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なにかの理由で中断していたゲームと再び向き合うとき、 しばしばプレイヤーは 「ええと、どこからだっけな?」というふうに 戸惑いながらプレイする自分を手繰っていくわけであるが、 オリンピックに埋没していた僕が 2週間ぶりにゲームキューブを起動させたとき、 そこに混乱はほとんど生じなかったといっていい。 つまりぼくはコントローラーを握り、 「はい、ここからです」という明快な指針を胸に その地点へズバッと着陸して、 コンコンとAボタンを連打して、 あっという間にオリマーと一体化することができた。 なぜというに、前回のプレイが ちょうどいいところで終わっていたからである。 ひとつ目の着陸地点を終えたところだったので、 つぎはふたつ目の着陸地点に行けばよかったのである。 ひとつ目のつぎはふたつ目なのである。 ふたつ目のつぎは真打ちなのである。 最近、僕は落語を聴いているのである。 なにが言いたいかというと、 僕は『ピクミン2』を再開するにあたり、 「よっしゃいよいよ始めるぜ」という ひじょうに前のめりな状態であったということである。 「ヘイヘイ、オイラがんばっちゃうぜ」という とても真っ直ぐな気持ちで臨んでいたということである。 「怒ればデッカイ噴火山タイ!」という パワフルな心持ちでプレイし始めたということである。 否、それではただのキレンジャーである。 ふたつ目の着陸地点における冒険を記すまえに 解説しておくとすると、このゲームは、 ひとつ目の着陸地点をクリアーしなければ ふたつ目の着陸地点に進めないといわけではない。 プレイヤーは、出現している着陸地点を 自由に行き来することができる。 ひとつ目のあとにみっつ目をちょっとやって ふたつ目に立ち寄ってみたけどたいへんだから やっぱひとつ目に戻ってみたんだわ、 みたいなこともまったく問題なく行える。 にもかかわらず僕は、なんとも律儀に、 ひとつ目の着陸地点のコンプリートを終えてから ふたつ目の着陸地点に向っているわけであるが、 それはたんにそうやって順番どおりに 進むほうが気持ちがいいからなのである。 『ピクミン2』に限らず多くのゲームにおいて、 僕は「順番どおり」を好む傾向があるのである。 自分でいうのも変だけれども、 僕というプレイヤーは ひじょうに素直で、いいプレイヤーである。 いや、自分のことを臆面もなく そのように表現するみっともなさは承知しているけれども、 つくり手にとっての理想的なプレイヤーという意味で 努めて冷静に客観的に評価するとしても、 僕というプレイヤーは、ひじょうに優等生である。 従順である。いい子ちゃんである。 廊下を走るのはいけないと思うのである。 橋本クンが昨日掃除当番をさぼりました、である。 裕美ちゃんがこっそりマンガを持ってきてます、である。 それではたんなるチクリ魔である。 毎度、話が進まんなあ。 ゲームをプレイするとき、僕は基本的な姿勢として、 「つくり手が思うほうへ」プレイする。 それはやりたいことを我慢してそうするのではなく、 そういうほうを選ぶほうが落ち着くからである。 だから、たとえば、いろんな選択肢が準備された 自由度の高いゲームがあったとしても、 「そうはいっても、これがまっとうだろうな」 という方向へ向かってプレイする。 「あっちにもこっちにも行けるけど、 ほんとうはこっちをやってから あっちに行ってほしいんだろうな」 などと感じ取りながらプレイする。 いちいちそんなふうに考えているわけではないが、 結果的に来た道を振り返ると僕のたどった道は セオリーどおりのおもしろみのない 道順になっているということがほとんどである。 脱線につぐ脱線で恐縮であるが、 そういった性質ゆえに僕はよく 「バグ取りに向いていない」といわれるのである。 行動を突き詰めると、その動機は つくり手をおもんぱかるからばかりではない。 せっかくの機会を十分に堪能したいからそうするのである。 そうしたほうが、たくさんたのしめるのだろうと 想像するからそうするのである。 せっかくラーメン屋に来たんだから ラーメン頼まなきゃもったいないじゃん、 と思う貧乏性のゆえ、正道を目指すのである。 ここのラーメン屋はチャーシューに自信があるようだけど ここはひとつワンタン麺を頼んでやれ、とか、 コーラが冷えてるかどうかためしてやれ、とか、 うどんはないか訊いてみよう、とか、 そういうことをしていると わざわざラーメン屋を訪れたことが もったいないではないかと思うからこそ ラーメンを注文するのである。 深夜にラーメンの話を書いていたら 猛然と腹が減ってきたのである。 つまり、僕はそういった背景によって、 ひとつ目の着陸地点を終えたあと、 ごく自然な選択として ふたつ目の着陸地点を目指したわけであるが、 「ひとつ目のあとにふたつ目へ行きました」という たったそれだけのことをいうのに 100ライン以上も費やしてしまうというのは ちょっと問題なんじゃないかと思う。 ようやく話をふたつ目の着陸地点での冒険に移すとすると、 桃色の花弁の舞う美しい場所で、 ぼくは残されたアイテムを回収すべく奔走した。 