BUSINESS
オトナ語の謎。
オレ的にはアグリーできかねるんだよね。

■■■  第9回 オトナの基本用語:その9  ■■■

あいもかわらずたくさんのメールが届いているが
非常に興味深いのは
リアルタイムなネタが届くということである。

「いま横の席の同僚が電話でこう言いました」
「さっきの会議でこんな言葉が出たんですが」
「いま、まさに私が言ってしまった言葉です」
そういった、とれたてのネタがどんどん届いている。
おいおい勤務中だろう、というツッコミは野暮である。
ちょっとした息抜きに新鮮なオトナ語はいかがですか。

全国のオフィスでがんばる諸先輩方、
お世話になっております。
たとえあなたと私が初対面でも
お世話になっております。
たとえあなたが元気いっぱいでも
お疲れさまです。
たとえあなたと会ったのが深夜でも
おはようございます。

社会に飛び交う謎めいたオトナ語を紹介する当コーナー、
現職の方に響くことはもちろん、
数年まえに退職された方を
「そう言ってたころもあったわねえ」と
懐かしい気持ちにさせることで有名です。

合い言葉は「なるはや? 午後イチ? ペンディング?」
謎めいたオトナ語を叡智の光で照らせ。
金曜日の浮き足立つオフィスに吹き込む一陣の風、
それがすなわち「オトナ語の謎」
見切り発車および垂直立ち上げをぶっ飛ばしつつ、
大明神にオーソライズしてもらいながら
手前どものにんげんが参上いたします。
いただいた電話で恐縮ですが
せーので、おしりまでじっくりご笑覧くださいませ。


とぶ
(提供者:kinoko13)
■オトナが「とぶ」というとき、
 状況によってその意味は3つある。
 「ちょっと神戸へとんでもらえるか」
 この場合は急な出張、強制的な移動を意味する。
 「午後の会議とんだから急に暇になったよ」
 この場合は、なくなることを意味する。
 ちなみにデータがなくなることも「とぶ」である。
 「高橋さん、○○支社にとばされたらしいよ」
 この場合は左遷を意味する。

おさえる
(提供者:ケビン)
■会議室、上司の予定、原価、証拠、情報……。
 オトナはいろんなものを「おさえる」のだ。

(提供者:やまひろ)
■前文を受けて、その内容。
 「その旨、おつたえください」
 「一時延期する旨、ご了承ください」
 固い! 言い回しがじつに固い!

(提供者:モリー)
■名詞に「など」をつけて、
 「そのほかのもの」といった意味合いを持たせるという、
 じつにまっとうな使いかたをするが、
 問題は「そのほかのもの」が
 あったためしがないということである。
 「そちらに資料等、お届けします」というとき
 資料以外のものは届けられない。
 「サンプル等、お持ちします」というとき
 もっていくのはサンプルだけである。
 謎めいている。ああ、謎めいている。

おかげさまで
(提供者:ぬばたまの)
■オトナは、へりくだることや
 カタカナを使うことは超得意だが
 ほめられることには意外と慣れていない。
 他社の人などに業績を賞賛された場合、
 照れ笑いしながらこう言うしかないのだ。
 「いえいえ、まあ、おかげさまで」
 どんなときでも自分を下に。

タマ
(提供者:そら、高尾)
■ボールでもなければ命でもない。
 企画やアイデア、ネタ、商品などをこう呼ぶ。
 「来週、先方で打ち合わせるからタマ出ししといてね」
 「けっこうお客さんは入ると思うんですけど、
  なんせタマがないんですよねえ」
 「来期、いいタマある?」

ジャブの応酬
(提供者:しんや、めりちゃん)
■とりあえず会って顔合わせなどしたのだが、
 どちらも牽制するばかりで
 けっきょく本心を見せなかったということ。
 「いや、もう、2時間、ジャブの応酬ですよ」
 先方の様子を探ることを「ジャブを入れる」などとも。

織り込みずみ
(提供者:みなみ)
■不慮の事態は、当然想定しており、
 この計画に含まれているのだ、という主張。
 ところが周到な計画にかぎって必ず
 織り込んでいない事態ばかりが生じるから不思議である。

横目でにらみつつ
(提供者:てっちー)
■「横の席をジロリとにらむ男」の姿を
 読みながら想像されたのではないかと思うが、
 実際には「動向に注意しながら」という意味。
 つまり「市場の動きを横目でにらみつつ」
 ということで、
 「田辺くんが何を食べているか横目でにらみつつ」
 ではない。

ありバージョンとなしバージョン
(提供者:ひっきー)
■ところでこれはあったほうがいいんですか、
 それともないほうがいいんですか、
 などと質問すると、たいてい、
 「じゃあ、ありバージョンとなしバージョン、
  両方つくっといてよ」ってなことになる。
 そのくせ、両方つくって持っていって、
 とりあえず「ありバージョン」から見せたところ
 「いいねえ! これでいこう!」などと言われる。

グロスで
(提供者:たき)
■個々の量ではなくて、総量で。総額で。
 もとはゴルフ用語だと思われ、
 「グロスで考えて」などと使うとカッコいいが、
 「1コ1コじゃめんどうくさいよ」
 という思惑も見え隠れする。

スキーム
(提供者:けーすけ)
■枠組みのこと。と、日本語に直しても
 なおわかりにくい。枠組みっていわれてもなあ。

エンドユーザー
(提供者:クモザル)
■ようするにお客さん、ユーザーのことなのだが、
 オトナたちがあまりにも気に入って
 いろんな人をいろんな意味で
 ユーザー、ユーザー、と言い出したもんだから
 ほんとのお客さんのことを
 わざわざエンドユーザーと
 言い直さなければならなくなったという説がある。

