オトナ語の謎。 オレ的にはアグリーできかねるんだよね。 |
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第24回 オトナ語実践編:その4 ■■■ 「みなさんの投稿を読んでいると、 みんながんばってるんだなあ、私もがんばろう、 という気になります」 そんなメールが届いている。 むろん、半端な人生応援は当コーナーの趣旨ではない。 しかし、明らかにここへ寄せられる声は 現場から発せられており、いわばその活力のようなものが 読む人へ自然と伝わるのではないかと思う。 全国のオフィスでがんばる諸先輩方、 お世話様です。お疲れさまです。 ますます絶好調、オトナ語実践編、 まずは前回の設問を振り返ってみよう。
全国津々浦々から寄せられた ハイクオリティーな危機回避術。 読んで笑うもよし、こっそり学ぶもよし。 おしりまでじっくりご笑覧ください。 「おっしゃるとおりです。 日本での本プランの実施については なんら問題ないと判断していますが、 他国でのケースも参考にすべきと考えています。 すでにUSの関係者にアメリカでの状況を フィードバックするよう依頼していますので、 それを以てシュミレーション、 および問題点の洗い出しをして 補足のご報告をする予定でおります。」 (提供者:ゆぱ) ■多くのメールが「あとで報告する」という形へ 話をもっていくというものであったが、 ここまでスマートに運べば完璧であろう。 なんだか詳しい説明を受けたような気になりさえするが じつは原因はちっとも述べられていないのである。 「おっしゃるとおりです」あたりは、 予想外の質問にやや慌てた感も見受けられるが、 一瞬にして呼吸は整っており、あとはよどみなく話す。 中盤の「すでに」がじつに効果的である。 「○○の件ですね。大変なことが起こったようですが 現在原因を究明しているところですね。 我々も気になるところですが、 その原因がはっきりさえすればこちらも 十分に対処しうる手段がとれると思いますので。 まずは、プレゼンテーションを すすめさせていただきたく、お願いします。」 (提供者:薩摩半次郎) ■一見ふつうに回答したかに思えるが、 随所にオトナな技術が施されており、 その意味で白鳥の水面下に掻く足を思わせる。 まず「原因を究明しているところです」で終わらない点。 「原因を究明しているところですね」 ですね! ですねってどういうことだ! さらには「手段がとれると思いますので。」 思いますので、どうするというのだ! つまり、原因をはっきりさせて十分に対処するとは 確約していないのである。さらに、 よからぬ方向へ脱線しそうな論を修正し、 プレゼンを進行させる方向へ力強く巧み。 柔よく剛を制す。そよぐ柳は折れないとは このことであろうか。見事である。 「そんなことがあったんですか? すみません、わたくしお恥ずかしながら 勉強不足で全く知りません。 早急に情報を入れて調査いたします。 即答できず、申し訳ございません!」 (提供者:maki) ■おおっと、こちらはすべてを認めてしまった。 正直は最大の解決法である。 しかしながら、これはたんなる謝罪ではない。 つまり、やる気ある有望な若手を演じ、 先方の虚栄心をくすぐる作戦なのである。 自分と先方との関係にもよるだろうが、 ふだん信頼されている若手であれば 渡辺本部長もむしろいい気分で のちの話を聞くに違いない。 確信を持って使いこなせば、誠実は武器なのだ。 「例の件は私の経験では 単なる現地人との食い違いと思いますね。 いずれにせよ今あっちは寝てますから、 朝イチでメール入れるようメッセージ入れときます。 本部長は今日何時頃までいらっしゃいますか? ああっ、7時だとちょっと、10時くらいになりますが。 ハイ、それでは明朝一番で ご報告と言うことでよろしいでしょうか」 (提供者:Yasuyuki) ■こちらは逆にベテランの味わい。 「単なる現地人との食い違い」という言い回しが 暗に発言者のくぐってきた修羅場を感じさせ、 歯牙にもかけぬ問題であることを先方へ知らせる。 かといって無責任に放り出すのではなく、 周到に返事を明日の朝まで引き延ばす。 先方の退社時刻を訊いたうえで、 どうしてもそれ以降になってしまうと伝える オトナの技術が心憎い。 「あ、かなり情報がバラついてたんで、 軽くまとめてみてるところです。 あとでお持ちします。」 (提供者:もちこ) ■落ち着きながらあっさりかわしてみせた好例。 なんといっても、「軽くまとめてみてる」という 現在進行形が効いている。 いうまでもないことです、という 当然のニュアンスが説得力を生む。 「そうなんです。まさに本部長の御指摘のとおり あのアメリカの事件のようなリスクが、 今一番、企業にとっては命とりなんです。 もちろん、事件の経緯につきましては、 改めて時間を取りらせていただきまして、 後日じっくりとご説明させていただきます。 それにしても、本当に本部長の ご見識の高さには恐れ入るばかりです。 理解の厚い上司に恵まれて、 ますますこのプロジェクトへの 闘志が燃えてきました。ありがとうございます。 あっ、横道に逸れてしまいして申し訳有りません。 それでは、本題に戻らせていただきます。」 (提供者:haruko) ■こちらは本部長を持ち上げる作戦に出た。 察するに状況は渡辺本部長と1対1の 社内プレゼンといったところか。 やや持ち上げすぎなきらいはあるものの、 差し向かいでこう言われて悪い気はしない。 同じお世辞を言うにしても、 「ご見識の高さには恐れ入るばかり」 という言い回しが洗練を感じさせる。 「わたくしも同様のトラブルを避けたいと 先方に問い合わせているのですが、 何分、おおらかなお国柄のせいか まだ返答がきていない状況なんですよ。 レスポンス来次第、 本部長にも詳細お伝えしますね。」 (提供者:うしろまえ) ■なぜ自分がその原因を知らないかということを いかにうまく伝えて納得してもらうかが 今回の設問のひとつのポイントなわけであるが、 この回答は「おおらかなお国柄のせい」として 本部長の切っ先をかわしている。 とっさにこの答えが返ってくれば よもやアメリカへ問い合わせていないとは思うまい。 「確か、△△が原因だったはずですけれど、 あれ? それは、××で起きたケースだったかな? ◇◇が原因だったのは、☆☆ですし…… ちょっと、混乱しちゃっていますね、わたし」 (提供者:キ) ■「混乱しちゃっていますね、わたし」の部分では ニコッというさわやかな笑顔が添えられる。 ほかの事例を挙げることで 基本的な知識量をアピールしたうえで、 たまたま知らない今回に関しては笑顔で照れ隠し。 何も知らないのではなく、 知っているがゆえの混乱とあらばしかたがない。 平素のまじめぶりが知られている女性こそ、 使いこなせるワザであるのだろう。 「ああ、確かにあれも同じようなケースでしたね。 難しい所ですが……本部長はどうご覧になりましたか?」 (提供者:アオイ) ■追求されるまえに、まず、先方にしゃべらせる。 即戦力のオトナ技術といえよう。投稿に添えられた、 「これまで随分これで切り抜けてきました」の一文が 現場での有効性を物語る。 「それ、渡辺本部長の方には どのように伝わっているんですか?」 (提供者:ぬばたまの) ■こちらも先方にしゃべらせるパターンだが、 見解を述べさせるのではなく、 それを知った経緯を訊くことにより、 先方にしゃべらせやすくしてある。 また、経緯を話してもらうことによって その問題の大まかな内容を知ることもでき、 うなずいているあいだに自分の考えもまとまる。 先方が裏話などを交えつつ話し終えれば、 「あれはですね……」と切り出すわけだ。 「あれは原因というよりも、発端でしょうか? そもそもアメリカでしたっけ? いや、フランスだったかな? んー、世界情勢も、 今や似たりよったりってことですかね?」 (提供者:Tom) ■もやもやと話しはじめて、 最後は飲み屋での笑い話のように。 「まったくねえ……」と思わず 相づちを打ちたくなるような展開である。 世界情勢や景気といった 共通の強敵を持ち出すことにより、 いつの間にか先方と連帯感が出る不思議。 「まあ、騒ぎになったことのひとつは 国情ということもあるかもしれませんねえ」 (提供者:ほげげ) ■なんとも曖昧な指摘であるが、 こちらも「困ったもんだなあ」というあたりへ うまく着地してみせている。 「ひとつは」と前置きするが、 おそらくそれ以上の理由は語られない。 「あ、そうだったんですか。ごめんなさいその情報、 ちょっとまだ私のほうに入ってなくて。 でもその件については、指示書がわりとすごく丁寧に、 系統立てて書かれていますんで、 問題自体は一見大変そうに見えるんですが、 順を追って調べていけば 必ず原因に到達できるはずなんですよ。 ですからおそらく最終的には 現場の作業者レベルで解決できたんだと思います。 いづれにしましても、 私のほうから確認はしておきますが……」 (提供者:メロンパンナちゃん) ■何か言っているようで何も言っていない! 「問題自体は一見大変そうに見えるが、 順を追って調べていけば必ず原因に到達できる」 というのは、よく考えてみると、 当たり前の話である。 何も言っていないのに何かを言われたような気がする。 人はそれを話術と呼ぶ。 「根本原因は、未だに謎なんです。 だから、あそこまで大騒ぎになったらしいんですよ。 でも、もし気になるようでしたら、 詳しく調べて見ますが、いかがですか?」 (提供者:まさ) ■根本原因が謎! 謎だからこそ騒ぎになった!? そんな言い回しが通用するのかと感じるのは いま冷静に字面を追っているからであって、 現場でさらりと言われたら、 あっさり納得してしまうのかもしれない。 それにしても、「騒ぎの原因はなんだ?」と訊かれて 「原因は謎で、謎だから騒ぎになった」と答えるのは まるで禅問答のようである。オトナって深い。 「ああ、よくあるいつものあれですよ。 うちは常に注意してますから、 万が一同じようなことが起こっても 対策もばっちりです。」 (提供者:めめ。) ■よくあるいつものあれ! こう言われると まさか「よくあるいつものあれってなんだね?」 とは聞き返せませんよ。なんだか知らんが、 とにかくばっちりだと相手も言ってるし。 「その件についてですが、 学生時代の知人がムコウで働いてまして、 原因としましては企画段階でヨミが甘かったと。 