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樹

ゲームはまだまだ新しくなる! 新世代の主役たち

「まだ誰もやっていないことが、やりたかったんです」
「今まで特別に影響を受けたゲームは、ないですね」

静かな、でも力強い彼の言葉に、
「ほぼ日」はこれからのゲームの可能性を見ました。
新しい考えを持ったクリエーターたちがつくった
新しいゲームを、今回はご紹介したいと思います。

昨年末から今年にかけて、人気の64ソフトとなった
「ピカチュウげんきでちゅう」。このゲームをつくったのは
アンブレラという若い会社のスタッフたちでした。
代表の
小澤宗明さんに5回にわたって開発のお話を
伺ってきましたが、今回はいよいよ最終回です。
第一作を作り終えたいま、小澤さんたちが目指すこれからの
ゲームづくりやゲームの可能性についてお話を伺いました。

(第3回の5)
「ゲームすることと、
 コミュニケーションすることは
 すごく近いところにあるんだと思う」

アンブレラっていう会社の名前は、
そのときはやっていたゲームのなかに出てきた言葉です。
「バイオハザード」のなかに、
アンブレラっていう会社が出て来るんです(笑)。
秘密結社で(笑)。
会社名を何にするか、なかなか決まらなかったんですよ。
なにかに決まっちゃっていれば、そんなもんかなぁとか
思ったりすると思うんですけど、
何がベストか、とかって言い出すと、
個人個人で、それじゃイメージがどうだ、とか、
それは発音しにくいだとか、収拾がつかなくなってきてて。
いろいろ出たなかで、
「アンブレラ」っていうのは、
イメージするものがニュートラルで、
言葉の響きもいいんじゃないか、って感じがしたんで。
バイオハザードにこだわりたかったわけではなく(笑)。
あれこれといろいろな案が出たなかのひとつで
だれかが、アンブレラは? って言い出して、
あ、それ、いいねえ、って言って、みんなで選びました。


ほんとにふだんはみんな勝手なことをしてますよ。
でも、ちゃんと仕事が出来てるから、
それでいいんです。
仕事のしかたもほんとにひとそれぞれ。
机とイスで仕事してる人がいれば、床にタタミを
敷いてそのうえに座ってる人
もいたりとか。
タタミを買ってきてね、床の上に敷いて、
そのうえにコンピューターを置いて、
座ってやってるひともいるんですよ。

ぼくですか?
ぼくはミカン箱のうえにノートパソコンを載せて
やってるんですよ。
そのほうがやりやすいから(笑)。昔からそういうスタイルです。
広いとこにいると落ち着かないんで、
すぐに隅のほうにいって、座ってやっちゃう。
「そんなとこにいるなよ、寂しくなるから」とかって
言われるんですけど、それがぼくには合ってる。
自宅の部屋もそうしてるし。

それぞれの仕事のやりかたを尊重しながら、
今後はスタイルが全然違うスタッフにも
もっと働きやすい環境を用意したいし、
スタイルの違うスタッフ同士がうまくつきあっていける
環境については、どんどん考えて、
アイデアがあれば取り入れて行きたいと思っています。
ピシッと時間決めて働きたいタイプもいれば、
だらだらっとしつつも気分がのってきたときに
ババッと集中してやりたい人もいるから。
どっちのタイプもいるから、
そのへんは難しいっていえば難しいんですけども。

必ず集まることになっている会議は
いまのところ週に1回、月曜だけ。
とりあえずいま何してるか、みんなで報告しあおうよって。
じゃないと、8時間とか10時間の勤務時間のサイクルが
まるっきりずれちゃって、
顔を合わせなくなる人が出てくるのでね。
お互いが顔が見えていて、話ができるようになってないと
やっぱりだめですから

ひとりひとりの仕事の能率だけで考えたら、
パーテーションで区切られてたり、完全に個室にして
自由に仕事するほうがやりやすいだろうな、とは
思うんですけど、
でも、直接、相手と話をしながらじゃないと
まとまりがつかないことっていうことも絶対にあるから、
全体会議で方針を確認しながら、
細かな調整は関係者同士で、いつと言わず、
顔を合わせたときを見はからって話をして、
そこで決めていく、というやりかたで
「ピカチュウげんきでちゅう」はつくりました。
人の顔が見えるところにいるのって、大事だから。
あ、今日はあいつが来てるから、この話をして、ってね。
個々のパフォーマンスが仮にちょっと下がったとしても、
全体としては、ワンフロアにみんながいるのはいいですよ。

