(第4回の4)
「ムダと言われても
目までちゃんと描きたいんです」
(若山 強さん)
私はチーフデザイナーです。
こう言っちゃなんですが、実作業はあんまりしてません。
みんなに「ここはこうしてくれ」といったりする役で
ディレクターやプロジェクトリーダーとの調整に
回っていました。
あとはプログラマーの側から
「ここ間違ってるんじゃない? どうしても動かないよ。」
と言われることを、調べて直すとか。
(橋倉 正さん)
主にマップ関係のデザインを担当しました。
自分で描いたのは6面くらいです。
(高橋道子さん)
基本的にはセレクト画面などを担当しました。
マップも少し描いています。
(引き続き同席してくださっている桜井ディレクター)
高橋はこのゲームのスタイリッシュさ担当でもあります。
(編集部すかさず註:今回の取材でインタビューした唯一の
女性開発スタッフです。スタイリッシュさという点も、
ゲームにとって大切な要素ですもんね。)
高橋道子さん
自分ではカービィのストーン
しか使わないという徹底ぶり。
「同じ技を連続すると効果が
弱まるから、ときどき誰も
いないところでパンチ出して
効果を回復させるんです」
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(橋倉さん)
最初はオリジナルゲームのデザインやテイストを
真似すればいいから楽だろうと思ってたんですが、
その考えは甘かったですね。
マップの構成にしても、各面とも浮いている「島」で
戦ってるわけですから、元ゲームからのアレンジが、
予想していたよりも難しかったです。
また、動くキャラクターとの差別化ということでも
苦労しました。
キャラクターに比べてあまり目立ちすぎてもいけないし、
目立たなすぎてもいけないし。
あくまでもキャラクターを動かすゲームなんで、
それを阻害しないように、控えめに。
マップキャラクターの各々のイメージを崩さないように、
いろんな配色とかをひとつずつ決めていったわけです。
なるべく「それっぽく」ということを
デザインコンセプトに置いて作業をしていました。
そのうえで、それに沿った自分の色を出すということ。
ただ、あくまでもそれは抑えめに、でしたが。
最初にカービィ面から始めました。
うちのオリジナルなので、自分にもよく馴染んで
触りやすかったこともありますし、
最初のとっかかりとして作りやすかったですから。
まずこの面を土台にして、次の面もこの感じで、
というように作っていきました。
(桜井さん)
ゲームのシステムにそったマップのつくりをしている
カービィ面は、開発初期の「対戦格闘ゲーム竜王」の
ころから基本的なマップデザインが変わっていません。
足場の配置は全く同じです。
だからこの面は、普通に楽しめるようになってます。
いっぽうフォックス面では、
とても広いところで戦わなければいけなくなっています。
マップはひとによって好き嫌いがはっきりしてますね。
つくった我々としても、それでよかったと思っています。
ただ、ゲームにそった配置をしなきゃいけないというのは、
マップをつくるうえでは明らかな制約なので、
彼らの仕事はやりにくかったのではないでしょうか。
(橋倉さん)
まあ、ケースバイケースですね。
例えばリンク面だったら、
モチーフが「お城」って決まっているので
お城そのものをステージにすればいいんです。
空中に浮いてる島として端のデザイン処理をして。
(高橋さん)
リンク面は、ゼルダの伝説64版が出たときに
「こんなにきれいだったんだ!」って驚きました。
私たちが作っていたのはゼルダが出る前だったんで。
(桜井さん)
リンク面については、もちろん任天堂さんから
いろいろと情報をもらってはいたんですけれども、
ビデオで見るのとプレイするのとでは大違いでした。
で、ゼルダ64版が出てから、
いろいろなことがわかって。
お城はこうで、背景の山の位置はここにあったんだ、
ということがはっきりとしたんで、
それを見ながら、またちょっと作り直してもらって。
例えば、このステージは、時間設定が朝なんです。
でも、朝、太陽の昇る方角が、元のゼルダとは
違っていたんですね。
細かいことなんですけれども、
ゼルダを見てからこだわって直しました。
(橋倉さん)
「メトロイド」のサムス面、64版はまだ出ていません。
言わせてもらえれば、これが初めて世に出る
「メトロイド64」なんですよ(笑)。
いちお、それっぽく、作ったつもりでいますけれども。
(桜井さん)
「メトロイド」というゲーム自体は、
洞窟のなかで繰り広げられる物語なんですね。
でもこのゲームは浮島が舞台ですから、
当然、背景が近くにあってはいけない、という制約も
生まれるのです。
マップのデザインは難しかったと思います。
また、この面では「下から酸が吹き荒れる」という
非常に攻撃的な仕掛けを設定してありまして、
そのあたりも面のバランスをふまえつつ、
しかも違和感なく地形などを配置していくのに
苦労していた箇所だと思います。
最初はぜんぜん違うマップだったんです。
衛星の軌道の上みたいな、星の上での戦いだったんです。
でも、もっと元のメトロイドの雰囲気に合っているほうが
