BUSINESS
オトナ語の謎。
オレ的にはアグリーできかねるんだよね。

■■■  第24回 オトナ語実践編:その4 ■■■

「みなさんの投稿を読んでいると、
 みんながんばってるんだなあ、私もがんばろう、
 という気になります」
そんなメールが届いている。
むろん、半端な人生応援は当コーナーの趣旨ではない。
しかし、明らかにここへ寄せられる声は
現場から発せられており、いわばその活力のようなものが
読む人へ自然と伝わるのではないかと思う。

全国のオフィスでがんばる諸先輩方、
お世話様です。お疲れさまです。
ますます絶好調、オトナ語実践編、
まずは前回の設問を振り返ってみよう。


  実践問題その3 

 あなたは、渡辺本部長に向かって
 なんらかのプレゼンをおこなっています。
 念入りに仕上げた企画だけあって、
 かなり先方の感触もいいようです。
 これはあと一押しだな、と思った瞬間、
 渡辺本部長はあなたに向かって言いました。
 「ところで、同じようなケースで、
  アメリカでは○○が起こって、
  先週大騒ぎになってたよな。
  あれは何が原因だったんだ?」
 それはまさにあなたの専門分野であるはずです。
 ところが、あなたはそれについて
 まったく知りません。
 さあ、渡辺本部長の信用を失わないように、
 うまくしゃべって切り抜けてください。

 

全国津々浦々から寄せられた
ハイクオリティーな危機回避術。
読んで笑うもよし、こっそり学ぶもよし。
おしりまでじっくりご笑覧ください。

「おっしゃるとおりです。
 日本での本プランの実施については
 なんら問題ないと判断していますが、
 他国でのケースも参考にすべきと考えています。
 すでにUSの関係者にアメリカでの状況を
 フィードバックするよう依頼していますので、
 それを以てシュミレーション、
 および問題点の洗い出しをして
 補足のご報告をする予定でおります。」
 (提供者:ゆぱ)

■多くのメールが「あとで報告する」という形へ
 話をもっていくというものであったが、
 ここまでスマートに運べば完璧であろう。
 なんだか詳しい説明を受けたような気になりさえするが
 じつは原因はちっとも述べられていないのである。
 「おっしゃるとおりです」あたりは、
 予想外の質問にやや慌てた感も見受けられるが、
 一瞬にして呼吸は整っており、あとはよどみなく話す。
 中盤の「すでに」がじつに効果的である。

「○○の件ですね。大変なことが起こったようですが
 現在原因を究明しているところですね。
 我々も気になるところですが、
 その原因がはっきりさえすればこちらも
 十分に対処しうる手段がとれると思いますので。
 まずは、プレゼンテーションを
 すすめさせていただきたく、お願いします。」
 (提供者:薩摩半次郎)

■一見ふつうに回答したかに思えるが、
 随所にオトナな技術が施されており、
 その意味で白鳥の水面下に掻く足を思わせる。
 まず「原因を究明しているところです」で終わらない点。
 「原因を究明しているところですね」
 ですね! ですねってどういうことだ!
 さらには「手段がとれると思いますので。」
 思いますので、どうするというのだ!
 つまり、原因をはっきりさせて十分に対処するとは
 確約していないのである。さらに、
 よからぬ方向へ脱線しそうな論を修正し、
 プレゼンを進行させる方向へ力強く巧み。
 柔よく剛を制す。そよぐ柳は折れないとは
 このことであろうか。見事である。

「そんなことがあったんですか?
 すみません、わたくしお恥ずかしながら
 勉強不足で全く知りません。
 早急に情報を入れて調査いたします。
 即答できず、申し訳ございません!」
 (提供者:maki)

■おおっと、こちらはすべてを認めてしまった。
 正直は最大の解決法である。
 しかしながら、これはたんなる謝罪ではない。
 つまり、やる気ある有望な若手を演じ、
 先方の虚栄心をくすぐる作戦なのである。
 自分と先方との関係にもよるだろうが、
 ふだん信頼されている若手であれば
 渡辺本部長もむしろいい気分で
 のちの話を聞くに違いない。
 確信を持って使いこなせば、誠実は武器なのだ。

「例の件は私の経験では
 単なる現地人との食い違いと思いますね。
 いずれにせよ今あっちは寝てますから、
 朝イチでメール入れるようメッセージ入れときます。
 本部長は今日何時頃までいらっしゃいますか?
 ああっ、7時だとちょっと、10時くらいになりますが。
 ハイ、それでは明朝一番で
 ご報告と言うことでよろしいでしょうか」
 (提供者:Yasuyuki)

