BUSINESS
オトナ語の謎。
オレ的にはアグリーできかねるんだよね。

■■■  第29回 オトナ語実践編:その9 ■■■

一年の計が元旦にあるならば、
一週間の計は月曜日にあり。
いつの間に梅雨空は背後彼方へと消え去り
眼前には入道雲と夕立の予感。
冷房の効きすぎたオフィスと
アスファルトに漂う陽炎の狭間に
刻一刻と流れる夏の時間。
近所の定食屋が冷やし中華を始めたかどうか知らないけど、
いろんな締切は勝手にどんどんやってくるのさ。

仕事に追われるオトナたちは
仕事のことばかり考えるわけではない。
昼休みに立ち止まるオトナたちが現場からメールに乗せる
ちょっとしたウィット。
それがすなわち「オトナ語の謎」。
今週も月水金とお届けしていこう。
まずは前回の設問を振り返る。


  実践問題その8 

 
あなたは先方の営業マンと
 とある喫茶店で商談していました。
 無事、やり取りも終わり、
 あなたは支払いをすませるべく
 先に伝票を手に取ってレジへ向かおうとしました。
 すると当然、相手が「いえいえウチがもちます!」と
 言ってきます。そんな相手をうまくかわし、
 場をにこやかに納得させるひと言をお願いします。

 

これまでの問題にくらべると
決まり切った言い回しが少ないためか、
各自の個性が奔放に発揮されることとなった。
オーソドックスなものから特殊なものまで
その回答はじつにさまざま。
全国津々浦々でオトナたちがくり出すアドリブ合戦。
今回はバリエーションを楽しんでいただきたい。

「いいえ、日頃お世話になっている
 ○○さんに支払わせたとあっては、
 あとでわたくしが叱られてしまいます。」
 (提供者:ナナコ)

■まずはまっとうな切り返しからスタート。
 「私が叱られてしまいますから」というのが
 もっともオーソドックスなパターンのひとつ。
 しかしながら、「先方に払わせるとは何事だ!」と
 怒られたという話は意外に聞いたことがないなあ。

「まあまあ、浜崎さん。
 安いとこは任しといてくださいよ。
 今度もっと高い店でごちそうに
 なりますんで」
 (提供者:カロカロ(代理投稿サラ))

■これは、わざわざ営業担当のにんげんに
 投稿者が取材して送ってくれた回答例。
 まさに現場で使われている必殺フレーズだ。
 どんなビジネス書にも載ってませんよ、
 こんな些末のやり取りは。

「何をおっしゃいますやら!
 今度の請求の際にこの分引いておいて下さい!」
 (提供者:naox)

■出た! 「何をおっしゃいますやら!」
 あきんどゴコロを見せつつも、
 その人の持つ根本的なバイタリティーを感じさせて
 なかなか気持ちがいい。
 こういう人と仕事していきたいもんだなあと思う。
 今週もこの調子でがんばろー。

「今度、フランス料理のフルコース、おごってください」
 (提供者:まる)

■これはきっとこの人の持ちネタなのだな。
 こういうときはベタなほうがいいのだ。
 笑わせるよりも、場を収めるきっかけとして
 その発言は作用するのだから。
 かと思うと、こんな持ちネタもあるようで──。

「あ、じゃ次回チョコレートパフェでも。」
 (提供者:134さん)

■なぜに、チョコレートパフェなのか。
 謎が謎呼ぶ甘党発言。
 脱力しているあいだに発言者は
 さっさとレジで会計を済ませてしまうのであろう。
 これはこれで名人芸なのかもしれない。
 いや、でも、なんとなく真似してみたくなるな。
 この場を借りてちょっと練習してみよう。
 「あ、じゃ次回チョコレートパフェでも。」
 「あ、じゃ次回チョコレートパフェでも。」
 うーーん、言えるかなあ。

「レジに近い方が支払担当ですってば。
 ハイ、今日は私の番です。」
 (提供者:shinko)

