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第19回 オトナの基本用語:その19 ■■■
たくさんのメールを受け取っていると
例によって興味深いことが多々ある。
またそのひとつをご紹介してみたい。
当コーナーには
たくさんの優秀なオトナ語が投稿されており、
違う人から同じオトナ語へ投稿があることも
しばしばである。社会で使用頻度の高いオトナ語は
当然、気がつく人も多いから、投稿も重なることになる。
そんななか、ある日突然、
同じオトナ語にバタバタっと投稿が集まることがある。
たとえば前回掲載した「えこうぎょう」であるが、
これまでは、この言葉に対して一通も投稿がなかった。
それが、同じ日に3通、突然投稿が集中したのだ。
たとえば、テレビなどで
そういった言葉が使われたのかもしれない。
その日発売された雑誌などに
その言葉を彷彿とさせる何かがあったのかもしれない。
原因はよくわからない。
ひょっとしたら、
集団オトナ無意識のようなものがあるのかもしれない。
無理にでもそう考えると、神秘的ではないか。
全国のオフィスでがんばる諸先輩方、
お世話になっております。
たとえあなたと私が初対面でも
お世話になっております。
たとえあなたが元気いっぱいでも
お疲れさまです。
たとえあなたと会ったのが深夜でも
おはようございます。
たとえいまが深夜の2時でも
お先に失礼します。
どなた様か存じませんが
お世話様です。
社会に飛び交う謎めいたオトナ語を紹介する当コーナー、
「今日、バイト先でレジにいたとき、
お客さんから領収書をくれと言われたのですが、
宛名を『まえかぶで……』と説明されました。
このコーナーを読んでいなければ
意味不明だったと思います」というメールも届いており
実生活に即戦力だということでも有名です。
合い言葉は「なるはや? 午後イチ? ペンディング?」
謎めいたオトナ語を叡智の光で照らせ。
酔っぱらいの巣くう終電車を吹き抜ける一陣の風、
それがすなわち「オトナ語の謎」!
都落ちの腰巾着が定時にベルサッサしつつ、
ドラスティックにリスクヘッジしながら
手前どものにんげんが参上いたします。
アマゾネスが島流しされておるのですが、
全員野球で、おしりまでご笑覧くださいませ。
(提供者:あーやー、x-mod)
■今日中は無理だけど、まあ、明後日くらいなら、
でも、明日にもできるかもしれないし、
とにかくがんばって早くするから
そういう感じで待っててね、の意味を込める。
「一両日中にもご用意できるかと思います」
なのに、す〜ぐ催促がくるんだよなあ。
(提供者:そら)
■具体的に企画に盛り込んでいるわけではないが
それが必要であることは知っていますよ、
というアピールとして使う。
できるかできないかはともかく、
視野に入れるだけなら問題はないのだ。
「経費削減も視野に入れつつ」
「海外展開も視野に入れつつ」
「世界征服も視野に入れつつ」
「地球滅亡も視野に入れつつ」
「輪廻転生も視野に入れつつ」
(提供者:Cazy3)
■「二度手間になりますので」だと
オトナ語としてのインパクトに欠ける。
「二度手間三度手間になりますので」
というふうに、「二度手間三度手間」を
ひとまとまりの言葉としてとらえるのがオトナ。
(提供者:ネギマ、祐鈴、メーカー勤務、Cazy3)
■製品の製造単位のこと。
ものによって12だったり、100万個だったりする。
そのまとまりごとの製造期間や品質を指して
「もう、このロットは1000で卸すしかないでしょ」
などというふうにも使われる。
注文数が製造単位に足りないときは
「ロットにならない」などとも言う。
(提供者:KimKim7)
■ヒノキの棒や薬草のことではないし、
フランクリンバッヂのことでもない。
オトナがオフィスで使うときは、
懸案事項やこなすべき作業などを指す。
「ササキは 確認アイテムを てにいれた!」
「ノザキは 作業アイテムを わすれてしまった!」
こなすうちに経験値が溜まり
レベルやスキルが上がる、というと
うまくまとめすぎだろうか。
(提供者:hanako)
■これは会社の備品ではなく、
私個人が私個人のお金を使って購入した
私個人の所有物である、という強い主張。
たとえふつうのハサミにすぎなくても、
たとえただの消しゴムにすぎなくても、
「高橋私物」などというシールが貼ってあったら
それはれっきとした個人財産であるから、
おいそれと使ったりしてはいけない。
軽い気持ちでホッチキスを借りただけなのに
ものすごく怒られることがあるぞ。
ちょっと消しゴムを借りただけで
2年分の人間的信用を失ったりするぞ。
にしても、せっかくのデザインが
そのシールで台無しだと思うんだけどな。
(提供者:ひっきー)
■表層的なやり取りから一歩踏み込んだ話。
「突っ込んだ話」を説明するのに
「踏み込んだ話」というのもおかしな話であるが、
「突っ込んだ話」は「ツッコンダハナシ」として
なぜか頻繁に用いられるのである。
「来週先方におじゃまするんで、
そのときにでもツッコンダハナシしてきますよ」
(提供者:manabu0033)
■お願いにお願いを重ねることを詫びながら、
それでも業務遂行のためにお願いをやめない
オトナの生き様を感ずる。
違う言葉だが同じ原理の言葉として
「謝ってばかりですいません」を挙げておく。
(提供者:ミニ・ニー)
■その件はどこが処理することになっているか、
