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虫のなかでとりわけ蜂が苦手なのは、 昔、部屋に迷い込んできたミツバチが 口の中に入ってしまったからである。 新聞の定期購読をいまだにしたがらないのは、 ひとり暮らしを始めたとき 暴力的な新聞勧誘員に居座られたためである。 夜の海に入るのがいまだに怖いのは、 子どものころに観た『ジョーズ』の冒頭において、 女の人が釣りの「浮き」みたいに 海中に引っ張り込まれる場面を 鮮烈に印象づけられたためである。 なにかというと、はじまりに際して 強い恐怖や嫌悪感を植えつけられた場合、 それを払拭するのはなかなか困難であり 印象を長く引きずってしまうことが めずらしくないということだ。 ゲームでいうと、たとえばシルバーデビルが 不思議のダンジョンの奥深くに現れた場合、 僕は必ずやコントローラーを持つ手に汗をかく。 対戦台の向こうから乱入してきた相手が ラウを使っていた場合、八割方負けを覚悟する。 主人公が鼻歌交じりに街を歩いていて、 「ききーっ」という車のブレーキ音が表示されたなら、 おいおいかんべんしてくれよ、と頭を抱えてしまう。 3つ目の例は濃いゲームファンにすら 出典が特定できにくい引用で、たいへん申しわけない。 以上を枕として話をようやく『ピクミン2』に移すならば、 僕がおののくのは、ヘビガラスよりほかにない。 ああ、ヘビガラス! 怖いよ怖いよヘビガラス! 自己の年齢を度外視した表現でこれまた申しわけない。 やや広い野原のような場所へ なんのきなくトコトコと足を踏み入れたところ、 前方野原中央の陸地、にわかに盛り上がり、 土を割りながら現れたるは猛禽類の頭部。 率直に表現すれば、首の長いデカい鳥が地面から にょっきりと顔を出したわけである。 認識した瞬間に脳裏を駆けめぐる前作の苦い記憶。 コントローラーを握る僕がどうなったかというと またしても「きゃあ」と叫んで逃げ回るわけである。 こえー、こえー、ちょーこえー。 思わず首都圏の若者風のことばでもって 恐怖を表現してしまう僕である。マジこえー。 とにかく僕はこいつが苦手である。 立ちはだかるゲームの障害として クリアーすることが難しいことはもちろん、 姿と振る舞いが生理的にダメである。 だって、鳥のくせに地面に潜ってるんだぜ? エサとなる動物が通るのを待ち伏せしてるんだぜ? 突然足もとからガバーッと現れて、 ピクミンたちをパクパクついばんで、 しばらくするとまた地中に戻るんだぜ? よくもまあ、こんなモンスターを思いつくもんだと思う。 あまりやりたくないが、ついつい癖なので微分していくと、 どうやら僕がやつを生理的に嫌う根拠はふたつある。 予想外の場所から唐突に現れることと、 補食の瞬間が見極められないことは、 敵モンスターとしての機能的な問題だとして、 生理的な問題はどうやらふたつある。 ひとつは首の長さである。 僕はあの「鳥の長い首」というのが苦手なのだ。 なぜというに、折れちゃいそうで怖いのだ。 危なっかしくて、目が離せない感じで、落ち着かない。 頭を支え、食物や息を通す重要な器官であるくせに、 あの長さと柔らかさはアンバランスすぎはしないか。 誰かに首をムギュウとつかまれて、 キュッとひねられちゃったらどうするんだろう。 ぶるるるるる、考えただけでもお尻がむずむずする。 もうひとつは、くちばしの開閉音である。 突き詰めていくと僕は、大きなくちばしを持つ鳥が 小魚や虫などのエサをついばんだあとに くちばしを「カパカパ」と開け閉めするのが すごくイヤなのである。 それは咀嚼というよりも獲物を逃がすまいとする動作で、 おそらくついばまれている小動物には まだ若干の身体的自由がある。 捕らわれたが、逃げようと身をよじる小動物。 それの退路を阻み、 ふたたびくちばし内へとどめんとする「カパカパ」。 あまりにも粗野で、愚鈍な印象すらある「カパカパ」。 めんどくせーな、逃げんなよ、と言いたげな「カパカパ」。 無神経で、まったく呵責なく「生」を押し潰す「カパカパ」。 ああ、書いてたらだんだん気持ちが悪くなってきた。 告白しておくと、この原稿を書くのに 格別時間がかかっている。 なぜ好きなのかを突き詰めていくことも なぜ嫌いなのかを突き詰めていくことも 回路としては同じなのだけれど、 ベクトルが逆になるだけでこうも重さが違うのかと思う。 そうか、僕は「カパカパ」がイヤだったのか。 もしも将来僕がハリウッドで ホラー映画を監督する機会があったら、 ぜひ、物語のどこかに鳥のモンスターを登場させ、 なにかを補食させたのちに「カパカパ」と くちばしを開け閉めさせることをここに誓う。 わけのわからん宣言とともに日記を終わる。 どうか、夢に出ませんように。 2004-07-09-FRI
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