BUSINESS
オトナ語の謎。
オレ的にはアグリーできかねるんだよね。

■■■   第27回 オトナ語実践編:その7  ■■■

意志ある全国の諸先輩方に導かれ、
知性と客観とユーモアを武器に
邁進してきた当コーナーであるが、
しだいにその輪が別の次元へも広がるようである。
いずれ詳細を知らせるとは思うが、
思わぬ場所からアポなしの来訪者が
ぽつぽつと現れているということを
まずみなさまにちらりとご報告しておく。

曖昧ながらひと言添えさせていただくとすると、
「こんなところにおもしろいものがあるじゃないか」
と気づいた諸先輩方の嗅覚はやはり正しいのである。

全国のオフィスでがんばる諸先輩方、
お世話になっております。
ほんとうに、いつもありがとうございます。

本日も全国から叡智と想像力のたまものをお届けする。
まずは例によって前回の設問を振り返ろう。


  実践問題その6 

 
夕方、先方を訪れて進捗状況を説明したあなた。
 まずまず順調であり、渡辺本部長もご機嫌です。
 ところが、席を立って挨拶を交わしたところ、
 予想外のひと言が先方から発せられました。
 「駅前に美味い店ができたんだが、
  このあと一杯どうだね?」
 本来ならおつきあいすべきところですが、
 今夜あなたにはプライベートで
 どーしても外せない用事があります。
 さあ、うまくしゃべって
 なんとかその場を切り抜けてください。
 例によって設定その他は自由です!
 

先に述べておくと、
今回の回答には興味深い偏りがみられた。
この設問、女性のほうが対応が自然なのである。
おそらく、平素この手の場面をうまく切り抜けているのは
女性のみなさんのほうなのである。
とはいえそれは投稿全体の傾向であり、
男性陣の名回答にもさすがと思わせるものがあった。
さっそく紹介していこう。

「ご一緒したいです!
 あの、でも、わたくし、
 今日はこの後どうしてもだめな用事がありまして、
 あの、よろしければ次回、ぜひ、
 お供させていただきたいのですが。
 あ、でも、今日は皆様で、
 私のことお気になさらずどうぞ。
 あ、そうですか? 恐縮です!
 それじゃ、来週はぜひ! うれしい〜。」
 (提供者:匿名希望)

■幾多の危機を実際にこれで切り抜けてきたという
 女性からの現実味あふるる回答。
 気弱でまじめな羊の皮をかぶりながらも
 プライベートと好感度の両方を勝ち取るオオカミ。
 断られてなお、にこやかな気分になる
 渡辺本部長の顔が目に浮かぶようである。
 男女差別うんぬんを言うつもりは毛頭ないが、
 これは男には無理だわな。

「渡辺さんにお誘いいただけるなんて本当に光栄です。
 でも本当に申し訳ないんですが、
 実は××(実家の苗字)の父の体調が思わしくなくて
 久しぶりに実家に行く約束をしてしまいまして……。
 本当に申し訳ございません。
 その代わりもしよろしかったらそのお店、
 ランチやってるかどうかお調べして、
 もしあるようでしたら
 こちらからさっそくご連絡いたします。
 せっかく誘っていただいたのに申し訳ございません。
 ともかく、ランチ、調べておきますね。
 では、お先に失礼いたしまーす!」
 (提供者:わがし)

■こちらも女性からの回答例。
 実家の父の体調が理由とあらば、
 それ以上に強く誘えるわけもない。
 提示した理由の真偽はさておくとして、
 やはり見事なのは断りながらも
 「孝行者」として株を上げているところであろう。
 これは男にも十分できることではあるが、
 立ち去り際の「失礼しまーす!」は
 ちょっと言えないわな。

「わぁ〜おごりですか?
 わたし結構お金かかりますよー。」
 (提供者:なお)

■出た! 必殺、小悪魔ちゃん!
 小さな悪魔、それが小悪魔ちゃん!
 ところでこれを、たんに
 「男に媚びる処世術」などととらえるのは早計である。
 なぜなら、そうであれば
 そもそも誘いを断ることができないし、
 さきざきのことを考えれば
 先方と会うたびに誘われるという
 非常にやっかいな状況を招いてしまう。
 この場合のポイントは
 マジな誘いを冗談に変換することにある。
 「そりゃ困ったなあ、わっはっは」
 と先方がなれば、ライトな言い回しで
 あっさり断ることも可能となる。
 小悪魔ちゃんがひと言に込めた意味は、
 場の空気を一転させるための布石なのである。