まずは、目の前に2匹の小チャッピーを発見した。 久々の戦闘ということになるが、 こんなお馴染みの相手に手こずる僕ではない。 はいはいはい、こういうやつらはもう、 僕の敵ではないのですということで、 赤ピクミンをポポイポイポイと投げたところ、 1匹目の小チャッピーはあっという間に倒すことができた。 ところが、2匹目の小チャッピーが くるりとこちらを振り向いたところで意外なことが起きた。 自分でも、まさかそんなことになるとは 思いもしなかったのである。 驚いたことに、 2匹目の小チャッピーがくるりと振り向いたとき、 僕ときたら慌てふためいてしまったのである。 1匹目の小チャッピーを倒すときに 赤ピクミンを投げすぎたこともあるし、 どんな敵であろうと1対1で戦うという セオリーを忘れていたということもある。 とにかく、僕の部隊は思いがけぬ反撃を食らったのである。 そして、計算外の反撃を食らって、 これはとてもよくない展開だ、と思ったけれど、 なんせ「この敵は苦労なく倒せるはずだ」などと 頭から決めてかかっているので、 退却するという選択肢を思いつけない。 むしゃ、とやつが無造作にピクミンを食らう瞬間に あの懐かしい悪寒が背筋を走り、 そうなるともう闇雲に赤ピクミンを投げるばかり。 ポポイポイポイ、ポポイポイポイ、ポポイポイポイ! しかもひとつの場所にとどまらず 走り回りながらピクミンを投げている。 そんなものが敵にうまく当たるわけがないのである。 つまり、その場所において、くり広げられたるは、 赤ピクミンたちを周囲にばらまきながら走り回る オリマーの無軌道。奔放なアクション。非常識な珍プレイ。 ええと、たしかこういう状態をうまく表現した フレーズが過去にあったぞ‥‥。 そう! 「狂った自走砲台」とはこのことである。 ていうか、なんだ、どういうことだ。 借金を9割も返却して 順調にゲームを進めていたというのに、 たった2週間ばかり時間を空けたせいで オレサマの腕前は2ヵ月前に逆戻りしちまったというのか。 そんなわけはないぞ、とムキになって しばらくゲームを進めていたら、 ようやく勘を取り戻し始めた。 そうそうそう、一度身につけたものは、 簡単に損なわれるものではないのである。 カメラの操作、敵との間合いのとりかた、 時間配分、最短ルートの発見とピクミンの割り振り。 リハビリよろしく1時間ほどプレイすると、 僕は完全に2週間前の感覚を取り戻した。 そして奥まった場所にようやくアイテムを発見。 おそらく、このマップに点在するアイテムとしては これが最後の一個であろう。 ふたつ目の着陸地点全体でいえば、 これを回収すれば最後に洞窟がひとつ残るのみだ。 回収の最後に少々詰めを誤って ゲーム内の数日を無駄にしてしまったが、 なんとか僕はそのアイテムを運び出すことに成功した。 大きなアイテムを色とりどりのピクミンたちが ずらりと取り囲み、うんしょうんしょと運ぶさまは、 充実感に満ちあふれる このゲームのハイライトのひとつである。 オリマーがその凱旋を導くように少し先を歩む。 2週間ぶりの達成感が僕を包む。 そのまま広い野原に出て、 あとは段差を下りるばかりになるところ、 幸福な風景を根底から覆すものが現れたとしたら それはつぎのような描写となる。 つまり、前方野原中央の陸地、にわかに盛り上がり、 土を割りながら現れたるは猛禽類の頭部。 率直に表現すれば、首の長いデカい鳥が地面から にょっきりと顔を出したわけである。 認識した瞬間に脳裏を駆けめぐるは深きトラウマ。 ご存じ、ヘビガラス登場の巻である。 ヘビガラスというとその名のとおり、 胴はヘビ、頭はカラス、身の丈10寸はあろうかという 目もくらむばかりの巨大な化け物であり、 現代の寸法に直すと全長約30センチメートルとなる。 へっ、なんだ30センチしかねえじゃねえかと 侮るのは早計で、『ピクミン2』の世界においては 30センチというと超巨大であり、ドデカホーンであり、 いわば動物奇想天外といって差し支えない。 色とりどりのピクミンたちがアイテムを運ぶという 極めてハッピーでチアフルで ハートウォーミングなその風景において、 そのドデカホーンが突如無遠慮に現れたらどうなるか。 べべんべんべん。 深夜の部屋でコントローラーを握る僕は 2週間ぶりに「きゃあ」と叫んで飛び上がるわけである。 こえー、こえー、ちょーこえー。 とくに口をパクパクとさせるあたりがちょーこえー。 思わず首都圏の若者風のことばでもって 恐怖を表現してしまう僕である。マジこえー。 命からがらピクミンを呼び集めて逃げ出した僕は、 ゲーム内で1日をかけてなんとかやつを倒し、 やっとのことでそのアイテムを回収した。 ここにおいて、ふたつ目の着陸地点に残された課題は、 ついに洞窟ひとつを残すのみとなったわけで、 僕は勢いに乗じてその洞窟を クリアーしてやろうかとも思ったのだけれど、 洞窟をのぞいただけで気後れし、 「あとは後日」ということでやめてしまった。 なぜというに、その洞窟には、 こんな名前がついていたからである。 ‥‥ヘビガラスの穴。 きゃあ。 2004-09-15-WED
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