いいという理由で、今の面になったわけです。
(高橋さん)
全体的なイメージを決めた時期が、
どんなキャラクターが出て、どんなマップが出て、
ということが完全には出来ていない状態だったんですね。
12人のキャラクターがいれば12のイメージがあるから、
そのうちどれかひとつに偏るわけにはいかなかったし。
(桜井さん)
とりあえず今回は無機質でいこう、ということだけ、
決めていました。
キャラクターが人形であることで、特別な性格設定も
していなかったり、そのへんはわりと徹底していました。
何かの個性を持たせると、その個性が元からの個性を
相殺してしまうということになってしまいますから。
例えばピカチュウに、何かの性格を設定するわけには
いかないじゃないですか。
ピカチュウが突然ぺらぺらしゃべりだしたら興ざめでしょ。
だから、まずストーリー性はあんまり持たせなかったし、
各キャラクターは自分のそれぞれの持ち味以外のところは
なるべく多くを語らないようになっています。
それと同時に、任天堂のキャラを使わせてもらうけれど、
あまりそのイメージに引っ張られすぎないようにしました。
(若山さん)
わりきって考えるようにしたんですね。
ただ、任天堂さんに行って、
「このキャラクターを使います、それでこういうふうに
仕上がりました」って持っていったときに
「これは違うね」って言われないように、ということは
気をつけましたけれども。
(高橋さん)
任天堂キャラクターを使って、
それにイメージを近づけようとしているけれども、
マップでもやっぱり、私の作ったマップには私の色の、
橋倉の作ったマップには橋倉の色があるんですね。
やはり自分の味を出すということ、アレンジっていうか、
解釈で作るからですよね。
どんなオリジナルのゲームを作っていても、
ゲームを方向づけるディレクターの考えに合わせる必要が
ありますし、自分の趣味で描こうとしたら
理解されないような絵を描いちゃったりしますから。
ええ、極端にいうとそうなっちゃうんです(笑)。
私が最初にプレッシャーだったのはマリオ面ですね。
あれはやっぱり、元のゲームがすごい売れてて、
固定ファンもついていて、そのファンのひとたちに
怒られないようなものを作らなきゃいけない、
ということがあったから。
マリオをやっていたひとの持ってるイメージを
壊しちゃいけないっていうことを思っていたから、
マリオ面に関しては、何回も作り直しました。
(高橋さん、続けて)
この仕様でこの形にあったステージのなかで
マリオを遊んでるときの面白さみたいなものを出したいと
いろいろと試行錯誤して、マリオらしく
ちょっとしたアクションが楽しめるようなものに
したいなと思っていたんです。
初めは下のほうに大きなブランコがついていたりとか、
マリオらしいものをいろいろ考えて置いてみたりしました。
でもそれを出すと、このゲームの特性が出なくなっちゃう。
上に天井があるのもマリオらしいんだけれども、
余分な仕掛けがひとつあるだけでも、
この「スマブラ」の目指した面白さが
逆に失われちゃうから、そういうのは極力取り払って。
どういうものが「マリオなのか」を考えたときに
自分の解釈した「マリオ」らしさが、このゲーム上で
表現されていればいいんだと気がついたんですね。
自分の思ったもので行くと決めてからは楽になりました。
反対に、旧マリオ面は作っててすごく楽しかった。
イメージを合わせなきゃいけない辛さというのは
この面では全くなかったんです。
私はこの「スーパーマリオ」で育った世代なんですよ。
このマリオに関しては15分でクリアできるくらいに
小学校のときにやり込みました(笑)。
ゲーム業界に入るきっかけになったと言えるくらい
私にとっては思い入れのあるゲームなんで、
とても楽しみながら作らせてもらいました。
この面の背景で「メット」がくるくる回っているのは
私が勝手に作っちゃったんですけど、
ディレクターにはOK出してもらえないかな、って思いながらも。
(桜井さん)
いや、これ最高(笑)。
後ろのバネでびょ〜んと跳んでるメット、わかりますか?
(橋倉さん)
最初に、桜井のほうからオーダーが出て
「背景を一面について150ポリゴンでやってくれ」と
言われたんですが、
これを守るのがけっこうしんどかったですね。
最後のほうは守れなくなっちゃってましたけど。
個人的には、もうちょっとマップを飾りたかったな、って
いうのが心残りと言えば心残りです。
もちろん、今でも満足はしてますけど、はい。
(桜井さん)
マップのデザインは、地道さが要求される作業です。
ポリゴン数を抑えられるのはもちろんのこと、
主役たちを立たせるために色合いを薄くしたりとか、
見えないところはポリゴン数を削って、とか。
そのなかで橋倉はたくさんのことをやってくれました。
「背景を150ポリゴンで」このオーダーは厳しいですよ。
例えば、キャラクター1体のポリゴン数は
最低でも200くらいはないと形にならない。
200っていったらそうとう少ないですよ。
聞いた話では「ポケモンスタジアム」は
1キャラが600〜1200くらいということですから。
(編集部つっこみ:指示したのは桜井さんでしょう?)
