オトナ語の謎。 オレ的にはアグリーできかねるんだよね。 |
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第54回 オトナ語専門用語編:その4 ■■■ 専門用語編に入って興味深いことのひとつは、 いわゆる「現場」からのオトナ語投稿が 増えてきたということだ。 どちらかというとこれまでは デスクワークを業務とする方からの 投稿が多かったのだが、 専門用語編には汗のにおいのする投稿が多く、 未開拓のオトナ語がつぎつぎに送られてくる。 「読む一方でしたが、これなら送れます」 という初めての方からのメールや 「バイト先のネタですが」 という学生の方からのメールも多く、 専門用語というわりに間口は広がったようで 担当者とてもうれしく思う次第である。 全国のオフィスや現場でがんばる諸先輩方、 ならびにフリーターの方々、主婦の方々、 お世話になっております。ありがとうございます。 さあ、本日も興味深い専門用語の数々を 現代語訳とともにお届けしよう。 まずはテーマのおさらいから。
最初は「現場」の専門用語をいくつかお届けしていこう。 その風景が思い浮かぶようなリアルなやつからどうぞ。 【内装業界:工事現場にて】 「おい亀ぇ、 そこのホタテ、フリみたか? 天袋と地袋でチリが合ってねえぞ。 んで、カウンターはミズでてんのか? シンクの背板ギリで作ってるから、 収まんなくなるぞ! みんなぁ、トシンに気ぃつけて壁塗んなぁ〜!」 ▼現代語訳▼ 「ねえ、亀田君、 そこに立っている小さな壁は、 ちゃんと垂直に立っていますか? 上の方に付いている棚と下の方に付いている棚との、 隙間の寸法が違っていますよ。 あと、カウンターは水平に設置されていますか? 内側に入るシンクの背面の板が、 上下ぴったりのサイズで発注してありますから、 収まらなくなってしまいますよ。 皆さん、塗料用シンナーの臭いや成分には十分注意して、 壁面を塗装してくださいね」 (提供者:赤井マサタカ) ■うーん、ナイスギャップ! 親方の乱暴な言葉の裏には、 なんとも的確な指示が含まれていたのである。 「そこのホタテ、フリみたか?」ってのは なんともイキな感じがする専門用語だなあ。 おい亀ぇ、メシにしようや! 【パン業界:上司の製品チェック】 「このワッサン、ホイロ出すぎじゃない? 腰落ちしてるよ。裏は日焼け気味だし、 ぬりたまはムラになっているしー。 カマはだれ?」 ▼現代語訳▼ 「このクロワッサン、発酵オーバーで弾力がなく、 側面がへたって地面についてしまっています。 オーブンの下火が強いために底面は焦げ気味で、 つや出しに塗る卵水はむらになっています。 焼成担当者はだれですか」 (提供者:とよとよ) ■「クロワッサン」が「ワッサン」である。 フランス生まれのおしゃれなパンが 中学時代の同級生のあだなのようになってしまった。 「ホイロ」は「火炉」と書くそうである。 職場の言葉は学校じゃ教えてくれないのさ。 【衣料小売:品出し時の会話】 「店長ぉ〜! これはタテチン、ヨコチンどっちですかぁ? ‥‥あ、ヨコチンですね、やっときまーーす!」 ▼現代語訳▼ 「店長、棚に並べていく際、 縦方向に進める縦陳列にしますか? 横方向に進める横陳列にしますか? ‥‥なるほど、より一般的な横陳列にするのですね。 その方向で進めていきます」 (提供者:ちびた) ■んまあ、なんてはしたない! いえいえお母さん、そういう話ではないのです。 品物の並べ方についてのやり取りなのです。 それにしたってアナタ、ヨコチンだなんて! まあまあお母さん、落ち着いてください。 娘さんはよくやってくださってますよ。 【引越会社:繁忙期の問い合わせ】 「お疲れすー。 サンシタアップ日AMのゼンコンOKすかね? ‥‥マジっすかー? 翌日千葉ダンビキは? OK? はーいどうもですー、お疲れすー」 ▼現代語訳▼ 「お疲れさまです。 3月下旬、料金割高の日の、 朝からお引越作業させていただくお客様で 全梱包全開梱のパーフェクトプランご希望なのですが、 トラックと作業員さん、空きがありますかね? ‥‥そうですか。大丈夫なんですね。 ちなみにこちらのお客様、お引越の翌日に 使用済みダンボールを引き取ってほしいそうで。 千葉営業所の管轄なんですが、 翌日、ダンボール引取りに伺うことは可能でしょうか? 大丈夫ですか。 どうもありがとうございました。お疲れさまです」 (提供者:みやび) ■個人的な印象になるけれども、 引っ越し現場を取り仕切るリーダーというのは どの方もほんとうに頼もしい。 