「ありがとうございます! ぜひご一緒させてください!
 ただ、私自社に戻りまして書類の整理などしなければ
 なりませんので、
 こちらに戻ってこれるのは19:30ぐらいに
 なってしまうのですが、ご都合は大丈夫でしょうか?
 ウチの木村(課長)も都合がつけば
 ぜひご同席させていただきたいのですが、
 よろしいでしょうか? いえ、木村が先日、
 渡辺本部長というのは人間的に深みのある方だから
 今度ぜひ一席もうけてじっくり
 お話をうかがいたいものだ、と
 申していたものですから。
 いやーもし本部長からのお誘いということであれば、
 ウチの橋上(部長)も喜んで参ると思いますねー。
 橋上は最近別案件をやっておりますから、
 本部長のところにお邪魔するのを
 サボってるんじゃないですか?」
 (提供者:strikegold)

■かように男は誘いを断るのに苦心するわけである。
 この場合の方法論を解説すると、
 なんだかしらないが話をどんどん
 おおごとにしていって、
 「それでは後日一席設けましょうか」
 というふうにすり替えていくわけである。
 かように男は誘いを断るのに苦心するわけである。

「いやー申し訳ありません、
 今日ちょっとヤボ用がありまして、
 一回戻らないといけないんです。
 いえいえ、ほんと貧乏暇なしってやつでして
 お恥ずかしい限りなんですが。」
 (提供者:目白亭酔狂)

■う〜ん、現場感覚!
 使ってる人でないとなかなか出てこない。
 「ヤボ用」「貧乏暇なし」という
 なかばオヤジ化した言い回しをあえて使い、
 自己の内包する憐憫を演出。
 かように男は誘いを断るのに苦労するわけであるが、
 どこかにスマートな男はいないものか。

「申し訳ありません部長。せっかくのお誘いなんですが、
 うちの社長が本日の首尾を
 首を長くして待っておりますので、
 今日のところは失礼させていただきます。
 今回の件が完了いたしますまで、
 ご褒美はおあずけと言うことで、
 またよろしくお願いします。」
 (提供者:やす)

■なるほど、これはクレバーな印象がある。
 肝心のところで「社長」という
 権威を利用しているあたりが
 ややスマートさに欠けるが、
 現場の状況を考えるなら四の五の言ってられまい。
 「部下が待っている」「レポートにまとめる」など、
 当日の結果を自社へ持ち帰るという戦法は
 ほかの投稿にも多く見受けられた。

「ご一緒したいのはやまやまなんですが、
 実はこのあと工事の立会いがありまして、
 しかも先様の都合で夜中の作業なんですよー。
 徹夜ですよー。」
 (提供者:くらむぼん)

■わあーーー、こりゃたいへんだ。
 断る断らないの問題じゃなくて、
 これから徹夜なんだもの。
 これが言い逃れであるはずがないという
 確信はどこからくるのだろうか。
 ていうか、たんなる投稿なのに
 読んでて「そりゃたいへんだ!」と
 思ってしまいましたよ。
 文中にさりげなく使われた
 「先様の都合」というオトナ語にも注目。

「ぜひぜひご一緒させて
 いただきたいのは山々なのですが、
 実は今日は妻の誕生日なんですよお。
 今日ぐらいは私も真っ直ぐ帰ろうかと、ええ。
 また、誘っていただけますか?
 私でよろしければ、
 朝までもおつき合いさせていただきます!」
 (提供者:ツボイ)

■男の切り札はやはり「妻」であろうか。
 なぜゆえこれが効果的かというと、
 誘った渡辺本部長にも妻がいるからにほかならない。
 「そりゃしょうがないな」と瞬時に納得。
 その後の「また、誘っていただけますか?」が
 なんとも泣かせるではないか。

「えっ、これからですかー……。
 あのー、いやー、実はウチは共働きでして、
 子供を預けているんですが、
 今日はヨメが仕事遅くなると連絡ありまして、
 私が子供をお迎えに行ってお風呂に入れて寝かさないと
 いけないんですよぉ。
 いやぁ、今日のところはすみませんが、
 また次回ということで、失礼しますー。」
 (提供者:白川)

■今度は「ヨメ」と「子供」が登場。
 なぜゆえこれが効果的かというと、
 誘った渡辺本部長も妻子持ちであるからにほかならない。
 なんだか今日は悲哀漂うものが多いなあ。
 よーし、最後は景気よく行ってみよー!!

「いや、実はですね。
 今日はうちの大蔵大臣と約束がありまして……。
 すみません。次回はお供いたしますので……。」
 (提供者:PINE)

■お、大蔵大臣……。
 もはや断る理由をきちんと説明していない始末……。
 こんなこと言われたら……
 誘ったほうもつらいと思われ……。

実践問題その5の回答は
このあたりでしめやかに終わらせていただく。
次回の実践問題は以下になります!