■はっはぁ、なるほど。そういう言いかたもあるのか。
 レジに近いほうが支払い担当、ね。
 これまた真似したくなるなあ。
 「レジに近い方が支払担当ですってば。」
 「レジに近い方が支払担当ですってば。」
 自分流にアレンジしてみるとすると、
 「レジに近いほうが払うんですよ、こういうものは。」
 「レジに近いほうが払うんですよ、こういうものは。」
 おお、これなら言えそうな気がしてきた。

「またまたまた〜、フクチさん。
 ワタクシ払う人、フクチさん仕事出す人。」
 (提供者:ビーフ)

■こ、これは、ちょっと言えないな。
 くり返すけれども、こういうフレーズは
 相手を笑わすために言うのではない。
 相手が苦笑しながら財布を引っ込めれば
 それで目的は達成されるのである。
 にしても、これはちょっと言えないな。

「おさいふがおニューなんですよ〜、
 使いたいんです」
 (提供者:もちこ)

■おやまあ、かわいらしい。
 女性特有の切り返し方といえるだろう。
 大学の4年間はラグビーをやってました
 という190センチの営業マンには言えない。

「この間、渡辺本部長がおっしゃっていた
 『海老で鯛を釣る』ってやつです。
 お願いしますね、本部長!」
 (提供者:うしろまえ)

■こちらも、わかってる女性の切り返しか。
 先方の話を覚えているというあたり、
 なかなかポイントが高い。
 本部長が仕事を投げるときは、
 必ずこの人を指名することになるのだろう。
 稼ぐ人が毎月なぜ稼ぐかというと、
 こういった細かい配慮の積み重ねだったりする。

「いやいや、お茶ぐらいごちそうさせてくださいよ。
 もしも首尾良くこの話がまとまった暁には、
 何か美味しいものでもごちそうしてもらいますから。」
 (提供者:すぎゃ)

■うん、男はこのくらいが精一杯。
 もちろん首尾良く話がまとまったとしても
 美味しいものをごちそうされることなどない。
 ごちそうよりも話がまとまることのほうが
 よっぽどうれしいことだから、
 それでちっともかまわないのである。
 とりあえず、今日の払いは私が。

「そうですか、ごちそうさまー、
 ってな訳には行かないんですよ。
 今回は、私の方で。」
(提供者:みけ)

■話に乗ると見せかけて明るくピシャリ。
 関西風にいうところの「ノリツッコミ」である。
 ひとり時間差のようにしてこれをやられると、
 さらに「私が払う」とは言いにくい。
 なかなかに高度なワザである。

「いえいえ、今回○○さんには
 技術的にも予算的にも
 相当無理を聞いてもらったのですから、
 せめてお茶代くらいこちらで持たせてもらいますよ。
 ……いやいや、前回は前回で、お互い様ですから
 ……わかりました、それならこうしましょう!
 次の時には御馳走して下さい。……もっといい店でっ。
 ははははっ、いやいや冗談です、冗談!」
 (提供者:sugar-sato)

■なんともベタベタなやり取りだなあと思ったが、
 よくよく読んでみると、すごくリアリティーがある。
 「ははははっ」の乾いた笑い声のあたりとか、
 目に浮かぶようだ。オトナには、ベタと知りつつ
 ベタなことをこなさないといけない場面があるのだ。

「ありがとうございます。
 最近、うちの社も経費が厳しくなったんですよ。
 以前なら、かに本家(札幌の名店です)も
 経費でOKだったんですが、今はなかなか。
 喫茶店代なら文句言われずにノーチェックですから
 今回はこちらで持たせて下さい。
 使えるものは使わないとね?」
 (提供者:木村)

■これまた現場直送のリアリティー。
 読んでもらえばわかるように札幌からの投稿である。
 「全国展開の暁には、かに本家で打ち上げを!」
 てなことを言ったりするんだろうなあ。

「いやいや、そんなに重くないんで。」
 (提供者:juvenile_J)