■こちらは逆にベテランの味わい。
 「単なる現地人との食い違い」という言い回しが
 暗に発言者のくぐってきた修羅場を感じさせ、
 歯牙にもかけぬ問題であることを先方へ知らせる。
 かといって無責任に放り出すのではなく、
 周到に返事を明日の朝まで引き延ばす。
 先方の退社時刻を訊いたうえで、
 どうしてもそれ以降になってしまうと伝える
 オトナの技術が心憎い。

「あ、かなり情報がバラついてたんで、
 軽くまとめてみてるところです。
 あとでお持ちします。」
 (提供者:もちこ)

■落ち着きながらあっさりかわしてみせた好例。
 なんといっても、「軽くまとめてみてる」という
 現在進行形が効いている。
 いうまでもないことです、という
 当然のニュアンスが説得力を生む。

「そうなんです。まさに本部長の御指摘のとおり
 あのアメリカの事件のようなリスクが、
 今一番、企業にとっては命とりなんです。
 もちろん、事件の経緯につきましては、
 改めて時間を取りらせていただきまして、
 後日じっくりとご説明させていただきます。
 それにしても、本当に本部長の
 ご見識の高さには恐れ入るばかりです。
 理解の厚い上司に恵まれて、
 ますますこのプロジェクトへの
 闘志が燃えてきました。ありがとうございます。
 あっ、横道に逸れてしまいして申し訳有りません。
 それでは、本題に戻らせていただきます。」
 (提供者:haruko)

■こちらは本部長を持ち上げる作戦に出た。
 察するに状況は渡辺本部長と1対1の
 社内プレゼンといったところか。
 やや持ち上げすぎなきらいはあるものの、
 差し向かいでこう言われて悪い気はしない。
 同じお世辞を言うにしても、
 「ご見識の高さには恐れ入るばかり」
 という言い回しが洗練を感じさせる。

「わたくしも同様のトラブルを避けたいと
 先方に問い合わせているのですが、
 何分、おおらかなお国柄のせいか
 まだ返答がきていない状況なんですよ。
 レスポンス来次第、
 本部長にも詳細お伝えしますね。」
 (提供者:うしろまえ)

■なぜ自分がその原因を知らないかということを
 いかにうまく伝えて納得してもらうかが
 今回の設問のひとつのポイントなわけであるが、
 この回答は「おおらかなお国柄のせい」として
 本部長の切っ先をかわしている。
 とっさにこの答えが返ってくれば
 よもやアメリカへ問い合わせていないとは思うまい。

「確か、△△が原因だったはずですけれど、
 あれ? それは、××で起きたケースだったかな?
 ◇◇が原因だったのは、☆☆ですし……
 ちょっと、混乱しちゃっていますね、わたし」
 (提供者:キ)

■「混乱しちゃっていますね、わたし」の部分では
 ニコッというさわやかな笑顔が添えられる。
 ほかの事例を挙げることで
 基本的な知識量をアピールしたうえで、
 たまたま知らない今回に関しては笑顔で照れ隠し。
 何も知らないのではなく、
 知っているがゆえの混乱とあらばしかたがない。
 平素のまじめぶりが知られている女性こそ、
 使いこなせるワザであるのだろう。

「ああ、確かにあれも同じようなケースでしたね。
 難しい所ですが……本部長はどうご覧になりましたか?」
 (提供者:アオイ)

■追求されるまえに、まず、先方にしゃべらせる。
 即戦力のオトナ技術といえよう。投稿に添えられた、
 「これまで随分これで切り抜けてきました」の一文が
 現場での有効性を物語る。

「それ、渡辺本部長の方には
 どのように伝わっているんですか?」
 (提供者:ぬばたまの)

■こちらも先方にしゃべらせるパターンだが、
 見解を述べさせるのではなく、
 それを知った経緯を訊くことにより、
 先方にしゃべらせやすくしてある。
 また、経緯を話してもらうことによって
 その問題の大まかな内容を知ることもでき、
 うなずいているあいだに自分の考えもまとまる。
 先方が裏話などを交えつつ話し終えれば、
 「あれはですね……」と切り出すわけだ。

「あれは原因というよりも、発端でしょうか?
 そもそもアメリカでしたっけ?
 いや、フランスだったかな?
 んー、世界情勢も、
 今や似たりよったりってことですかね?」
 (提供者:Tom)

■もやもやと話しはじめて、
 最後は飲み屋での笑い話のように。
 「まったくねえ……」と思わず
 相づちを打ちたくなるような展開である。
 世界情勢や景気といった
 共通の強敵を持ち出すことにより、
 いつの間にか先方と連帯感が出る不思議。

「まあ、騒ぎになったことのひとつは
 国情ということもあるかもしれませんねえ」
 (提供者:ほげげ)

■なんとも曖昧な指摘であるが、
 こちらも「困ったもんだなあ」というあたりへ
 うまく着地してみせている。
 「ひとつは」と前置きするが、
 おそらくそれ以上の理由は語られない。