携帯電話をチャッと取り出して 上のようなやり取りを交わすのを聞くと 「ああ、この人に任せておけば大丈夫だ」 という気分になる。 あ、その段ボールは居間に置いてください。 その箱はいったんベランダで。 飲み物ここに置いときますんで、 一段落したら飲んでくださいねー。 【書店業界:通路にて】 「このハコなに?」 「ショタレ」 ▼現代語訳▼ 「このダンボール箱の中には何が入っているのですか?」 「書棚からあぶれてしまったのだけれど 返品もできないという書籍が入っています」 (提供者:cm) ■出ました。ほんとうは激しい書店業界。 返品したいんだけど出版社が返品を許可してくれない 書籍を「ショタレ」というのだそうです。 場合によっては「くされ本」などと呼ばれるそうです。 悲しい話です。現場はハードボイルドです。 【ファストフード:荷物を抱えながら】 「ホットで〜す!」 ▼現代語訳▼ 「後ろ通りま〜す!」 (提供者:おん) ■これはまた、ぜんぜん違う言葉じゃないか。 なんでも、もともとは、 「熱いものを持ってあなたの背後を通りますから 気をつけてください」という意味だったものが 「後ろを通りますから気をつけてください」に 転じてしまったため、熱いものを持ってなくても 「ホットで〜す!」と言うようになったとか。 木の上の実を食べるためにキリンの首が伸びるように 言葉はどんどん進化していくのである。 【建築業界:現場監督の上司と部下の会話】 上司「今日大工は何平米叩くんや?」 部下「すいません。今日雨なんで大工溶けました」 上司「なんやねん、ほんなら昨日鉄筋屋に トンチ絵まで描いて12トン担げって 言うた意味ないやないか! で、今何やってる?」 部下「昨日の調整で 大工の材料入ってくるってことやったんで A工区の長もんと曲げもんよっこしてます」 上司「しゃーないな〜、 これやからあそこはだいろくや言うてたんや‥‥。 墨出も溶けたんか?」 部下「小雨なんでAの親睨んでB側に カネのポイントだけ落とさせてあがらせます」 上司「だいろくの番頭に電話して明日増員してでも コンクリ延ばせへんから 間に合わせてケツ変えんなって言うとけ。 他は動いとんねんぞって。あ、あとお前、 今度のコンクリ何りゅーべか図面で拾とけよ」 部下「わかりました」 ▼現代語訳▼ 上司「今日型枠大工は何平方メートル分の 型枠を建てるのですか?」 部下「すみません。今日は天候が雨ですので 型枠大工は休むと連絡がありました」 上司「どうしてですか。それでは昨日鉄筋組立工に 簡単なスケッチまで描いて手順を説明して トータル12トン分の鉄筋を組み立てるよう 指示を出した意味が無いじゃないですか! それでは鉄筋組立工は今何をしているのですか?」 部下「昨日の打合せで型枠大工の材料が 搬入されてくることになっているので A工区の長い鉄筋材と、 曲げた加工のしてある鉄筋材を 別の場所へ移動させています」 上司「仕方ないですね、これだからこの型枠大工は 少し技量が欠けると言っていたんですよ‥‥。 測量業者も休みなのですか?」 部下「雨は小雨ですのでA工区に出してある 基準になる大本の墨を元に B工区へ直角の印を出させてから 今日の作業は終了させます」 上司「型枠大工の現場担当者に連絡をして 明日人数を増やしてでも 今度のコンクリート打設の予定は延ばせないから コンクリート打設予定日までの工程は 必ず守るように指示をしておいて下さい。 他の業種の方々は雨でも作業しているんですからと。 あ、あとあなたは今度のコンクリート打設場所の コンクリートの数量を何立法メートルあるのか 図面で計算して出しておいて下さい」 部下「わかりました」 注釈: 型枠>建物のコンクリートを打つための枠のこと。 墨 >建物の水平や直角が狂わないように 地面や壁等に 墨を含ませた糸を使ってつける直線の印。 墨出とはその作業を行うことを指す。 コンクリート打設> コンクリートを型枠に流し込み 建物を形作る作業のこと。 (提供者:K) ■恐怖! 「大工溶けました」! ながもん? まげもん? 新手のポケットモンスターですか? 12トン規模の話をするゼネコンといえど、 「よっこする」「だいろく」といった言葉に 風流を感じ取ることができる。 【バイオ研究業界:博士号取得についてぼやく】 「お前ペーパー、ファースト2本? 3本目でレフェリーにごねられ中? それでも余裕でD取れるやん。 俺なんかまだセカンド1本だよ。 今、ファーストでマテメソ書いてて、 これリジェクトされたらもうD4だよ。 え、あいつ三冠? まじで? ‥‥はあ、羨ましい‥‥」 ▼現代語訳▼ 「あなたは筆頭著者の論文が二報もあるのですか? 