■なんのことだろう、と不思議に思ったが、
 どうやらこれ、「ウチが持ちます!」の声に
 応えているのである。投稿には丁寧に
 「ぴらぴらと伝票を振りながら」とある。
 ウチが持ちます→いや、そんなに重くないんで。
 とんだオヤジギャグと思うなかれ、
 投稿者はなんと27歳である。
 あえてベタの道を進んでいるということを
 投稿者の名誉のためにもつけ加えておく。

「今回はウチが、ご迷惑おかけしちゃいそうなんで
 ここは我々のキモチということで……。」
 (提供者:Yoshiharu)

■「私の」ではなく「我々のキモチ」
 となっているあたりがなんともオトナである。
 おそらく、「ご迷惑をおかけする」のも、
 この人ではなく実際はほかの人なのだろう。
 この人はいい人だなあと思う。

「下三桁の数字は任してよ。」
 (提供者:しんや)

■これは相手が同年齢か年下で、
 けっこう気心の知れている人であるという設定。
 コーヒー代などはたいてい三桁でおさまるため、
 言われたほうも気持ちよく引き下がることができる。
 なかなかの名回答だと思う。

「そこまでおっしゃるのでしたら
 公平にじゃんけんといきますか。 
 じゃんけんほい!
 →負けた場合
 あら。負けてしまいました。それでは今回は私払いで。
 →勝った場合
 じゃ、言う事きいてくださいね。
 私に払わせてください。」
 (提供者:あヤ)

■おまえは一休さんか、と言いたい。
 屏風の虎を追い出してください、
 とでも言いだしかねないトンチぶりである。
 和尚さんの大切な瓶を割ってしまったので
 毒をなめて死のうと思いました、
 とでも言いだしかねない小坊主ぶりである。
 ええい桔梗屋! これはどうしたことだ!
 と将軍様も怒って火鉢を蹴飛ばしかねない。

「いえいえいえいえいえいえいいえいえいえ!
 社訓に「コーヒーは持て。酒は持たれろ」
 というのがあって、コーヒー代は
 私が払わなければならないことになってるんですよー。
 コーヒーは私が払わなければなりませんから、
 今度酒行きましょう。何なら今夜でもいいですけど。
 いやいやいやいやいやいや、ホントですって。
 じゃあ、その社訓持ってきますよ。今度。
 とにかくコーヒー芸者にだけはなるなって、
 ウチ厳しいんですから。」
 (提供者:Yoshihiro)

■なんだこりゃ。もはやオトナ語どころではない。
 「社訓持ってきますよ」ってどういうことだ。
 持ち運びできるものなのか。
 「コーヒー芸者」っていうのもいいなあ。
 「いえいえいえ」の連呼のなかに
 一カ所だけ「いいえ」が混じってるのも妙。
 楽しませていただきました。

「まーまーまーまー」
 (提供者:StrikeGold)

■ああ、もう、これにつきるのかもしれませんね。
 けっきょくこれでしのぐことになるのでしょう。

そういったわけで、
喫茶店における実践問題を終わります。
次回の問題を発表しましょう!


  実践問題その9 

 
長い会議が続いています。
 議題は、新商品のデザインに関してです。
 どうやらそのモチーフを
 「ペンギン」にするか「シロクマ」にするかで
 場は紛糾しているようです。
 どっちでもいいのになあ、とあなたは
 ぼんやり思っていたのですが、
 議長の渡辺本部長が突然あなたを指名しました。
 「おまえはどっちがいいと思っているんだ?」
 場の一同がじろりとあなたを見ます。
 まさか「どっちでもいいじゃん!」と
 そのまま言うわけにもいきません。
 さあ、どちらの意見も否定しないように、
 うまくしゃべって切り抜けてください。
 設定、その他、一切自由です!。

 

この実践問題の受付は終了いたしました。
 たくさんの投稿、ありがとうございました!