ウチはそういうことありませんから。 大丈夫です大丈夫です。 それに、訴訟社会じゃないですかアメリカって。 大騒ぎしたニンゲンが勝ちなんですよね。 それで、メディアの絶好のターゲットに なっちゃったんですよ。 まわりはみんな冷めた目で見てるみたいですよ。 その程度のことは、関係者サイドは ある程度織り込んでますから。」 (提供者:ひっきー) ■これまた確実なことは何も言ってない。 「ムコウに働く学生時代の知人」にのみ 現実性を特化させ、後半はただのアメリカ話。 さりげなく使われた「まわりはみんな」は、 小学生がおねだりするときの 「みんな持ってるもん!」に似ている。 「その件に関してはですね、 ちょっと言いにくいんですが、 プランそのものよりも、 どちらかというとアメリカ担当の児島の段取りに 問題があったようで……。」 (提供者:Inu) ■原因は児島にあり! 誰なんだ、児島! 自社の信頼を損ねるという諸刃の剣ながら、 とりあえず先方の攻撃だけはかわした。 むろん、渡辺本部長と児島が 今後どこかで会うことはないということは、 一瞬のシミュレーションののちに はじき出されたのであろう。しっかりしろ、児島。 「私的な見解でよろしければ、 単に「国民性の違い」と言える部分を感じています。 しかし、表に見える情報だけでは、 正確なところを判断できません。 この件を専務にご報告されるのは、 いつになりましょうか? 週明けですか。 では、今週中には、詳細なデータと シンクタンクの分析など、情報を入手し 再度ご報告させて頂きます。」 (提供者:けーすけ39才) ■前半と後半の分離が見事である。まず、 私的な見解であるということをことわることによって 詳細を語らないことを自然にしている。 この口調で言われたらまさか知らないとは思わない。 後半は冷静にフォローを徹底。オトナである。 「はい。あの件についてはワタクシの方でも まだ正確なところの原因を把握しておりません。 まあこうしたケースというのは、 さまざまな情報が錯綜しますので、 現在はできるだけ正確な情報を集めるために、 現地サイドを含めた複数のラインを通じて 情報を収集しているところです。 いずれにしても、本部長のおっしゃる通り、 我々にとっても非常に参考価値のある ケースだと考えていますので、一定の情報が集まり、 ある程度の分析が可能になったところで、あらためて、 入手した情報の内容とそれについての分析結果を 報告させていただこうと考えています。」 (提供者:イトー) ■いまよくわかんないからあとで答えるねー、 という内容をオトナな感じで伝えるときの 模範解答かもしれない。個々の言葉遣いも見事である。 このあたりで実践問題3の回答例を終了いたします。 そして実践問題4の問題はこれです! はじめての方もふるってご応募くださいな。
■■■ オトナの基本用語:その24 ■■■
■Aという案とBという案があって、 どちらかに決めかねている状態の原因は何かというと、 要するにそれはどっちもどっちで 決め手に欠けるわけであるが、 いまさら両方ボツにしてやり直すわけにもいかず、 オトナは無理に自分たちを 前向きにする力を働かせてこう言うのだ。 「よし! 今回はAとBの2本立てでいこう!」 問題あるよなあ、それ。
■もう、あなたがいうことなら、 どうとでも私はするのです、と、 これほどまでに低姿勢になりながら、 それでもへりくだることは忘れないのです。 「ご指摘いただければ、 いかようにも対処いたしますので……」 ──へりくだること、無限。 オトナは書き初めでそう書いたとか。
■宣伝材料の略であり、要するに 写真やデータやポスターなんかを指す。 これを「洗剤」と間違えるのは あまりにもベタな気がするかもしれないが、 どっこい、社会人以外にとって 「センザイ」といえば「洗剤」である。 オトナはそのへんをもう少し自覚し、 新人が「洗剤を、どうするんです?」などと 質問しないように説明すべきである。
■ひとつのまとめてわかりやすくすること。 管理も発注も一元化。それが会社の方針だから とにかくまとめてわかりやすく。 それは意義あることだけど、 一元化するための会議がこれほど 長引くのはなぜでしょう? ようやく落ち着いたのに、半年経ったら 「活性化のために個別に対応すべき」 とか言われるのはなぜでしょう?
■営業日や稼働日ではなく、 カレンダーどおりに日を数えること。 つまり、営業日や稼働日といった 概念のない人にとっては、 あまりにも当たり前の日付である。 利便を追求するオトナは 時間の概念さえどんどん発明するのだ。
■■■ アシスタントよりご報告申し上げます。 ■■■ こんにちは、アシスタントです。 こちらは、オフィスからの自由なメールを 募集するコーナーです。 本日はこちらのメールをご紹介いたします。
封筒の裏側をメモ用紙代わりに。 いろんな工夫があるのですね。 それでは本日はこのあたりで失礼いたします。
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2003-07-23-WED
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