社販
(提供者:コモロ)
■自社の製品を社員が安く買えるシステム。
 ということは、あの会社に就職すれば
 あんなものもこんなものも
 タダ同然で手に入るんじゃねえか、
 などと妄想をたくましくするのは
 二十歳前の若者特有の
 無駄な行いであるからやめたほうがよい。
 市場で大人気の旬なものは
 思っているほど安くならないし、
 ことによったら社員でも買えない
 なんてこともあるのである。
 あと、知人がそこの社員だからといって
 なんでもかんでも社販してくれと頼むのも
 じつにオトナげないことだから気をつけよう。

半値八掛け二割引
(提供者:でぶちん)
■前回、「ナナガケ」を紹介したが、
 場所と時期によっては
 こんなことになることもあるらしい。
 ハンネハチガケニワリビキ?
 ええと、0.5×0.8×0.8=0.32?
 千円のものが320円?
 なになに、どゆこと?

全とっかえ
(提供者:Cazy3)
■企画やシステム、ことによったら人員などを、
 一部の修正や変更でなく、
 まるまるぜんぶ入れかえること。
 「ていうか、もう、全とっかえでしょ、
  全とっかえ!(煮詰まった会議の終盤に)」

うまいことやる
(提供者:さやや)
■どうやってやればいいのかわからないけど、
 キミならできるでしょ、信頼してるよ、
 といったニュアンスで、
 人にものを頼むときに登場する言葉。
 「そのへん、うまいことやってOKもらってよ」
 なんとも大ざっぱな指示であるが、
 平素の信頼関係のうえに成り立つ言葉なので
 なかなか断りづらい。

目を通す
(提供者:副社長)
■書類などをザッと読む、ということ。
 しかし、ほんとにザッと読んだだけだと
 「目を通しておけと言っただろう!」
 などと怒られてしまうから注意。
 上司から「目を通しておけ」といわれた書類は
 熟読するくらいでちょうどいいのかもしれない。
 オトナってむつかしいなあ。

次元
(提供者:すばる)
■オトナは次元をも超越するのである!
 「それはまた違う次元の話でして……」
 「利益を度外視した次元では……」
 「違う次元で問題が生じるかと……」
 次元を超えるわりにロマンは感じない。

仕様です
(提供者:dw8000)
■それはミスではなくて、
 最初からそういうふうに作ったんです、の意。
 「あの、音声にノイズが混じるんですが?」
 「──仕様です」
 「中心部が異常に熱くなるんですけど?」
 「──仕様です」
 「ときどき煙が出るんです」
 「──仕様です」
 「たったいま火を噴きました」
 「──仕様です」

また何かございましたらお願いいたします
(提供者:ぎん)
■健闘むなしく先方に断られてしまった営業マンが
 ついに席を立ち、出口のところで振り返って言う言葉。
 「また何かございましたらお願いいたします!」
 その元気やよし。しかし、
 「また何か」があることはめったにない。

○○さんに言ってもしょうがないんですけどね
(提供者:あけがた)
■明らかに先方が悪い、というとき、
 理路整然と苦情を述べながら、
 ふと我に返って言う言葉。
 「いや、小西さんに文句言ってもしかたないんだけどさ」
 なら言わずにガマンできるかというとそれも違う。

お使いだてして申し訳ありませんが
(提供者:エイプリル)
■これまたスッと言えると
 「おぬしできるな」と思われる上級なオトナ語。
 電話で話している相手に
 誰かへの伝言や用件などをことづけるときに使う。
 「お使いだてして申し訳ありませんが」
 家で受話器を持ちながら練習だ。

復唱します
(提供者:ライチ)
■電話番号を教えてもらったときは
 こういうのがオトナのやりかた。
 「電話番号は、×○××の○○××です」
 「復唱します。×○××の○×○×ですね?」
 「ちがいます、×○××の○○××です」
 「復唱します。×○××の○×○×ですね?」

どうなのかな
(提供者:Cazy3)
■う〜ん、それはちょっとどうなのかな?
 言ってる意味はわかるけど
 それはちょっと、どうなのかナ?
 さきざきのことを考えると、どうなのカナ?
 ……いっそはっきり言ってほしいものである。

失念しました
(提供者:えっちゃー)
■オトナは「忘れちゃいました」などとは言わない。
 大事なことを忘れてなお、威厳は失わずにいたい。
 そんな見果てぬ野望が
 この言葉には込められているとかいないとか。

忘れてください
(提供者:谷口)
■忘れてはいけない大事なことがあるなら、
 忘れてほしい大事なこともある。
 「あれはこの夏の新作で……あっ! 忘れてください」
 しばしばこの言葉を聞くことによって
 人の記憶はより鮮明になるという。

事務所
(提供者:くみ子)
■「あ、いま事務所に向かいます」などと
 あんたは気軽に言うけれど、
 ここは事務所じゃなくて会社だぞ。
 あんたはなんでもかんでも事務所って言うが
 その8割は事務所じゃないぞ。
 まあ、べつに、いいんだけどさ。


本日はこのあたりで失礼させていただきます。
みなさまからのメールを募集しております。
1週間、お疲れさまでした。
よい週末をお過ごしください。

2003-06-20-FRI

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