BUSINESS
オトナ語の謎。
オレ的にはアグリーできかねるんだよね。

■■■  第25回 オトナ語実践編:その5 ■■■

下は新入社員から上は役職クラスまで。
届くメールを読んでいると、
じつにさまざまな階級の方が同じような距離感で
オトナ語を楽しんでいるということがわかる。
興味深い話である。

全国のオフィスでがんばる諸先輩方、
お世話になっております。

もはやビジネス書として読めるほどの
実用性を備えた実践編、
今回も多種多様な回答が寄せられた。
まずは、前回の課題を振り返る。


  実践問題その4 

 
金曜日の夜遅く、業務を終えてあなたは
 オフィスをあとにします。
 閉まりかけたエレベーターに駆け寄ると、
 なかにいる人が扉を開いてくれました。
 開けてくれたのは渡辺本部長です。
 エレベーターのなかで、
 あなたは渡辺本部長とふたりきり。
 どうやら8階から1階まで、
 誰も乗ってくる様子はありません。
 さあ、気まずい沈黙を埋めるべく、
 ひと言話しかけてください。

 

今回の課題はかなりの想像力を必要としたようである。
8階から1階まで、かかる時間は1分もないだろう。
その間、オトナたちはどのような場面を想定し、
どのような言葉を使って沈黙を埋めたのであろうか。
これまでになく、文学性の高い回答が目立った。
ビジネスマンのクリエイティブを
おしりまでじっくりお読みください。

「──やっと、というか、
 もう、週末を迎えてしまいますね。」
 (提供者:すずき8)

■や! いきなりのこの叙情!
 お互いたいへんでしたね、という
 ねぎらいのなかに「グッジョブ!」という
 明日への活力もひっそり忍ばせてある。
 仕事ってなんなんでしょうね?
 ともあれ、また仕事だよ。
 そんなやり取りの聞こえそうな
 金曜日のエレベーターであった。

「──渡辺本部長、土・日は
 お休みできはるのですか?」
 (提供者:芽吹)

■ある意味、オトナ語を使わないことが
 オトナを感じさせる。
 ふだんオトナ語で表層のやり取りをしている人たちが
 ふたりきりのいま、あえて「個人」を表すことで
 密室の沈黙は親密に変わる。
 「できはるのですか?」という
 方言がかもしだす「私」な感じ。
 それがえもいわれぬオトナ感を
 かもしだすのだから不思議である。

「──おなか、すいちゃいましたね。」
 (提供者:ぬばたまの)

■ヤバい! ちょっと泣きそう!
 渡辺本部長がいい人に思えてきた。
 「そうだなあ」と苦笑する渡辺本部長。
 とはいえ、「ラーメンでも食って帰るか」の誘いには
 「電車の時間がありますので」と
 さらりとかわすわけだけれど。

「──あ、本部長、
 先日はご出張のお土産ありがとうございました。
 有名なお菓子ですよねぇ。
 私も名前は知ってたんですが、初めて食べましたよ。
 とてもおいしかったです。」
 (提供者:もちこ)

■沈黙のエレベーターが下り始めた瞬間、
 乗り合わせた者は共通の話題を探すべく
 脳内をフルスピードで検索する。
 そして、「ファイルが1個見つかりました」!
 お土産、お土産! お土産のお礼!
 こういった場での検索能力が、
 意外に社内でのポジションに影響するのである。
 「あいつはなかなか気のつくやつだな」と
 渡辺本部長も思っただろう。

「──本部長、よく日焼けされてますけど、
 どこか南の方へ旅行されてたんですか?」
 (提供者:アリス)

■これまたさりげなく好感度アップである。
 平素、渡辺本部長をよく見ているからこそ
 言えるひと言であり、渡辺本部長も
 「ああ、これ、先週な……」と
 照れながらも語り出す。
 ふだんなら話は長くなるところであるが、
 残念ながらエレベーターは1階へ着いてしまうので
 早々に切り上げることができる。

「──本部長、本部長は
 もし何階でもいいと言われたら
 何階で働くのをプラスとイメージされますか?」
 (提供者:イナズマン)

■ふだん無駄なおしゃべりをしない部下が
 このように問いかけると、
 なにかしら意味があるように思えるから不思議である。
 突飛な質問だが、あくまで礼儀正しく。
 「ふうむ……」と本部長が思案するあいだに
 エレベーターは1階へ下りる。
 「高すぎるのは、どうもな……」
 そういった、目的の見えない曖昧なやり取りのなかに、
 男たちはしばしば勝手にハードボイルドを
 感じ取るものなのである。