■■■ オトナの基本用語:その28 ■■■

芝刈り
(提供者:まったり屋、ほか多数)
■ずばり、ゴルフを指す。
「ちょっと今週末は芝刈りでして……」
 というふうに本人が「下手の横好き」という
 意味合いを込めながら言うのが一般的なので、
「部長、芝刈りがお上手なんですってね!」
 などと本人に言ってはならない。
 また、まれに、ほんとうに芝刈りである場合もある。

要返却
(提供者:YOUJIROU)
■宣伝材料の写真やMOなどに、
 いちいち書かれている文言。
 つまり、「返却してください」という意味だが、
 実際に「返却してください!」と怒られることは
 あまりないのが不思議である。
 「要返却」と書かれたさまざまなものが
 あなたの机の引き出しの奥に
 たくさん眠っていませんか?

抱える
(提供者:マッツン)
■仕事は「抱える」ものなのである。
 「おまえ、いま、なに抱えてる?」
 などと上司に聞かれた場合、
 「ファイルを2冊」などと答えてはいけない。
 いっぱいいっぱいになっている後輩へは、
 「あんま抱えすぎんなよー」などと
 アドバイスするとオトナな感じである。

〜ありき
(提供者:しんご)
■まずは、商品ありき、でしょう?
 いまのご時世、コンセプトありき、で始めないと。
 そもそも、お客さんありき、ですし。
 本来は、使う人ありき、の問題ですよね。
 けっきょく、にんげんありき、でしょう。
 前提として、地球ありき、ですし。
 大きく考えれば、宇宙ありき、というわけですし。
 神ありき、というところから始めましょう!

一時期増えてまた減った
(提供者:サカ)
■なんとも味わい深い投稿である。
 オトナ語新時代ともいえる名作である。
 「一時期増えたけど、また減ったなあ」
 「一時期増えて、また減りましたねえ」
 なんだか知らないけど、オトナたちって
 けっきょくそういうことをしているのだなあ。
 売上、苦情、ダイレクトメール、新商品、
 理論、額面、新規事業、道路工事、などなど……。
 「一時期増えて、また減ったなあ」
 「一時期増えましたけど、また減りましたねえ」
 もちろん、逆も真なり。
 「一時期減ったけど、最近また増えたなあ」
 「一時期減ったのに、また増えましたねえ」
 鴨長明が表したのは、そういうことではなかったか。

基本用語のほうも、これまでどおり募集します。
あてさきはpostman@1101.comです。
表題は「オトナ語基本」としてください。
「これはもう出てたっけ?」というものでも
気にせず自由に気軽にメールしてください!
ちなみにネタの説明文は
こちらで書き起こしておりますので、
適当に書いていただくだけでかまいません。


■■■ アシスタントよりご報告申し上げます。 ■■■

こんにちは、アシスタントです。
こちらは、オフィスからの自由なメールを
募集、掲載する自由なコーナーです。



社会人の彼は、仕事が忙しい忙しいと言って
なかなか会ってくれない。
「ねぇねぇ、週末は?ダメ?仕事?」という私のメールに
あっさり一言「善処する。」・・・初めて聞いた言葉。
でも何か意味は通じる。かっちょい〜〜。
そうなのよ、彼は社会人なんだから、
仕事がんばってるんだから、
ワガママ言っちゃいけないのよ!
と自分に言い聞かせ、
「うん、善処してねっ(ハート)!」
と返す私は間違ってます??
(提供者:Yuki)

「(ハート)!」はないやろ。
オトナ語を使う男には、オトナ語で答えたらな。
「善処する。」て言われたら、
「了解いたしました。
 ご連絡をお待ち致しております。」やろ。
それで彼氏もゴロニャンやろ。
……コホン、失礼しました。
みなさまからの自由なメール、お待ちしていますね。
それでは本日はこのあたりで失礼いたします。
アシスタントでした!


オフィスからのふつうのおたより、
当コーナーへのふつうの感想なども
お待ちしております!
あてさきはpostman@1101.comです。
こちらのほうの表題は
ふつうに「オトナ語」でけっこうです。
みなさまからのメールが
新たなテーマをつくるのです!

2003-08-04-MON

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