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 宮本茂が語る。
〜今思うこと、5年後のこと〜
 第5回 宮本茂が語る、ものすごく新しいもの。



「頑固職人の一徹な話みたいとちゃう?」
だいじょぶです、宮本さん。面白いです!
ロングインタビューも第5回。
話はしだいに佳境へと入ってきました。

ウワサの次世代ハード『ドルフィン』についても
もちろん伺わなくてはなりませんね。


(註:『ドルフィン』とは任天堂が発表している
 現時点での仮称ですので、ご了承ください)


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ドルフィンというハードは、やっぱりパワーがあるので、
実験にかなり時間がかかるんですね。
でも、そう言うとね、
「作るのが難しいんでしょ」って
パッと切りかえされるんだけど、
作るのがすごく難しい、というわけやないの。
そやけど、やっぱり先端のものなんで、
どんな不思議なことが出来るか
まだわからへんの。
それを今、やってます。
当然、ご存じのように、
まだCPUが出来てないものなんで、
それがちゃんと完全に1枚のボードになって動くまでは、
最終のデザインは出来ひん、というのが
この世界の常識やから。

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もうちょっと、お話ししましょか。
例えば、今までのゲームで、ポリゴンという板がね、
あ、これはヒントになってしまうかなぁ、
あぁまずい。
いや、まずくはないか。
ポリゴンという板が、今までのボードでは
例えば3000個とか、5000個、動くよね。
それって、全部を1面ずつバラバラにして、
平面に敷き詰めても、波1枚にしかならないんですね。
そやけど、今、例えば、デジカメとかでも、
250万ピクセルとかってあるよね。
何十万、何百万ピクセルって単位になってくると、
1枚の絵になるわけですよね。
ということは、別に3Dを描くことだけじゃなくて、
描画能力としてみたときに、
そんだけの1個1個の点を
自由に描きかえるという能力
が、
基本的にはあるわけなんで、
例えば、250万個あるドットを、
それぞれ1点ずつバラバラに動かせて、
それぞれバラバラに色がコントロールできて、
となると、今まで絵を描いていた道具では
描けなかった絵が、描けるでしょ。
 
いや、実際には、
こんなことやってるわけやないんやけどね(笑)。
だから、そのものが何を生むかわからへんから
面白いんですよ、おもちゃって。
で、それをしたいのね。それを見たい。
それを見るだけで「え?」って思うことを。

少なくとも、今までのテレビの放送では
見たことがないものだし、
ビデオゲームとしても、
そんな画面、今まで見たことがない、
という絵が動いてないと、
もう、ひとは寄ってこないと思うから(笑)。

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だから、64で3Dになったマリオが、
今度はすごいきれいになって動いてる、っていうのが、
今回、ぼくらが作らなくちゃいけない「最低の保険」なの。
この「スーパーマリオ128」ではね。
けど、出来ればもっとね、
本来の「スーパーマリオ128」というべきものは、
面白いおもちゃとして、
「そのハードを買う価値がある」というものに
なってほしい。それがすべてなんですよ。
だったら、それをやろうよ、ということです。
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そんで、そのものすごい高性能なハードがあるときに、
それを君ならどう使う?ということが、
プランナーの、プランナー冥利の部分なんだよね。
そこをちゃんとやっておかないと、
ほんとの制作部隊だけになるでしょ?
『スーパーマリオBros.』を上位機種へ移植する、
みたいな作業にとどまってしまうよね。
だからぼくらは、「移植」という仕事を、
出来るだけ社内ではやらないようにしておこうと思って、
ずっとやってきたんで。
ムービーっていうものに関しても、
社内の開発スタッフがムービーを作るということは、
「インタラクティヴなゲームを作る」という意味から
みれば
本業じゃないし、っていうかそれは、
「面白いおもちゃを作る」っていうこととは
ぜんぜん違う仕事なんで、
だからそういうことには、あんまり
パワーをかけないようにしてやってきたから。
ほんと、制作部隊になっちゃうんですよ。
このままいくと、「高性能ハード」の先にあるのは
我々が制作部隊になっていくということなので、
そうならないような運営をしようという考えが、
大もとにありますね。

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でもね、「高性能ハード」って、それなりに厄介でね。
例えば、より速い乗り物が出たら、
それは乗ってみたいと思うものですよね。誰もが。
速さばかりがクルマの魅力じゃないよね、って言うけど、
やっぱり速さはクルマの大きな魅力のひとつだから。
で、困ったことに、やっぱり「すごく速い」ってのは、
単純に嬉しいの(笑)。
あぁ速いって楽しい!とかって、思ってしまうのよね。
まぁ、だからそれは、使わない手はないと思う。
すごい速いということは、十分素晴らしいことだと思う。
けど、すごい速いだけで、楽しみが拡がるんなら、
ずっとハード屋さんをやってたらいいわけですよ。
ぼくらプランナーは必要ないわけです。
ぼくはやっぱりプランナーの立場っていうのを守りたい。
そうじゃないとね、「速い」以外のクルマの楽しみが
どんどん必要なくなっていってしまうでしょう。