  実践問題その7 

 
「急ぎ、とりまとめましてお送りいたします」との
 知らせを受けていた取引先からのレポートが
 いまだ届いていません。
 あなたは、メールを書いて催促することにしました。
 感情的に怒鳴り散らすのではなく、
 相手にじわりとプレッシャーのかかる
 メールを一発お願いします。
 先方の名前は「株式会社オトナ 浜崎」でお願いします。
 そのほかの設定は例によって自由です!!
 

この実践問題の受付は終了いたしました。
 たくさんの投稿、ありがとうございました!


■■■ オトナの基本用語:その27 ■■■

今現在
(提供者:ands3773)
■今は現在に決まってるだろう!
 という冷静な突っ込みをよそに、
 全国の会議室でくり返されている不思議な日本語。
 「と、いうのが、今現在の状況でして」
 オトナはしばしば時間の概念をも
 自在にカスタマイズするのである。

アンドをとる
(提供者:さやや、obu2、ほか)
■どれくらい一般的なのかつかめなくて
 しばらくストックしていた言葉だが、
 複数の投稿があるようなので掲載。
 他部署などと連絡を取り合い、
 共通認識のもとに何かを決めること。
 「じゃあ打ち合わせの場所は
  出版部とアンドをとって決めといてよ」
 なんとも奇妙な言い回しである。
 語源はコンピュータ用語との報告もあり。

大将
(提供者:けにぷに)
■オトナの職場には、先生も選手も大明神もいる。
 ジュニアもお局様もエースもナベもいる。
 そして、大将もいるのである。
 「おたくの大将によく言っといてよ!」
 ああ、いるなあ、たしかに。大将。

遅くなりまして。
(提供者:む。)
■先方が無理な注文を投げてきたのだ。
 断るわけにはいかなかったのだ。
 多少、要求された期日よりは遅れたのだ。
 本来ならば、この言葉の後ろには
 「申しわけありません。」がつくのだ。
 けど、先方の注文がそもそも無理だったのだ。
 それで、私はこのように言うのだ。
 「遅くなりまして。」
 ここで言葉を止めるのが、せめてものオトナの意地。
 同様に、本来、先方の領域であるところで
 ミスを指摘された場合はこのように言う。
 「気がつきませんで。」
 このあたりはかなり上級なオトナ語といえよう。

上記の件につきまして、
下記の通りお知らせいたします
(提供者:shinko)
■上を見させておいて、下をうながす。
 上を見ろ、そして、下を見ろ。
 赤上げて、白上げて、
 赤下げないで、白下げない、
 ぐるっと回っちゃいけません。

基本用語のほうも、これまでどおり募集します。
あてさきはpostman@1101.comです。
表題は「オトナ語基本」としてください。
「これはもう出てたっけ?」というものでも
気にせず自由に気軽にメールしてください!
ちなみにネタの説明文は
こちらで書き起こしておりますので、
適当に書いていただくだけでかまいません。


■■■ アシスタントよりご報告申し上げます。 ■■■

こんにちは、アシスタントです。
こちらは、オフィスからの自由なメールを
募集、掲載する自由なコーナーです。
前回の投稿を受けて、
学生さんからの投稿が何通か来ました。
オトナが見ると「ふつうじゃん!」というような言葉も、
学生さんからみると不思議に思えるんですねー。
そのなかから一通紹介いたします。



こんにちは。
「自分もオトナ語を使いこなせるだろうか」と、
オトナ語の恐怖におびえている学生です。
毎回、大人の世界をのぞき見ては
楽しませてもらっています。
バイト中に自分が使った言葉が
オトナ語なのではないかと心配になってメールしました。

「立見はご遠慮下さい」

「ご遠慮下さい」ってなんなんでしょうか?
人に遠慮させるってことですよね。
押付けがましいことを
無理やりやわらかく丁寧にしてる感じに
ものっすごい違和感でした。
(提供者:naru)

うははははは、「ご遠慮下さい」なんか、
オトナとして当然やろ。
そのくらいでびびってたら、
バイトから正社員になられへんな。
このページで、たたきなおしたるから安心し。
……コホン、失礼いたしました。
みなさまからの自由なメール、お待ちしていますね。
それでは本日はこのあたりで失礼いたします。
ああ、そうそう、忘れるところでした。
私、販売部から告知を頼まれておりました。
私どものにんげんが工夫をこらした
Tシャツとポロシャツの販売が金曜日で終了になります。
もしもよろしければ、
お帰りの際にこちらへお立ち寄りくださいませ。
手前みそになりまして恐縮ですが、
オトナとして品質は保証いたします。
それではごきげんよう。アシスタントでした!


オフィスからのふつうのおたより、
当コーナーへのふつうの感想なども
お待ちしております!
あてさきはpostman@1101.comです。
こちらのほうの表題は
ふつうに「オトナ語」でけっこうです。
みなさまからのメールが
新たなテーマをつくるのです!

2003-07-30-WED

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