「あ、そうだったんですか。ごめんなさいその情報、
 ちょっとまだ私のほうに入ってなくて。
 でもその件については、指示書がわりとすごく丁寧に、
 系統立てて書かれていますんで、
 問題自体は一見大変そうに見えるんですが、
 順を追って調べていけば
 必ず原因に到達できるはずなんですよ。
 ですからおそらく最終的には
 現場の作業者レベルで解決できたんだと思います。
 いづれにしましても、
 私のほうから確認はしておきますが……」
 (提供者:メロンパンナちゃん)

■何か言っているようで何も言っていない!
 「問題自体は一見大変そうに見えるが、
  順を追って調べていけば必ず原因に到達できる」
 というのは、よく考えてみると、
 当たり前の話である。
 何も言っていないのに何かを言われたような気がする。
 人はそれを話術と呼ぶ。

「根本原因は、未だに謎なんです。
 だから、あそこまで大騒ぎになったらしいんですよ。
 でも、もし気になるようでしたら、
 詳しく調べて見ますが、いかがですか?」
 (提供者:まさ)

■根本原因が謎! 謎だからこそ騒ぎになった!?
 そんな言い回しが通用するのかと感じるのは
 いま冷静に字面を追っているからであって、
 現場でさらりと言われたら、
 あっさり納得してしまうのかもしれない。
 それにしても、「騒ぎの原因はなんだ?」と訊かれて
 「原因は謎で、謎だから騒ぎになった」と答えるのは
 まるで禅問答のようである。オトナって深い。

「ああ、よくあるいつものあれですよ。
 うちは常に注意してますから、
 万が一同じようなことが起こっても
 対策もばっちりです。」
 (提供者:めめ。)

■よくあるいつものあれ! こう言われると
 まさか「よくあるいつものあれってなんだね?」
 とは聞き返せませんよ。なんだか知らんが、
 とにかくばっちりだと相手も言ってるし。

「その件についてですが、
 学生時代の知人がムコウで働いてまして、
 原因としましては企画段階でヨミが甘かったと。
 ウチはそういうことありませんから。
 大丈夫です大丈夫です。
 それに、訴訟社会じゃないですかアメリカって。
 大騒ぎしたニンゲンが勝ちなんですよね。
 それで、メディアの絶好のターゲットに
 なっちゃったんですよ。
 まわりはみんな冷めた目で見てるみたいですよ。
 その程度のことは、関係者サイドは
 ある程度織り込んでますから。」
 (提供者:ひっきー)

■これまた確実なことは何も言ってない。
 「ムコウに働く学生時代の知人」にのみ
 現実性を特化させ、後半はただのアメリカ話。
 さりげなく使われた「まわりはみんな」は、
 小学生がおねだりするときの
 「みんな持ってるもん!」に似ている。

「その件に関してはですね、
 ちょっと言いにくいんですが、
 プランそのものよりも、
 どちらかというとアメリカ担当の児島の段取りに
 問題があったようで……。」
 (提供者:Inu)

■原因は児島にあり! 誰なんだ、児島!
 自社の信頼を損ねるという諸刃の剣ながら、
 とりあえず先方の攻撃だけはかわした。
 むろん、渡辺本部長と児島が
 今後どこかで会うことはないということは、
 一瞬のシミュレーションののちに
 はじき出されたのであろう。しっかりしろ、児島。

「私的な見解でよろしければ、
 単に「国民性の違い」と言える部分を感じています。
 しかし、表に見える情報だけでは、
 正確なところを判断できません。
 この件を専務にご報告されるのは、
 いつになりましょうか? 週明けですか。
 では、今週中には、詳細なデータと
 シンクタンクの分析など、情報を入手し
 再度ご報告させて頂きます。」
 (提供者:けーすけ39才)

■前半と後半の分離が見事である。まず、
 私的な見解であるということをことわることによって
 詳細を語らないことを自然にしている。
 この口調で言われたらまさか知らないとは思わない。
 後半は冷静にフォローを徹底。オトナである。

「はい。あの件についてはワタクシの方でも
 まだ正確なところの原因を把握しておりません。
 まあこうしたケースというのは、
 さまざまな情報が錯綜しますので、
 現在はできるだけ正確な情報を集めるために、
 現地サイドを含めた複数のラインを通じて
 情報を収集しているところです。
 いずれにしても、本部長のおっしゃる通り、
 我々にとっても非常に参考価値のある
 ケースだと考えていますので、一定の情報が集まり、
 ある程度の分析が可能になったところで、あらためて、
 入手した情報の内容とそれについての分析結果を
 報告させていただこうと考えています。」
 (提供者:イトー)