「──7月なのに随分涼しいですね。
 電力会社の陰謀ですかね?
 梅雨も梅雨らしくなかったし……。
 ──部長、週末、ご予定は?
 あ、釣りですかー。お子さんと?
 いいですね。今が、一番、楽しい時期ですよね。
 いいなあ。
 私も子供欲しくなっちゃいますよ。」
 (提供者:みけ)

■こちらは、仕事一辺倒のOLが
 一瞬、ちらりと見せる弱さと優しさ。
 何気ないやり取りのなかにも、
 「上司の子どものデータはインプット済み」
 という、オトナなスキルを感じさせる。

「あっら〜、お疲れさまですっ!
 どーしたんですか? こんな遅くまでっ。
 今日は夜の部なかったのですか?
 今週もバタバタでしたよね〜。
 一週間長かった〜、やっと金曜ですね。
 今週はどっぷり仕事でしたぁ。参りましたー。
 来週終わればホッとするんですけどね。
 じゃ、では、オツカレサマデース!」
 (提供者:ちよのすけ)

■いるいるいる、こういう人!
 なんだかしらないけど
 部署の垣根を超えて知り合いが多くて、
 役職クラスの人ともいつの間にか
 仲よくなっちゃったりする人。
 そういう人って、不得意分野とかはありつつも、
 やっぱり「できる人」だったりするんだよな。

「──相変わらず海外部隊の方もお忙しそうですよねー。
 いつもこのくらいの時間ですか。
 ……国内の方もなかなか厳しくて。
 いまいろいろタイミング悪いですからねー。
 あ、そういえばHさん、
 今度帰ってこられるんですよね。
 あれ? 確か8月末でしたよね。
 Hさんってどのくらい行っておられたんでしたっけ?
 3年ですか〜。
 たしかKさんと交替で行かれたんですよね。
 なんだかあっというまのような感じですね。
 ……実は、うちの部に異動になったとき、
 課長、Hさんだったんですよねー。
 ほら、Hさん、一時期国内の方、
 見ておられたじゃないですか。
 だから、Hさんが駐在行って、
 更に帰ってこられるなんて、
 なんだかすごく時間が経っちゃったみたいな
 気がするんですよねー。
 ……じゃあ、お疲れ様でした〜!」
 (提供者:うよ)

■いや、これはもう、情景描写として秀逸である。
 人との関係を大切にする
 その人の性格もにじみ出ている。
 渡辺本部長もしみじみしながら
 家路に着いたであろう。
 一歩間違えば飲みに誘われたりしそうであるが、
 それを巧みにかわす
 立ち去り際の転身ぶりも見事である。

「──そのネクタイの柄、素敵ですね。象ですか?
 マンモスですかぁ。珍しいですね。」
 (提供者:ゆみ)

■ええと、これは、単純に笑ってしまった。
 オトナ語とは一切関係がないかもしれない。

たくさんの投稿、どうもありがとうございました。
それでは次回のお題を発表しましょう。
ちょっと変わった感じの出題ですよ。


  実践問題その5 

 
まずは、以下の投稿作品をお読みください。

 人に「何かをしてください!」
 と言うときのオトナ語。
 1:〜していただけると助かります。
 2:〜していただけると嬉しいです。
 3:〜していただければ幸いです。
 下にいくほど、相手を敬う感じになります。
 (提供者:はなな)。

 このような、オトナ語三段活用を募集します!
 状況に合わせて、さまざまに形を変えるのが
 オトナ語。
 現場で培った叡智を活かし、
 多彩な三段活用をメールしてください。
 場面、条件、文体、長さ、
 その他もろもろ、一切自由です!
 

この実践問題の受付は終了いたしました。
 たくさんの投稿、ありがとうございました!