現在の責任はどこにあるかを指す。
あるいは、作業がどこで止まっているのかを
暗に揶揄する場合にも使われがち。
「その件は先月から
渡辺本部長預かりとなっておりまして……」
「それじゃ待つしかないですねえ」
(提供者:manabu0033)
■いままさに、携帯電話におけるマナーは
オトナたちによってつくられている最中なのだ。
おそらく、もう10年もすれば、
礼儀正しく携帯電話を使うためのマナーが
まるで古来からある道徳や倫理のようにして
一般に認知されるのである。
まるで憲法の草案をつくる明治維新の青年のごとく
オトナたちは携帯電話でのやり取りを
洗練させている最中なのだ。それが認知されたとき、
年輩者は「最近の若者は携帯電話なんか使って」と
ブツブツ言うのではなく
「最近の若者は携帯電話のかけかたも知らん!」
と言って憤るのであろう。
説明文のくせに冒頭から激しく脱線して申しわけない。
仕事上のつき合いしかない人が、
用事があって個人の携帯電話へかけるときは
最近このように言いがちである。
意地悪な取りかたをすれば
「オレは携帯電話じゃない!」とも言えるのだろうが
そこはオトナになってほしい。
なにしろ、彼らはマナーを模索中なのだ。
(提供者:ハロア)
■同様に、いままさにメール上の礼儀やマナーも
かたちづくられている最中なのだ。
このフレーズは、相手のメール文を引用しながら、
その合間合間に自分のコメントを
差し挟むことを意味し、つまりは、
「ところどころに返事の文章があるので
最後まで読んでくださいね」という意味合い。
エンジニア系の人から発祥されたと思われる風習。
数年後は常識になっているかもしれないぞ。
(提供者:Cazy3)
■それのみを目的とするというと
お互い照れくさくて恐縮してやりにくいので
表層的にはそれが目的じゃないことにしますけど、
でも、心情的にはそれが目的なんだよ、
というような、じつにオトナ的使い回しをする言葉。
「それでは、ついでのときにでも送っていただけますか」
「ついでのときでいいからコレやっといてもらえる?」
ただし、「ついでのときにでもやっときますよ」
というように、表層へ真意を持ってきて煙に巻く
逆の使い回しをするときもある。
(提供者:ジャンルカ)
■仕事は関係なく、私個人としての意見である、
という面を強調し、それによって真意を伝えたり、
相手の信頼を得ることを目的とするが、
形骸化している場合も多く、そうなると
逆に相手の疑心を招き逆効果とになる。
「築1年で南東の角部屋ですからね。
この物件は仕事抜きでおすすめです!」
……そんなバカな。
(提供者:Jamy)
■自分のご飯は自分で用意します、という意味ではなく、
いや、そういう意味もあるにはあるのだが、
それによってかかる費用や手間は私どもが持ちますよ、
という気概の現れ。
「K運送さんは手弁当でがんばってくれてるからなあ」
(提供者:ねひ)
■さあ、お昼だ! ごはん、ごはん!
「浜崎さーん、渡辺本部長が呼んでるよー」
ぎゃあ。つかまった!
「あれ? 浜崎は?」
「渡辺本部長につかまってる」
「じゃあ、先行くか」
さあ、お昼だ! ごはん、ごはん!
「浜崎ぃ、M印刷さんの吉田さんから電話ぁ〜」
ぎゃあ、つかまった!
「あれ? 浜崎先輩は?」
「M印刷の吉田につかまってる」
「じゃあ、先に行きましょう」
(提供者:武村)
■本来「ぜんぜん」は打ち消しや否定の言葉を
ともなうべき副詞である。
「ぜんぜんOK」なんていうのはぜんぜんダメである。
しかしながらライトにこのフレーズを口にする
オトナも多いわけであって、
ここはもう、「ゼンゼンOK」を
ひとつの言葉としてとらえるほうが正解かもしれない。
「もしもぉし、お世話になってまぁす、
K運送の小松崎でっす、毎度、どぉも!
はい、はいはいはいはい、はぁい、
えぇ、えぇ、はいはいはいはい、
4日というと木曜ですね? 6時で?
はぁい、もぅ、ゼンゼンOKですよぉ!」
(提供者:maiko)
■親族が取締役に名を連ねるような会社では、
社長の息子を「ジュニア」「若」と
呼ぶだけでは全体を称することができないため、
「一族」と呼ぶしかないのだという。
会社によっては、その「一族」の経理を受け持つ
「一族係」があるという……。
(提供者:くう)
■地方の支店が「東京の決定だからなあ」と言うとき
それは本社を指すわけであるが、
外資系企業だと本社は「海の向こう」となる。
「海の向こうの人が言うことだからしょうがないでしょ」
(提供者:ゆ)
■競合するライバル会社のことを、
オトナはしばしば地名で呼ぶ。
とくに、先方におじゃまして、
そこで先方のライバル会社の名前を
言わなければならないようなときに
そういった言い回しをしがち。
「そこは千駄ヶ谷の出方しだいですねえ。
大手町のほうは大丈夫なんですか?」
「まあ、麹町しだいじゃないですか?」
「麹町は人形町の件があるから怪しいですね」
「そうだな。となると、あとは曙橋か……」
なにがなんだかわからんわい。
(提供者:haruna)
■これまた問題作である。
つまり、オトナ語の決まり文句に組み込むと、
なんだかおかしくなってしまうような
名字の人だっているわけである。
「ただいまセキはセキをはずしております」
できればそういうことは口にしたくないなあ。
本日はこのあたりで失礼させていただきます。
週の真ん中、水曜日ですが、
がんばっていきましょう! |