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くもり
 
31℃
第4回 狂った自走砲台のように。
少々へこみながらこの原稿を書いている。
否、少々どころではない。
かなりへこみながらつづっている。
なぜというに今日の僕ときたら、でたらめだった。

ふたつ目の着陸地に降りた。
やあ、広々としていて
気持ちがいいなと思ったのもつかの間、
オレ様の操作といったら、そりゃもう、滅茶苦茶だった。
てんでばらばらだった。しっちゃかめっちゃかだった。
ぎったんぎったんのべらぼうのすっとこどっこいだった。

とりあえずペレット草などを刈り、
地中より虫が出たので赤ピクミンを何匹か投げた。
チャッピーの親子などもやっつけた。
そのあたりまではまだいい。問題はそのあとだ。
まず、地形が把握できてないから、
明らかに移動経路が最適でない。
さらにはカメラ位置などの操作がまだ不慣れだから、
ズームのつもりでカメラを回し、
パンするつもりで視点を俯瞰にしたりする。
そのうち、初めて体験する
「ガス」を吸ってパニックになった。
ミツを見て「おお、これはピクミンを育てるんだった」と
前作の記憶を呼び起こしたはいいが、
まるで計画なくピクミンに吸わせてしまう。
破壊できる柵を見つけてピクミンに作業させるが、
あろうことかそれが壊れるまで
じいっと作業を見守ってしまう。

違う違う違う、こんなことじゃダメだ。
破壊班に柵を任せておいて、
別のピクミンたちに違う作業をさせなければ。
『ピクミン』とは、そのように、
限られた時間をクレバーに
割り振っていくゲームだったじゃないか。
前作での僕は一流企業における辣腕マネージャーのごとく
寸暇を惜しんでピクミンたちに
指示を出していたじゃないか。

ところがどうだ。
届かぬ場所へピクミンを投げて、
さらにその回収にさえまごついている。
もと来た場所へ戻るつもりが新たな道へ進み、
マップを開くつもりでカメラを俯瞰にしてしまう。
進む先にアイテムらしきものを見つけて近づいたところ、
なんとそれはモンスターじゃないか。
いま考えると、そうなった場合は、
撤退するか回り込むかを
瞬時に判断しなければならないのだが、
あわてふためいた僕のとった行動といえば、
なんと突撃大作戦である。
闇雲にぐるぐると走り回りながらAボタンを超連打。
コントローラーを握る僕は実際に「きゃあ」と叫び、
操られるオリマーはピクミンをびゅんびゅん飛ばしながら、
モンスターの周囲をぐるぐると無軌道に走り回る。
狂った自走砲台、大暴走の巻とはこのことである。
投げられるピクミンにしてみれば迷惑このうえない。
「赤ピクミンが選ぶ、上司にしたくないゲームファン」
という企画があれば、ぶっちぎり1位間違いなしである。
ベンチがアホやから野球がでけへんとはこのことである。
いやはや、野球ファンですら速やかに思い出せぬほど
古い発言の引用でたいへん申しわけがない。

おいおい、いい加減に慣れてくれよオレの指先、
などとてめえの身体の一部に文句をつけながら、
飛び込んだ洞窟でのプレイがまたひどかった。
たいして複雑でもない穴の底をまごまごと進み、
炎がオリマーにダメージを与えることをすっかり忘れて、
ポリネシアン・ショーのごとくその身を焦がしまくった。
今日の僕のプレイをもしも任天堂の開発者の方々が
どこかの別室でモニターしていたなら、
調子がいいときの明石家さんまさんのごとく、
両手をパチパチと叩きながら爆笑しただろうと思う。
「うわ、こいつ、こんなに見事に引っかかってるわ!」
てな感じで、開発者冥利につきることうけあいである。

凡ミスプレイヤー大暴走の巻におけるクライマックスは、
洞窟の最下部に棲む巨大なモンスターとの一騎打ちである。

目の前にそいつの巨大な身体が見えた。
どうやら眠っているらしく、
気持ちの悪いまだら模様が出来損ないの紙風船みたいに
ふくらんだりしぼんだりしている。
耳をすますと低くイビキのような音が聞こえる。
なんだか知らないがとにかくデカいやつだ。
こっち側はケツなのか? 頭なのか?
想像するとすれば全体像は巨大なイモムシ。
ほかに進路も退路もないわけだから、
とにかくすべてのピクミンを投げつける以外にないだろう、
とあさはかに決断したのがよくなかった。

攻撃を受けて、ヤツは当然のことながら目覚めた。
巨大なイモムシの頭部は、愚か者の印象があるほど小さい。
この世界における基本的なセオリーを思い出して
僕はイモムシの背後に回り込もうとする。
だが、巨大なイモムシの背後をとることは至難の業である。
なぜというにイモムシは身体が長い。
というか、そもそもイモムシの背後ってどこなんだよ。
またしても制御不能の自走砲台と化して走り回っていると、
イモムシは思いもかけない行動をしたもんだから、
またしても僕は深夜に「きゃあ」と声をあげてしまった。
ご近所様にご迷惑とはこのことである。

なんとなんと、ヤツは突然、ごろごろと転がったのである。
イモムシ、ゴ~ロゴロ♪とはこのことである。
否、歌っている場合ではない。
あらためて状況を説明すると、そこは円形の部屋で、
イモムシはちょうどその中央に位置取っており、
大きさを示すならばヤツの長さは
円形の部屋の直径にほぼ等しい。
そんなやつがごろごろと部屋中を転がった場合、
走り回っていた僕のピクミンたちが
いったいどうなるか、賢明な読者諸君はおわかりかと思う。

69匹のピクミンが、全滅した。

呆然とする僕はもはや「きゃあ」と叫ぶ余裕もない。
えっ、と心のなかでなにかに問いかけるのが精一杯である。
全滅すなわち、ゲームはそこで終了する。
と同時に、僕の前にふたつの選択肢が唐突に現れる。
突きつけられて僕はさらに困惑する。

「セーブする
 セーブしない」

そうか、全滅しちゃったんだ、と思いながら、
僕はぼんやりと考えを巡らせ始める。
セーブすると、ここでの記録が残ることになる。
つまり、ピクミンを69匹も失ったという記録だ。
一方、この記録を残さずにやり直すとなると、
リセットボタンを押すことになるのだろう。
全滅という愚かな過ちは記録に残らないが、
やはりリセットボタンを押して
自分のミスをないものとするのは
少し咎められる気がする。

さて、と僕が思案するのは、ここでの決断が、
『ピクミン2』における今後のプレイに
大きく影響するということがわかっているからである。
つまり、僕は、ここでこのゲームにおける
スタンスを決定しなければならないのだ。

ミスがあろうとそのまま進むのか、
リセットして何度もやり直していくのか。

もちろんそれはどちらが正しいとかいう話ではない。
ゲームにあまり縁のない人は、
リセットボタンを押すことを極端に、
「反則」であるように感じる人もいる。
けれども、それは基本的にプレイヤーしだいだし、
ゲームによっては、リセットボタンを押して
やり直すことを前提につくられているものもある。

さて、と僕は考える。
起こったことすべてを記録として受け止めながら進むか、
リセットを選択肢に含めながら進むか。

じつは、いまも、画面には
その選択肢が出たままになっている。
悩んでいるということもあるし、
あまりにも自分のプレイに
へこんでしまったということもあり、
いったんコントローラーを置いて、
頭を冷やしながらこの原稿を書いている僕である。

うーん、どうしよっかな。
あ、書いてたら決まったわ。
じゃあ、ちょっとプレイに戻ります。

2004-07-07-WED


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