今、三報目を投稿していて審査員に内容について 問題点を挙げられているのですね。 それでも確実に今年度中に博士号が取得できますね。 私など、未だに二番手著者の論文を 一報しか発表していません。 現在、私が筆頭著者の論文の 材料と方法を書いている所なのですが、 この論文が採用されなかったら、 博士課程3年で博士号取得は無理で、 博士課程4年に進むしかありません。 なんと、あの方は、 博士号取得と就職と結婚を同時にされるのですか? 本当に? ああ、なんて羨ましいんでしょう」 注釈: D3 >Doctor course3年、博士課程3年。 通常はこの年度に博士号を取得する事になる。 ぺーパー >論文の事。 ファースト>First author、筆頭著者の事。 論文の研究の中心人物の事。 レフェリー>学術雑誌の審査員。 重箱の隅をつつくような指摘を 事細かに英語で送りつけてくる。 D >博士号の事。 セカンド >Second author。First author より格下。 マテメソ >materials & methods、 実験の「材料と方法」の事。 論文はここから書き始める人が多い。 リジェクト>審査に通らず、論文が落ちてくる事。 論文は大安吉日に投稿して そうならないように願う。 D4 >Doctor course4年。 だんだん辛くなってくる。D6までいけます。 三冠 >博士号取得、就職、結婚を 同時に成し遂げる事。達成は極めて難しい。 しかしD取ったら皆30歳前後だし、 普通の事と言えば普通。 (提供者:かずら) ■いや、その、詳しい説明をありがとう、 とは思うけれども、その、 あなたの博士号は大丈夫なのですか? けっこう時間かかったでしょう、これ書くの。 どうかあなたのペーパーが レフェリーにリジェクトされず Dになれますように。 ついでに就職も結婚も決まり、 見事三冠王になれますように。 【教職:定期試験間近の職員室にて 3-3教科担任同士の会話】 長瀬「ね、吉田先生。 水曜三校時の3-3、もらえませんか?」 吉田「あ、ごめんねー。 さっき渡辺先生にあげちゃったわ」 渡辺「月曜って代休多いからコマ足りないんだよね」 長瀬「そうそう。 思いっきり駆け足しても追いつかなくて。 ああ、困った」 渡辺「そういえば社会は全部進んでいるみたいよ」 長瀬「よしっ、小早川先生にお願いしてこよう」 ▼現代語訳▼ 長瀬「吉田先生、水曜日の三時間目は吉田先生が 三年三組の授業を担当することになっていますが、 その時間に私の教科の授業を させてもらえませんか?」 吉田「すみません。さっき渡辺先生が 同様のことをおっしゃっていたので、 その時間は渡辺先生の教科の 授業をすることになりました」 渡辺「月曜日は週末に行事をした振り替えとして 休みになることが多いので、 月曜日に授業のあるクラスは 授業時間が足りなくなりますよね」 長瀬「その通りです。 かなり急いで授業を行なっているのですが、 それでも、定期試験の試験範囲まで 終了させることができそうにありません。 私も困りますが生徒も困りますので 何とかしたいのですが」 渡辺「そういえば、社会科に関しては どの先生も試験範囲の授業を終えて それよりも先の部分の授業を していらっしゃるようですよ」 長瀬「それならば、小早川先生にお願いして、 小早川先生の授業時間を 私の教科の授業時間として 使わせてもらいましょう」 (提供者:ぬばたまの) ■はっはぁ〜、そういや昔、なんだか知らないけど 「明日は時間割を変更して‥‥」みたいなことって ちょくちょくあったような気がするなあ。 こういうオトナなやり取りがあったわけか。 先生だって社会人だし、学校は職場だもんなあ。 【外資系:カスタマーサポート】 「昨日、エンドユーザーから上がったクレームの件、 明日のテレカンのアジェンダに P1イシューで載るってさ」 ▼現代語訳▼ 「昨日、お客様から頂きました不具合の報告に関して、 明日の電話会議の議題に 緊急度1の問題として取り上げます」 注釈: テレカン>Telephone Confarence 英語で略すと Tel. Conf. P1 > Priority 1, 「ピー・ワン」と言います。 イシュー> issue, 問題 problemとニュアンスが若干違う。 (提供者:juvenile_J) ■いや、ほんとにわかんないわ、外資系。 わかんなすぎておもしろいくらいだわ。 「外資系」という言葉で業界をくくるのは 無理があるとは思うけれど、 おもしろいからこのままいこうと思う。 【演劇業界:演出家の指示】 「ハイ、立ち位置つけます。 エレベーションで確認した通りに並んで〜! こっちツラでお願いしま〜す。 