって、
そのときを逃すともう二度と見ることができない、
というものではないから。

ゲームの終わりっていう考え方が、ないんです。
終わりは、ないですね
いつまででも遊んでいてほしいし、遊べるし。
2年とか3年とかたって、久しぶりに会ってみるかな、
ああ、やっぱりこいつは変わってないな(笑)って
そんなふうにつきあってもらえたら、嬉しい。

基本的に、こう、起承転結がピシッとしたものを
考えていた時期もあったんですが、
このゲームの場合、ストーリーが強くありすぎると、
そのストーリーに応じたピカチュウの個性は
表現できるけれど、ストーリーが終わってしまったら
ほんとにピタッと終わっちゃって、
違うピカチュウになっちゃう。
それがいやだったらゲームを終わりにしてしまうしかない。
それって違うんじゃないかな、と思った。
遊びに行くのに一緒に連れていって、みたいな感覚で
作りたかったんですね。
ストーリーの展開に応じて
器用に振る舞うピカチュウじゃなくて、
どんな場面でも
「ピカってば、勝手な行動をとるよなぁ」っていう
クセのある性格
に設定してあるのは
このゲームのピカチュウの特徴だと思います。

仕掛けという意味じゃなく、
こういうこともして遊べるよっていうのがあって、
実際、いろんなひとが、
そのひとそのひとで違う遊び方をしているから、
見ていて、あ、ぼくもそれやってみよう、と思うんですよ。
買ってきたゲームって、
自分と家族と数人の友達ぐらいとしか一緒にやらないから、
だんだん遊び方が固定してきちゃって、
こんなことも出来るんだってコトに気づかないですよね、
それってもったいないなぁ、って思うんです。

小澤さん


というところで(第3回の3)
「進めることが目的のゲームじゃないんです」は終わり。
次回は「とにかく、あちこちで声をかけてみてください」
という小澤さんからのメッセージです。
ゲームのなかの楽しい情報をいくつか教えてくれますよ。


1999-2-20-SAT


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