単なる移動手段としての乗り物っていう意味では、
そんなにスピードばかり求めて、クルマを
頻繁に買い換える必要はないわけで、
「別に前のでええやないか、十分速く走ってんのやし」
っていうことになるよね。
 
で、さらに困ったことには、
残念ながらプレイステーション2なんかと比べると
スピードは出るんですよね、うちのクルマのほうが(笑)。
実は「踏めば出てしまう」んで、
だから、力自慢ってことじゃない、っていう言い方もね、
なんか生意気そうで、なんて(笑)。
かっこいいなぁ(笑)。
ってなハズ、なんですけどね、まだ出来てないんでね。

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けど、ほんとにたぶん、すごいハードですよ。
ドルフィン自体はすごいハード。
だからこそ、そのすごいハードを
どう使うかだけに終わると、
ドルフィンの設計をしてるひとたちが
誉められるだけなんですよ。
「いいもんつくりましたねぇ」って(笑)。
そうさせてたまるか、っていう気持ちがあるね。
 
新しいハードに乗って動いてるマリオを見たときに
「わぁ、こんなの、今まで見たことなかった」って
言ってもらわんと、悲しいもんねぇ。
どうしたらいいもんかなぁ。
ふふふ。それが、ねぇ。
ただ、今、ぼくに言えることは、
ものすっごい新しいもんを作れると思う。
ぼくらじゃなくても、次の世代のデザイナーが、
その仕事をやってくれるんじゃないかな、と思ってます。

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まぁ、はっきりとした形があるわけやないんで。
どんなもんなんだ、見せてみろ、って言われると、
それを今考えていますって言うしかないんやけども。
 
そやけどね、「マリオ」が出るから(笑)。
ね、みんなが買いたくなるような「
マリオ」を
作るんです、ぼくは。
うん、ほんと、それだけ。
なんでもいいから面白いことを考えて、
それにマリオのキャラクターを乗せる。
今までのマリオと同じようなものを作ってしもたから、
キャラもマリオにせんとおかしい、っていう考えで
ゲームは作りたくないんで、
新しいものを作って、で、そこにマリオを乗せてみて、
で、マリオが似合わなかったら、
ゼルダに替えようかな、なんて(笑)。
 
そうやって、枠組みをいくつも持ってるっていうのは、
仕事してて楽な部分ですね。
やっぱり、エネルギーの総量って、
限られてると思うんですよ。
自分でやれるエネルギーの量って。
だから、マルチにいろんなものを作ったら、
その各々に注ぐ集中力っていうのも
それだけのものになってしまうし、
1作だけをずっと作ってるほうが、
より自分らしいものが出来るのも確かやし。
マリオとかゼルダという、キャラクターの枠組み

いくつか持っているということは、ある意味では、
それ以外の部分にパワーがかけられるんだよね。
シリーズを作り続けることは、そういう意味でも
別に悪いことやない、と最近は思うようになってます。

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『スーパーマリオBros.』が、
「横スクロールアクションゲーム」というジャンルを
作ったわけです。
『マリオ64』では、「
3Dアクションゲーム」という
ジャンルをきちっと体系づけたわけで。
そしたらどちらにもいっぱいフォロワーがついてきた。
だからそういう意味では、今度のもまた、
来年以降のビデオゲームの軸になるようなものを
きっちりと作ることのほうが、
「マリオでやるか、ゼルダでやるか」ということよりも
ずっと大事なことやと、ぼくは思うんですね。
たぶんお客さんのほうも、
「とにかくマリオじゃなきゃイヤだ」ということでは
ないと思うし。
次のマリオが乗っかってる、
その遊びの骨格に魅力があるからこそ、
そこに乗ってくれるんだと思うしね。
「こんなの今までなかったよ、わぁ!」
っていうもの。
それを、作りたいですね。

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ドルフィン。
ドルフィンって名前じゃない名前で発売されるかも
しれないけれど、とりあえずドルフィン。
手にする日まで、あと1年とちょっとのあいだ、
楽しみに待ちましょう。
みなさん、今回の宮本さんのお話を
そのときに思い出してください。
1年後にまた話を聞かせてくださいね、宮本さん。

さて、次回は年末発売ソフトにググッと目線を戻し、
「ドンキーコング64」の魅力を語ってもらいます。
お楽しみに。

1999-11-12-WED

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