そこはヘソ合わせで前列と後列テレコで。 じゃ、キメたらそこチッコウでバミって。 あ、前列は上手(かみて)ハケでよろしく。 ハケる時は裏明かり出ちゃうから しっかりカガミ閉じてね。 じゃー今日は24時完パケでお願いしま〜す」 ▼現代語訳▼ 「本番で各役者が演じる位置を指示します。 装置や舞台の形を縮小して作った立面模型で 確認した通りに、自分の位置について下さい。 今この場所では、こちら側を正面とします。 そこは舞台の中心にあわせて、 前列の人と後列の人が互い違いになるように。 位置が決まったら蓄光テープ (光をためて暗闇でも発光するテープ)を 舞台に貼って、目印を付けてください。 前列の人は上手(舞台にむかって右側)に 退場して下さい。退場するときに、 舞台裏の明かりが漏れてしまうので、 漏れないように退場口に貼ってある 黒い暗幕を閉じて下さい。 今日は24時に完全撤収でお願いします」 (提供者:aoi) ■外資系に比べるとなんとなく想像がつきやすいが、 「キメたらそこチッコウでバミって」あたりは困難。 何度聞いても上手がどっちで下手がどっちか 覚えられないんだよなあ。 【広告代理業務:デザイナーと営業の会話】 デザイナー 「チラシの色校あがりました〜。 グラデ部分がちょっと弱かったので C20入れました。 あとフォトは在版指示だったんですが 手違いでアタリフォトが入ってたので 入れ替えします。押してるんで、 これでGOだしますが良いですか〜〜?」 営業「それでGOして! 刷り6000のクライアントに直納で」 ▼現代語訳▼ デザイナー 「チラシの色見本校正用紙が印刷会社から届きました。 色のチェックをしたところ、グラデーションを 使っている部分の色が薄かったので シアン(ブルー)を20パーセント追加しました。 あと写真は前回のチラシで使ったものを そのまま使ってくださいと指示をだしたのですが、 印刷会社の手違いで、 デザイン段階でとりあえず入れた画像の粗い 使えない写真が使われていたので 入れ替えをしてもらいます。 納期の時間があまりないので これで印刷してもらいますがよいでしょうか?」 営業「それで印刷会社に印刷するよう 指示を出してください。 その際チラシの部数は6000部でお願いします。 出来上がったチラシは 注文されたお客様のところに直接持っていって 納品してくださいと印刷会社に頼んでください」 (提供者:ともりん) ■きちんと意味を記すと長くなるということは、 現場で使われている言葉が いかに便利かということである。 「刷り6000のクライアントに直納」という言葉が こんなにも多くの情報を含むのである。 【貿易関係:船会社からの電話】 「船名連絡、 B/L DATE 15日神戸の本船シルバーオーシャン、 スペインイタリーロサンゼルス ビクトリーイングランドローマ、 ワンスペース、 オーサカチャイナイングランドアメリカナゴヤ、 以上です」 ▼現代語訳▼ 「船名連絡です。 15日神戸出港の船名はシルバーオーシャンです。 SILVER_OCEAN、以上です」 (提供者:めいめい) ■ああ、来ましたねーーー。 アルファベットのスペルを 間違いのないように伝えるため、 国名や地名の頭文字で伝えるわけです。 業界や場所によって、 どの言葉を使うか異なるようです。 でも、配属された職場で、いきなり 「オーサカチャイナイングランドアメリカナゴヤ」 とか言われたら大混乱だよなあ。 というわけで、本日はこのへんで。 まだまだ投稿をお待ちしております。 どんどん載っけていきますよー。 ちなみにオフィスでも現場でも大活躍が予想される 「ほぼ日手帳2004」は 本日の夜の24時で受付終了です。 アシスタントコーナーもよろしくー。
■■■ アシスタントよりご報告申し上げます。 ■■■ こんにちは、関西生まれの美人アシスタントです。 こちらはオフィスからの自由なメールを 募集、掲載していくコーナーです。
あー、時代劇めくのは、わからんでもないなあ。 時代劇見てたら、マネしたなるやん。 「それがしは‥‥」「そこもとは‥‥」「御意」 おまえも、「いかにも、あっぱれ」とかなんとか 適当に言うといたったらええやん。 そしたら上司も気持ちええねんて。 職場は、気持ちええのがええやんか。 ‥‥コホン、失礼いたしました。 職場の独特な言葉、拾ってくださいねー。
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2003-10-06-MON
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