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あめ
 
24℃
第16回 ヘビガラスの穴を抜けて。
ヘビガラス嫌いの僕が
ヘビガラスの穴に挑むということは、
すなわち、犬嫌いかつ猫嫌いの人が
わんにゃんパークへ出かけるようなものである。
高所恐怖症の人が観覧車に乗るようなものであり、
下戸が飲めない酒を無理矢理飲むようなものである。
羊飼いが牛を飼うようなものであり、
人間国宝が『人間失格』を読むようなものである。
否、それはなんだか違う話である。

序盤の脱線を早々に修正するとすれば、
ヘビガラスを大の苦手とする僕が
ヘビガラスの穴へ飛び込むときには
そうとうの覚悟が必要だったということである。

ヘビガラスがなんであるかということや、
ヘビガラスがどんなに恐ろしいかということは、
過去の自分がさんざん語ったのでくり返さない。
代わりに慎んで報告させていただくとすれば、
僕は見事その難関をクリアーしたのであり、
ヘビガラスを見て「きゃあ」と叫ぶような自分とは
すっかり決別したのだということである。

すなわちヘビガラス、恐るるに足らず。

いまや僕はヘビガラスに出会っても無反応である。
眉ひとつ動かさず、鼓動一拍速めない。
おやおや、この生物は頭がカラスで身体がヘビだね、
などと思うくらいで、
意中の企業から内定をもらった大学生のごとく
ゆったりと落ち着きはらっている。
思えば劇的な変わりようである。

さあ、そこで僕は伝授したい。
いまこそキミにヘビガラスの攻略法を。
まったくもって攻略には役立たないと
全国的に評判のコンテンツであるが、
ここはひとつ意外な一面をアピールしておきたい。
たまには悩める読者から「ありがとう」と言われたい。
「ありがとう」と言われたときには
「いえいえなんでもないことですよ」と答えて
夕陽に染まる荒野を馬に乗って去っていきたい。
そこへスタッフロールをかぶせていただきたい。
エンディングテーマは
中村一義さんの『メキシコ』でお願いしたい。
映像はブラックアウトしたのちに
NG集に切り替わっていただきたい。

さっさと本題に入ろうよ、と脳内に声がしたため、
いまここに堂々とヘビガラス攻略法を記す。
耳の穴かっぽじってよぉく聞きやがれ。

まずは、連れていくピクミンの数に秘訣がある。
幾度となくヘビガラスについばまれて
深夜に「きゃあ」と叫びまくった僕が
多大なる犠牲と引き換えに悟った数値をきっぱり述べよう。
──8匹である。
それ以上多くても少なくてもいけない。
ほんとうはそれ以上多くても少なくてもかまわないのだが、
最良のバランスをどこにみるかというと8匹を推す。
しばしのちに述べるであろう
ヒット&アウェイの攻撃をすみやかにこなすうえで、
もっとも都合がよいと感じるのが8匹なのである。

連れるピクミンの種類はというと
やはりもっとも攻撃力の高い赤がおすすめであるが、
高さのある黄色も悪くない。
留意すべきことは、両者を混ぜないということである。
なぜなら、2色が混在すると、
ピクミンを投げるときに
軌道が変わって気持ちが悪いからである。
当然のことであるが、ピクミンの頭上には
花が咲いているにこしたことはない。
注釈するが、以上のようなことは
すべて僕の主観というか好みが反映されている。

8匹の先鋭を率いたら、いよいよ異形の生物と相まみえる。
出会う刹那、最大の攻略ポイントが存在する。
ぶっちゃけ、これまで長々と書いたことは
一切、忘れてくれてかまわない。
早い話がここである。キモとミソとツボはここである。
これだけ覚えて帰ってくださいね、お客さん。

ヘビガラスが地上に出る瞬間、
その出現位置、すなわち隆起した土に向けて
ピクミンを投げるべし。
それがうまくいけば
登場したヘビガラスの頭部にピクミンが張りつく。
頭にピクミンが張りついた状態では、
ヘビガラスは攻撃をしかけてこない。

