その4
できないことをするのはやめようと思っていたから。
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糸井 |
「結局自分の書けることしか書けないから」
というところに行きついたとしても、
ぼくは、まだ怖いんです。
つまり「自分の書けること」は、
たかが知れていると思うから。
「ぼくは何者でもないんじゃないだろうか」
という気持ちが、強くあるんです。
清水さんは、たしか当時、
日本語について書けるかどうか、
訊きに来てくださったんですよね?
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清水 |
そうでしたね。
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糸井 |
じつは、ぼくはいままでに
「子ども相手に日本語を」という題目で、
仕事をしたことがあるんです。
それが、ちょっと
つらい経験だったんですよ(笑)。
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清水 |
そのときに、糸井さんは
なにをなさったんですか?
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糸井 |
日本語を扱うテーマでしたから、
詩を題材にしました。
詩というものは石ころを並べるようなものなので、
子どもたちに、実際に
石ころを並べさせることにしたんです。
でも、うまくいかなかった。
子どもにとっては、
石ころを並べることは
石ころを並べることにすぎなかった。
石ころにも「いい」「悪い」があるから
並べ替えたりするはずなんだけど、
そこからなにかを感じ取ることは
そうとうむずかしいことだったんですよね。
それをぼくは子どもにやらせてしまった。
逆にその企画のスタッフは、
何を意図してどう手ごたえがあったかを
いちいち言葉にして訊きたがるから
困りました。
終わってから何日もつらかった。
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清水 |
はははは。
いや、せつないお話ですね。
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糸井 |
そんな経験があって、
できないことをするのは、もうやめようと思った。
そんなタイミングに、清水さんが
このシリーズを発明したんです。
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清水 |
発明したわけじゃないですけど、
なるほど(笑)。
ちょうどそういうときだったんですね。
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糸井 |
ちょうど、悪く、ね。
この「よりみちパン!セ」に
著者として関わるには、
一年かけたら答えが出るのかもしれない、
とも思ったし、
ほかの仕事をいっさいしないで
取り組んだらどうかな、とさえ思いました。
やりたかったんだよね、きっと。
でも、それでも無理だと思いました。
そのくらい、すごいシリーズなんですよ、これは。
(ふたりのはなしは、つづきます)
2006-01-17-TUE
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