ええ、それはそうなんですけれども。
背景のポリゴン数をそこまで抑えてもらった理由は、
それで浮いた分を他に回して、キャラクターやカメラを
なめらかに動かしたかったからなんです。
4人の対戦になったときには、キャラクターだけで
800ポリゴンも使っちゃいますから、
背景のポリゴン数を節約しておくのは大事なんですよ。
アイテムを含めて、全体で1000を越えるかどうかと
いうぐらいのレベルをキープしました。
もちろん、一秒あたりのコマ数を落とせば
こんなに節約しなくてもそれなりの絵が出るんだけれども、
それはゲームの特質には合わないと思ったんです。
(若山さん)
ポリゴン数を抑えるために、例えば
キャラクターの足がどうしても三角形になってしまうとか、
そういう苦労もしましたけれども、
オリジナルキャラの雰囲気を壊さないようにしないと
いけない、ということには気をつけていましたから。
今回、任天堂さんに見せに行って、
「似てませんね」とは言われなかったのが幸いです。
若山強さん
自分ではネスしか使わないとか。
「バット使うのが卑怯とか言われてるけど
オレはそういうとこが好きだから(笑)」
|
(若山さん、続けて)
どこの会社でもハードの制約にあわせて作るということは
ありますし、そういうのって、
苦労と言わないのかもしれませんけどね。
基本のルールとして、「表示速度を1フレで出す」と
いうことを前提にしていたので、よりいっそう、
ポリゴン数とか、テクスチャーの、貼ってある目とか、
表情とか髪とか顔とかの、表情のシールみたいなものをね、
すごくちっちゃく作らなくちゃいけなかったので、
もうちょっとでかく出させてくれよ、っていうやりとりは
ありましたね。
顔や目はシールみたいに切り抜きを貼り込んでるんですが、
貼り込みする絵のサイズがすごくちっちゃい。
ちっちゃいのに細かいってことです。
プログラマー側としては、なるべく処理を軽くする努力を
プログラム的にしていますよね。
で、こちら側は、なるべくきれいに見せたいということがあって。
だいたいの絵はちっちゃくしか出ないものだから、
そんなに細かく描かなくても、誰もわかんないよ、と
プログラマーはいうわけですけれども、
こっちとしてはもっとはっきり目を描きたいとか、
もうちょっとでかい絵を貼らしてくれよ、ってことが
何度かありましたね。
(桜井さん、画面を説明しながら)
例えば、電気でしびれたときの絵を見てみましょうか。
ほら、「タイムボカン」みたいに、骨だけになってる絵が。
しびれてるのはどうやらフォックスらしい
(若山さん)
これもプログラマーには
「無駄だ」といわれたもののひとつですよね(笑)。
(編集部:桜井さんからの指示で、
他にもこれは勘弁してほしいなっていうのありましたか?)
(高橋さん)
本人を目の前にして言うんですか?(笑)
(全員)
・・・(しばし無言)。
(なかったですか? 橋倉さんも?)
(橋倉さん)
いや、そんなことはないけど・・・。
橋倉正さん
特にひいきのキャラは決めてないそう。
「しいて言えばキャプテンファルコンかな」
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(橋倉さん、遠慮がちに)
色って、調整したらキリがないんですね。
いくらやっても、これっていう最終的な色というのは、
決まりがないですから。
同じ色でも、モニターによって見え方が微妙に違うわけで、
だから、最終的には桜井が使っているモニターの色を
目安にしようということになりました。
僕としても、それで勘弁してくれよ、ってことで。
(桜井さん)
例えば、旧マリオ面だと、
後ろのほうにキノコの土台があるんですが、
あれってもちろん本来は縁が黒なんですよね。
でも、背景に使うときには、黒そのものでなくて、
もっと淡い色を使うというようにしなければならなくて、
とくにオブジェクト作り、草とか木とかを作るにあたって
ひとつひとつの色調整が大変だっただろうなと思います。
自分も、決して自分の意見を押しつけたり、
強制したりということはなかったと思いますけれど。
自分はこう思う、なぜならこうだから、ということを
なるべくわかってもらいつつ、納得してやってもらってたと
思うんですが、どうでしょうか。
ひとによってはそれを理不尽だと思ったひとも
いるかもしれないけど。
(若山さん)
いや、理不尽じゃないんですけど、
多いなあ(笑)っていうのはありましたね。
確かに言ってることは全くそのとおりなんですけど、
それ、全部やるんですか? っていうことは
たくさんありました。
バトルじゃないけど、決して穏やかだったわけでもなく。
ここちよい緊張関係とでも言いましょうか(笑)。
(高橋さん)
頑固ですから(笑)。
なかなかすんなりと、それでいい、と言ってくれませんね。
10のうち9は「いや、うーん」って。
でも、そのうち2回くらいはそのとき言ったように
直ってるんですよ。でも本人は忘れてるんですよ。
あ、これ、私が前に言ったヤツじゃん、ってことは
ありますね(笑)。
(インタビュー終わって)
グラフィックチームは絵を描けるから楽しそう、なんて
思ってたけどとんでもない! 大変な作業の連続なのでした。
背景の色ひとつまで「決めた」ものがそこにあるんですね。
ゲームを見る目が変わる人も多いでしょう!?
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