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大あめ
 
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第19回 悪循環の夜。
着々とアイテムを集めていた僕だったが、
とある洞窟でずいぶん時間をかけてしまった。
といっても、倒せないボスがいたとか、
アイテムの回収方法がわからなかったとか、
そういうことではない。
どうにも、巡り合わせが悪かったのだ。
ただそれだけのことなのだ。
それにしても。

きっかけは些細なアクシデントだった。
洞窟を進んでいった先にアイテムを見つけたが、
それは水中に没していた。
青ピクミン以外は水のなかでは溺れてしまうため、
僕は迷いなく青ピクミンを投げたのだが、
困ったことにそのアイテムは
20匹のピクミンがいないと運び出せないものだった。
にっちもさっちもいかなくなったのは当然のことで、
なぜなら僕はこの洞窟に
青ピクミンを15匹しか連れてきていなかったのだ。
なにか方法がないかとかなりウロウロしたのだが、
無理なものは無理で、
けっきょく僕は地上へと戻ることにした。
つまり、やり直しである。リセットである。

地上へ戻った僕は、さっそく25匹の青ピクミンを連れて
再び洞窟へと引き返したのだけれど、
道中、現れたヌラヌラした生き物を
無造作に攻撃したのがよくなかった。
むろん、勝つには勝ったのだけれど、
数匹のピクミンを失った。
大勢に影響はないのだが、
なんだかケチがついた気がした。
このまま洞窟に向かうのは、
なんか、ヤだなあ、と、
そんなような感覚があった。

いま冷静になると自分がいったい
なににこだわっていたのかよくわかる。
つまり僕は、やり直した洞窟の、
「やり直した部分」をまったくないものとして、
完全にあの場面へ戻りたがっていたのだ。
ただただ、青ピクミンの数だけを増やした状態で、
すみやかにあの場面へ
立ち戻ることだけを目指していたのだ。

なのに、あのとき失わなかった何匹かのピクミンを
洞窟に入る以前に失ってしまうだなんて。

これじゃいかん。これも「ナシ」にしよう。
僕はその日2度目のリセットをかけた。
そして三度出発する。もちろん青ピクミンは25匹いる。
今度はヌラヌラした生き物を無視して、洞窟へ突き進む。
とにかく寄り道せずに、あの場所へ戻ろう。

しかし、ここからが真の悪循環の始まりだった。

引き返したフロアーは洞窟の中程にあるため、
僕はさほど苦労なくそこへたどり着けるとふんでいた。
いや、たどり着くだけなら、
たしかに苦労はなかったはずなのだ。
しかし、やっかいなことに、僕の胸には
「さっきの状態に完全な状態で戻りたい」
というわけのわからぬこだわりが生じていた。
しかも、一度通った道であるから、
全体的なテンションとしては集中の度合いが低い。
すると、どうなるか。
ここはこいつを先に倒すべきだな、
という感じでピクミンを投げ、
そこで数匹のピクミンを失いながら倒すと、
なんだかしらないけど、
「さっきはこんなに苦労したっけ?」
というふうに考えてしまう。
「赤ピクミンが5匹も犠牲になった。
 これじゃ、さっきの状態より悪いんじゃないか?」
そんなふうに考えてしまうのだ。
むにゃむにゃうじうじ思い悩みながら、
ええい面倒だ、とばかりに
その日3度目のリセットをすると、もういけない。
とうとう僕は、
わずかな「ケチ」すら許せないという、
非常に頑ななプレイをし始めてしまった。

数フロアー下まで進み、
うっかり黄ピクミンを何匹か溺死させてしまってリセット。
予期せぬ場所で毒ガスを振りまく
妙な虫に出会って数匹を失い、リセット。
頑固プレイヤーの悪循環日記とはこのことである。
謎が謎よぶ殺人事件とは『林檎殺人事件』のことである。
『ピクミン2』の洞窟は、
入るたびにその姿や配置が変わる、
自動生成ダンジョンとなっているため、
ひどいときは、洞窟に入った瞬間にリセットしてしまう。
「なんでこんなところに壁があるんだよ!」ということで
出来損ないの壺を叩き割る陶芸家のように
リセットボタンを押してしまう。
とあるコミックバンドのリーダーであれば、
「だみだこりゃ」と
カメラに向かってつぶやくところである。

そのような、意固地なプレイを続けるとき、
「こりゃハマってるぞ」と
誰よりも早く気づくのはほかならぬ僕である。
というか、僕以外に気づくのは不可能である。
気づいたからには、自己を反省して
すぐに改めることができるかというと
話はそう簡単に進みはしない。
正しいことが正しいというだけで
すべてを覆すかというと
世の中はそう単純ではないのだ。
今日やろう今日やろうと思いつつ
ぐーぐー寝てしまうのが
人の営みというものなのだ。

ともあれ、深夜に意図せずリセットをくり返しながら、
僕はぼんやりと別のジャンルのゲームを思い出していた。

「これじゃタイムアタックだよなあ」

あまり得意ではないからほとんどプレイしないのだけれど、
いくつかの良質なレースゲームにハマった経験がある。
そこで、よせばいいのに、ついつい、
タイムアタックというストイックなたのしみに
ハマってしまったことがある。
タイムアタックというのはつまり、
レースゲームで決められたコースの
最高タイムを縮めていく作業だ。
目標はつねに自己記録の更新だ。
誰に言われたわけでもなく、
ただただ自己記録の更新を目指すのだ。
更新したら更新したで、その記録が
つぎなる自分の目標になるのだ。
これは、ツラいのだ。心が、カサカサするのだ。
やればやるほど、ツラいのだ。
やればやるほど、心がカサカサするのだ。
そんなにツラいならやめりゃあいいじゃんと
あなたは思うかもしれないけれど、
やめるべきものをやめるべきだというだけで
やめることができるかというと
世の中はそれほど単純ではない。
片づけなきゃ片づけなきゃと思いつつ
ぐーぐー寝てしまうのが
生きとし生けるものの業というものなのである。
いつか泪橋を逆に渡るのだと決意しつつも、
こんちトムくんノンキにお散歩、なのである。
毎度、話が進まんなあ。

タイムアタックにせよ、
ミスを許さぬ洞窟めぐりにせよ、
ハマっているプレイヤーには
目標の達成以外のことが視野に映らない。
それはもう、
深夜の部屋に生じるたったひとつの美学である。
ひとりよがりの伊能忠敬である。
荒野に散ったコンバットマグナムである。
もちろん、瞬間瞬間に、
背筋を貫くようなよろこびが生じるから
プレイヤーはそれを目指すのである。
ほかの誰かがどう思うか知らないけど、
それがオイラの生きる道なのである。
雁が鳴いて南の空へ飛んでいくのである。
再来年の今月今夜の月を見るたび思い出すのである。
それなくて、なんの己がカボチャかな、てなもんである。
花は桜木、男は岩鬼である。

途方もなく拡散する話を元に戻すとすると、
そんなふうに、幾分心をカサカサさせながら、
ついに僕はもとのフロアーに立ち戻った。
そして、仰天した。
なんと、青ピクミン20匹でしか運び出せなかった
問題のアイテムが、水の中ではなく、
地面にゴロンと落ちていたのだ。
いや、まあ、自動生成ダンジョンだから、
そういうことがあっても不思議じゃないんだけど‥‥。

ボス戦にはさほど苦労しなかったけれど、
恐ろしくやりがいのあった洞窟だった。
まだまだアイテムコンプリートの道は続く。
長々、のんびりで、ほんと、すいません。

2004-10-28-THU


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