何千回と試したわけではないから
100パーセントとはいえないけれども、
経験上、ヘビガラスの動きはおおむねそうである。

このポイントを踏まえたうえで、
より具体的にヘビガラス攻略の流れを説明していこう。

まず、8匹を連れてヘビガラスの現れる場所に来たら、
カメラを俯瞰にするべし。
これはヘビガラスの出現ポイントに向けて、
確実にピクミンを投げるためである。
カメラのズームはもっとも引いた状態にする。
なぜなら、ヘビガラスはどこに出現するかわからないので、
できるだけ視野を広くするのが得策なのである。

まるで湖面に波紋を待つ三平三平のように
じいっとたたずんでいると、やがてやつが現れる。
一点にわかに掻き曇りはしないが、
ずももももも、と地表が隆起する。
前述したようにここが勝負のポイントである。
ターゲットカーソルが届くなら、
やつが地上に姿を現しきるまえに
従えた8匹のピクミンをすかさず投げるべし。
カーソルが届かない場所に現れたなら、
我関せずとあきらめるべし。

ピクミンが張りついていない状態の
ヘビガラスが地上に現れてしまった場合、
絶対に近づいてはいけない。
なんだか知らないが、
その状態のヘビガラスがピクミンをついばむと
百発百中なのである。
離れていると、やつはそのうち引っ込むのである。

くり返すが、ピクミンを投げるチャンスは
ヘビガラスが地上に現れる瞬間のみ。
だからこそピクミンは8匹で十分なのだ。
それ以上は足手まといなのである。

さらに補足しておくと、
ヘビガラスが地上に現れる際、
どうもパターンがふたつあるように感じられる。
なんか、ずももももも、とゆっくり出てくるときと、
ずももっ、とすぐに出てくるときがある。
ずももももも、のときはむろん攻撃してオーケーだが、
ずももっ、のときは近くであっても
攻撃が間に合わない場合があるから注意すべし。

さて、首尾よく出現時を攻撃できたなら、
ピクミンがやつの頭部に張りついているはず。
そうなった場合、おおむねヘビガラスは
身体をよじってピクミンを振り払う。
つかず離れずそのときを待つべし。
ヘビガラスがピクミンを振り払ったなら、
すかさず笛を吹いて先鋭たちを呼び集める。
そこで距離を置くとやつはやがて地中へ帰るから、
またの攻撃に備えればよろしい。

おさらいするならば、
「待つ→出てきた→投げる→張りつく→
 振り払われる→回収→逃げる→待つ」
というサイクルのくり返しである。
あっという間に倒せるというわけではないが、
これを地道にくり返していけば、
ヘビガラスは怖くないのである。
拙者は夕陽のなかを帰っていくのである。

そのようにして、
ついにヘビガラスの穴をクリアーした。
達成感に包まれながら、洞窟から出てくると、
画面に思いがけぬ文字が現れた。

「借金返済完了!」

‥‥え?
そして画面は思いがけぬ展開を見せる。
これは、つまり、エンディング?

なんとなんと、
ぼくは『ピクミン2』をクリアーしてしまったのだ。
そういや、ゲームの目的は借金返済だった。
けど、まだ、アイテムを集めきっていないのになあ‥‥。

そんなふうに思いながら、
僕はいちおう最後の画面を見届けた。
「お疲れ、オレ」といちおう自分に声をかけた。
すると、そこへ唐突に選択肢が投げられた。

──このままプレイして
  お宝を集めますか?

もちろんぼくは「はい」を選択。
こんなものは真なるエンディングとはいえない。
さあ、つぎは三つ目の着陸地点へ行かなくては。
自分でもどうするか決めていなかったけれど、
どうやら僕はアイテムのコンプリートを目指すようである。
どうぞ、もうしばらくおつき合いくださいませ。

2004-09-28-TUE


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