■■■ オトナの基本用語:その25 ■■■

什器
(提供者:KAWAGUCHI)
■じゅうき、と読む。
 要するに商品を陳列する棚などを指す。
 現場によっては非常に頻繁に用いられる言葉だが、
 知らない人にとっては日本語かどうかすらわからない。
 「什器搬入」などと当たり前のように使われると、
 「ジューキハンニュー?」となってしまう。
 学生時代はまず使わないが、
 レンタルビデオ店などでバイトすると
 ひと足さきに身につけることができる言葉。

ウイン・ウイン
(提供者:とっかん)
■なんじゃそのふざけた言葉は、と思うなかれ。
 厳しいプレゼンや打ち合わせの現場で
 大まじめに使われている言葉である。
 弊社も御社も、ウチもおたくも、
 両方にとってうれしい結果が出る様子。
 以前出た「お互いハッピー」に近い。
 「店頭で火がついて増産ということになれば
  ウイン・ウインの状況にもっていけるかと」

歩留まり(ぶどまり)
(提供者:さくらぬ)
■原材料に対する製品の割合。
 原料を10キロ仕入れて、不良品などで1キロの無駄が
 あったとしたら「90パーセントの歩留まり」となる。
 無駄を少なくすることを
 「歩留まりをよくする」などという。
 無駄そのものを「歩留まり」ということもあるようだ。
 この言葉を年末年始の風習に応用するとしたら、
 「100枚年賀状書いたのに、俺宛に来たのは12通かよ。
  歩留まりが悪いなあ」ということになるのか。
 なるのか、と言われても困るが。

なんぞや?
(提供者:コージ)
■なんぞや? とは、なんぞや?
 「つまり、花粉症というのは春にかぎらないものであり、
  花粉症対策というのは1年を通して
  必要になるものであるというのが
  今回のジェロニモ計画のコンセプト概要になります。
  では、このジェロニモ計画とはいったいなんぞや? と。
  ご説明申し上げます──。」
 「一般に栄養価が低いといわれているモヤシですが、
  とある研究機関の発表によりますと、
  じつにタマネギの4倍もの
  ジェロニモを含むことが明らかになりました。
  それを前提としてこの商品が企画されたのですが、
  まず、ジェロニモとはなんぞや? と。
  これはですね──。」
 「要するに、利益率ばかりが追求されがちですけれども
  それよりはジェロニモコストを下げることのほうが
  明らかに即効性があるわけですよ、わかります?
  でですね、ジェロニモとはなんぞや? と。
  そもそもですね──。」

○○部
(提供者:チビノワ)
■職場の同志が集まって行う活動全般を指すが、
 野球部、ボーリング部といったわかりやすいものから、
 カラオケ部、焼肉部などの厳密には部活ではないもの、
 メガネ部、ダイエット部、かな打ち部、
 新しいカップ麺を食べる部といった
 「たんにそういう人をまとめて呼んでるだけじゃん」
 というものまで、会社にはさまざまな部があるのだ。

基本用語のほうも、これまでどおり募集します。
あてさきはpostman@1101.comです。
表題は「オトナ語基本」としてください。
「これはもう出てたっけ?」というものでも
気にせず自由に気軽にメールしてください!
ちなみにネタの説明文は
こちらで書き起こしておりますので、
適当に書いていただくだけでかまいません。


■■■ アシスタントよりご報告申し上げます。 ■■■

こんにちは、アシスタントです。
こちらは、オフィスからの自由なメールを
募集、掲載する自由なコーナーです。
前回掲載した、
「経費削減のために、会社に届くさまざまな封筒を
 すべて切り開き、その裏側をメモ用紙にしている」
というメールに対して、たくさんの反応がありました。
そのなかからひとつ、ご紹介いたします。
いろいろな経費削減方法があるのですね。



弊社でも、ある日、社長の一声により、
「社内用コピーは裏紙再利用」
というルールができました。
もちろん、その主旨には何の問題もないのですが、
「とにかく社長に提出する資料は絶対裏紙使用」
と極端に反応する部長がいて
下々の者は困っています。
なにしろ、再利用できる裏紙のないときは
いったん何の関係もない内容をコピーしておいて
その裏に必要な情報をコピーするんですから・・・。
まったく、お粗末な話です。
(にゃん)

うはははは、どんな会社やねん。
ムリヤリ裏紙つくってどうすんねん。
このおっさん、本末転倒やっちゅーねん。
……コホン、失礼いたしました。
みなさまからの自由なメール、お待ちしていますね。
それでは本日はこのあたりで失礼いたします。
アシスタントでした!


オフィスからのふつうのおたより、
当コーナーへのふつうの感想なども
お待ちしております!
あてさきはpostman@1101.comです。
こちらのほうの表題は
ふつうに「オトナ語」でけっこうです。
みなさまからのメールが
新たなテーマをつくるのです!

2003-07-25-FRI

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