■いまよくわかんないからあとで答えるねー、
 という内容をオトナな感じで伝えるときの
 模範解答かもしれない。個々の言葉遣いも見事である。

このあたりで実践問題3の回答例を終了いたします。
そして実践問題4の問題はこれです!
はじめての方もふるってご応募くださいな。


  実践問題その4 

 
金曜日の夜遅く、業務を終えてあなたは
 オフィスをあとにします。
 閉まりかけたエレベーターに駆け寄ると、
 なかにいる人が扉を開いてくれました。
 開けてくれたのは渡辺本部長です。
 エレベーターのなかで、
 あなたは渡辺本部長とふたりきり。
 どうやら8階から1階まで、
 誰も乗ってくる様子はありません。
 さあ、気まずい沈黙を埋めるべく、
 ひと言話しかけてください。
 1階に着くまでに終わるようなコンパクトな話題で。

 

この実践問題の受付は終了いたしました。
 たくさんの投稿、ありがとうございました!


■■■ オトナの基本用語:その24 ■■■

2本立て
(提供者:Cazy3)
■Aという案とBという案があって、
 どちらかに決めかねている状態の原因は何かというと、
 要するにそれはどっちもどっちで
 決め手に欠けるわけであるが、
 いまさら両方ボツにしてやり直すわけにもいかず、
 オトナは無理に自分たちを
 前向きにする力を働かせてこう言うのだ。
 「よし! 今回はAとBの2本立てでいこう!」
 問題あるよなあ、それ。

いかようにも
(提供者:キングブッシュ)
■もう、あなたがいうことなら、
 どうとでも私はするのです、と、
 これほどまでに低姿勢になりながら、
 それでもへりくだることは忘れないのです。
 「ご指摘いただければ、
  いかようにも対処いたしますので……」
 ──へりくだること、無限。
 オトナは書き初めでそう書いたとか。

センザイ
(提供者:小林、ほか)
■宣伝材料の略であり、要するに
 写真やデータやポスターなんかを指す。
 これを「洗剤」と間違えるのは
 あまりにもベタな気がするかもしれないが、
 どっこい、社会人以外にとって
 「センザイ」といえば「洗剤」である。
 オトナはそのへんをもう少し自覚し、
 新人が「洗剤を、どうするんです?」などと
 質問しないように説明すべきである。

一元化する
(提供者:kondo)
■ひとつのまとめてわかりやすくすること。
 管理も発注も一元化。それが会社の方針だから
 とにかくまとめてわかりやすく。
 それは意義あることだけど、
 一元化するための会議がこれほど
 長引くのはなぜでしょう?
 ようやく落ち着いたのに、半年経ったら
 「活性化のために個別に対応すべき」
 とか言われるのはなぜでしょう?

カレンダーどおり
(提供者:タタミ、ほか)
■営業日や稼働日ではなく、
 カレンダーどおりに日を数えること。
 つまり、営業日や稼働日といった
 概念のない人にとっては、
 あまりにも当たり前の日付である。
 利便を追求するオトナは
 時間の概念さえどんどん発明するのだ。

基本用語のほうも、これまでどおり募集します。
あてさきはpostman@1101.comです。
表題は「オトナ語基本」としてください。
「これはもう出てたっけ?」というものでも
気にせず自由に気軽にメールしてください!
ちなみにネタの説明文は
こちらで書き起こしておりますので、
適当に書いていただくだけでかまいません。


■■■ アシスタントよりご報告申し上げます。 ■■■

こんにちは、アシスタントです。
こちらは、オフィスからの自由なメールを
募集するコーナーです。
本日はこちらのメールをご紹介いたします。



弊社では経費削減のためにコピー用紙の裏を
メモ&社内用コピーとして二次利用していますが、
(きっと他の会社でも
 同じようなことをしていると思います)
取引先などから届いた定形封筒も
全部開いて宛名の裏側を
電話取り次ぎなどのメモ用紙に利用しています。
経費削減の観点からだけではなく、
封筒を全部開くことで「取り忘れ」を防ぐことにもなり、
一石二鳥にもなっています。
ま、ちょっとビンボー臭いように見えますが、
封筒の裏ですとコピー用紙よりも気軽に書き込めるし、
(コピー用紙をメモに使うのは
 何となく勿体ない気がして)
気に入っています。
ちなみに上質な封筒より安物の茶封筒の方が
書き味は良いのでお気に入りです。
(shinko)

封筒の裏側をメモ用紙代わりに。
いろんな工夫があるのですね。
それでは本日はこのあたりで失礼いたします。


オフィスからのふつうのおたより、
当コーナーへのふつうの感想なども
お待ちしております!
あてさきはpostman@1101.comです。
こちらのほうの表題は
ふつうに「オトナ語」でけっこうです。
みなさまからのメールが
新たなテーマをつくるのです!

2003-07-23-WED

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