こうして、とりあえず第1作めをつくったわけですけど、
自分たちはよい意味でも、悪い意味でも、
なんともゲームの世界の住人だなぁって気がしていますね。
ゲームとは全く違う世界に生きていたスタッフで
作っていたら、今とはぜんぜん違うものに
なっていたかもしれないですね。
昔からゲームが好きで、ずっと遊んでいた自分たちが
作ったから、ゲームっぽい捉え方をしても、
ぎりぎりセーフになっているのかもしれないし。
そこらへんのバランスの良い悪いは
自分たちにはわからないんですけどね。
もちろん、作ったものに自信があるからこそ、これを
どうですかって、世に出したわけですから。

今回、音声の認識率が高いこと=ゲームとして楽しい、
とするかどうかについては、
意図的に除外した部分もある
んで、
音声認識として「声をかける」というだけじゃなくて、
いろいろな言葉を認識する、
言葉の違いを認識することができる、
という特徴をもっと活かしたゲームも、
つくってみたいなあと思ったりはしています。
その一方で、そういうのは、まあ、誰か作るだろうから、
自分はぜんぜん違うことをしようかなと思う部分と。
いろいろですね。

ネットワークに興味があるから
それも、そのうちになんかやりたいなあと思っています。
なかなか、まだ、構想だけでも
長い試行錯誤が必要だ、というのが
今のところの感触なので、
いつになるかは、わかんないし、
あくまでもぼくの個人的な興味なんですけど。

こどものころ、コンピュータが一個あって、
自分がいて、ずっと遊んでて。
で、モデムを買ってきて、電話線につないでみたら、
他の人のコンピューターとつながって、
データのやりとりが出来たりしてね、
それがすごく新鮮なことだった。
コンピュータがひとつあります、じゃなくて、
ふたつつながってるっていう感覚をイメージするだけで、
それで出来ることがまたずいぶん変わってくるなぁ、
と思ったし、それはとても楽しかったし。

大学にいたころは、単純に技術的なレベルで、
データをやりとりできるってだけで
すごく楽しくて。
学校のネットワーク上にパソコンを
かたっぱしからつなげて、
2階の先生の部屋と、地下の自分の研究室とが
通じるようになったよ、っていって。
そういう得体のしれないパケット流すんじゃない、
って怒られたりとかしながら(笑)

そうか、なんでもつながるけど、
やっぱりそれだけだと混乱するから
ルールが必要になるんだなあ、とかって学んで
そういう技術的なことでね、
ネットワークにコンピュータを接続するということ、
データのなかにメッセージをのせて
メールが送れるということ自体が、
ぼくにとっては面白いんですよね。
それは遊びとしても、
いろいろな人のいろいろな遊び方につながって、
きっととても楽しくなると思う。
そういうことをこれからもっと考えてみたいなあ。

ネットワークをつかってゲームするとしたら、
いちばん面白いのはやっぱり、
「ほかの人とコミュニケーションできる」
ことだと思うんです。
それがメールだったり、チャットだったり、
電子掲示板だったり。
それとゲームがどういうふうに結びついていくのか
という部分で、
これといった解がまだ見えていないような気がするんで
そこをちょっと考えてみたいな、と。

オンラインゲームとかもありますけど、まだ、なんか、
とってつけたようなのが多いんじゃないかなぁ。
いや、それでも十分面白いからすごいんだけど(笑)。
「ウルティマオンライン」とか「信長の野望」とかも、
同時にやってる人がいる、ということがおもしろいんで、
正解を見つけるとか、ゲームを進めることとは
関係のない話や雑談をしているのが楽しかったりして、
むしろそっちが本質じゃないかな、って思うから。

ゲームをやるっていうことと、
コミュニケーションをとるっていうことは、
すごく近いところにあるんだろうと思う

うまくその2つが絡みあっているようなかたちのものが、
面白いんですよね。
それがちゃんと出来たら素敵なことだと思います。
具体的にこれだっていうものが、
ぼくとしてもまだあるわけではないけれど、
いずれは出来たらいいなぁ、と思っています。
ポストペットなんか、すごくいいものだな、って思う。
あれも、たくさんある解のうちのひとつだし、
あれとは違うかたちのものも、きっとあると思うし。
ああいうかたちで考えた人もいるし、
また違うもので何をしようかな、って思う人もいるはずで、
いろいろな人がいろいろなことをしていけばいいんだしね。

これからも、自分たちから表現したいものは
ゲームのかたちで作品として出していくつもりなので、
今はとにかく、
この「ピカチュウげんきでちゅう」を見てほしいなあ
っていう気持ちです。
自分の口からああだこうだと言うのは
反則のような気がするんで。
言いたいことは作品として出す、そんな感じですかね。

このゲームをつくった人、っていうのがいるんだ、
っていうことさえわかっていてもらえれば、
ぼくらが次のゲームを出したときに、
アンブレラって、以前に、
「ピカチュウげんきでちゅう」を作った人たちよねぇ、
って言ってもらえると思うしね。
そうだったらいいよなぁ、っていうくらいで。
だから覚えといてください、ってことではなくね、
次は次でまた、次の作品で勝負しなくちゃいけないんだし。

まだ、ピカチュウとかポケモンとか、任天堂とか、
名前でぜんぜん負けてると思うんで(笑)、
アンブレラって名前も、
もっとアピールしてかなきゃいけないんですけど。
でも、それは作る人がわかってればいいことかなぁ、
とも思うんで、作る環境にいる人たちがわかっていれば、
ゲームをする子どもたちにとっては
誰が作ったか、どういう会社か、なんてことは
ぜんぜんどうでもよくてね、
ただ買ってきたゲームが面白いかどうか、だから。

アンブレラって何? っていっても、むずかしいですよね。
ただ単に、今いるスタッフに「アンブレラ」っていう
同じラベルをつけているという、ちょっと乱暴な言い方も
出来るわけだから。
アンブレラっていう「実体」があって、
そこに人がいる、ということではないから。
アンブレラ自体、どんどん変わっていくものだと
思っているし、そうありたいなあ、と思っています。
もちろんひとつの会社ではあるんだけど、
他にやりたいことがあったりしたらどんどんやればいい、
自分がいちばんやりたいことをやっていけばいいんです。
スタッフ個人個人がそういう自覚を持ちながら、
仕事するということが会社にとっても大事だし、
もっとやりたいことができる場がよそで見つかったら、
そっちでがんばってほしいなと思うし。
ここでなら自分がやりたいこんなことができそうだ、
と思った人に、アンブレラに入ってきてほしいしね。

大学のサークルみたいな会社に思われたりもしてるけど、
システマティックにものを作っていくって感じだったら、
既存の組織で、十分うまく作れるところがあると思う。
でも、クリエイターはどんどん新しいものを
作っていく必要があるし、
そしたら、プライベートな部分も含めて、
型にはまらずに、自由にやりたいことが出来て、
しかもそれが仕事に生かせるような環境のほうが
いいと、僕は考えていますから。
もちろん、一人ではなく、人と一緒にやる仕事だから、
ある程度はきちっとした型にはまらなければ
出来ない部分もあるし、
そのへんのバランスはまだまだ模索中ですけれど。

ひとつ終わったあとで、
じゃ、次をどうするかって考えたときに、
それぞれの人が自分のベストだと思う選択ができること
僕自身がある日突然、ひとりにさせてくれ、って
言いだすかもしれないし。
そういうことが実現できる場であってほしい。

マリーガルというパートナーと巡り合えたことは
ものすごく幸運なことだと思います。
でも、この幸運は、自分から行動していたからこそ
出会えた幸運だと思っています。
自分が好きに出来る場所は自分で作らなきゃいけない。
それはものすごく大変なことでもあるんだけど、
いくら大変だとしても十分その価値はあることだと思うし、
ぼくらみたいなやり方が成り立つための基礎としては、
個々の力が、いつでも、ひとりひとりになっても、
どこでもやっていけるよっていうくらいじゃないと、
だめだと思うんですね。
そもそも存在不能じゃないかな。
一人っきりになったとたんに飢えて死んじゃう(笑)
だけの能力だと、つらいよね。
一人でもなんでも出来るし、やっていけるけど、
でもこのひとたちといるともっと違うことが出来る
から
アンブレラにいるんだよ、っていうのが
素敵なことなんじゃないかな。

Mr.Ozawa

 


いかがでしたか?
「ピカチュウげんきでちゅう」アンブレラ小澤さんへの
インタビューはこれでおしまいです。
次回からは、これまたただいま大好評発売中の64ソフト
「ニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズ」
を取り上げて、スタッフインタビューなど楽しい話を
たくさんお伝えする予定です。お楽しみに!


1999-3-2-TUE


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